スガヲノ忍者 リチタマ騒動記2

九情承太郎

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4章 コンカフェに 雨が滴る 歌の市

五十四話 季節限定アンサー(1)

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 スガヲノ忍者 リチタマ騒動記2

 前振り(前作のラスト直後。本編より十五年後)

 リップ(注意・十五年後)が動画配信を終えて寝室に入ると、夫のユーシア(注意・十五年後)が腰から全身を抱き寄せながら、ダブルベッドに押し倒して微妙な顔で問いを発する。
「次回予告で十五年前の新人声優ユニットの騒動を話すって言ったけど、あれってあの三人が話さないでくれって封印していた話のはずでは?」
 リップは夫の顎を肘打ちで破壊する行動を眠いからキャンセルし、問題はない事を説明してあげる。
「お金と時間が、全てを解決したわ。というか、売れなかった芸能人ユニットのプライドなんて、長持ちしないの」
「? サンダーサボテンズって、知名度は有るよ?」
「新人声優ユニットとしてではなく、売れずに終わった失敗企画として有名になった知名度。三人の中でも、もう堆肥になって別の寄生生物が育つ頃合いよ」
 リップは枕を「NO」にすると、今夜は睡眠を優先させる事を明確にする。
 ユーシアは大人しくリップの首筋にキスしながら、睡眠を取る体勢に入る。
 寝ようとしながら、あの三人が十五年前に「泣きながら」「頼みながら」「キレながら」美少年忍者ユーシアに「口外されたら生きていけません」「言わないで生きていけないから」「言わずに死にやがれ」と取り囲んで約束させた過去を思い出そうとする。
 当時ユーシアがした約束を、リップも知ってはいる。
 女性関係では、リップに対して秘密を持つ事は不可能である。
 十五年前は、リップも話の封印に同意していた。
(という事は、リップは十五年前から封印を解くつもりだったのか?)
 妻の、面白そうな話のネタに関する執念深さに呆れていると、ユーシアの懸念を察したリップが身を寄せてくる。
 枕を「イエス」にした訳ではない。
「まだ、話してない事でも、思い出した?」
 身体で夫からネタを掘り下げる気でいる。
「う~~~~~~~ん」
 ユーシアは、寝てしまう道を選ぶ。
「お休み、リップ」
「お休み、ユーシア。明日は一日中、尋問ね」
 妻が諦めてくれないので、ユーシアは目の前の快眠だけに没頭を決めた。


 
 次の章から15年前の本編に戻るので、チャンネルはそのまんま。



4章 コンカフェに 雨が滴る 歌の市
五十四話 季節限定アンサー(1)

【スリーポイント銀行 アキュハヴァーラ支店横 喫茶店『バンバラバンバンバン』中央客席】


「人間は、神と悪魔の違いが分かる動物ですか?」
 金髪ツインテール美少女メイドからの問いかけに、ユリアナ・オルクベキ(二十五歳、輝きまくる金髪ロング&碧眼、野良政治家)は必要以上に応える。
「分かる訳ないだろ、舐めるなよ、この種族を。基本スペックがポンコツなのだよ、人間は。
 神と悪魔の区別は、その人がその存在に出会う前の予備知識で、大きくぶれる。
 政治家への評判を見れば、よく分かる。
 特にユリアナさんへの評価を例にすれば、確実に分かる。
 政治家は全員、汚職で財産を蓄えているに違いないと信じる者は、野良政治家のユリアナさんも同様の悪党に違いないと思い込む。
 逆にアキュハヴァーラのトラブル解決稼業で積み重ねた実績を知る者は、ユリアナさん程の有能な善人が国政に参加していない事を残念がる。
 ユリアナさんの方に、変化は無い。
 観察者の予備知識で、ユリアナさんへの評価が決まる。
 つまりユリアナさんを悪者呼ばわりして危害を加えてきた者がいる場合、その責任は加害者の方に在る。という訳で」

 ユリアナは、喫茶店『バンバラバンバンバン』で武鎧を装備して強盗をしている最中の二人組に向かって、ユーシアを気軽に嗾ける。
 専属メイドのフラウが一週間の有給休暇で温泉宿に行ったきりなので、今日はユーシアが専属メイドをしている。
 執事ではなく、金髪ツインテール美少女メイドとして。
 ユーシア・アイオライト(十歳、錆び気味の金髪セミロング&暗めの碧眼、忍者)は、女装しての仕事も得意なので、ノリでメイドの姿で通している。
 つーか、この一ヶ月でユーシアは「アキュハヴァーラで悪さをする者を手当たり次第に始末する、過激な防犯忍者」として認知されてしまったので、「ユーシアが姿を見せる=犯罪が起きる」というイメージが染み付いている。
 治安面では重宝しつつも、自分たちの周辺で見かけたら客足が控えめになるかもしれない。
 娯楽都市アキュハヴァーラのイージス忍者と持ち上げつつも、現金な理由で敬遠もし始めている。
 その辺の空気は読んで、ユーシアは本拠地以外では変装しての活動を心がけている。
 何せ、同居中の恋人の地元。
 幾らでも、いい人として振る舞って損はない。
「では、ご主人様。あの二人を始末してくるから、勝手に徘徊しちゃいけませんよ」
「言い方は選ぼうな、労働者」
 ユーシアはメイド衣装のスカートをちと捲って動き易くすると、光る蝶のようなアクセサリーを、ユリアナに寄越す。
 アクセサリーは妖精の姿になると、ユリアナの周囲にシールドを張る。
「さあ、これで流れ弾が飛んで来ても、大丈夫です」
 エリアス・アーク(生後一ヶ月、紫苑の瞳&パッツンセミロング、妖精型式神)は、ユーシアと違って礼儀正しくユリアナを守る。
「ねえねえ、エリちゃん。君のご主人様は、どうしてあの二人を瞬殺しなかったの?」
 守られているユリアナが、かなり真面目な顔で、エリアス・アークに質問する。
「ユーシアって、万引き犯を見かけたら、品物を懐に入れる前に逮捕しちゃうような『せっかち』さんだよねえ? あの二人組には後手に回るって、何故にかな?」
「そ、それは…」
 エリアス・アークが店内の防犯カメラのデータを検索し、強盗二人組が直前にしていた会話を選択する。
 それは恐らく、聴覚の優れたユーシアが拾った会話だ。

強盗イ「だからよう、強盗騒ぎの流れ弾に見せかけて、はぐれ皇女を獲れば賞金が凄いぜ? 三年前に外国で見た時は、十五億円だった」
強盗ロ「そういう身の丈に合わない非現実的な儲け話に食い付かずに、真面目に地道に強盗をしよう」
強盗イ「あいつは汚職政治家だぜ? 悪魔やガン細胞の同類だって。仕事のついでに悪魔を倒して、感謝されようぜ」
強盗ロ「政治家への悪口は、アンチからのデマが含まれる。吟味をしていない相手を、悪魔呼ばわりするな。我々は強盗だぞ」
強盗イ「真面目だなあ、ろー君は」
強盗ロ「いー君、もっとマトモに強盗をしようよ」
 そして二人は、猪デザインのマッチョな武鎧と、ロングホーン山羊デザインの武鎧を装着し、周囲の客たちへ逃げずに財布を置いていくように脅迫していく。
 アキュハヴァーラの客達は、期待を込めてユリアナの方をチラ見する。

 その会話記録をエリアス・アーク経由で聴きながら、ユリアナはどっち着かずの視線で、ユーシアの背中を見送る。
 ユリアナは健全な政治家なので、無理に信用を求めない。

 美少女メイドがスカートの端を摘んで持ちながら接近して来たので、強盗イザカシと強盗ロンは財布を届けに来たのだとばかり。

強盗イザカシ「おお、はぐれ皇女のメイドさんか。ご主人様の代わりに財布を持って来たの?」
強盗ロン「よし、人質に取ろう」
強盗イザカシ「お前、さっき止めたよなあ?」
強盗ロン「人質が転がり込んで来た。とても有利な運勢じゃなイカ」
強盗イザカシ「イカにも」

 強盗二人組の目的が、ユリアナの暗殺にコロっと固まったので、ユーシアは始末の仕方を格上げする。
「ユリアナ様からの伝言です。自首するか降伏するか投降するか、好きな道を選べと」
 衆目があるので、一応は生き延びる手段がある事を教えてあげる。

強盗イザカシ「その三択、制限時間は?」
強盗ロン「実質一択だろ」

 強盗ロンが、美少女メイドの手首を掴んで、引き寄せようとする。
 ユーシアは、抱き寄せられて腕の中に囚われた状態で、変身する。
 ユーシアの体内に同化した八本の廃棄聖剣が、ピッチリスーツ型武鎧として顕現し、ユーシアを覆う。
 黒地に金色デザインの豪華なボディラインと、気品溢れる黄金のフェイスガード、そして二十代半ば美人騎士の外見。
 腕の中の美少女メイドが、噂の金髪ツインテールの騎士ゴールドスクリーマー(正式名称)に変身したので、強盗ロンは死を悟った。
 美少年忍者が、この姿で活躍するようになってから一ヶ月。
 敵対した者にとって、死神でしかない。
 死を眼前にしても、強盗ロンの体は諦めずに攻撃に転じようとする。
 ロングホーンを触手のように伸ばして、ゴールドスクリーマー(ユーシア)の首筋を狙うが、その動作の途中で、身体を武鎧ごとX字に切断された。
 ゴールドスクリーマーは、手刀のみで、10%の出力で、武鎧を装備した騎士を瞬殺した。
『飲食店内で、切断死体を出すなよ。後の掃除が大変だろ』
 八本の廃棄聖剣たちを統括する雷系聖剣クロウが、胸部装甲からユーシアに注意する。
「力加減を間違えた」
 武鎧だけ斬る事に失敗したユーシアは、全身の追加筋肉装甲をパンプアップさせて突進しようとする強盗イザカシの捌き方を再考する。
 重戦車すらひっくり返す強盗イザカシの猛タックルを、ゴールドスクリーマー(ユーシア)は前頭の突進を受け止める大関のように、その場で抱き止める。
 衝撃を上手く受け止めたつもりだが、足下の舗装に少し亀裂が入っている。
(これの修理費は誰が払うのかな?)
 余裕が有るので、そういう事にまで気が回る。
(いやそもそも、ユリアナ様に手を出そうとかいう話は捕縛してから拷問して聞けばいい事であって、強盗を企んでいる時点で始末しておけば、何も壊されずに済んだ。うん、反省しよう)
 更に性急な忍者になろうと決めると、ゴールドスクリーマー(ユーシア)は強盗イザカシの腕部装甲を握り潰して破砕する。
「二度目で最後の降伏勧告だ。もう暴れるな」
 強盗イザカシは、視界の隅で転がる強盗ロンの死体を一瞥すると、頭から突進を再開する。
 本気でその場で敵を弾き殺す為の攻撃をして来たので、ゴールドスクリーマー(ユーシア)は手刀を頭部に叩き込む。
 今度は力加減を間違えず、頭部の装甲のみを斬り飛ばす。
 それでもまだ闘志を失わずに戦おうとする強盗イザカシの顎にジャブを見舞い、気絶させて戦闘を終わらせた。
 
 その戦いを見守るユリアナの頭上に、バッファロービルから迎えに来た戦闘機ラスター号が、着陸の影を落とす。
「ユリアナさんが、どうしてラスター号で屋上から屋上へ移動するのか、分かってもらえたかな? 今日はカフェでお茶しても、襲われないと思ったのになあ」
 その発言を聞いた店長は、何も言えずに店のポイントカードを差し出す。
 一年以内に六回来店すれば、コーヒーが一杯無料になるポイントカードである。
「ありがとう」
 ユリアナは、喫茶店『バンバラバンバンバン』自慢のモカ(コーヒー)を飲み干してから、席を立つ。
「支払いを、エリちゃん」
「お任せください」
 言って直ぐに、エリアス・アークはユリアナ(モカ一杯)とユーシア(ミロとパウンドケーキと、おむすび大)とエリアス(ハイボール一杯)の精算を無線で済ませる。
 その間、ユリアナは店長にハグをして、騒ぎの一因となった詫びを入れる。
 変身を解いたユーシアは、短時間でも膨大に消費したエネルギーを追加のパウンドケーキ一本丸ごとで補充しつつ、ユリアナがラスター号に乗るまで見送ってから搭乗する。
 眼下に駆けつけた地元警察に目線で謝りながら、ユリアナは愚痴を溢す。
「雨季が来る前に外でコーヒーを一杯飲みたいという願いを叶えたので、満足するべきだろうか?」
 カルタ・ベルナ(二百三十歳・外見年齢二十三歳、マゼンタ基調の眼鏡女性エルフ、コノ国空軍中尉)は、ラスター号を離陸させながら、愚痴を返す。
「自己憐憫は役に立たないから、待機時間の多い不遇のパイロットに差し入れする技能を伸ばせ」
 ユリアナは袖の下を要求されて、自身では使い道のなさそうな喫茶店『バンバラバンバンバン』のポイントカードを差し出した。
「安っ」
「ユリアナさんが一年に渡って享受できた喜びを譲渡したのだ。感動しよう」
「しょぼっ」
 カルタ・ベルナがワザとラスター号を揺らしたので、ユリアナ様の頭がユーシアの胃に当たってしまった。
「おっと、すまない」
「いいえ」
 ユーシアはムカついていたが、顔以外には出さなかった。
「すまない、雇用主がケチなせいだ」
「そうだねえ」
 カルタの謝罪のフリをした煽りに乗ってしまい、ユーシアは正直に言ってしまう。
「フラウ、早く帰ってきて~」
 マトモなメイドの奉仕に飢えたユリアナが、口から不可視のロクでもない気を撒き散らす。
「いえ、フラウさんでも、同じような対応をすると思いますけど」
 そう返した時点でユーシアは初めて、フラウは一人で旅しているのだろうかと、気にした。
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