スガヲノ忍者 リチタマ騒動記1

九情承太郎

文字の大きさ
上 下
36 / 55
リチタマ騒動記1 2章 アキュハヴァーラのイージス忍者

三十四話 アキュハヴァーラのイージス忍者(13)

しおりを挟む
【一級河川・ガンダ川 ネリマ堤防付近】

 喫茶店『柏サンドイッチ』から1キロは離れた河岸まで走り、クロイスは追手が来ない事に気付く。
「無理に追わずに、宿泊場所で捕縛する気か? まあ、小官は、その方がやり易い」
 まだ武鎧は解除せずに、人目の少なそうな河岸を逃走ルートに決めると、クロイスは河原沿いに走りを続ける。
 その足元が、何かの着弾で爆発し、雷撃の混ざった水柱が上がる。
 続いて、飛来物が接近する音響が、届く。
「砲撃?! 音より先に来た?」
 振り返らずに加速しようとしたクロイスの背中に、ユーシア(ゴールドスクリーマー)が放った手裏剣が、三つ命中する。
 それが、10%の力で投擲された、ユーシア(ゴールドスクリーマー)の雷撃帯同手裏剣だとは知らずに、クロイスの武鎧と肉体は爆散し、水柱と共に川へと消えていった。



【アキュハヴァーラ上空】

 クロイスの死亡を確認したユーシア(ゴールドスクリーマー)は、そのまま上空で1キロ射程の雷撃帯同手裏剣について、思案する。
「五本投げて三本命中。精度悪いなあ、長距離だと」
『おいおい、ベテランのS級騎士を手裏剣だけで仕留められたのに、採点が辛いぞ』
「街中では使いたくない威力と知った。以後は、封印」
 街中で使えば、外れた雷撃帯同手裏剣は、大惨事を引き起こしただろう。
 後で損害賠償を求められそうな戦闘をする気はない、ユーシアだった。
『まあ良い。ここで調子に乗らぬ者だからこそ、選んだ』
「さて、帰るけれど…」
 ユーシアは、確かめるのが怖い事を口にする。
「ねえ、クロウって装備を解除する度に、まさか…」
『最初だけだから、安堵せよ。二回目からは、通常の武鎧と同じく、無痛で瞬時に装着可能だ』
「よかった~~。これで安心して、使える」
『既に我々は、子宮内の双子のように、同化した』
「それは、比喩的表現だよな?」
『既に我々は。子供を五人儲けた夫婦のように、深い仲だ』
「宣戦布告か、それは?」

 飛行して仕事場の屋上に着陸するまでに、銀行の後始末はシーラ・イリアスが一手に引き受けたと知らされる。
(ああ、ここで大手銀行に恩を売ろうと。助かる)
 再起動したエリアス・アークが、端末に追加情報を流す。
『死者の内訳は、警備十四名、銀行員六名、重傷者は十八名。黒夜叉隊は、二人が投降し、イリアス商会とユリアナ様で再雇用。他は逮捕と戦死です』
「エリアス! 起きていて大丈夫か?」
『寝ていると、エリアスは置き去りにされると分かりましたので』
「どこで合流する?」
 飛行するゴールドスクリーマーの右肩に、エリアス・アークが停まる。
 身体の各所に、まだヒビがタトゥーのように残っているが、笑顔は元に戻っている。
「今度は頑丈そうな武鎧ですね、ユーシア」
「胸には触るなよ、エリアス」
「言われると却って、突きたくなります」
「痺れるぞ」
「もうセルフで揉み揉みを?」
「しないよ、俺は真人間だし」



【バッファロービル屋上 ラスター号発着場】

 ユーシアがバッファロービルの屋上に着地したのは、ラスター号が着陸した三分後だった。
 レリーはダルそうに機内で仮眠を続け、フラウはユリアナの元へ直行し、リップとイリヤはジュースの自販機前で、ホットココアと飲みながら休んでいた。
 ラスター号の運転後点検をしていたカルタ・ベルナが、ゴールドスクリーマー状態のユーシアを、眩しげに見物する。
「まだ中身はユーシア? ユリアナ様の時と、区別が付かない」
「ほら、紛らわしい。解除、解除」
 ゴールドスクリーマーが真っ二つに割れ、雷系聖剣クロウの人間形態に収縮する。
 変身が解除された途端、ユーシアは貧血を起こして、よろめく。
 クロウより早く、リップがダッシュで駆け寄り、ユーシアを抱き抱える。
 全身を触診しまくり、傷が開いていないかどうか確認する。
「疲れただけ~」
「七階でハヤシシェフに、スタミナ料理を沢山作ってもらおう」
「うん、食べてから、ユリアナ様の所に行く」
「まだ仕事するの?」
 不満そうに、リップがユーシアの頬を、鼻先で突つく。
「だって、重要な話が有るって」
『食べて休んでからでいい』
 エリアス・アーク経由で、ユリアナからの指示が届く。
『ユリアナさんも、食事を済ませて一息ついてから、話そう。二時間後、十八時に五階で。リップとイリヤも、同席するように。重要な話なので、欠席は許しません』
 言われて、ユーシアは、今が十六時だと気付く。
 事件が起きてから、一時間しか経っていない。
 一時間しか。
 傷は塞がっていても、余計に疲れが増していく錯覚が。
(序の口だ。これはまだ、序章だ)
 ユーシアの勘が、そう告げている。
(そして、これからユリアナ様が話す事が…)
 立ち止まっていると、リップが背後から肩を揉んでくる。
「早く食べに行こう。あたしもお腹空いちゃったよ。右手が痛くなってきたし」
「自分も久しぶりの本格戦闘で、空腹であります」
 イリヤが、ひもじそうに追随する。
「ハイボール飲み放題」
 エリアス・アークが、ユーシアの頭の上に乗りながら、うっとりと五分後の食事を夢想する。
「カトンボ乗りにも、何か届けてね」
 カルタが、屋上から去る一同に、差し入れをお願いしておく。
「レリーの分も」
 レリーが返事も怠る程に疲れているので、カルタが気を利かせる。
 一同が従業員用エレベーターに消えてから、カルタはラスター号の後部座席裏から、マニュアルを引っ張り出す。
「久しぶりに、兵装を元に戻すか。うろ覚えだと、危ねえ」
 コノ国空軍中尉は、慣れている作業でも、マニュアルを欠かさない人だった。
 伊達に長生きはしていないので、戦争の始まる前は、自然とスイッチが入る。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...