ま性戦隊シマパンダー

九情承太郎

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第四部 大迷惑編

二十七話 夜明けのシマパンダー(1)

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 次の日の朝。
 入谷家で最もボウっとしているのは、伊藤飛芽だった。

「…短いレッドだったなあ…」

 基地の壊滅に伴い、初代レッドが復職。
 不死身の戦闘服は即返却。
 飛芽は予備軍に回される事が決まった。
 当分は、普通に女子中学生である。
 トースト二枚にトマト、キュウリ、レタス、生ハムを挟み込んでモソモソと喰らい、オレンジジュースを一杯飲み干して尚、伊藤飛芽はテンションが最低値だった。

「バカモーン!」

 中学生の制服に着替えた朝顔が、未だパジャマの飛芽を叱責してパジャマ強制解除&JC制服強制装着に着手する。

「朝から脱衣プレイは、キツイねえ、朝顔先生」
「義務教育の平日朝をナめてんじゃねえぞなもし。ブラを代えて、この色は透けるから」
「いいよ、透けブラぐらい。少年たちの永遠の夢になるのだ」
「永遠のズリネタだ、ばかやろー」
「いいんだ、いいんだ」

 完全にやる気の失せている飛芽の支度を整えさせ、一緒に登校へと出発した段階で、客人の黒鉄能代がパジャマ姿で居間に降りてきた。

「あんれええええ? イリヤは結局、帰ってこなかったの~?」

 入谷恐子の乳枕で寝る予定だったのにすっぽかされて悲しい黒鉄能代は、イリヤ母に所在を尋ねる。

「連絡なし。徹夜で夜戦かしら?」

 通常通り、色々と手遅れな返答をするイリヤ母に見切りを付け、黒鉄能代は一瞬でゴスロリ服に着替えると、朝食も取らずに礼だけ言って家を出る。
 基地の危機には指一本動かさなくても、たわわ友の為なら神速で動く黒鉄能代なのだ。
 専用バイク『マーブル・サターン』で基地への進路を走る能代は、途中で朝顔と飛芽に追い付いた。
 予備知識なしなら、二人とも女子中学生にしか見えない。
 挨拶代わりに、能代は飛芽のスカートを捲ってトマトパンツを露わにしてから、走り去る。
 背後からの「引き返して殴られろ、この変態ブラック!」という罵声を置き去りに、能代は入谷恐子の捜索に専念する。

 復旧作業で賑わうスクランブル交差点周辺を、能代は歩道橋の上から確認。十時間前に入谷恐子が、そうしたように。

「あれを秒殺でかましたとなると、お出ましになったか、バカ親父?」

 疎遠な本部基地の被害には同情せず、能代は犯人を察して渋い顔をする。
 感傷を払い除け、能代は身体の八分の一に流れる人狼の遺伝子を発動させて、超嗅覚で入谷恐子を追跡する。

「ウホッ、この場所でプチ発情している?! 相手は痴漢か? いや、それなら斬り捨てているはずだし…ボーイフレンド? セフレ? AV勧誘?」

 エロい妄想を中学生並みに働かせながら、能代は匂いを追って三井住友銀行渋谷店の裏手に進む。
 ちょうど現金輸送車に現金を積み込む最中で、周囲を固める警備員たちからメッチャ睨まれた。

(怖~。現金輸送は、警備員がいても襲撃される危険業務だからな~。そりゃあ通りすがりの美少女にも警戒するかあ)

 トラブルに巻き込まれないように視界から外れて裏路地を進むと、別のトラブル現場に出くわした。

 暗い勝手口の雑居ビルから、濃厚なオレンジと猛烈な恐怖の匂いがダダ漏れてくる。
 それに混じって、入谷恐子のシマパンの匂いが。

「何に関わっとるのよ、たわわちゃ~ん」

 能代はバイクを駐輪し、雑居ビルの避難階段から匂いの最も濃い五階まで上がる。
 ピッキングで開けようかとドアを窺うと、ドアの隙間にストッパーが挟んであった。周りにタバコの吸い殻が二本有るので、喫煙者が横着した結果だろう。

「おっ邪魔しま~す」

 一応断ってから五階の廊下部分に足を踏み入れると、男の腰骨が折れる音を拾う。
 戦闘音はその程度だったので、能代は入谷恐子が軽く事件を終わらせたと断じた。
 廊下の三つのドアの中から、目当ての匂いがする上に骨折音が聞こえた左側のドアの呼び出しボタンを押す。

「みんなが大好き非公開十七歳、黒鉄能代ちゃんどえす。混ぜて混ぜて」
「勝手に抉じ開けるであります」
「とおっ!」

 ドアを蹴り開けると、室内には五人の男が倒れていた。いずれも重傷だが、一二時間では死にそうにないという絶妙な半殺しである。
 その部屋の中央で、完全にシマパンなカラーリングと化しているシマパンダーが仁王立ちしている。

「能代は、手錠は得手でありますか?」
「使えるよ~」

 影ポケットから手錠を出すと、手早く五人の両手を数珠繋ぎにして拘束する。

「で、この連中の罪状は?」

 シマパンダーは、口に出すより先に、被害者を指差す。
 指し示された隣の部屋では、オレンジがモチーフの怪人娘が、羊がモチーフの怪人娘を介抱している。

「しっかりして、桃名ももな! 敵の増援が来たわ! 連戦よ!」
 顔にパンダみたいに痣がついた羊型怪人娘は、
「あたいを置いて逃げろ、美柑みかん。新手のスタンド使いは、強そうだ。ゴスロリ服に、性格の悪そうな目付き。最悪だ」
 言いたい事を言ってから気絶した。

「あのう、シマパンダー。見ただけだと、状況が分からないです。ト書きも読ませて」
「意外であります。能代なら一眼で分かると思ったのに」

 シマパンダーは、床に転がっているデジカメを拾い、そこに収録されている最新の映像を見せる。
 背後から無理やり抱き締められて、複数人数から愛撫をされるオレンジ型怪人娘と、四肢を縄で拘束されて羊毛を刈り取られる羊型怪人娘の姿が。
 オレンジ型怪人娘は嫌がり半分・観念半分で濡れ始め、羊型怪人娘は羊毛が少なくなる程にエロいボディラインが見えてくる。
 途中でシマパンダーが突入し、映像は終わっている。

「わあ、アダルトビデオの撮影現場でしたか」
「いえ、正確には、『ちょっとエッチな着エロ作品への出演と見せかけて、集団レイプが目的』の犯罪者たちであります」
「何だ、プロじゃないのか」

 何故か大きく落胆しながら、能代は撮影時間を気にかける。

「突入は十時間以上前なのに、ボコったのは五分前? 空白の間は、何を?」
「この作品の撮影が、表現の自由に該当するのかどうか、徹夜で議論を交わしていたであります」
「・・・」
「着エロと本番の違いについてとか、着エロの契約に同意した場合、どこまで拡大解釈が可能であるかとか、深淵なエロ談義をしていたであります」

 助けられたはずのオレンジ&羊娘が、シマパンダーを警戒している理由を、能代は理解する。
 助けに来たヒーローが、性犯罪者の言い分を一晩中検証しているのである。被害者にとっては、感謝より不信感の方が膨張する事案。

(こいつ、単独じゃあ、全然ダメだな)

 能代は、会って三日目でシマパンダーが克服していない弱点に気付く。
 チートレベルの最強フォームを入手する段階になっても、シマパンダーは「普通の人の顔をした悪人」を仕分けられなかった。
 現実世界でヒーローをやるには、危な過ぎる。

 そして、エロ談義で徹夜したシマパンダーは、味方の到着に緊張が緩み、眠気で座り込む。
 オレンジ&羊娘は、その隙に部屋から逃げ出した。
 能代は警察に通報すると同時に、その二人の保護も注文する。

「もう寝ていいでありますか?」
「家まで運ぶよ」
「でも、良いベッドがあるし、もう安全であります」

 能代の目には、此の部屋で口封じに殺された女性が、怨霊と化してベッドに住み着いている姿が映っている。
 能代を強敵と見做してベッドの下で様子を伺っているが、まぬけで疲労困憊で憑依しやすそうなシマパンダーの頭に、爛れた視線を二秒ごとに向けている。

「おんぶして運ぶよ。ほら、乗って」
「背中で自分の胸部装甲を味わう気でありますな? ズルイであります」
「ほら、帰るぞ」

 シマパンダーを背負った能代は、ベッドの怨霊に背を向けないように部屋を出ると、ドアを閉めて知り合いの除霊業者にメールで仕事を依頼する。
 それでも安心せずに、能代は後ろ向きにエレベーターへと移動する。
 建物外に出て、怨霊の攻撃範囲から出たと確認してから、能代はバイクにシマパンダーを乗せて近所の神社に立ち寄るルートを取る。

「…寄り道であります」
「縁起を担ぎに行こう」
「…そこで眠っていても、良いでありますか?」
「うん、まあ、良いか」
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