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1章
4話 亡国
しおりを挟むいまから遡ること数千年前、ある流浪の民が、この土地に流れ着いた。彼らは、どれくらい海の上を彷徨ったのだろうか。船の中の食べ物もとっくのとうに底をついた。
それにしても、流れ着いたこの土地は、どこよりも山が富んでおり、水が澄みきって美しい。なによりも、通り抜ける風が心地よい。
闘い疲れた。他民族からいつ攻められるのだろうか、民族内での騙し合いの連続、気を休めることを許されない毎日。その度に、大事な仲間が殺され、大切な土地と食べ物と家族が侵される。
もう、うんざりだ。我ら一族は、この不毛で残酷な戦いを避けるために、これまでの蓄え全てを投げ出して、船に運命を任せたのだ。
この静かで平和な楽園は、高度な文明をもつ人間がいる痕跡もないことから、幸いにも誰にも見つかっていないようだ。この地に、誰も争わない、人を傷つけない、思いやりをもった場所を作ろうと考えた。
流浪の民は、持ち前の真面目さと団結力を糧に、未開拓であった湿地帯を一生懸命に開墾した。外からの敵がいなかったこともあり、彼らの努力が身を結び、一族は栄えた。誰が言い出したのかは分からないが、この一帯の土地を「庄の国」と呼んだ。
ある日、「庄の国」で争い事が起きた。争いのきっかけは些細なことであったが、同一民族で食べ物を奪い合い、人殺しも始めた。ついには、国は東と西に分断されて、数ヶ月にわたって、戦争が続いた。一族の首長は、終わりなき戦いに困り果てた。
その年の終わりに、災害が続いた。大地が揺れ、川が氾濫し、山が噴火した。
国の子供の1人が「神様が怒ってる!!」と言った。山の神、大地の神、水の神、すべてのものには神様が宿ってるんだ。皆が仲良くしないから、神様たちが相談をして、私らを懲らしめようとしているのだと。
純粋な子供の一言に、民は我に返り反省し、人を傷つけるすべての武器を廃棄し、山の奥の綺麗な場所に埋めて封印した。民はこの過ちを二度と繰り返さないように、武器を埋めた場所に祠を建てた。毎年、自然に感謝をするための祭をすることした。
ある日、「庄の国」にある噂が流れた。
山の向こうに、この地へ我々よりも「後から来たもの」がいるらしいと。異世界の民は、好戦的で恐ろしいと何代も前の先祖からの言い伝えがある。民は、彼らの存在が、いつか我々に災いを呼び起こすのではないかと怯えた。
ある日、「後から来たもの」の国から貢物が届き、「庄の国」に従うと拝謁した。首長は大いに喜び、平和の誓いを交わして、彼らをもてなした。
しかし、「後から来たもの」の国は、心も生活も貧しかった。自分のないものは、すべて他所から奪えばよいとの考えを持っていた。そのやましい心を隠して、使者を送り込みながら、国の内情を探った。ついに、「庄の国」には武器がないことを知った。
国の最大の儀式である春祭りの日に、「後から来たもの」は、「庄の国」に攻め込んだ。不意を突かれた庄の民は、あくまで武力ではなく、話し合いで解決しようとした。ただ、交渉はうまくいくはずもなく、庄の民は戦い方も分からず逃げ惑うだけだった。『後から来たもの』は、すべての財産、女を奪って、「庄の国」を滅ぼした。
『後から来たもの』の国は、「庄の国」が長い時間をかけて築き上げたものを基盤に巨大な国家を作った。文字が発達し、民族の正統性を誇示するために、この国の正史を作った。
この戦いを、国家誕生の聖戦として、後世に語り継いだ。国造りの章ではこのように書かれている。
かつてこの国には、「庄の民」という野蛮で残虐な悪魔のような先住民がいた。我が偉大な王は、この野蛮な先住民を成敗し、苦しむ民を解放した。
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