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四章 決戦の朝に
十四話 戦いはいつも、自分の為(3)
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罠の設置も終わり、休憩も全員が取り終え、昼飯時に至ろうとしている。
ひと寝した金森可近(通称・五郎八)は、有海村と設楽原方面の様子を確かめてから、昼飯の握り飯を平らげる。
いつ敗走する武田が引き返して来るのか、金森は昼過ぎという見立てを周囲に口にしたので、そろそろ緊迫感が増している。
(まだやな)
そう、金森可近は思い直す。
(背後が塞がれた以上、殿を討ち取る博打に賭けた方が、マシやと考えたら…更に被害は増えるやろうけど、半数まで減ったら流石に諦めるやろ。
で、そのまた半数が、大将を逃すために残るから、ここを通ろうとする兵数は、三千か)
進行方向で待ち構え、四千で三千を食い止める。
そこまで考えて、金森可近は自軍に都合の良過ぎる現状を、俯瞰で見ようとする。
(こんなん、今頃は武田の方でも、読んでおるやろ)
本番が近付くにつれて、不安が募る。
(なんか、穴がありそうな、なさそうな)
一人で考えると穴が埋まらなそうなので、他の指揮官級と話しておく。
「んー、懸念は分かるけどさあ。ここいら一帯にいた軍勢そのものが備えで、それを駆逐した訳だから、問題は解決していないか?」
長篠城(ほぼ廃城状態)の陣営で炊事に専念して息子の軍勢を休ませていた奥平定能が、楽観で済ませようとする。
済ませようとはしたが、不安が伝染する。
「でも、ここを攻略されたのは、朝イチで知られているだろうから、昼過ぎまでには、打開策を一つや二つ、講じているよなあ」
追加のおにぎりを握りつつ、喰らいつつ、武田の視線から現状を見る。
「よし、逃げておこう」
「奥平はーん?」
「ほら、長篠城の奥平衆は、疲労困憊だし~。長時間労働は切り上げて、織田と武田がすり潰し合うのを、寝て待つね」
横で食後の昼寝をしていた奥平定昌が、父親の面子を潰すように、後頭部を蹴り倒す。
「奥平衆の士気は、まだ高いままです。
父以外は。
鳥居強右衛門の弔い合戦を済ませておりませんので、今日一日は、働けます。
今晩以降は、一か月の有給休暇を貰いますけど。
父以外は」
金森は、更に深く考え込む。
あまりに深く考え込むので、周囲が固唾を飲んでしまう。
金森可近が、一同の目に、初めて年相応の老人に見える。
それも、亀姫が握り飯を三つ平らげる間だけだった。
「有海村や」
考えがまとまり、金森可近が口を開く。
「有海村で、鳥居強右衛門は捕まった。土地勘があるのに。山道を通って長篠城に戻るはずなのに」
「それは、帰りの方が、警戒が強…」
奥平定昌は、金森可近の懸念に気付く。
鳶ヶ巣山砦の仮本陣に注目はしても、有海村は軍勢の滞陣場所としか認識していなかった。
武田の大軍勢が、長篠城周辺にだけ固まっているというのは、考えれば不自然なのだ。
「行きは土地勘があるから、鳥居強右衛門が無事に辿り着けたのか? 武田が不在の場所だと思わせたいから、敢えて見逃しただけでは?」
「そうや。ここやない。武田の退き口は、有海村やない。いないと思わせていた所や」
金森可近は部下に探索を命令する間際に、この部隊の総指揮官は酒井忠次だと思い直す。
「ちょいと酒井はんに、話を通してきますわ」
「あ、それ、不要かもよ」
奥平定能が、しれっと白状する。
「金森さんの部隊と分離した後、酒井の旦那が、兵五百と鉄砲五十丁を持たせた部隊を、別口に行かせたから」
「どちらへ?」
金森可近は、目を盗んで無断で行われた戦術変更に、目だけ笑っていない笑顔で定能に問う。
答えないと笑顔で殴られそうなので、定能は何も隠さない。
「川沿いの南、樋田。武田の残存兵が本隊へ逃げるなら、そのルートも塞げば完璧だろうって、酒井の旦那が別動態を派遣した」
「一言の相談もなく?」
「徹夜って、弊害が出るよな、どうしても」
「そこまでして、手柄を徳川のものにしたかったとは、恐れ入りますな~」
「仕方ないじゃんか、全部織田の手柄になりそうな成り行きだったし~」
「そういう事をさせない為に、わてがここにおるんやでえええ?!」
と言いつつも、空いてはいけない穴が塞げそうなので、金森は血色を取り戻す。
「まあ、ええですわ。で、その別働隊の指揮官は?」
「設楽神三郎貞通」
これ以上に相応しい配役は、滅多にいない。
名の示す通り、設楽原を根城にしている武家出身の武将である。
今日、武田の命脈を断てるポジションに配置する武将として、最高に地の利を理解している人材だ。
「・・・昨晩、出発する前に、もうこうするって決めとったやろ?」
「俺に言わないで。酒井に直接言って。指揮官様に、言上して」
「織田と徳川が、長年の宿敵を倒そうという一大決戦の最中に、どこまで先を読んでかましてくれよんねん」
「だから俺じゃなくて、本人を直接、褒めろって」
「おう、褒め称えたるわ」
金森は、自分よりも遥かに広く深く先を読む酒井忠次に対し、褒め称える以外の反応を出来そうになかった。
(わてだけは、褒めたろ)
素直に褒め称えるのは、同僚や戦友だけだ。
信長や家康が、酒井忠次の才覚に対して、何を覚えるのか?
想像するだけで寒気がするので、金森はその件で考えるのを中止する。
目前の戦いの準備に、専念する。
「ほな、わては有海村ルートに専念しますわ。他のルートは、酒井はんに任せます」
と、持ち場に戻ろうとしたら、馬に乗った酒井忠次が、血相を変えて接近してくる。
(ひょっとして、もう武田が来た?)
肝が冷える金森に、というかその場にいる全員を見回し、縋るように問い質す。
「誰か、朝比奈泰勝を見ておらぬか?」
「朝比奈泰朝!!??」
奥平定能が、思わず名前を間違えて驚愕する。
東海道最強を誇り、掛川城では徳川の軍勢を五ヶ月も釘付けにして休戦に持ち込んだ勇将である。
桶狭間の戦いで今川義元の首級を挙げた織田信長が、朝比奈泰朝の追撃から逃れる為に、首級を諦めた逸話も有名だ。
「泰勝。従兄弟の方じゃ。連れて来たはずだが…連れて来るのを忘れたような気も…」
「どっちだよ」
奥平定能は記憶を辿るが、そんなビッグネーム、の従兄弟は心当たりがない。
「見ていないな。少なくとも昨晩から今まで、朝比奈家の『左三つ巴』は見ていない」
「武田の総大将の首級を上げさせる鉄砲玉として、投入したかったというのに」
「そんな役目を背負わされそうやから、逃げたとちゃいますか?」
誰でも逃げそうな、死亡率激高の仕事である。
金森の呆れ顔に、酒井忠次は真顔で確約する。
「いや、本人は、本気で引き受けた。わしも、その気だ」
金森可近は、面白そうに酒井忠次を冷やかす。
「その手が当たったら、酒井はんの大嫌いな今川が、大名に復帰してしまうで?」
「ふうむ。織田の殿が、どんな顔をするかのう」
金森可近は、爆笑してしまった。
酒井忠次が「今川よりも織田が嫌い」と言っているのも同然だが、笑ってしまった。
「武田が滅びるのに、差し引きゼロやんか」
笑いながら金森可近は、置き去りにされた気の毒な朝比奈泰勝に、気を回す。
彼が恥をかかないように、ではなく、それだけの戦闘力を持つ鉄砲玉を使ってみたい我欲である。
「服部半蔵はんの連絡網、使えまへんか? わて、酒井はんとこに寄騎するまで、やりたかった一手がありますねん。これをやっておけば、勝頼が甲斐に逃げても、武田は再起不能ですねん」
「是非、お聞きしたい」
酒井忠次は、首を垂れて、その策を請うた。
ひと寝した金森可近(通称・五郎八)は、有海村と設楽原方面の様子を確かめてから、昼飯の握り飯を平らげる。
いつ敗走する武田が引き返して来るのか、金森は昼過ぎという見立てを周囲に口にしたので、そろそろ緊迫感が増している。
(まだやな)
そう、金森可近は思い直す。
(背後が塞がれた以上、殿を討ち取る博打に賭けた方が、マシやと考えたら…更に被害は増えるやろうけど、半数まで減ったら流石に諦めるやろ。
で、そのまた半数が、大将を逃すために残るから、ここを通ろうとする兵数は、三千か)
進行方向で待ち構え、四千で三千を食い止める。
そこまで考えて、金森可近は自軍に都合の良過ぎる現状を、俯瞰で見ようとする。
(こんなん、今頃は武田の方でも、読んでおるやろ)
本番が近付くにつれて、不安が募る。
(なんか、穴がありそうな、なさそうな)
一人で考えると穴が埋まらなそうなので、他の指揮官級と話しておく。
「んー、懸念は分かるけどさあ。ここいら一帯にいた軍勢そのものが備えで、それを駆逐した訳だから、問題は解決していないか?」
長篠城(ほぼ廃城状態)の陣営で炊事に専念して息子の軍勢を休ませていた奥平定能が、楽観で済ませようとする。
済ませようとはしたが、不安が伝染する。
「でも、ここを攻略されたのは、朝イチで知られているだろうから、昼過ぎまでには、打開策を一つや二つ、講じているよなあ」
追加のおにぎりを握りつつ、喰らいつつ、武田の視線から現状を見る。
「よし、逃げておこう」
「奥平はーん?」
「ほら、長篠城の奥平衆は、疲労困憊だし~。長時間労働は切り上げて、織田と武田がすり潰し合うのを、寝て待つね」
横で食後の昼寝をしていた奥平定昌が、父親の面子を潰すように、後頭部を蹴り倒す。
「奥平衆の士気は、まだ高いままです。
父以外は。
鳥居強右衛門の弔い合戦を済ませておりませんので、今日一日は、働けます。
今晩以降は、一か月の有給休暇を貰いますけど。
父以外は」
金森は、更に深く考え込む。
あまりに深く考え込むので、周囲が固唾を飲んでしまう。
金森可近が、一同の目に、初めて年相応の老人に見える。
それも、亀姫が握り飯を三つ平らげる間だけだった。
「有海村や」
考えがまとまり、金森可近が口を開く。
「有海村で、鳥居強右衛門は捕まった。土地勘があるのに。山道を通って長篠城に戻るはずなのに」
「それは、帰りの方が、警戒が強…」
奥平定昌は、金森可近の懸念に気付く。
鳶ヶ巣山砦の仮本陣に注目はしても、有海村は軍勢の滞陣場所としか認識していなかった。
武田の大軍勢が、長篠城周辺にだけ固まっているというのは、考えれば不自然なのだ。
「行きは土地勘があるから、鳥居強右衛門が無事に辿り着けたのか? 武田が不在の場所だと思わせたいから、敢えて見逃しただけでは?」
「そうや。ここやない。武田の退き口は、有海村やない。いないと思わせていた所や」
金森可近は部下に探索を命令する間際に、この部隊の総指揮官は酒井忠次だと思い直す。
「ちょいと酒井はんに、話を通してきますわ」
「あ、それ、不要かもよ」
奥平定能が、しれっと白状する。
「金森さんの部隊と分離した後、酒井の旦那が、兵五百と鉄砲五十丁を持たせた部隊を、別口に行かせたから」
「どちらへ?」
金森可近は、目を盗んで無断で行われた戦術変更に、目だけ笑っていない笑顔で定能に問う。
答えないと笑顔で殴られそうなので、定能は何も隠さない。
「川沿いの南、樋田。武田の残存兵が本隊へ逃げるなら、そのルートも塞げば完璧だろうって、酒井の旦那が別動態を派遣した」
「一言の相談もなく?」
「徹夜って、弊害が出るよな、どうしても」
「そこまでして、手柄を徳川のものにしたかったとは、恐れ入りますな~」
「仕方ないじゃんか、全部織田の手柄になりそうな成り行きだったし~」
「そういう事をさせない為に、わてがここにおるんやでえええ?!」
と言いつつも、空いてはいけない穴が塞げそうなので、金森は血色を取り戻す。
「まあ、ええですわ。で、その別働隊の指揮官は?」
「設楽神三郎貞通」
これ以上に相応しい配役は、滅多にいない。
名の示す通り、設楽原を根城にしている武家出身の武将である。
今日、武田の命脈を断てるポジションに配置する武将として、最高に地の利を理解している人材だ。
「・・・昨晩、出発する前に、もうこうするって決めとったやろ?」
「俺に言わないで。酒井に直接言って。指揮官様に、言上して」
「織田と徳川が、長年の宿敵を倒そうという一大決戦の最中に、どこまで先を読んでかましてくれよんねん」
「だから俺じゃなくて、本人を直接、褒めろって」
「おう、褒め称えたるわ」
金森は、自分よりも遥かに広く深く先を読む酒井忠次に対し、褒め称える以外の反応を出来そうになかった。
(わてだけは、褒めたろ)
素直に褒め称えるのは、同僚や戦友だけだ。
信長や家康が、酒井忠次の才覚に対して、何を覚えるのか?
想像するだけで寒気がするので、金森はその件で考えるのを中止する。
目前の戦いの準備に、専念する。
「ほな、わては有海村ルートに専念しますわ。他のルートは、酒井はんに任せます」
と、持ち場に戻ろうとしたら、馬に乗った酒井忠次が、血相を変えて接近してくる。
(ひょっとして、もう武田が来た?)
肝が冷える金森に、というかその場にいる全員を見回し、縋るように問い質す。
「誰か、朝比奈泰勝を見ておらぬか?」
「朝比奈泰朝!!??」
奥平定能が、思わず名前を間違えて驚愕する。
東海道最強を誇り、掛川城では徳川の軍勢を五ヶ月も釘付けにして休戦に持ち込んだ勇将である。
桶狭間の戦いで今川義元の首級を挙げた織田信長が、朝比奈泰朝の追撃から逃れる為に、首級を諦めた逸話も有名だ。
「泰勝。従兄弟の方じゃ。連れて来たはずだが…連れて来るのを忘れたような気も…」
「どっちだよ」
奥平定能は記憶を辿るが、そんなビッグネーム、の従兄弟は心当たりがない。
「見ていないな。少なくとも昨晩から今まで、朝比奈家の『左三つ巴』は見ていない」
「武田の総大将の首級を上げさせる鉄砲玉として、投入したかったというのに」
「そんな役目を背負わされそうやから、逃げたとちゃいますか?」
誰でも逃げそうな、死亡率激高の仕事である。
金森の呆れ顔に、酒井忠次は真顔で確約する。
「いや、本人は、本気で引き受けた。わしも、その気だ」
金森可近は、面白そうに酒井忠次を冷やかす。
「その手が当たったら、酒井はんの大嫌いな今川が、大名に復帰してしまうで?」
「ふうむ。織田の殿が、どんな顔をするかのう」
金森可近は、爆笑してしまった。
酒井忠次が「今川よりも織田が嫌い」と言っているのも同然だが、笑ってしまった。
「武田が滅びるのに、差し引きゼロやんか」
笑いながら金森可近は、置き去りにされた気の毒な朝比奈泰勝に、気を回す。
彼が恥をかかないように、ではなく、それだけの戦闘力を持つ鉄砲玉を使ってみたい我欲である。
「服部半蔵はんの連絡網、使えまへんか? わて、酒井はんとこに寄騎するまで、やりたかった一手がありますねん。これをやっておけば、勝頼が甲斐に逃げても、武田は再起不能ですねん」
「是非、お聞きしたい」
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時は経ち――。
兄・柔太郎は学問を終えて帰郷し、藩校で教鞭を執るようになった。
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----------
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そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
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