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第一部 大誤解編
六話 誤認の戦士
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【109】
渋谷という言葉を聞いて真っ先に思い浮かべる程に有名なファッションビル。
若者向けのテナントを内部に数多揃え、今日もウハウハと稼いでいる。
正面玄関前『109スクエア』は広告展開にモッテコイのイベントスペースとなっており、渋谷で最もエキサイティングな場所。
六話 誤認の戦士
ブルースクリーマーとチョコーネのアホな下着争奪戦に、ホワイトスクリーマーが割って入る筋は全くない、ように見えた。
極秘戦隊スクリーマーズには、新人にというより自分に明かしていない秘密が多過ぎると、入谷恐子は気付き始めた。
「シマパンダー一号を女神にするのであれば、二号であるホワイトは、大女神として時給三〇万円で雇用するのかな? 答えて、シマパン神官」
返事の代わりに、チョコーネは両腕のチョココロネ型ドリルで攻撃をする。
旋風による攻撃ではなく、ドリルで直接破壊をする為の攻撃だ。
「人徳無いなあ」
ホワイトスクリーマーは、聖なるシマパンを握り締めた右手で手刀を作り、迎撃。
チョコーネの右ドリルを先端から鋭利に切り裂いて破壊。二撃目で左のドリルを手首の部分から切断する。
その間、シマパンは確かに輝いていた。
ブルーは、いきなり現れた追加戦士までシマパンの力とやらを使い始めたので、引いた。
「なっっ?! この力は!?!? 貴様もシマパンの力を?!」
狼狽するチョコーネに、ホワイトスクリーマーは聖なるシマパンを指先でクルクル回してみせる。
「確かに力の籠もった良いシマパンだ。色がダサいけど」
「お前のカラーリングと同じだ!」
「おおっ、ツッコミもいいな、チョココロネ」
「お前なんぞ、シマパンダー様の足元にも…」
チョコーネの視界から、ホワイトスクリーマーが消える。
チョコーネの背後から、高速移動したホワイトスクリーマーが会話を続ける。
「ホワイトのシマパン力を見ても、ブルーに拘泥るね。本命は、妹の朝顔ちゃんの方だったりして」
ギクリと、チョコーネの動きが止まる。
ブルーにも聞かせるように、ホワイトはいい発声を続ける。
「中二病プリンターの出力には、有能なノベルワナビー(小説家志望)が欠かせない。フェイズ1か2なら並の人材でも構わないけど、フェイズ3以上はプロデビューが確実なレベルのノベルワナビーが必要。フェイズ3以上でないと、戦隊に鎮圧されるだけだからねえ。それまでは大人しく人畜無害を装って潜伏するのも、分かるよ~。生活の知恵だよね」
ホワイトはチョコーネから離れ、ブルーに耳打ちする。
「朝顔ちゃんが投稿小説サイトに公開している小説。敵方の間では、高く評価されているよ」
その言葉の意味に、ブルースクリーマー・入谷恐子の心が発火する。
「つまり、朝顔ちゃんは狙われている。守ってあげなよ」
そう言って、ホワイトはブルーに聖なるシマパンを手渡す。
「妹さんを守る為なら、シマパンを使うかどうかなんて、些事だよね。シマパンダー」
ブルーは、聖なるシマパンを握ったまま、大太刀を握り直す。
何故だか、これまでよりも大太刀が手に馴染む。
「じゃあねえ。ホワイトは、本業に戻るから。勝負を中断させて、ごめんね~」
そして、ホワイトは地下街への階段へと去って行く。
ブルーは、一呼吸抜くと、暴風で余計に晴れ渡った青空を見上げる。
マスクを外すと、素顔でチョコーネを見据える。
青空を映したままの瞳で、ブルースクリーマー・入谷恐子は申し出る。
「この勝負は、無しにするであります。自分には、最優先で守る者が出来たであります。貴女の教団に関わる暇はないし、妹を狙うのが本当であるならば、斬るのみであります」
さっきまでと違う迫力に、チョコーネは戦慄する。
其処にいるのは、始めたばかりの仕事で右往左往する新人戦士ではなく、護る為ならどんな手段も厭わない武士《もののふ》。
相手が誰であろうと斬る気迫が、ブルーからチョコーネに放たれている。
(私は此の御方が開眼する為の、贄に過ぎないか)
覚悟を決めたチョコーネは右手の壊れたドリルを放棄し、左手の切断面をチョココロネで塞ぐと、頭部のチョココロネをドリル回転させて向き合う。
「勝負は続行致します。シマパンダー様を屈服させ、姉妹揃ってお迎えしたいです」
「断るであります」
チョコーネは、頭部のドリルからブルースクリーマーヘ旋風を放って再び束縛を試みる。
迎え撃つブルーは、シマパンを握ったまま、大太刀を構える。
シマパンが輝き始め、大太刀の刀身と一体化。
シマシマの大太刀へと形態を変える。
「それは全て、却下であります」
ブルースクリーマーがシマシマの大太刀を上段からV字に振るい、旋風を四散させる。その剣風は勢い余って、チョコーネの下半身を通過。
チョコーネのシマパンが、ズタズタに切り裂かれて青空に散っていく。
スクランブル交差点のど真ん中で、チョコーネはノーパンになった。
「約束通り、シマパン教団シマシマドリルは、出入り禁止であります」
チョコーネは、股間をチョココロネで隠すと、涙を流しながら決別を口にする。
「さようなら、シマパンダー様。私と一緒に、シマパン教団でウハウハ稼いで欲しかった」
ブルーの脳裏に時給三万円がズドドドドンと過ぎったが、辛うじてシリアスな注意力を切らさずに別れを告げる。
「さらばであります」
チョコーネは、マジ泣きしながらスクランブル交差点から去っていく。
トイレを済ませて地下街から戻った更紗が、下半身にチョココロネしか付けずに号泣しているチョコーネに取材対象を変更し、纏わり付く。
もちろん、全国生放送。
「…あれより酷い罰ゲームは、思いつかないであります」
さっきまでの対戦相手に同情していると、ブルーは戦闘服の通信機能で二週間ぶりにゴールドにどやされる。
『破廉恥勝負は終わったか、シマパンブルー? 手伝え。早くしろ。109横のコンビニだ』
「…あのう、自分は停職中…」
『緊急時だからいいに決まってんだろ、タコ! 十秒以内に来ないと、頭にシマパン被せてシマパン教団に売り飛ばすぞ、青シマ!』
ブルースクリーマーは、シマシマの大太刀を眺めながら、『今ならゴールドに…』と思わないでもなかったが、残り三秒でダッシュした。
指定されたコンビニには、五十体を越すサラリーマン風の戦闘員がノビていた。
ブルーを呼んだゴールドとミントは、血だらけの飛芽を介抱して、109前に避難している。
その中間、道玄坂の真下に、五人の戦隊戦士がポーズ立ちしている。
ボンバー(爆弾)をモチーフにした戦闘服に身を包む、相当に慣れている五人組だ。
「あいつらが飛芽をヤったでありますか?」
ブルーの重低音の殺気ボイスに、ミントが急いで訂正を加える。
「違う違う、戦闘員たちと相討ちよ。爆破戦隊は、事後に来たの」
勘違いを脳で理解したブルーは、飛芽の容体を見る。
全身に打撲傷と裂傷を負い、ミントの巻いた包帯には、まだ血の滲みが衰えない。
ブルーは、その血の匂いに違和感を覚えて、よく嗅いでみる。
「なんだ。トマトジュースでありますか」
からかわれたと思い、ブルーは肩を竦める。
飛芽は、息も絶え絶えながら、ブルーに説明してやる。
「我輩は…血液が…トマトジュースだから……本気で出血多量なの」
五秒後、腑に落ちたブルーは、辞世の句を聞こうとして、ミントに尺八で殴られた。
「ボケのペースが上がっていないか?」
呆れるゴールドに、ブルーは涙目で仕事を乞う。
「あのう…自分は、どうして呼ばれたでありますか?」
「爆破戦隊バクハマンが、シマパンダーと手合わせしたいそうだ」
爆破戦隊バクハマン。
その物騒な名を聞いただけで、ブルーの脳内国会議員(世襲制)は満場一致で否決に挙手した。
「別に強いて受ける必要が、全くない件でありますな。自分、強敵とやったばかりで、疲労コンバインでありますし」
「いや、断れない」
ゴールドは、爆破戦隊の後方に積まれている、飛芽が命がけで勝ち取った戦利品・五十六体のサラリーマン戦闘員を電撃鞭で差す。
「真の敵に通じる情報を持った奴らが手に入りそうなのに、爆破戦隊は此の場で爆破処理するつもりだ」
「…ココで?」
「此処で」
「109の前なのに?」
「109の前だからだろう」
「パフォーマンスの為に、大量虐殺をすると?」
「そうだよ。パフォーマンスの為に、知名度急上昇中のシマパンダーに戦いを挑み、中二病プリンターで捻り出された戦闘員を皆殺しにする」
ゴールドは、ブルーの頭にマスクを被せて、解説を締め括る。
「民間戦隊もピンキリだ。利益重視で自己顕示欲高めで、足が臭くて戦利品の横取りを恥じない戦隊もいる。構わないから、お仕置きしてあげなさい」
ブルーは、ちと疑問が湧いたので聞いてみる。
「どうしてゴールドが直接、手を出さないのか、分からないであります」
「どうせなら、停職中の奴に手を汚させようと思って。他の戦隊との戦闘行為は、警察から怒られちゃうから」
「……」
ブルースクリーマー・入谷恐子は、爆破戦隊バクハマンへの八つ当たりを心に決めた。
ブルースクリーマーがシマシマな大太刀『結城』改め『シマパンブレード』を引っ提げて前に出ると、爆破戦隊バクハマンの五人はカメラを意識したポーズをやめて、カメラを意識したファティングポーズに移行する。
センター位置の赤い戦闘服男が、口上を始める。
「来たな、シマパンダー!
危険な戦闘員を大量に私物化しようとは、怪しい奴め! これらは、我々爆破戦隊が責任を持って爆破処理(私物化)する! それに異議を唱えるのなら、我々に勝ってみせろ!」
お言葉通りに速攻で斬ろうとする直前、バクハレッドは小声でこっそりと注文をつける。
「今から主題歌を流しながら一人ずつ名乗りを上げて、最後に五人全員でチームの決めポーズしますから。戦闘開始は、それからだから。お願いね。これ、セオリーだから」
「あー、えー、あー、まー、いいでありますよ」
死ぬ前の最後の望みをチョビッとは叶えてあげるのも、情けのうちである。
ブルースクリーマーは、寛大にも待ってあげた。
「敵の体の穴という穴に爆弾を詰めて爆破! バクハレッド!」
「地球に飛来したUFOを爆破するのが大好き! バクハブラック!」
「魚雷が好きぎょ。ブルーにされたけど本当はレッドになりたいぎょ。隙を見て爆破したいぎょ。バクハブルー!」
「自家製栽培の爆薬で、地球環境に優しい爆弾を作っています。他人はみんな、僕の肥料にしてやるぞ。バクハイエロー!」
「んだ、こら?! 何見てんだ、こら?!
中身がアフロで髭面の中年で悪いか、ごら?!
トイレで踏ん張っている最中に爆破したろか?!
バクハピンク!」
♪ バクバクバク バクハマン
バクバクバク 何でも爆破 バババ
♪ 被害者が叫んだ もう諦めた
五人の爆弾魔 バクハマン
♪ 今日の爆破を 明日の爆破を
僕らに教える その為に
「科学戦隊ダイナマンの歌詞を汚すなでありますーーーーーー!!!!!」
悪質な替え歌に我慢できず、ブルースクリーマーはシマパンブレードで五人の戦闘服を斬り剥いだ。
「ほう…」
一瞬で戦隊五人を無力化した手際に、ゴールドスクリーマーが感心する。
「もう秘密を明かしてもいいという、ホワイトの見積もりは正しかったな」
そこへ、チョコーネへの取材を終えて次の獲物を探していたマウンテンテレビの十三夜更紗が、真っ裸になって転がる爆破戦隊バクハマンに接近。
日本で最も目立つ場所で、全国生放送で、編集さんに超高速でモザイク処理させながら、更紗は爆破戦隊バクハマンを餌食にした。
彼らは願い通り大いに目立ったが、スポンサーが一斉に撤退した影響で、一月後に会社が倒産。解散した。
その間、ミントは飛芽を会社専用の救急車両に乗せ、ゴールドは戦闘員を拘束してトラックに詰め込む。
それを手伝いながら、ブルーはマスク内の通信でゴールドに確認する。
「朝顔が狙われている事を、極秘戦隊はいつから知っていたのでありますか?」
ゴールドは手を一切止めずに、極秘戦隊の極秘を一部、明かす。
「極秘戦隊スクリーマーズは、君の妹を守って、もう五年目だ」
次回予告
ずっとグダグダしていたかったのに、ついに始まる核心部へのシリアス展開?!
安心しろ、作者のシリアスは、三分しか持続しない。
次回『誰がために』を、みんなで観よう!
渋谷という言葉を聞いて真っ先に思い浮かべる程に有名なファッションビル。
若者向けのテナントを内部に数多揃え、今日もウハウハと稼いでいる。
正面玄関前『109スクエア』は広告展開にモッテコイのイベントスペースとなっており、渋谷で最もエキサイティングな場所。
六話 誤認の戦士
ブルースクリーマーとチョコーネのアホな下着争奪戦に、ホワイトスクリーマーが割って入る筋は全くない、ように見えた。
極秘戦隊スクリーマーズには、新人にというより自分に明かしていない秘密が多過ぎると、入谷恐子は気付き始めた。
「シマパンダー一号を女神にするのであれば、二号であるホワイトは、大女神として時給三〇万円で雇用するのかな? 答えて、シマパン神官」
返事の代わりに、チョコーネは両腕のチョココロネ型ドリルで攻撃をする。
旋風による攻撃ではなく、ドリルで直接破壊をする為の攻撃だ。
「人徳無いなあ」
ホワイトスクリーマーは、聖なるシマパンを握り締めた右手で手刀を作り、迎撃。
チョコーネの右ドリルを先端から鋭利に切り裂いて破壊。二撃目で左のドリルを手首の部分から切断する。
その間、シマパンは確かに輝いていた。
ブルーは、いきなり現れた追加戦士までシマパンの力とやらを使い始めたので、引いた。
「なっっ?! この力は!?!? 貴様もシマパンの力を?!」
狼狽するチョコーネに、ホワイトスクリーマーは聖なるシマパンを指先でクルクル回してみせる。
「確かに力の籠もった良いシマパンだ。色がダサいけど」
「お前のカラーリングと同じだ!」
「おおっ、ツッコミもいいな、チョココロネ」
「お前なんぞ、シマパンダー様の足元にも…」
チョコーネの視界から、ホワイトスクリーマーが消える。
チョコーネの背後から、高速移動したホワイトスクリーマーが会話を続ける。
「ホワイトのシマパン力を見ても、ブルーに拘泥るね。本命は、妹の朝顔ちゃんの方だったりして」
ギクリと、チョコーネの動きが止まる。
ブルーにも聞かせるように、ホワイトはいい発声を続ける。
「中二病プリンターの出力には、有能なノベルワナビー(小説家志望)が欠かせない。フェイズ1か2なら並の人材でも構わないけど、フェイズ3以上はプロデビューが確実なレベルのノベルワナビーが必要。フェイズ3以上でないと、戦隊に鎮圧されるだけだからねえ。それまでは大人しく人畜無害を装って潜伏するのも、分かるよ~。生活の知恵だよね」
ホワイトはチョコーネから離れ、ブルーに耳打ちする。
「朝顔ちゃんが投稿小説サイトに公開している小説。敵方の間では、高く評価されているよ」
その言葉の意味に、ブルースクリーマー・入谷恐子の心が発火する。
「つまり、朝顔ちゃんは狙われている。守ってあげなよ」
そう言って、ホワイトはブルーに聖なるシマパンを手渡す。
「妹さんを守る為なら、シマパンを使うかどうかなんて、些事だよね。シマパンダー」
ブルーは、聖なるシマパンを握ったまま、大太刀を握り直す。
何故だか、これまでよりも大太刀が手に馴染む。
「じゃあねえ。ホワイトは、本業に戻るから。勝負を中断させて、ごめんね~」
そして、ホワイトは地下街への階段へと去って行く。
ブルーは、一呼吸抜くと、暴風で余計に晴れ渡った青空を見上げる。
マスクを外すと、素顔でチョコーネを見据える。
青空を映したままの瞳で、ブルースクリーマー・入谷恐子は申し出る。
「この勝負は、無しにするであります。自分には、最優先で守る者が出来たであります。貴女の教団に関わる暇はないし、妹を狙うのが本当であるならば、斬るのみであります」
さっきまでと違う迫力に、チョコーネは戦慄する。
其処にいるのは、始めたばかりの仕事で右往左往する新人戦士ではなく、護る為ならどんな手段も厭わない武士《もののふ》。
相手が誰であろうと斬る気迫が、ブルーからチョコーネに放たれている。
(私は此の御方が開眼する為の、贄に過ぎないか)
覚悟を決めたチョコーネは右手の壊れたドリルを放棄し、左手の切断面をチョココロネで塞ぐと、頭部のチョココロネをドリル回転させて向き合う。
「勝負は続行致します。シマパンダー様を屈服させ、姉妹揃ってお迎えしたいです」
「断るであります」
チョコーネは、頭部のドリルからブルースクリーマーヘ旋風を放って再び束縛を試みる。
迎え撃つブルーは、シマパンを握ったまま、大太刀を構える。
シマパンが輝き始め、大太刀の刀身と一体化。
シマシマの大太刀へと形態を変える。
「それは全て、却下であります」
ブルースクリーマーがシマシマの大太刀を上段からV字に振るい、旋風を四散させる。その剣風は勢い余って、チョコーネの下半身を通過。
チョコーネのシマパンが、ズタズタに切り裂かれて青空に散っていく。
スクランブル交差点のど真ん中で、チョコーネはノーパンになった。
「約束通り、シマパン教団シマシマドリルは、出入り禁止であります」
チョコーネは、股間をチョココロネで隠すと、涙を流しながら決別を口にする。
「さようなら、シマパンダー様。私と一緒に、シマパン教団でウハウハ稼いで欲しかった」
ブルーの脳裏に時給三万円がズドドドドンと過ぎったが、辛うじてシリアスな注意力を切らさずに別れを告げる。
「さらばであります」
チョコーネは、マジ泣きしながらスクランブル交差点から去っていく。
トイレを済ませて地下街から戻った更紗が、下半身にチョココロネしか付けずに号泣しているチョコーネに取材対象を変更し、纏わり付く。
もちろん、全国生放送。
「…あれより酷い罰ゲームは、思いつかないであります」
さっきまでの対戦相手に同情していると、ブルーは戦闘服の通信機能で二週間ぶりにゴールドにどやされる。
『破廉恥勝負は終わったか、シマパンブルー? 手伝え。早くしろ。109横のコンビニだ』
「…あのう、自分は停職中…」
『緊急時だからいいに決まってんだろ、タコ! 十秒以内に来ないと、頭にシマパン被せてシマパン教団に売り飛ばすぞ、青シマ!』
ブルースクリーマーは、シマシマの大太刀を眺めながら、『今ならゴールドに…』と思わないでもなかったが、残り三秒でダッシュした。
指定されたコンビニには、五十体を越すサラリーマン風の戦闘員がノビていた。
ブルーを呼んだゴールドとミントは、血だらけの飛芽を介抱して、109前に避難している。
その中間、道玄坂の真下に、五人の戦隊戦士がポーズ立ちしている。
ボンバー(爆弾)をモチーフにした戦闘服に身を包む、相当に慣れている五人組だ。
「あいつらが飛芽をヤったでありますか?」
ブルーの重低音の殺気ボイスに、ミントが急いで訂正を加える。
「違う違う、戦闘員たちと相討ちよ。爆破戦隊は、事後に来たの」
勘違いを脳で理解したブルーは、飛芽の容体を見る。
全身に打撲傷と裂傷を負い、ミントの巻いた包帯には、まだ血の滲みが衰えない。
ブルーは、その血の匂いに違和感を覚えて、よく嗅いでみる。
「なんだ。トマトジュースでありますか」
からかわれたと思い、ブルーは肩を竦める。
飛芽は、息も絶え絶えながら、ブルーに説明してやる。
「我輩は…血液が…トマトジュースだから……本気で出血多量なの」
五秒後、腑に落ちたブルーは、辞世の句を聞こうとして、ミントに尺八で殴られた。
「ボケのペースが上がっていないか?」
呆れるゴールドに、ブルーは涙目で仕事を乞う。
「あのう…自分は、どうして呼ばれたでありますか?」
「爆破戦隊バクハマンが、シマパンダーと手合わせしたいそうだ」
爆破戦隊バクハマン。
その物騒な名を聞いただけで、ブルーの脳内国会議員(世襲制)は満場一致で否決に挙手した。
「別に強いて受ける必要が、全くない件でありますな。自分、強敵とやったばかりで、疲労コンバインでありますし」
「いや、断れない」
ゴールドは、爆破戦隊の後方に積まれている、飛芽が命がけで勝ち取った戦利品・五十六体のサラリーマン戦闘員を電撃鞭で差す。
「真の敵に通じる情報を持った奴らが手に入りそうなのに、爆破戦隊は此の場で爆破処理するつもりだ」
「…ココで?」
「此処で」
「109の前なのに?」
「109の前だからだろう」
「パフォーマンスの為に、大量虐殺をすると?」
「そうだよ。パフォーマンスの為に、知名度急上昇中のシマパンダーに戦いを挑み、中二病プリンターで捻り出された戦闘員を皆殺しにする」
ゴールドは、ブルーの頭にマスクを被せて、解説を締め括る。
「民間戦隊もピンキリだ。利益重視で自己顕示欲高めで、足が臭くて戦利品の横取りを恥じない戦隊もいる。構わないから、お仕置きしてあげなさい」
ブルーは、ちと疑問が湧いたので聞いてみる。
「どうしてゴールドが直接、手を出さないのか、分からないであります」
「どうせなら、停職中の奴に手を汚させようと思って。他の戦隊との戦闘行為は、警察から怒られちゃうから」
「……」
ブルースクリーマー・入谷恐子は、爆破戦隊バクハマンへの八つ当たりを心に決めた。
ブルースクリーマーがシマシマな大太刀『結城』改め『シマパンブレード』を引っ提げて前に出ると、爆破戦隊バクハマンの五人はカメラを意識したポーズをやめて、カメラを意識したファティングポーズに移行する。
センター位置の赤い戦闘服男が、口上を始める。
「来たな、シマパンダー!
危険な戦闘員を大量に私物化しようとは、怪しい奴め! これらは、我々爆破戦隊が責任を持って爆破処理(私物化)する! それに異議を唱えるのなら、我々に勝ってみせろ!」
お言葉通りに速攻で斬ろうとする直前、バクハレッドは小声でこっそりと注文をつける。
「今から主題歌を流しながら一人ずつ名乗りを上げて、最後に五人全員でチームの決めポーズしますから。戦闘開始は、それからだから。お願いね。これ、セオリーだから」
「あー、えー、あー、まー、いいでありますよ」
死ぬ前の最後の望みをチョビッとは叶えてあげるのも、情けのうちである。
ブルースクリーマーは、寛大にも待ってあげた。
「敵の体の穴という穴に爆弾を詰めて爆破! バクハレッド!」
「地球に飛来したUFOを爆破するのが大好き! バクハブラック!」
「魚雷が好きぎょ。ブルーにされたけど本当はレッドになりたいぎょ。隙を見て爆破したいぎょ。バクハブルー!」
「自家製栽培の爆薬で、地球環境に優しい爆弾を作っています。他人はみんな、僕の肥料にしてやるぞ。バクハイエロー!」
「んだ、こら?! 何見てんだ、こら?!
中身がアフロで髭面の中年で悪いか、ごら?!
トイレで踏ん張っている最中に爆破したろか?!
バクハピンク!」
♪ バクバクバク バクハマン
バクバクバク 何でも爆破 バババ
♪ 被害者が叫んだ もう諦めた
五人の爆弾魔 バクハマン
♪ 今日の爆破を 明日の爆破を
僕らに教える その為に
「科学戦隊ダイナマンの歌詞を汚すなでありますーーーーーー!!!!!」
悪質な替え歌に我慢できず、ブルースクリーマーはシマパンブレードで五人の戦闘服を斬り剥いだ。
「ほう…」
一瞬で戦隊五人を無力化した手際に、ゴールドスクリーマーが感心する。
「もう秘密を明かしてもいいという、ホワイトの見積もりは正しかったな」
そこへ、チョコーネへの取材を終えて次の獲物を探していたマウンテンテレビの十三夜更紗が、真っ裸になって転がる爆破戦隊バクハマンに接近。
日本で最も目立つ場所で、全国生放送で、編集さんに超高速でモザイク処理させながら、更紗は爆破戦隊バクハマンを餌食にした。
彼らは願い通り大いに目立ったが、スポンサーが一斉に撤退した影響で、一月後に会社が倒産。解散した。
その間、ミントは飛芽を会社専用の救急車両に乗せ、ゴールドは戦闘員を拘束してトラックに詰め込む。
それを手伝いながら、ブルーはマスク内の通信でゴールドに確認する。
「朝顔が狙われている事を、極秘戦隊はいつから知っていたのでありますか?」
ゴールドは手を一切止めずに、極秘戦隊の極秘を一部、明かす。
「極秘戦隊スクリーマーズは、君の妹を守って、もう五年目だ」
次回予告
ずっとグダグダしていたかったのに、ついに始まる核心部へのシリアス展開?!
安心しろ、作者のシリアスは、三分しか持続しない。
次回『誰がために』を、みんなで観よう!
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むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
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