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凪side

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『もう、一緒には暮らさない方が良い。俺とお前は…きっと
このままじゃ駄目になる。』

何十年も前に言われた言葉だけれど、記憶だけは今でもやけに
鮮明で。
夜明け前の、薄暗い部屋で一つの布団で寝ていた僕と竜野は
つまり、そういう関係だった。

隠すことも無いと思っていたし、縁の相手であるから何の引け目も
無いと思っていたのは、どうやら僕だけだったらしい。

当時の竜野は、文筆家として活動していて日がな一日机に
向かっている事ばかりだった。

僕は、まるで囲われているみたいな生活を送っていた。
朝から、甲斐甲斐しく竜野の食事を作って、それが終われば
洗濯に家の前の掃除をしたりと、本当に奥さんにでも
なったかの様な生活を送っていた。

十年も、そんな生活は続かなかった。
竜野に弟子を志願する青年も、何人か見て来たけれど
誰一人傍には置かなかった。

僕は、嬉しかった。
時々、辛く当たられる事もあったけれど。
心から尊敬して、愛している竜野が自分だけを見てくれている事に
酔っていたかもしれない。


冷たい声では無かったのが、唯一の救いだと思えた。
その日の内に、自分の荷物をまとめて
実家に帰った。最後に、竜野の顔は見れなかった。

きっと、顔を見たら心が苦しくて縋ってしまうだろうから。
長かったような、でも振り返れば短い年月に感謝を込めて
帰りの電車の中で、人知れず涙を流した。


『おい、凪……どうした?』
眠い。眼の所だけあったかい。
何が起きたのか分からなくて、眼をごしごし擦る。
涙が出ている事に、自分でも驚いた。

「ゆめ…かぁ……」
でも、記憶のままの夢だなんて。少し残酷な寝覚め。
竜野は、隣で僕が泣いてる事に気づいたんだ。
『怖い夢でも見たのか?』

布団の中で抱き締められて、心がじわじわ温かくなる。
「怖い、より哀しい夢かな。……さよならした日の」
『あぁ…、その……もう、あんな事は言わないとは思う。』
「いつまでも、一緒にはいられないよ。僕もちゃんと地を守らないといけないし。」
『いつでも、好きな時に来て。帰って、また足が向いたら遊びに来たらいい。』
「自分は、来る気ないでしょ?」

図星なのか、竜野は目を逸らした。
『凪の所までは、遠いからな。』
「そういう事に、してあげる。」
抱き締められていると、色んな想いがよみがえって来て
胸がいっぱいになる。

「僕、ちゃんとずーっと竜野のコト好きで良かった。」
『俺は、お前を嫌いになった訳では、無いからな。』
「うん。知ってるよ。竜ちゃんは、大きな想いに自分も一緒に飲まれそうになって…
苦しかったんじゃない?」
『かもしれないな。やっと自由の身になれたって。2人ともかなり、うかれてた。』

横になりながら、息のかかりそうな距離で見つめ合う。
深い青色の瞳の優しさに、ドキドキしてる。

顔が良いのは、当たり前って思ってるけど。
まじまじ向き合って見られると、照れてしまう。
「ずっと変わらないよね、朝からイケメンすぎて見てるコッチが疲れちゃう。」
『じゃ、見るな。』

時々、意地悪な言葉。でも、まぶたにキスをされてしまったから
もう何にも言えない。
本当は、すごく優しいのに。
でも、そのちょっと意地悪な所も…好きなんだよなぁ。

冷たいイメージを竜野は持たれやすい。
話すと穏やかで、ソフトだし。
どちらかと言うと、聞き役になってくれるから
性格は大人しさも強く出てると思う。

「朝から、僕が居るの嬉しかったりする?」
『言わない。答えを知ってて聞くなんて。凪も無粋になったな。』
「ごめ~ん……だって、やっぱりちょっと嬉しそうに見えるからさ、…ね」
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