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遠江国掛川城死闘篇
オープン・ザ・ゲート(1)
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1569年(永禄十二年)二月十六日、昼前。
遠江で未だにどの陣営に付くかどうか不明な国人領主は存在せず、掛川城だけが今川家の城であるとハッキリした頃。
徳川家康は、二回目の掛川城攻略戦を始めた。
掛川城を囲む形で七カ所に砦を築き、今度は決着するまで続ける戦略を見せ付ける。
前回と違い、一度や二度押し返されても、毎日攻められる。
将棋で言えば、詰んでいる盤面である。
「この段階で、降伏してくれないかなあ」
米津常春は、野外で服部隊の面々に愚痴をこぼす。
忍者部隊の仮指揮官として最新の情報を仕入れているので、武田の別働隊が近所まで接近している事も掴んでいる。
その情報を受けた本陣の判断は、「米津に足止めさせている間に、最寄りの陣営から迎撃部隊を差し向ける」だった。
下手に兵数を割いたら、そこから朝比奈泰朝が攻め込んで暴れる可能性が高い。
戦線崩壊リスクを最低限に抑える為に、米津常春に泣いてもらう作戦である。
米津と服部の部隊を合わせて、五百。
五百で武田の猛将率いる三千の部隊を足止め。
誰が任されても、涙目で愚痴が出る戦況である。
相手の位置情報を掴んで先手を打てる事以外に、米津常春に有利な条件は無い。
二ヶ月前と違い、今度の部隊は徳川との同盟を破棄する為に寄越される。
先月のように「早よ、掛川城を落とさんかい、若造」という催促目的でもない。
米津常春が顔を見せた途端に、矢を放って突撃して来る。敵将がグレートソードをぶん回し、兵の首をスッパスッパ斬り飛ばしながら、乗っているマンモスで踏み潰しに来る。いやマンモスはないが。
「あと二日以内に掛川城が降伏してくれれば、俺たちだけで武田の別働隊と戦わずに済むのに」
敵の進行ルート先を丹念に調べ、地形を使った迎撃案を次々と編みながら、米津常春は呻く。
「うううん。足止めだけでも、二割以上は死ぬなあ。んんんんん」
戦闘経験の有り余っているベテラン武将は、戦後処理まで思考して呻く。
来たる現実を少しでも改良しようと、タイムリミットまで常春は「可能な限り苦労しないで済む戦術」を試行錯誤する。
「偉いなあ、常春は。ちゃんと知恵を絞るものな」
焚き火で焼き芋を焼きながら、更紗が一応は褒める。
「その言葉の裏は、いい策が出ていないって事だな」
「更紗も良い策が出なくてな。子種を搾り取りたい相手に限って、及び腰で」
「そっちか」
「やる時は『抜かずの三発』してくれた半蔵様は、やはり誠意があった。当たらなかったけど」
「この会話、要るの?」
「常春に、責任を、取ってもらおうかなあああああ、と」
更紗が無表情ながらも、やや顔を赤らめながら、常春の腰を手刀で突く。
常春の脳内作業振り分けが、「戦80%、雑談10%、今晩のオカズ10%」から「戦10%、猥談60%、今晩の発射態勢30%」に変化する。
「ちょっと待て。責任を取らされる意味が分からない」
「常春の部隊を値踏みしたのに、使い物にならぬ役立たずばかり。指揮官が責任を取るのは、常識」
更紗は無表情ながらも人並み以上の美人ではあるし、エロい事に解放的なのも申し分ない。
だがしかし、服部半蔵と穴兄弟になるという圧倒的現実の前に、米津隊の武士達は突撃出来ないのよ、かわい子ちゃ~ん。
「あのねえ。君は一応、鬼の半蔵の奥さんの端くれなんだから。目の前でエロ可愛い美人が臀部をオープン・ザ・ゲートしても、戦えないから。察してあげようよ、男の助平心を上回る、圧倒的な遠慮感を」
「もう愛人関係は解消したぞ。比較評論しないから、無心に子作りに励もうとする勇者はいないものか?」
破廉恥女忍者のハニートラップに乗るかどうかで脳細胞が性欲ホルモンとマッスルファイト(六〇分三本勝負)する最中。
夏美が長身を屈めて、申し訳なさそうに米津常春に緊急の話を持って来る。
「米津様。掛川城で、城主の朝比奈が、会いたいと」
常春は、エロエロに傾いていた脳を、戦に戻す。
「更紗。東海道最強を腹上死させる根性は、有るか?」
「話し合いを申し出た孤城の城主を殺そうとか、引くわ、忍者でも引くわ」
「紛らわしい言い方でごめんね。子種を朝比奈から貰えば、更紗の問題は解決じゃないか?」
更紗は完全に無表情になると、袴を脱いで下半身をシマシマ褌一丁にする。
くしゃみを盛大に一発放ってから、更紗は褌に目を奪われた常春の顔面に、真空飛び膝蹴りを決めて昏倒させる。
「この下柘植更紗を見境なしのサゲマン扱いした報いは、全身全霊で贖ってもらおうか」
くしゃみを連発しながら袴を履き直し、更紗は倒れた常春の両手両足を縛る。
「夏美。このバカを掛川城に売るから、仲介して」
「そこまでツンデレ反応しなくても…」
「いや、この方が、掛川城に入れ易いし。狙い通り」
更紗は、突発的なブチ切れを、隠蔽する方向で誤魔化す。
米津隊の面々は、「あれは米津の旦那が悪い」と見送った。
遠江で未だにどの陣営に付くかどうか不明な国人領主は存在せず、掛川城だけが今川家の城であるとハッキリした頃。
徳川家康は、二回目の掛川城攻略戦を始めた。
掛川城を囲む形で七カ所に砦を築き、今度は決着するまで続ける戦略を見せ付ける。
前回と違い、一度や二度押し返されても、毎日攻められる。
将棋で言えば、詰んでいる盤面である。
「この段階で、降伏してくれないかなあ」
米津常春は、野外で服部隊の面々に愚痴をこぼす。
忍者部隊の仮指揮官として最新の情報を仕入れているので、武田の別働隊が近所まで接近している事も掴んでいる。
その情報を受けた本陣の判断は、「米津に足止めさせている間に、最寄りの陣営から迎撃部隊を差し向ける」だった。
下手に兵数を割いたら、そこから朝比奈泰朝が攻め込んで暴れる可能性が高い。
戦線崩壊リスクを最低限に抑える為に、米津常春に泣いてもらう作戦である。
米津と服部の部隊を合わせて、五百。
五百で武田の猛将率いる三千の部隊を足止め。
誰が任されても、涙目で愚痴が出る戦況である。
相手の位置情報を掴んで先手を打てる事以外に、米津常春に有利な条件は無い。
二ヶ月前と違い、今度の部隊は徳川との同盟を破棄する為に寄越される。
先月のように「早よ、掛川城を落とさんかい、若造」という催促目的でもない。
米津常春が顔を見せた途端に、矢を放って突撃して来る。敵将がグレートソードをぶん回し、兵の首をスッパスッパ斬り飛ばしながら、乗っているマンモスで踏み潰しに来る。いやマンモスはないが。
「あと二日以内に掛川城が降伏してくれれば、俺たちだけで武田の別働隊と戦わずに済むのに」
敵の進行ルート先を丹念に調べ、地形を使った迎撃案を次々と編みながら、米津常春は呻く。
「うううん。足止めだけでも、二割以上は死ぬなあ。んんんんん」
戦闘経験の有り余っているベテラン武将は、戦後処理まで思考して呻く。
来たる現実を少しでも改良しようと、タイムリミットまで常春は「可能な限り苦労しないで済む戦術」を試行錯誤する。
「偉いなあ、常春は。ちゃんと知恵を絞るものな」
焚き火で焼き芋を焼きながら、更紗が一応は褒める。
「その言葉の裏は、いい策が出ていないって事だな」
「更紗も良い策が出なくてな。子種を搾り取りたい相手に限って、及び腰で」
「そっちか」
「やる時は『抜かずの三発』してくれた半蔵様は、やはり誠意があった。当たらなかったけど」
「この会話、要るの?」
「常春に、責任を、取ってもらおうかなあああああ、と」
更紗が無表情ながらも、やや顔を赤らめながら、常春の腰を手刀で突く。
常春の脳内作業振り分けが、「戦80%、雑談10%、今晩のオカズ10%」から「戦10%、猥談60%、今晩の発射態勢30%」に変化する。
「ちょっと待て。責任を取らされる意味が分からない」
「常春の部隊を値踏みしたのに、使い物にならぬ役立たずばかり。指揮官が責任を取るのは、常識」
更紗は無表情ながらも人並み以上の美人ではあるし、エロい事に解放的なのも申し分ない。
だがしかし、服部半蔵と穴兄弟になるという圧倒的現実の前に、米津隊の武士達は突撃出来ないのよ、かわい子ちゃ~ん。
「あのねえ。君は一応、鬼の半蔵の奥さんの端くれなんだから。目の前でエロ可愛い美人が臀部をオープン・ザ・ゲートしても、戦えないから。察してあげようよ、男の助平心を上回る、圧倒的な遠慮感を」
「もう愛人関係は解消したぞ。比較評論しないから、無心に子作りに励もうとする勇者はいないものか?」
破廉恥女忍者のハニートラップに乗るかどうかで脳細胞が性欲ホルモンとマッスルファイト(六〇分三本勝負)する最中。
夏美が長身を屈めて、申し訳なさそうに米津常春に緊急の話を持って来る。
「米津様。掛川城で、城主の朝比奈が、会いたいと」
常春は、エロエロに傾いていた脳を、戦に戻す。
「更紗。東海道最強を腹上死させる根性は、有るか?」
「話し合いを申し出た孤城の城主を殺そうとか、引くわ、忍者でも引くわ」
「紛らわしい言い方でごめんね。子種を朝比奈から貰えば、更紗の問題は解決じゃないか?」
更紗は完全に無表情になると、袴を脱いで下半身をシマシマ褌一丁にする。
くしゃみを盛大に一発放ってから、更紗は褌に目を奪われた常春の顔面に、真空飛び膝蹴りを決めて昏倒させる。
「この下柘植更紗を見境なしのサゲマン扱いした報いは、全身全霊で贖ってもらおうか」
くしゃみを連発しながら袴を履き直し、更紗は倒れた常春の両手両足を縛る。
「夏美。このバカを掛川城に売るから、仲介して」
「そこまでツンデレ反応しなくても…」
「いや、この方が、掛川城に入れ易いし。狙い通り」
更紗は、突発的なブチ切れを、隠蔽する方向で誤魔化す。
米津隊の面々は、「あれは米津の旦那が悪い」と見送った。
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