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君の罪と私の罰と。

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※冒頭の部分を、オッサンと、鬼神(後に嫁)の
守護職2人が解説しています。







『誰?あのお面つけてる人は…。』
会議に招集された時に、一人だけお面をつけている人がいた。

「あぁ、あれは藤里だな。十和田 藤里。あまり話さないけどいい奴だ。確かいつも一緒にいるのが…。」

美祢と安芸が会議前に話していると
どんっ、と誰かが安芸にぶつかった。

『ごめんなさい、…あっ、安芸くん!美祢ちゃんも…うちの藤里見なかった?』

「今、葵と話してるみたいだな。ほら、そっちのテーブルだ。」

慌てて立ち上がり、頭を下げる人物は、北方の守護職
陸奥北斗だった。

『ありがとう。』
恥ずかしそうに笑って、
藤里の元へ向かう北斗を美祢が見ていた。

『可愛い人だよね。顔真っ赤にしてた。』
「北斗は、赤面症なんだ。からかいがいがある奴だ。」

『…藤里さんって、お面外さないけど、お顔どうかしたの?』

「藤里は、立食会にも参加しないからな。北斗もすぐに帰るし…。だから、先に来て葵と話してるんだろうが、面は外さないよ。顔がどうかなってる訳じゃないんだろうが、藤里の心の問題だな。」

『…北斗くん、すごく藤里さんを大切に思ってるよね。藤里さんと、うまくいってるといいなぁ。』

遠目に、美祢が二人を見て
目を細める。

「大丈夫だろ。藤里は義理堅いし、北斗も…優しい奴だから。」

『………。』
「北斗だったら、藤里の素顔を知ってるだろうな。」

『そうだよね…。なんとなく、そんな気はした。』

二人の間に、一体どんな事情があるのかは
あまり知られてはいないが
確かに、感じる想いのような物があるのは確実だろう。






『あっ、先に行くなんて…あんまりだよ。藤里~!』

「…葵殿を待たせる訳にはいかないだろう?」

『悪かったな、北斗。藤里が相手をしてくれたよ。しかし相変わらず怪我が後を絶たないな…。今時鼻の頭に絆創膏を貼った姿は、珍しい。』

葵殿が、北斗のナリを見て
微笑む。

「北斗は、注意力散漫だから。すぐに怪我をする。治りが早いからまだいいが…普通の人間なら、大変な事になっていたろうに。」

『活発なくせに、赤面症だから。可愛げは有るよ。』

『えっ…俺の話してる?』

「だいたい、そのスポーツバッグは何だ…またユニフォーム突っ込んで来ただろう。」

陸奥北斗は、困った奴だ。
腐れ縁で、ずっと何らかのカタチで今日まで関わって来たが…こんなおかしな奴を見たのは、後にも先にも北斗が初めてだった。

昔は、領土をめぐって
争いなどもあったが…総じて言うならば、俺は北斗のドジに何度振り回されてきたか。

葵殿がいなかったら、
北斗と俺は…あまりに
虚しい終わりの時を迎えるだけだった。

簡単に言えば、俺は今
頬っぺたについた土を葵殿に落とされているような
この男、北斗に
うっかり?殺されてしまった過去がある。
まぁ、それはいずれ
話すとして。

『さて、そろそろ設営に取り掛かろうか。怪我には気を付けろよ?北斗。そして、藤里…北斗を見てやってくれ。ではな。』

「…はい。」

お面越しに、北斗の
間抜けヅラを見る。
『?あ、こっち見てるだろ、何?』
察しだけは早かった。

「いや、何も。兎に角こっちに来た以上は、しっかりやるんだ。」

『勿論!葵様に言われた事は絶対だから。』

思いの外、北斗の従順さは
昔から変わらない。
奔放なのかと思えば、
真面目だったり。
長く共にあっても、時々
北斗が知らない人に思えたりする。

そんな不思議さが、いまでも惹かれてしまう。
「そうだな…。」

『藤里~…久しぶりじゃないか?』
「…はっ?久しぶり?」

『3日ぶりだから。久しぶり。』

「…俺も、屋敷を開けてばかりはいられないだろう。なんだ、寂しかったのか?」
感覚がやはり、ずれている。
『えっ?まさか…。藤里ってば相手に言わせようとするなんて卑怯。』
本当、調子が狂う。

「…っ。」
『舌打ちした?』
「まさか。お前の言うとおりだ。」

言われるままに、会議前の資料作成、座席表を準備し始めた。

会議は、1時間半程で終わり後は立食会になる。

いつも、立食会には北斗も俺も参加はしない。

そのあたりの事情は、周りも知って居たから。
北斗と帰って二人で夕食を摂るのが恒例だった。
北斗の性格だったら、本当は立食会に参加したいだろうに。
敢えて、合わせてくれる
そんな所が好きだった。

四六時中、お面を外さないように思われている俺も
家では素顔で過ごして居た。




『…ごめんなさい、ごめんなさい!藤里…っ、死なないで!藤里っ!』

あれは…やっぱり今でも思い出す。
俺の罰と、北斗の罪は
やはりこの顔に残すべき
だろう。
そう思って俺は、
あの日の痕は消さないと決めた。
本来なら消えるはずの痕なんだと、医師には聞かされた。
あの日で身体の時間が、止まってしまったみたいだ。




『さて、そろそろ出ないと飛行機、間に合わないね。』
荷物をまとめて、ロビーに
北斗が待っていた。

「あぁ。挨拶は、して来たみたいだな。じゃあ…行こう。」

穏やかな表情の北斗を見て
何と無く心が和む。

また、いつもの毎日に
戻るだけだ。
『…今日は、ごめんなさい。』
会議場を出ると北斗が
しおらしく謝ってきた。

「何がだ?」
『もっと、身だしなみ気にして来たら良かったよね。実は、サッカーしてたんだ。』
「…やっぱりな。また、それで怪我をするつもりか?後な、あまり人間…いや、一般人と仲良くしすぎるなよ、北斗が悲しくなるだけだ。お前だって、俺だって老いない。それは…恐ろしい非凡な事なんだ。」

『うん…。』

空港で待ち時間にカフェに立ち寄った北斗が
俺の分も一緒に買って来てくれた。

『確か、藤里は紅茶好きだよね?はい…これ。』
椅子に座っていた所に
北斗にカップを手渡された。

「ありがとう、そうだ。紅茶が好みだな。」

『あっ、ごめんなさい、お面してるのに…』
「気にするな、ここでなら大丈夫だよ。外しても。」

すっ、とお面を外した瞬間
周りの人たちもこちらを
見ている気がした。
まぁ、当然だろう。

『…藤里』
「ん?」
『やっぱり、かっこいいから皆見てるよ。』
「…まさか。」

アールグレイの華やかな香りが、ふわりと鼻腔にまで
広がる。
「北斗、夕食何にしよう?」
ドジな北斗は、料理が苦手だ。
だから、俺が作る事になる訳だが。

昔のトラウマのせいで
北斗の料理は怖くて食べられない。
『えっ…えーと、あったかくなりそうなのがイイ。』

膝上に置いてあるお面を
北斗が顔に着けてる。

「こら、汚すなよ?」
『…ん~』
鞄から、ちり紙を取り出して北斗の口元を無理矢理綺麗に拭く。

「全く…。」
『痛かった、』
強く拭かれて、ひりひりする口元を押さえる北斗の
姿は
やっぱり可愛らしいと思う。
いつだって邪念が無くて
そのまま生きてるような雰囲気の奴だけど…本当は
そうじゃない事を
誰より知っている。
だから、うっかり自分が殺されてしまっても北斗は許せてしまう。

『あ、搭乗できるって。そろそろゲート行こう、藤里。』

一息ついた所で、
支度を整え
北の地に向かう飛行機へと
乗り込んだ。
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