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①ついてない
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大好きだった、彼氏が最後に俺に残してくれたものがある。
年がら年中、羽織ってるスカジャン。
綺麗な薄紫の色合いが、彼氏も
ついでに俺も気に入ってて、よく貸してもらってた。
本当に、このスカジャンだけ。
向こうの親御さんが、持っててあげて。
と、半狂乱になっていた俺に…くれたものだ。
彼氏との付き合いは、10年にも満たなかった。
俺が高校生の頃、悪ふざけで夜の道路に悪友に
突飛ばされたときに運悪く、バイクを運転していたと言う
本当に最低最悪な出会い方をした。
俺もあの時は、自分も相手も…もう駄目だと思ってた。
しこたま怒られて、親にも散々キレ散らかされたし
学校はしばらく行けなかった。(自宅謹慎)
バイクの相手が入院している事を親から聞いて、一緒に
お見舞いと謝罪に向かった。
今は、一般病棟の個室に移ったらしいけど
少し前は、本当に危なかった事を
行く途中の車の中で聞かされて、言葉に詰まった。
病室に案内されて、向こうのお母さんが少し困惑した表情で
俺と母親を見て迎えてくれた。
痛み止めのせいで、今は眠ってしまっていると聞かされた。
俺は、必死になって頭を下げて
謝罪した。
『でも、あなたも突飛ばされて怪我をしたんでしょう?もう、痛みはない?』
自分が情けなくて、みっともないけれど
俺はその場で、泣き崩れてしまった。
一緒に居てくれる母親も、静かに泣きながら
謝ってくれた。
母親と、お母さんは少し話があるから、と
病室を後にした。
もし、目をさましたらナースコールで知らせて。と、言われた。
半べそをかきながら、痛々しい状態の相手をじっと見つめる。
左足を骨折、他にも何ヶ所も打撲や擦り傷がたくさんあって
また涙が込み上げてきた。
よくよく、顔を見てみたら涼し気な雰囲気の
整った顔立ちだと分かる。
「本当に、ごめんなさい。俺、あなたを…」
『…っ…、』
「!?ぇ、もしかしてどっか…痛む?」
わたわたしてると、色素の薄い茶色の瞳が
ゆっくりと開かれて。
俺は、不思議なデジャヴを感じた。
あ、そうだ。ぶつかる…って思った時に目が合ってたんだ。
それから、しばらくお見舞いに行き続けた俺は
ある日、自分の気持ちに向き合わされる事になる。
大好きなバイクにまた乗れた時には、一緒になって喜んだし
後ろに乗っけてもらう事もよくあった。
将来も、ずっと一緒にいられたらいいのに。
きっと、互いにそう思い始めた頃
櫂が仕事の都合で、海外に行く事になった。
あんまり聞いた事のない国名だったから、何でもいいから
無事に帰って来てほしい事だけを願っていた。
3か月で、帰国の予定で。
帰国する日も聞かされていたし、任期をちゃんと終えて
本当にもうすぐ帰って来る。
後は空港で飛行機に乗って乗り継ぎで帰って来るだけだったのに、
乗り継ぎの国で何やら暴動が起きたらしく、空港内も
混乱している事を俺はネットのニュースで知った。
銃撃があったりする事も、知ってはいたが
まさかそんな、櫂がその暴動に巻き込まれていただなんて
想像もしなかったのだ。
ついてない、って時々寂しそうに笑う櫂の顔が頭に浮かんだ。
はじめてお見舞いに行った時に、俺を目の前にして同じことを言って
笑った。
翌日、母親が新聞を読んで
俺に電話をかけて来た。
俺も、働き始めて一人暮らしをしていたけれど
新聞は取っていないから、震える声の母親はこれで2回目だった。
『美律、櫂くんが…ね…、』
母親は、嗚咽が酷くて俺の頭の中は真っ白になっていく。
あの時とはまた違う、絶望がこの身に襲い来る。
俺は、どうにかして出勤をしてたらしい。
本当に記憶にない、でも昼過ぎに突然職場から消えていたんだと言う。
心配した同僚から何度も電話がかかって来ていた。
よく、分からなかった。生きる事も死ぬ事も。
なんで今自分が生きているのかも俺は理解できないのだから
櫂が、この世から居なくなってしまった意味も
当然、理解できなかった。
でも、人の体は残酷に無神経に腹も減るし
眠くなるし…時間は平気で過ぎて行く。
俺の一番大切な人の命を、奪っておきながら。
年がら年中、羽織ってるスカジャン。
綺麗な薄紫の色合いが、彼氏も
ついでに俺も気に入ってて、よく貸してもらってた。
本当に、このスカジャンだけ。
向こうの親御さんが、持っててあげて。
と、半狂乱になっていた俺に…くれたものだ。
彼氏との付き合いは、10年にも満たなかった。
俺が高校生の頃、悪ふざけで夜の道路に悪友に
突飛ばされたときに運悪く、バイクを運転していたと言う
本当に最低最悪な出会い方をした。
俺もあの時は、自分も相手も…もう駄目だと思ってた。
しこたま怒られて、親にも散々キレ散らかされたし
学校はしばらく行けなかった。(自宅謹慎)
バイクの相手が入院している事を親から聞いて、一緒に
お見舞いと謝罪に向かった。
今は、一般病棟の個室に移ったらしいけど
少し前は、本当に危なかった事を
行く途中の車の中で聞かされて、言葉に詰まった。
病室に案内されて、向こうのお母さんが少し困惑した表情で
俺と母親を見て迎えてくれた。
痛み止めのせいで、今は眠ってしまっていると聞かされた。
俺は、必死になって頭を下げて
謝罪した。
『でも、あなたも突飛ばされて怪我をしたんでしょう?もう、痛みはない?』
自分が情けなくて、みっともないけれど
俺はその場で、泣き崩れてしまった。
一緒に居てくれる母親も、静かに泣きながら
謝ってくれた。
母親と、お母さんは少し話があるから、と
病室を後にした。
もし、目をさましたらナースコールで知らせて。と、言われた。
半べそをかきながら、痛々しい状態の相手をじっと見つめる。
左足を骨折、他にも何ヶ所も打撲や擦り傷がたくさんあって
また涙が込み上げてきた。
よくよく、顔を見てみたら涼し気な雰囲気の
整った顔立ちだと分かる。
「本当に、ごめんなさい。俺、あなたを…」
『…っ…、』
「!?ぇ、もしかしてどっか…痛む?」
わたわたしてると、色素の薄い茶色の瞳が
ゆっくりと開かれて。
俺は、不思議なデジャヴを感じた。
あ、そうだ。ぶつかる…って思った時に目が合ってたんだ。
それから、しばらくお見舞いに行き続けた俺は
ある日、自分の気持ちに向き合わされる事になる。
大好きなバイクにまた乗れた時には、一緒になって喜んだし
後ろに乗っけてもらう事もよくあった。
将来も、ずっと一緒にいられたらいいのに。
きっと、互いにそう思い始めた頃
櫂が仕事の都合で、海外に行く事になった。
あんまり聞いた事のない国名だったから、何でもいいから
無事に帰って来てほしい事だけを願っていた。
3か月で、帰国の予定で。
帰国する日も聞かされていたし、任期をちゃんと終えて
本当にもうすぐ帰って来る。
後は空港で飛行機に乗って乗り継ぎで帰って来るだけだったのに、
乗り継ぎの国で何やら暴動が起きたらしく、空港内も
混乱している事を俺はネットのニュースで知った。
銃撃があったりする事も、知ってはいたが
まさかそんな、櫂がその暴動に巻き込まれていただなんて
想像もしなかったのだ。
ついてない、って時々寂しそうに笑う櫂の顔が頭に浮かんだ。
はじめてお見舞いに行った時に、俺を目の前にして同じことを言って
笑った。
翌日、母親が新聞を読んで
俺に電話をかけて来た。
俺も、働き始めて一人暮らしをしていたけれど
新聞は取っていないから、震える声の母親はこれで2回目だった。
『美律、櫂くんが…ね…、』
母親は、嗚咽が酷くて俺の頭の中は真っ白になっていく。
あの時とはまた違う、絶望がこの身に襲い来る。
俺は、どうにかして出勤をしてたらしい。
本当に記憶にない、でも昼過ぎに突然職場から消えていたんだと言う。
心配した同僚から何度も電話がかかって来ていた。
よく、分からなかった。生きる事も死ぬ事も。
なんで今自分が生きているのかも俺は理解できないのだから
櫂が、この世から居なくなってしまった意味も
当然、理解できなかった。
でも、人の体は残酷に無神経に腹も減るし
眠くなるし…時間は平気で過ぎて行く。
俺の一番大切な人の命を、奪っておきながら。
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