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第三部 大迷子編
二十三話 爆風のシマパンダー(10)
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ま性《まぬけな性分》の戦士シマパンダー
VS
牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロン(姉)
無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロン(妹)
只今、決着に向けて、シマパン中。
無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロンは、知っている。
作者《生みの親》が設定した全身の刃は、戦隊戦士の装備品しかマトモに斬れないという、アホな制約付きであると。身動きの取れない野良の自動販売機ならともかく、攘夷志士やゾンビは斬れない。
姉が一緒でなければ、ビバ・ビロンは目からビームを発射するしかないイロモノキャラである。
姉が武器として使ってくれる時が、一番気楽な時間だった。
何せ、姉は無敵だ。
本来の戦闘能力に加えて、『倍返し』がある。
スーパー戦隊のコスプレをして遊び半分で戦いを挑んでくる民間戦隊如きに、負けるはずがない。
だから。
姉が。
シマパンダーに。
自分を振り下ろした時。
刃が。
空中に舞う。
三枚のシマパンに防がれて。
シマパンダーが。
半裸の。
中破の。
シマパン一丁のシマパンダーが。
自分と姉の合体必殺技を。
防いでしまったので。
思考が。
少々。
停止した。
入谷恐子の箪笥から全てのシマパンが召喚されて、シマパンダーを守りながら集結して行く様に、関係者一同、絶句した。
『朝顔、あれ、何?』
飛芽は、仕事で待機中なのに、朝顔に携帯電話でコメントを求める。
正気を失いそうなので、とっくに正気じゃなさそうな朝顔に助けを求めた。
二階の自室からシマパンダーを観戦している朝顔は、両手で顔を覆って踞る。
「…姉様…脳にまで、シマパンが回って…」
両手で顔を覆って踞り、腹を震わせて笑っていた。
『朝顔?』
飛芽は、ようやく、初めて、朝顔はシマパンダーの心配を一切していない事実に気が付いた。
飛芽の戦闘には、あれ程までに動揺し、心底心配してくれた朝顔が、シマパンダーの戦いを憂慮していない。
極め付きの強敵と戦っているのに。
『朝顔。恐子に、何を』
朝顔は、笑いの発作で苦しみながら、辛うじて返事をする。
「姉様を守っただけよ」
シマパンは折り重なって、カラフルな和風甲冑と化していく。
両肩に「大袖《おおそで》」
手首に「籠手《こて》」
胴から「草摺《くさずり》」が前後左右に垂れて、シマパン一丁だった下半身を防御する。
最後に、クワガタの角形状に反ったシマパンが頭部前面に張り付き、「前立《まえたて》」と成る。
シマパンダーの持つシマパン三十六枚を全て使用して完成した『フルアーマー・シマパンダー』
ま性《まぬけな性分》の戦士として世間の失笑を買ってきたシマパンダーの、あまりにカッコイイ最終形態に、牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンは見惚れた。
見惚れたまま、胸部装甲が破損して無防備となった胸に、大太刀を差し込まれた。
右肺を刺されながらも、バビ・ビロンは心臓まで大太刀が達する前に、妹を持ったままシマパンダーからバックステップで五メートル離れる。
離れて一秒経ずに、シマパンダーは間合いを詰めて、無防備で傷付いた右脇へ、三度目の斬撃を放つ。
三十六枚のシマパン力を上乗せされた斬撃は、バビ・ビロンの棍棒でのガードを切断し、無防備な右胸を切断し、心臓と背骨を両断し、左肺を綺麗に切断して左脇を抜けた。
無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロンは、知っている。
姉が二分割されて倒れるまで、自分が何も出来なかった事を。
武器として楽をしてきたツケが、回ってきた事を。
本当の意味で二対一で戦っていれば、勝てたかもしれないという事を。
誰が敗因か、無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロンは、知っている。
牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンは、知っている。
体を横一文字に切断されても、直ぐには死ねない程に頑丈な身体に設定されている事を。
脳は無事なので、妹が川底帝国に持ち帰れば、まあ、何とかなる。
あの性悪な皇帝が魔改造する可能性が大ではあるが。つうか、確実に魔改造される。魔改造以外、しない。
牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンは、知っている。
この状態から助かる可能性は、有るには在る。
原作小説では、戦艦の主砲で直撃されて戦死&爆発しても、ラストバトルでしれっと復活参戦していたし。原理は知らんが。
発表されても一年で閲覧数133のカスみたいな素人小説なので、現実世界では全く反映されないかもしれないが。
「…逃げろ…」
様々な助かる可能性を考慮し、姉は妹に撤退を勧める。
妹一人だけなら、逃げ切れる可能性はある。
牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンは、知っている。
シマパンダーに命乞いをして助かっても、ダーク・アラシかネロス・ギラを差し向けられて処分されるだけだと。
ならば、妹が一人で…
「姉さんの仇ぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃい」
全身から出せる刃を全て伸長し、体内のエネルギーを全て刃に乗せ、両眼からだだ漏れの涙と激情を抑えられずに、無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロンは姉の仇を取りに行く。
「…逃げろと…言ったぞ…妹よ…」
暴風が案山子を薙ぎ倒すように、シマパンダーの大太刀が、泣き叫ぶ妹に振るわれる。
「…妹だっけ…?」
道端に横たわる牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンの意識が途切れたのは、シマパンダーが妹の首を一撃で撥ね飛ばした直後だった。
「この強化形態を、念じただけで出力した? 小説に書いてもいない設定を??」
渋谷地下、ブルーストライプ本社、司令室。
成り行きを見守っていた岸モリー司令は、これをお膳立てした入谷朝顔へと畏怖を向けた。
それは、味方に向けて持っていい類の感情ではない。
「ええ。ただ一度、中二病プリンターを試しに触らせただけで、入谷恐子のシマパンを、無双装備に引き上げました」
秋葉原スミレ博士は、司令と同じくガクブルしながらも、本社の方針を、一応再確認する。
「『入谷朝顔の半径五百メートル以内に、中二病プリンターを持ち込ませない』を継続してよろしいですね?」
もう一つの、ベクトルを変えた解決方法を、秋葉原スミレ博士は言い出さない。
岸モリー司令も、口に出したりしない。
口にしたのは、別の話題にした。
「ビロン姉妹の遺体が、爆発せずに残っています」
岸モリー司令は、頭を切り替える。
「回収して、ここに保存。敵の奪還に備えて、警戒レベルを上げる」
「長い一日ですね。私は帰りますが」
てっきり率先して解剖を始めそうな秋葉原スミレ博士の帰宅宣言を、岸司令は留めようとして直前で吞み下す。
ホラー映画のセオリーだと、解剖前に復活したビロン姉妹に殺されるパターンだ。
秋葉原スミレ博士は帰らせて、岸司令は自分がリスクを背負う事で済ませた。
その日は、本当に、長くなった。
次回予告
とうとう味方にすらガクブルされ始めた異才眼鏡っ娘・入谷朝顔の明日はどっちだ?!
まだまだ終わらない『極秘戦隊スクリーマーズ 最後の日』
大丈夫。
平野耕太先生のドリフターズよりは先に終わる、はず。
次回「川の底 穂兵徒(ほへと)」を、家族でルンルンと観よう!
VS
牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロン(姉)
無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロン(妹)
只今、決着に向けて、シマパン中。
無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロンは、知っている。
作者《生みの親》が設定した全身の刃は、戦隊戦士の装備品しかマトモに斬れないという、アホな制約付きであると。身動きの取れない野良の自動販売機ならともかく、攘夷志士やゾンビは斬れない。
姉が一緒でなければ、ビバ・ビロンは目からビームを発射するしかないイロモノキャラである。
姉が武器として使ってくれる時が、一番気楽な時間だった。
何せ、姉は無敵だ。
本来の戦闘能力に加えて、『倍返し』がある。
スーパー戦隊のコスプレをして遊び半分で戦いを挑んでくる民間戦隊如きに、負けるはずがない。
だから。
姉が。
シマパンダーに。
自分を振り下ろした時。
刃が。
空中に舞う。
三枚のシマパンに防がれて。
シマパンダーが。
半裸の。
中破の。
シマパン一丁のシマパンダーが。
自分と姉の合体必殺技を。
防いでしまったので。
思考が。
少々。
停止した。
入谷恐子の箪笥から全てのシマパンが召喚されて、シマパンダーを守りながら集結して行く様に、関係者一同、絶句した。
『朝顔、あれ、何?』
飛芽は、仕事で待機中なのに、朝顔に携帯電話でコメントを求める。
正気を失いそうなので、とっくに正気じゃなさそうな朝顔に助けを求めた。
二階の自室からシマパンダーを観戦している朝顔は、両手で顔を覆って踞る。
「…姉様…脳にまで、シマパンが回って…」
両手で顔を覆って踞り、腹を震わせて笑っていた。
『朝顔?』
飛芽は、ようやく、初めて、朝顔はシマパンダーの心配を一切していない事実に気が付いた。
飛芽の戦闘には、あれ程までに動揺し、心底心配してくれた朝顔が、シマパンダーの戦いを憂慮していない。
極め付きの強敵と戦っているのに。
『朝顔。恐子に、何を』
朝顔は、笑いの発作で苦しみながら、辛うじて返事をする。
「姉様を守っただけよ」
シマパンは折り重なって、カラフルな和風甲冑と化していく。
両肩に「大袖《おおそで》」
手首に「籠手《こて》」
胴から「草摺《くさずり》」が前後左右に垂れて、シマパン一丁だった下半身を防御する。
最後に、クワガタの角形状に反ったシマパンが頭部前面に張り付き、「前立《まえたて》」と成る。
シマパンダーの持つシマパン三十六枚を全て使用して完成した『フルアーマー・シマパンダー』
ま性《まぬけな性分》の戦士として世間の失笑を買ってきたシマパンダーの、あまりにカッコイイ最終形態に、牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンは見惚れた。
見惚れたまま、胸部装甲が破損して無防備となった胸に、大太刀を差し込まれた。
右肺を刺されながらも、バビ・ビロンは心臓まで大太刀が達する前に、妹を持ったままシマパンダーからバックステップで五メートル離れる。
離れて一秒経ずに、シマパンダーは間合いを詰めて、無防備で傷付いた右脇へ、三度目の斬撃を放つ。
三十六枚のシマパン力を上乗せされた斬撃は、バビ・ビロンの棍棒でのガードを切断し、無防備な右胸を切断し、心臓と背骨を両断し、左肺を綺麗に切断して左脇を抜けた。
無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロンは、知っている。
姉が二分割されて倒れるまで、自分が何も出来なかった事を。
武器として楽をしてきたツケが、回ってきた事を。
本当の意味で二対一で戦っていれば、勝てたかもしれないという事を。
誰が敗因か、無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロンは、知っている。
牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンは、知っている。
体を横一文字に切断されても、直ぐには死ねない程に頑丈な身体に設定されている事を。
脳は無事なので、妹が川底帝国に持ち帰れば、まあ、何とかなる。
あの性悪な皇帝が魔改造する可能性が大ではあるが。つうか、確実に魔改造される。魔改造以外、しない。
牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンは、知っている。
この状態から助かる可能性は、有るには在る。
原作小説では、戦艦の主砲で直撃されて戦死&爆発しても、ラストバトルでしれっと復活参戦していたし。原理は知らんが。
発表されても一年で閲覧数133のカスみたいな素人小説なので、現実世界では全く反映されないかもしれないが。
「…逃げろ…」
様々な助かる可能性を考慮し、姉は妹に撤退を勧める。
妹一人だけなら、逃げ切れる可能性はある。
牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンは、知っている。
シマパンダーに命乞いをして助かっても、ダーク・アラシかネロス・ギラを差し向けられて処分されるだけだと。
ならば、妹が一人で…
「姉さんの仇ぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃいぃい」
全身から出せる刃を全て伸長し、体内のエネルギーを全て刃に乗せ、両眼からだだ漏れの涙と激情を抑えられずに、無尽殺刃《ブレード・マンティス》ビバ・ビロンは姉の仇を取りに行く。
「…逃げろと…言ったぞ…妹よ…」
暴風が案山子を薙ぎ倒すように、シマパンダーの大太刀が、泣き叫ぶ妹に振るわれる。
「…妹だっけ…?」
道端に横たわる牛鬼女帝《ステーキ・エンプレス》バビ・ビロンの意識が途切れたのは、シマパンダーが妹の首を一撃で撥ね飛ばした直後だった。
「この強化形態を、念じただけで出力した? 小説に書いてもいない設定を??」
渋谷地下、ブルーストライプ本社、司令室。
成り行きを見守っていた岸モリー司令は、これをお膳立てした入谷朝顔へと畏怖を向けた。
それは、味方に向けて持っていい類の感情ではない。
「ええ。ただ一度、中二病プリンターを試しに触らせただけで、入谷恐子のシマパンを、無双装備に引き上げました」
秋葉原スミレ博士は、司令と同じくガクブルしながらも、本社の方針を、一応再確認する。
「『入谷朝顔の半径五百メートル以内に、中二病プリンターを持ち込ませない』を継続してよろしいですね?」
もう一つの、ベクトルを変えた解決方法を、秋葉原スミレ博士は言い出さない。
岸モリー司令も、口に出したりしない。
口にしたのは、別の話題にした。
「ビロン姉妹の遺体が、爆発せずに残っています」
岸モリー司令は、頭を切り替える。
「回収して、ここに保存。敵の奪還に備えて、警戒レベルを上げる」
「長い一日ですね。私は帰りますが」
てっきり率先して解剖を始めそうな秋葉原スミレ博士の帰宅宣言を、岸司令は留めようとして直前で吞み下す。
ホラー映画のセオリーだと、解剖前に復活したビロン姉妹に殺されるパターンだ。
秋葉原スミレ博士は帰らせて、岸司令は自分がリスクを背負う事で済ませた。
その日は、本当に、長くなった。
次回予告
とうとう味方にすらガクブルされ始めた異才眼鏡っ娘・入谷朝顔の明日はどっちだ?!
まだまだ終わらない『極秘戦隊スクリーマーズ 最後の日』
大丈夫。
平野耕太先生のドリフターズよりは先に終わる、はず。
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