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壊さない様に、優しく触れたくて。
しおりを挟む薄桃色の髪が、フワフワ揺れる。
急に、俺の部屋に転がり込んだ幼友達の凪。
子供の頃、家が近所だったけれどしばらくは離れて
暮らしていたのに。
甘い香りを身にまとって、初夏に現れた。
『竜ちゃん。僕のコト、雇ってよ。』
そんな軽い言葉と共に、部屋にやって来た。
凪がここのところ、何をして生計を立てて居たのかは
よく知らない。
からりと晴れた笑顔は、何の不安も無さそうだったから
俺は、条件をいくつか凪に提示した。
リビングのテーブルに、プリントアウトした用紙を
凪に読んで聞かせた。
『女性を、部屋に連れ込まない事…って、本気で言ってる?
僕の、好きな人知ってるくせに。』
凪は膝の上に両手をそろえて置き、首を傾げた。
「念のため、後はそうだな。…家を空ける時にはちゃんと俺にも
言ってからにしてくれ。」
『竜ちゃんの束縛したいって願望が、ひしひしと伝わって来るね♡』
「黙れ。」
『黙らない~。あ、ちなみに実家を離れちゃったから、ちょっと楔は弱まってるけど。
でもその代わりに、竜ちゃんが側に居るから。平気だよね。』
「お前は、もう少し…危機感を持て。」
一応は、俺のつがいとして凪は組まれている。
なので、側に居る事により相互作用が働く。
『危機感は、1人で居る方があったから。だから、こうして竜ちゃんのトコに
来たんだよ。そんなに、つんけんしなくてもいいじゃん。』
こんな紙切れ一枚で、凪が了承するとも思えない。
しまいには、持って来た桃をテーブルにのせて
『イイ匂いでしょ?一緒に食べよう。』
凪が白桃を持って来たのは、これが初めてでは無い。
「良い匂いだな。すっかりお前の匂いだと思い込んでた。」
凪は、一瞬え、という顔をして
何故かその後はうつむいた。
『時々、そういう事言ってくれるのに。僕にはいつも…塩対応なんだよね。』
「ぞんざいか?そんなに。」
『うん。ちょっとね。ね、キッチン借りていい?』
「あぁ、適当に使ってくれ。今日から住み込みで働いて貰うんだからな。」
ちらっと、凪は俺を見てから席を立って
キッチンに立つと包丁で桃の皮を剝き始めた。
『残りのは、コンポートとかにするから。』
「あと2つあるな。」
『そう。ピーチメルバとか、美味しいよ。』
「お前に任せる。」
急に、雇ってと言われても。凪にはしばらくどんな事を
手伝ってもらうのか考えなければいけない。
同居するのは、2回目でもあるし。
寝相も知っている者同士ではある。
(夜の関係もあった事だし)
時代が変わってから、また凪と一緒に暮らす事に
なるとは思ってもみなかった。
デザート皿に、綺麗に並んだ白桃がテーブルの上に置かれる。
「手慣れたもんだな。」
『召し上がれ』
豊潤で、瑞々しい桃は、昔の凪との生活を思い出させる。
まだ俺が、文筆家として活動していた頃。
世界で一番、凪を大事に想っていた青い時期。
もちろん、想いが薄れた訳でも無いし。
今でも…凪に対する気持ちは不変だ。
ただ、色々な事が2人の間に起きてしまい
一緒には居られなくなった。
時代、と言えばそうでもあるし。
「不思議だな。昔の方が甘く感じる。」
『竜ちゃん……。』
感傷的になりたくない。
でも、俺が思う前に凪は先に気が付いていたらしく
視線を合わせると
「お前も、思い出したんだな。」
今にも泣きそうな顔で、笑ってみせるから心が疼く。
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