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遠江国掛川城死闘篇
掛川城、不完全燃焼なんだろ?(後編)
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1568年(永禄十一年)十二月二十七日。
掛川城攻略戦初日は、佳境に入る。
ノリに乗って来た日根野弘就のテンションに水をかけるように、その音は掛川城全域に響き渡る。
徳川の本陣から、退却を告げる法螺貝の旋律が鳴り響く。
「ぐははははは、今から退かせても、結果は変わらないぞ、三河守。もうこれからジャンジャンバリバリと死屍累々…」
鏖殺の引き金を引こうとした兄の手を、日根野盛就は急いで止める。
「待て、兄上。徳川は全軍に退却を命じている」
「・・・・・・は??」
日根野弘就は、長年副将として重宝して来た弟の言う事が、理解出来なかった。
「向こうは、全面撤退だ。事実上の矢止めだ」
「全部? 東西南北、全部?!」
日根野弘就の見積もりでは、この罠で何人の徳川勢を血祭りに上げても、戦局には全然影響がない。日根野の武名が上がるだけである。
徳川勢にとっては痛手だが、他の三つの攻め口を力押しで攻めれば、今日にでも掛川城は落ちる。日根野軍団は、とっとと勝ち逃げするが。
ここで千名以上の戦死者が出るからといって、徳川が戦を全て中止する意味が分からない。
「本気か?! 本気で?! 鉄砲五十丁を回収する為じゃなく??」
「いつでも掛川城を落とせると考えているなら、無理に攻めないのも納得は出来る」
「そこまで甘いオチは着けさせねえ」」
日根野弘就は弟の制止を払って、銃眼から五十匁筒の照準を大久保忠世に合わせる。
すると、こちらに弓矢の照準を合わせて見上げる内藤正成と目が合う。
しばしの睨み合いの後、日根野弘就は五十匁筒を銃眼から引っ込めて、笑顔で徳川の軍勢に発声する。
「今日は終わりだ、馬鹿野郎! 次は正月明けに来い! 良いお年を!!」
良いお年を~、と返しかけて、大久保忠世は倍以上の大声で返す。
「さっき攫った女忍者を、返せ! 返さんと、ここでクソを垂れてから去るぞ!」
日根野弘就は、この脳にクソの詰まった馬鹿野郎のケツ穴に銃弾を打ち込みたい衝動に身を任せたくなったが、何とか抑えた。
「ちょっとクソを待て。攫った本人に断りを入れるから」
「返しませんよ」
日根野弘就の背後三〇センチの位置に、超長身忍者・風魔小太郎は仁王立ちする。
身の丈七尺二寸、筋骨が山脈の如く溢れ、大きく彫りの深い目鼻立ちは、日本人離れしていると云う伝聞しか残っていない程に、欧米系。しかも乱杭の犬歯が唇の外に四本もハミ出ているので、服部半蔵よりも鬼面である。
これに近寄られたら、日根野弘就でも怖い。
「近い」
「あんなに大きくて形の優良な乳と尻を持った女忍者を生け捕りに出来たのに、何もしないで釈放とか、ありえないでしょ?」
自由で正直な超大型忍者だった。
仕えていている北条家が滅びた後は、戦国時代が終わる空気に逆らい、盗賊働きに邁進した程に、欲望に正直だった。
「なお近い」
「勘違いしないで下さい。これはお仕事の一環ですから。性技で快楽堕ちさせて、寝返らせる。お仕事ですから」
「言い訳しないでいいから。返却してくれないかな?」
「四半刻くれ。一発分の時間でいいから…」
「そんなにクソを待ってくれるとは思えないけど」
下の階から、怒った貴婦人が階段を昇る足音が響く。
激怒した顔の春名様が視界に入った段階で、風魔小太郎は超長身を折り曲げて土下座し、日根野軍団は他人のフリをした。
「小太郎ぉーっ!」
「すみません!」
元北条の姫様に、風魔小太郎は無条件で土下座謝罪する。
自由闊達な割に、北条家にだけは頭が上がらない。
伊賀や甲賀のような全国規模で広く浅く仕事をする忍者団体と違い、箱根に根差す彼らの主従関係は、独特だ。
「半殺しにした女人を、全裸にして縛り上げて吊るしておくなど、外道が過ぎるわ! こちらで勝手に解放する」
「いえ、忍者は隠し武器も多いので、衣服を剥ぎ取って穴を全て調べませぬと」
反論に顔を上げようとした小太郎の後頭部を、春名様は両足で踏む。
「うむ。踏み心地は、幼い頃と変わっておらぬな」
「ありがとーございまーす」
日根野軍団は、笑わないように腹に力を込める。
「あの女忍者・夏美は、駿河炎上の際、妾と美朝姫を助けてくれた者じゃ。主筋の恩人であれば、風魔が助けても問題あるまい?」
「・・・」
問題は、ある。
たくさん。
服部半蔵の妻の一人で、主戦場で度々活躍している。今日の戦でも、風魔が潰さなければ掛川城周辺の侍屋敷は焼失していた。
何より、現在の掛川城内を見てしまっている。
「恐れながら、春名様。あの者は、城内を見てしまいました。戦が終わるまでは…」
「矢止めしたばかりではないか。徳川と城明け渡しの仔細を話し合うたら、妾と氏真様は北条に亡命致すぞ。掛川城の仕掛けなぞ、もう知られても構わぬ」
風魔小太郎は、春名様に踏まれながら、抗命する。
「申し訳ありません、春名様。この掛川城には、最後の限界まで戦っていただきます」
春名様は、背筋に寒気を背負いながら、小太郎の背中を見詰める。
「そうか。父上と兄上の命か」
春名様は小太郎の後頭部から降りると、小太郎の鬼面を上げさせる。
「小太郎。夏美には、妾と徳川の繋ぎ役となってもらう。手出しは今後も無用ぞ」
拘束を解いた夏美を手当し、服を着せてから、美朝姫は二の丸の方へ夏美を誘う。
小太郎に運ばせようとしたが、夏美の方が唾を吐いて断り、自力で歩く。
打撲傷だらけで遅い歩みになったので、美朝姫が肩を貸して歩行を補助する。
「姫様。こういう仕事は、侍女にお任せ下さい」
「侍女の手が足りぬのじゃ。何せ、落ち目の家の落城しそうな仕事場じゃからのう。美朝は今や、家事・看護・戦の補助を体得した。僅か半月で、いつでも武家の嫁に行ける技能を持つに至ったのじゃ。褒めよ」
「褒めるに言葉が足りぬ程、見事な研鑽にございます」
「ぬははははははは」
本丸から出てすぐ二の丸なので、会話はそれで終わってしまう。
二の丸の上では、大久保忠世が汚い尻を本丸に向けて、いつでもクソを出せる態勢で踏ん張っていた。
「日根野ぉぉ――!! 仕事をせえーー!!」
美朝姫が本丸に絶叫する。
「あの下郎、美朝に尻の穴を向けて踏ん張りおった! 生かして帰すな!」
「喜んで!」
気色満面で銃撃体制に入ろうとする日根野(兄)を、日根野(弟)が羽交い締めにして止める。
失態に気付いた大久保忠世は、二の丸の上から転がり下りて美朝姫に土下座して詫びを入れ始める。
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません、決して姫様に向けた訳ではありません! ご勘弁を!」
「よっしゃ、腹を切れ。美朝は、介錯のやり方も習得しておる。おぬしが第一号じゃ。光栄に思え、クソ放り侍」
「放ってません! 未遂です! 堪忍して下さい」
「未遂でも死罪確定であるな。が、美朝は慈悲深い。切腹だけで許そう。遺体は家族の元に塩漬けで返してやる」
「わあ、優しい」
この件が徳川本陣に知られて爆笑される前に死のうと、大久保忠世は腹を決める。
脇差を、腹部装甲の隙間に押し当てる。
頭上の内藤正成に、後を任せる。
「内藤。ここで腹を切るから、殿には宜しく」
「分かった」
五秒後。
「止めなかったな、内藤。このやろー、本当に切るからな」
「分かった」
三秒後。
「あ、辞世の句。詠まなきゃ」
「それは適当に作っておいてやる。季語は、クソでいいな?」
「わあ、優しい」
美朝姫が抜刀し、大久保忠世の左脇に立って、刀をフルスイングする構えで待機する。
「ねえねえ、クソ放り未遂侍。首をすっぱり斬り落とすより、脳髄を輪切りにした方が絶命し易いと思うのだ。試していいか?」
「作法通りに、お願いします」
「我儘だな、貴様」
「作法通りに、お願いします」
「二度も言うな、見苦しい」
グダグダになりそうな場に、城主の朝比奈泰朝が駆け付けて、捕虜返却を穏便且つ迅速に引き継ぐ。
「大久保殿。美朝姫と遊んでいないで、早くお帰りください」
「武士が覚悟した上での、切腹だ。邪魔をするな」
「帰れ」
「帰さないで! ここで死なせて!」
「やかましい」
朝比奈泰朝は大久保忠世から武器を取り上げて羽交い締めにすると、二の丸の虎口から城外へ放り出す。その間、大久保忠世の抵抗は、一切通じなかった。
主君の姪御に当たる姫様の前で見せた醜態の記憶が焼き払われる程に、大久保忠世は東海道最強の実力に戦慄する。
(無理だ。服部半蔵でも渡辺守綱でも、一人では無理だ)
掛川城から矢が届かない場所まで引き返すと、姿を消していた服部隊の生き残りが夏美を出迎えた。
音羽陽花は、血塗れの包帯を巻いた右手(人指し指と中指を欠損)を挙げて、夏美の軽傷を羨む。
「巨乳は得だよね。で、犯られずに済んだ?」
「…他は?」
「七人死んで、五人再起不能。十名逃亡。この攻め口では、完敗だよ。しばらく服部隊は活動縮小」
「相手は、何人だ?」
尋常でない負けっぷりに、横で聞いていた大久保忠世は会話に入る。
北条の援軍が掛川城に入っているならば、指揮官の端くれとして数を把握しなければならない。
陽花は、無事な左手の人差し指だけを立てて見せる。
「一人です。風魔小太郎一人です」
大久保忠世は、どうして家康が攻城を断念したのか、理解した。
掛川城攻略戦初日は、佳境に入る。
ノリに乗って来た日根野弘就のテンションに水をかけるように、その音は掛川城全域に響き渡る。
徳川の本陣から、退却を告げる法螺貝の旋律が鳴り響く。
「ぐははははは、今から退かせても、結果は変わらないぞ、三河守。もうこれからジャンジャンバリバリと死屍累々…」
鏖殺の引き金を引こうとした兄の手を、日根野盛就は急いで止める。
「待て、兄上。徳川は全軍に退却を命じている」
「・・・・・・は??」
日根野弘就は、長年副将として重宝して来た弟の言う事が、理解出来なかった。
「向こうは、全面撤退だ。事実上の矢止めだ」
「全部? 東西南北、全部?!」
日根野弘就の見積もりでは、この罠で何人の徳川勢を血祭りに上げても、戦局には全然影響がない。日根野の武名が上がるだけである。
徳川勢にとっては痛手だが、他の三つの攻め口を力押しで攻めれば、今日にでも掛川城は落ちる。日根野軍団は、とっとと勝ち逃げするが。
ここで千名以上の戦死者が出るからといって、徳川が戦を全て中止する意味が分からない。
「本気か?! 本気で?! 鉄砲五十丁を回収する為じゃなく??」
「いつでも掛川城を落とせると考えているなら、無理に攻めないのも納得は出来る」
「そこまで甘いオチは着けさせねえ」」
日根野弘就は弟の制止を払って、銃眼から五十匁筒の照準を大久保忠世に合わせる。
すると、こちらに弓矢の照準を合わせて見上げる内藤正成と目が合う。
しばしの睨み合いの後、日根野弘就は五十匁筒を銃眼から引っ込めて、笑顔で徳川の軍勢に発声する。
「今日は終わりだ、馬鹿野郎! 次は正月明けに来い! 良いお年を!!」
良いお年を~、と返しかけて、大久保忠世は倍以上の大声で返す。
「さっき攫った女忍者を、返せ! 返さんと、ここでクソを垂れてから去るぞ!」
日根野弘就は、この脳にクソの詰まった馬鹿野郎のケツ穴に銃弾を打ち込みたい衝動に身を任せたくなったが、何とか抑えた。
「ちょっとクソを待て。攫った本人に断りを入れるから」
「返しませんよ」
日根野弘就の背後三〇センチの位置に、超長身忍者・風魔小太郎は仁王立ちする。
身の丈七尺二寸、筋骨が山脈の如く溢れ、大きく彫りの深い目鼻立ちは、日本人離れしていると云う伝聞しか残っていない程に、欧米系。しかも乱杭の犬歯が唇の外に四本もハミ出ているので、服部半蔵よりも鬼面である。
これに近寄られたら、日根野弘就でも怖い。
「近い」
「あんなに大きくて形の優良な乳と尻を持った女忍者を生け捕りに出来たのに、何もしないで釈放とか、ありえないでしょ?」
自由で正直な超大型忍者だった。
仕えていている北条家が滅びた後は、戦国時代が終わる空気に逆らい、盗賊働きに邁進した程に、欲望に正直だった。
「なお近い」
「勘違いしないで下さい。これはお仕事の一環ですから。性技で快楽堕ちさせて、寝返らせる。お仕事ですから」
「言い訳しないでいいから。返却してくれないかな?」
「四半刻くれ。一発分の時間でいいから…」
「そんなにクソを待ってくれるとは思えないけど」
下の階から、怒った貴婦人が階段を昇る足音が響く。
激怒した顔の春名様が視界に入った段階で、風魔小太郎は超長身を折り曲げて土下座し、日根野軍団は他人のフリをした。
「小太郎ぉーっ!」
「すみません!」
元北条の姫様に、風魔小太郎は無条件で土下座謝罪する。
自由闊達な割に、北条家にだけは頭が上がらない。
伊賀や甲賀のような全国規模で広く浅く仕事をする忍者団体と違い、箱根に根差す彼らの主従関係は、独特だ。
「半殺しにした女人を、全裸にして縛り上げて吊るしておくなど、外道が過ぎるわ! こちらで勝手に解放する」
「いえ、忍者は隠し武器も多いので、衣服を剥ぎ取って穴を全て調べませぬと」
反論に顔を上げようとした小太郎の後頭部を、春名様は両足で踏む。
「うむ。踏み心地は、幼い頃と変わっておらぬな」
「ありがとーございまーす」
日根野軍団は、笑わないように腹に力を込める。
「あの女忍者・夏美は、駿河炎上の際、妾と美朝姫を助けてくれた者じゃ。主筋の恩人であれば、風魔が助けても問題あるまい?」
「・・・」
問題は、ある。
たくさん。
服部半蔵の妻の一人で、主戦場で度々活躍している。今日の戦でも、風魔が潰さなければ掛川城周辺の侍屋敷は焼失していた。
何より、現在の掛川城内を見てしまっている。
「恐れながら、春名様。あの者は、城内を見てしまいました。戦が終わるまでは…」
「矢止めしたばかりではないか。徳川と城明け渡しの仔細を話し合うたら、妾と氏真様は北条に亡命致すぞ。掛川城の仕掛けなぞ、もう知られても構わぬ」
風魔小太郎は、春名様に踏まれながら、抗命する。
「申し訳ありません、春名様。この掛川城には、最後の限界まで戦っていただきます」
春名様は、背筋に寒気を背負いながら、小太郎の背中を見詰める。
「そうか。父上と兄上の命か」
春名様は小太郎の後頭部から降りると、小太郎の鬼面を上げさせる。
「小太郎。夏美には、妾と徳川の繋ぎ役となってもらう。手出しは今後も無用ぞ」
拘束を解いた夏美を手当し、服を着せてから、美朝姫は二の丸の方へ夏美を誘う。
小太郎に運ばせようとしたが、夏美の方が唾を吐いて断り、自力で歩く。
打撲傷だらけで遅い歩みになったので、美朝姫が肩を貸して歩行を補助する。
「姫様。こういう仕事は、侍女にお任せ下さい」
「侍女の手が足りぬのじゃ。何せ、落ち目の家の落城しそうな仕事場じゃからのう。美朝は今や、家事・看護・戦の補助を体得した。僅か半月で、いつでも武家の嫁に行ける技能を持つに至ったのじゃ。褒めよ」
「褒めるに言葉が足りぬ程、見事な研鑽にございます」
「ぬははははははは」
本丸から出てすぐ二の丸なので、会話はそれで終わってしまう。
二の丸の上では、大久保忠世が汚い尻を本丸に向けて、いつでもクソを出せる態勢で踏ん張っていた。
「日根野ぉぉ――!! 仕事をせえーー!!」
美朝姫が本丸に絶叫する。
「あの下郎、美朝に尻の穴を向けて踏ん張りおった! 生かして帰すな!」
「喜んで!」
気色満面で銃撃体制に入ろうとする日根野(兄)を、日根野(弟)が羽交い締めにして止める。
失態に気付いた大久保忠世は、二の丸の上から転がり下りて美朝姫に土下座して詫びを入れ始める。
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません、決して姫様に向けた訳ではありません! ご勘弁を!」
「よっしゃ、腹を切れ。美朝は、介錯のやり方も習得しておる。おぬしが第一号じゃ。光栄に思え、クソ放り侍」
「放ってません! 未遂です! 堪忍して下さい」
「未遂でも死罪確定であるな。が、美朝は慈悲深い。切腹だけで許そう。遺体は家族の元に塩漬けで返してやる」
「わあ、優しい」
この件が徳川本陣に知られて爆笑される前に死のうと、大久保忠世は腹を決める。
脇差を、腹部装甲の隙間に押し当てる。
頭上の内藤正成に、後を任せる。
「内藤。ここで腹を切るから、殿には宜しく」
「分かった」
五秒後。
「止めなかったな、内藤。このやろー、本当に切るからな」
「分かった」
三秒後。
「あ、辞世の句。詠まなきゃ」
「それは適当に作っておいてやる。季語は、クソでいいな?」
「わあ、優しい」
美朝姫が抜刀し、大久保忠世の左脇に立って、刀をフルスイングする構えで待機する。
「ねえねえ、クソ放り未遂侍。首をすっぱり斬り落とすより、脳髄を輪切りにした方が絶命し易いと思うのだ。試していいか?」
「作法通りに、お願いします」
「我儘だな、貴様」
「作法通りに、お願いします」
「二度も言うな、見苦しい」
グダグダになりそうな場に、城主の朝比奈泰朝が駆け付けて、捕虜返却を穏便且つ迅速に引き継ぐ。
「大久保殿。美朝姫と遊んでいないで、早くお帰りください」
「武士が覚悟した上での、切腹だ。邪魔をするな」
「帰れ」
「帰さないで! ここで死なせて!」
「やかましい」
朝比奈泰朝は大久保忠世から武器を取り上げて羽交い締めにすると、二の丸の虎口から城外へ放り出す。その間、大久保忠世の抵抗は、一切通じなかった。
主君の姪御に当たる姫様の前で見せた醜態の記憶が焼き払われる程に、大久保忠世は東海道最強の実力に戦慄する。
(無理だ。服部半蔵でも渡辺守綱でも、一人では無理だ)
掛川城から矢が届かない場所まで引き返すと、姿を消していた服部隊の生き残りが夏美を出迎えた。
音羽陽花は、血塗れの包帯を巻いた右手(人指し指と中指を欠損)を挙げて、夏美の軽傷を羨む。
「巨乳は得だよね。で、犯られずに済んだ?」
「…他は?」
「七人死んで、五人再起不能。十名逃亡。この攻め口では、完敗だよ。しばらく服部隊は活動縮小」
「相手は、何人だ?」
尋常でない負けっぷりに、横で聞いていた大久保忠世は会話に入る。
北条の援軍が掛川城に入っているならば、指揮官の端くれとして数を把握しなければならない。
陽花は、無事な左手の人差し指だけを立てて見せる。
「一人です。風魔小太郎一人です」
大久保忠世は、どうして家康が攻城を断念したのか、理解した。
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