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4章 コンカフェに 雨が滴る 歌の市
五十五話 季節限定アンサー(2)
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【バッファリービル八階 護衛詰所】
昼飯に持たされた三段弁当を、護衛詰所で展開して同僚達に奢りながら、ユーシアは最近の悩みを打ち明ける。
「ユリアナ様の護衛として貰っている給料は、俺一人が食べていけるだけの額だと悟った。副業を開始したい」
三段弁当からキュウリのピクルスを摘みながら、ギレアンヌ・アッシマー(十四歳、黄土色のクールアシメ&黄金の瞳、土建系魔法使い)が哄笑する。
「ようやく気付いたか。というか、殆どの連中は、ここでの仕事が副業だよ」
ギレアンヌは梅雨入り前でも脱がない濃紺のロングコートの懐から、私物の携帯端末を見せる。
そこには、株取引の資産総額が表示されている。
「始めて半年で、配当金三万円、売却差額で二十一万円儲けた。この調子でペースを上げて、貯蓄をどんどん加速させる」
「デイトレーダーは職業じゃねえよ」
三段弁当からバジル・ソーセージとだし巻き玉子と昆布巻きを強奪しながら、レリー・ランドル(外見上十六歳、温水色のポニテ&パッチリした菫色の瞳、外傷専門治癒能力者)はツッコミを入れる。
「逃亡犯は、株を買おうとしても断られるからな。かわいそうに~」
ギレアンヌの煽りに、レリーは上腕二頭筋をバキバキ鳴らして、一撃必殺の拳を顎にお見舞いしようとして、ユーシアに廊下に摘み出される。
「ユーシア、騙されないで。株取引をする奴に、良い人はいないのよ!」
「今の俺は、良い人には、用がないから」
ユーシアは自分の為に取っておいたデザートの二段クリームプリンを授業料に差し出すと、ギレアンヌから買って損がない高配当株を教えて貰う。
その賄賂シーンを、レリーは陰から撮影して、このニュースを各方面にメールで垂れ込んでから逃げた。
続いて食後に、エリアス・アークに株取引が出来るアプリを端末にインストールさせる。
「手数料が最も安い証券会社のアプリです」
「そんなに違うの?」
「買う時は手数料無料。売る時は数%手数料を取ります」
「で、安くないと、どうなるの?」
「いちいち最低数千円取られますので、初心者には不向きです」
「怖いのう、怖いのう」
ビビりつつ震えつつ、アプリで株購入の準備を始める。
「まずは身分確認です。国籍、職業、家族構成、年齢、職業、年収、借金の有無、犯罪歴を正直に記入してください。問題がなければ、一週間ほどで取引開始の通知が来ます」
「結構、慎重だね」
「多少なりとも、会社の経営に関わる取引ですので。小遣い稼ぎならともかく、買収や株価操作、大株主として発言権を増す場合など、諸々の心配事に備えています」
「何だか、責任感を試されているような」
審査が済むまで一週間と言われて気抜けしていいのか悩む間も無く、黒龍軍師ドマから呼び出しメールが届く。
「黒龍軍師からメールです。『五階に来い』との事です」
「この件で?」
「他に何か…やりました?」
「他には…うん、たぶん、これだけ」
「ええ、そう…ですね」
最近は色々な事に関わり過ぎて、心当たりにやや自信がないユーシアと秘書だった。
【バッファロービル五階 ユリアナ・オルクベキ所蔵宝物庫】
七つのベッド型封印用ゲージの横、新生児用のベッドの中で、タウがオムツを換えてもらっている最中だった。
「おう、失礼するよ」
『見るんじゃえええええええ!!!! 殺すぞてめええええ!!!!』
頭にテレパシーで怒鳴りつけられても、ユーシアは用件を優先させる。
「こら、暴れるな」
母であるサリナ・ザイゼンは手早くオムツを替えると、タウ(生後一ヶ月、早熟な赤ん坊、魔力豊富)がユーシアに投射しようとした光輪を指で揉み消す。
「我々はお情けで置いてもらっている、居候だ。攻撃魔法は、禁止」
『しかしながら、彼奴はタウが大きく股を広げ、ふきふきされているノーパン姿を見た不届者。滅すべし』
「うるせえ、赤ん坊をしていろ」
サリナ軍曹は、母親業を小休止すると、ジンジャーエールを飲みながら、月刊『無責任艦長タイラー』を読み始める。
「ばあぶう」
タウは抵抗を辞めて、赤ん坊らしく惰眠を選ぶ。
と見せかけて、ユーシアの会話に聞き耳を立てた。
ユーシアは、室内のパソコンの前に着席すると、このパソコンを通して宝物庫の連中と遊んでいる元上司のお説教に応じる。
「ユーシア・アイオライト、参上しました」
「株を買わなくても、不自由はしないと思うがな。リップ姫のヒモになるという、輝かしい未来を歩んでいるではないか」
「俺がヒモに甘んじるような人間に、見えますか?」
黒龍ドマの、カメラには収まりきらない巨きな眼が、ユーシアを睥睨する。
「休職中とはいえ、お主は国家公認忍者だ。その身で持ち株を有利に伸ばす為に力を振るわば、私欲の為に力を濫用する者として、処分の対象になる」
「…じゃあ、今後一切、国家公認忍者には、関わらないという事で?」
「あまり甘えるなよ、エロガキ。わしには、抜け忍を寛大に処する才能がない」
「では、株を売買は、全て報告します。問題が生じるようでしたら、売り払って関与しないという方向で」
「よし。遅延は許さぬから、そのつもりで」
通信が切れると、通話の窓が再開しないのを三秒待ってから、ユーシアは退室しようとする。
「ユーシア」
サリナ軍曹が、元乳母として一言。
「一番の投資先は、いつだって自分自身だ。それを忘れるなよ」
「そう?」
「意外と自己評価が低いな」
「う~ん」
ちょいと考え続けながら、ユーシアはエレベーターに消えようとする。
「エイリンは修行に行ったぞ。自分自身の株価を上げに」
「ふうん」
ユーシアがエイリンに興味なさげなので、サリナ軍曹はちょいと癇に障った。
昼飯に持たされた三段弁当を、護衛詰所で展開して同僚達に奢りながら、ユーシアは最近の悩みを打ち明ける。
「ユリアナ様の護衛として貰っている給料は、俺一人が食べていけるだけの額だと悟った。副業を開始したい」
三段弁当からキュウリのピクルスを摘みながら、ギレアンヌ・アッシマー(十四歳、黄土色のクールアシメ&黄金の瞳、土建系魔法使い)が哄笑する。
「ようやく気付いたか。というか、殆どの連中は、ここでの仕事が副業だよ」
ギレアンヌは梅雨入り前でも脱がない濃紺のロングコートの懐から、私物の携帯端末を見せる。
そこには、株取引の資産総額が表示されている。
「始めて半年で、配当金三万円、売却差額で二十一万円儲けた。この調子でペースを上げて、貯蓄をどんどん加速させる」
「デイトレーダーは職業じゃねえよ」
三段弁当からバジル・ソーセージとだし巻き玉子と昆布巻きを強奪しながら、レリー・ランドル(外見上十六歳、温水色のポニテ&パッチリした菫色の瞳、外傷専門治癒能力者)はツッコミを入れる。
「逃亡犯は、株を買おうとしても断られるからな。かわいそうに~」
ギレアンヌの煽りに、レリーは上腕二頭筋をバキバキ鳴らして、一撃必殺の拳を顎にお見舞いしようとして、ユーシアに廊下に摘み出される。
「ユーシア、騙されないで。株取引をする奴に、良い人はいないのよ!」
「今の俺は、良い人には、用がないから」
ユーシアは自分の為に取っておいたデザートの二段クリームプリンを授業料に差し出すと、ギレアンヌから買って損がない高配当株を教えて貰う。
その賄賂シーンを、レリーは陰から撮影して、このニュースを各方面にメールで垂れ込んでから逃げた。
続いて食後に、エリアス・アークに株取引が出来るアプリを端末にインストールさせる。
「手数料が最も安い証券会社のアプリです」
「そんなに違うの?」
「買う時は手数料無料。売る時は数%手数料を取ります」
「で、安くないと、どうなるの?」
「いちいち最低数千円取られますので、初心者には不向きです」
「怖いのう、怖いのう」
ビビりつつ震えつつ、アプリで株購入の準備を始める。
「まずは身分確認です。国籍、職業、家族構成、年齢、職業、年収、借金の有無、犯罪歴を正直に記入してください。問題がなければ、一週間ほどで取引開始の通知が来ます」
「結構、慎重だね」
「多少なりとも、会社の経営に関わる取引ですので。小遣い稼ぎならともかく、買収や株価操作、大株主として発言権を増す場合など、諸々の心配事に備えています」
「何だか、責任感を試されているような」
審査が済むまで一週間と言われて気抜けしていいのか悩む間も無く、黒龍軍師ドマから呼び出しメールが届く。
「黒龍軍師からメールです。『五階に来い』との事です」
「この件で?」
「他に何か…やりました?」
「他には…うん、たぶん、これだけ」
「ええ、そう…ですね」
最近は色々な事に関わり過ぎて、心当たりにやや自信がないユーシアと秘書だった。
【バッファロービル五階 ユリアナ・オルクベキ所蔵宝物庫】
七つのベッド型封印用ゲージの横、新生児用のベッドの中で、タウがオムツを換えてもらっている最中だった。
「おう、失礼するよ」
『見るんじゃえええええええ!!!! 殺すぞてめええええ!!!!』
頭にテレパシーで怒鳴りつけられても、ユーシアは用件を優先させる。
「こら、暴れるな」
母であるサリナ・ザイゼンは手早くオムツを替えると、タウ(生後一ヶ月、早熟な赤ん坊、魔力豊富)がユーシアに投射しようとした光輪を指で揉み消す。
「我々はお情けで置いてもらっている、居候だ。攻撃魔法は、禁止」
『しかしながら、彼奴はタウが大きく股を広げ、ふきふきされているノーパン姿を見た不届者。滅すべし』
「うるせえ、赤ん坊をしていろ」
サリナ軍曹は、母親業を小休止すると、ジンジャーエールを飲みながら、月刊『無責任艦長タイラー』を読み始める。
「ばあぶう」
タウは抵抗を辞めて、赤ん坊らしく惰眠を選ぶ。
と見せかけて、ユーシアの会話に聞き耳を立てた。
ユーシアは、室内のパソコンの前に着席すると、このパソコンを通して宝物庫の連中と遊んでいる元上司のお説教に応じる。
「ユーシア・アイオライト、参上しました」
「株を買わなくても、不自由はしないと思うがな。リップ姫のヒモになるという、輝かしい未来を歩んでいるではないか」
「俺がヒモに甘んじるような人間に、見えますか?」
黒龍ドマの、カメラには収まりきらない巨きな眼が、ユーシアを睥睨する。
「休職中とはいえ、お主は国家公認忍者だ。その身で持ち株を有利に伸ばす為に力を振るわば、私欲の為に力を濫用する者として、処分の対象になる」
「…じゃあ、今後一切、国家公認忍者には、関わらないという事で?」
「あまり甘えるなよ、エロガキ。わしには、抜け忍を寛大に処する才能がない」
「では、株を売買は、全て報告します。問題が生じるようでしたら、売り払って関与しないという方向で」
「よし。遅延は許さぬから、そのつもりで」
通信が切れると、通話の窓が再開しないのを三秒待ってから、ユーシアは退室しようとする。
「ユーシア」
サリナ軍曹が、元乳母として一言。
「一番の投資先は、いつだって自分自身だ。それを忘れるなよ」
「そう?」
「意外と自己評価が低いな」
「う~ん」
ちょいと考え続けながら、ユーシアはエレベーターに消えようとする。
「エイリンは修行に行ったぞ。自分自身の株価を上げに」
「ふうん」
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