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第四部 大迷惑編
二十六話 真夜中のシマパンダー(2)
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入谷恐子が、渋谷スクランブル交差点附近を偵察すると、その中央には直径二メートルの黒い穴が空いていた。
高度な熱線で焼き切られた痕跡からは、火災による二次被害を抑える処理が見受けられた。
それは生存者が防災行動を行えたという事であり、秘密基地への被害が最悪ではなかった証だと、入谷恐子は判断したかった。
渋谷スクランブル交差点付近は、昼間の巨大ロボ戦闘の影響による車両通行禁止措置が継続中だったので、大事故は誘発されていない。
車両も人も往来がなかったのは良かったが、野次馬は封鎖線の周囲に満遍なく溢れている。
数分に一度は、封鎖線の意味を全く理解してくれない一般市民が渋谷スクランブル交差点を横切ろうとして警官に止められて憮然としている。
駅前~東急百貨店東横店前の歩道橋の上から様子を伺っていた入谷恐子は、真横から初対面の金髪碧眼の細マッチョから声をかけられる。
「人的被害は、少ない。敵は、最短ルートを熱線で貫通し、ビロン姉妹の遺体を回収して去った」
ゴールドスクリーマーの戦闘服着用を諦めた元・ユーシア、現・金沢利家が、手を握れる距離にいる。
どんな顔をしていいのか分からないので、入谷恐子は棒立ちで聞き手に徹する。
素顔の金沢利家は、まるで一般人が芸能ニュースをネタに世間話をするように、話を続ける。
「最下層の死体安置所まで総ての階層を貫通されたから、基地機能の被害は最悪だってよ。戦闘服の自動装着すら出来ないし」
金沢利家は、そう言って戦闘服を装備出来なくなったせいで晒している素顔を夜風に当てる。
「岸司令は、一ヶ月は復旧作業に追われるよ。昼間の巨大ロボ戦の始末も合わせて、大変そうだ。
いやあ、いいタイミングで育児休暇を取れたよ。
この状況なら、民間戦隊として営業できないから、緊急で呼び出される心配も要らないし」
放心状態の入谷恐子の顔色を心配し、たわわ部分を二秒ガン見し、視線を顔色に戻して、金沢利家は隣家の「ま性少女」に話を続ける。
「スクリーマーズって、臨時雇用の隊員ばかりでね。正規隊員は、俺とミントとブルーの三人だけだ。その三人が全員長期休職の上に基地が壊滅だから、気兼ねなく休んでいい。テレビのスーパー戦隊と違って、現実世界には民間戦隊が有り余っているから」
実際、壊滅した基地の救助に、他の民間戦隊が二隊、緊急で駆けつけてくれている。
極秘戦隊スクリーマーズが休止しても、世界(というか主に関東地方)の平和は微塵も揺るがない。
「そりゃあ、ユーシアは五年も戦っていたから満足でありましょうが」
「ユーシアじゃねえ。金沢利家。トメイトゥが伊藤飛芽なのと同じ。ラノベのキャラのままじゃあ、生きていけないって、理解を示せ。異世界転生キャラの苦労を背負い込んでいるんだ、現在進行形で。しかも妻子持ちだし」
変人でも美人の嫁さんをもらって家族計画も順調なので、同情の仕様が無いのだが。
世間様の基準は据え置いて、金沢利家は元キャラの名前で呼ばせない。
初恋のキャラにマジ説教されて、入谷恐子は更に凹む。
それでも彼との会話を続けたくて、入谷恐子は燻る思いを口にする。
「自分は、まだ三ヶ月しか戦っていないであります」
「戦闘服なしで戦えないだろ。大人しくしていろ」
「ブルースクリーマーの戦闘服はなくても、シマパンダーとしてなら、まだ戦えるであります」
「それだ、俺が止めたいのは、君の完全なシマパンダー化だ」
金沢利家は、説得し易いように、入谷恐子の片手を握り、長髪をエロめに撫で撫でしながら本題に入る。
「シマパン力なんてフザけた力に呑まれなかったのは、ブルースクリーマーの戦闘服を着た上での使用だったからだ。シマパン力を生身で使い続けたら、シマパン怪人に成っちまうぞ。基地の機能が復活するまで、本当に参戦は控えろ」
真夜中の渋谷の歩道橋の上でセクハラ紛いのスキンシップをされて、入谷恐子は赤面し、腰が抜けそうになりながらも、本分を曲げない。
「代わりの戦士が数多いようと、戦いたいであります」
握られた手を強く握り返し、長髪を撫でる指を大太刀の柄で留める。
「誰かに説得されて強く止められても、戦いたいであります」
入谷恐子は、初めて握り締めた初恋の人の手を放し、視線だけを吐息の距離で交じり合わせる。
素顔の金沢利家は、感情を巧くは隠せない。
泣きそうな顔で、説得を続ける。
「これはね、終わらない戦いなんだ。
中二病プリンターを全て回収しても、製作者を葬っても、戦いは続く。
降りられる時に、降りておくべきだ。
この戦いに、イリヤの一生を賭けて欲しくない」
初恋の人から人生を心配されて、入谷恐子は何となく満足してしまった。
朝顔が知れば「その程度で満足するな」と言いそうだが、この満足度には介入しようがない。
入谷恐子は強気な笑顔を見せると、用も無いのに変身を始める。
「レッツ・シマパンダー!!」
入谷恐子の穿いているシマパンが、朝顔の花弁が開くように大きく展開し、全身を覆う戦闘服として再構成する。
それは形状こそブルースクリーマーのビッチリ型戦闘服に似ているが、カラーリングがシマパンと同じ青白のストライプ。
勘違いでも見間違いでも偏見でも偏向報道でもデマでも言いがかりでもネタでもなく、本当に全身シマパン模様の女戦士。
そのアホみたいだけどスタイリッシュでもあるデザインの女戦士は、心配そうに見守っている金沢利家に、戦いを続ける宣言をする。
「これは全部、自分の夢であります」
次回予告
ここで終わりにするのも有りだけど、あともう一話だけ。
それぞれの後日談。
そして、また産まれる新しいシマパンダーに。
次回「夜明けのシマパンダー」
高度な熱線で焼き切られた痕跡からは、火災による二次被害を抑える処理が見受けられた。
それは生存者が防災行動を行えたという事であり、秘密基地への被害が最悪ではなかった証だと、入谷恐子は判断したかった。
渋谷スクランブル交差点付近は、昼間の巨大ロボ戦闘の影響による車両通行禁止措置が継続中だったので、大事故は誘発されていない。
車両も人も往来がなかったのは良かったが、野次馬は封鎖線の周囲に満遍なく溢れている。
数分に一度は、封鎖線の意味を全く理解してくれない一般市民が渋谷スクランブル交差点を横切ろうとして警官に止められて憮然としている。
駅前~東急百貨店東横店前の歩道橋の上から様子を伺っていた入谷恐子は、真横から初対面の金髪碧眼の細マッチョから声をかけられる。
「人的被害は、少ない。敵は、最短ルートを熱線で貫通し、ビロン姉妹の遺体を回収して去った」
ゴールドスクリーマーの戦闘服着用を諦めた元・ユーシア、現・金沢利家が、手を握れる距離にいる。
どんな顔をしていいのか分からないので、入谷恐子は棒立ちで聞き手に徹する。
素顔の金沢利家は、まるで一般人が芸能ニュースをネタに世間話をするように、話を続ける。
「最下層の死体安置所まで総ての階層を貫通されたから、基地機能の被害は最悪だってよ。戦闘服の自動装着すら出来ないし」
金沢利家は、そう言って戦闘服を装備出来なくなったせいで晒している素顔を夜風に当てる。
「岸司令は、一ヶ月は復旧作業に追われるよ。昼間の巨大ロボ戦の始末も合わせて、大変そうだ。
いやあ、いいタイミングで育児休暇を取れたよ。
この状況なら、民間戦隊として営業できないから、緊急で呼び出される心配も要らないし」
放心状態の入谷恐子の顔色を心配し、たわわ部分を二秒ガン見し、視線を顔色に戻して、金沢利家は隣家の「ま性少女」に話を続ける。
「スクリーマーズって、臨時雇用の隊員ばかりでね。正規隊員は、俺とミントとブルーの三人だけだ。その三人が全員長期休職の上に基地が壊滅だから、気兼ねなく休んでいい。テレビのスーパー戦隊と違って、現実世界には民間戦隊が有り余っているから」
実際、壊滅した基地の救助に、他の民間戦隊が二隊、緊急で駆けつけてくれている。
極秘戦隊スクリーマーズが休止しても、世界(というか主に関東地方)の平和は微塵も揺るがない。
「そりゃあ、ユーシアは五年も戦っていたから満足でありましょうが」
「ユーシアじゃねえ。金沢利家。トメイトゥが伊藤飛芽なのと同じ。ラノベのキャラのままじゃあ、生きていけないって、理解を示せ。異世界転生キャラの苦労を背負い込んでいるんだ、現在進行形で。しかも妻子持ちだし」
変人でも美人の嫁さんをもらって家族計画も順調なので、同情の仕様が無いのだが。
世間様の基準は据え置いて、金沢利家は元キャラの名前で呼ばせない。
初恋のキャラにマジ説教されて、入谷恐子は更に凹む。
それでも彼との会話を続けたくて、入谷恐子は燻る思いを口にする。
「自分は、まだ三ヶ月しか戦っていないであります」
「戦闘服なしで戦えないだろ。大人しくしていろ」
「ブルースクリーマーの戦闘服はなくても、シマパンダーとしてなら、まだ戦えるであります」
「それだ、俺が止めたいのは、君の完全なシマパンダー化だ」
金沢利家は、説得し易いように、入谷恐子の片手を握り、長髪をエロめに撫で撫でしながら本題に入る。
「シマパン力なんてフザけた力に呑まれなかったのは、ブルースクリーマーの戦闘服を着た上での使用だったからだ。シマパン力を生身で使い続けたら、シマパン怪人に成っちまうぞ。基地の機能が復活するまで、本当に参戦は控えろ」
真夜中の渋谷の歩道橋の上でセクハラ紛いのスキンシップをされて、入谷恐子は赤面し、腰が抜けそうになりながらも、本分を曲げない。
「代わりの戦士が数多いようと、戦いたいであります」
握られた手を強く握り返し、長髪を撫でる指を大太刀の柄で留める。
「誰かに説得されて強く止められても、戦いたいであります」
入谷恐子は、初めて握り締めた初恋の人の手を放し、視線だけを吐息の距離で交じり合わせる。
素顔の金沢利家は、感情を巧くは隠せない。
泣きそうな顔で、説得を続ける。
「これはね、終わらない戦いなんだ。
中二病プリンターを全て回収しても、製作者を葬っても、戦いは続く。
降りられる時に、降りておくべきだ。
この戦いに、イリヤの一生を賭けて欲しくない」
初恋の人から人生を心配されて、入谷恐子は何となく満足してしまった。
朝顔が知れば「その程度で満足するな」と言いそうだが、この満足度には介入しようがない。
入谷恐子は強気な笑顔を見せると、用も無いのに変身を始める。
「レッツ・シマパンダー!!」
入谷恐子の穿いているシマパンが、朝顔の花弁が開くように大きく展開し、全身を覆う戦闘服として再構成する。
それは形状こそブルースクリーマーのビッチリ型戦闘服に似ているが、カラーリングがシマパンと同じ青白のストライプ。
勘違いでも見間違いでも偏見でも偏向報道でもデマでも言いがかりでもネタでもなく、本当に全身シマパン模様の女戦士。
そのアホみたいだけどスタイリッシュでもあるデザインの女戦士は、心配そうに見守っている金沢利家に、戦いを続ける宣言をする。
「これは全部、自分の夢であります」
次回予告
ここで終わりにするのも有りだけど、あともう一話だけ。
それぞれの後日談。
そして、また産まれる新しいシマパンダーに。
次回「夜明けのシマパンダー」
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