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第一章 赤と黒の螺旋の中で
五十九話 シン墨俣一夜城(4)
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墨俣城が五日で完成すると、信長は千名以上の兵を木下秀吉に預けて、帰った。
信長が引き上げた途端、美濃斎藤軍が全力で潰しに来たが、返り討ちにされて敗走した。
短期間で築城したのだから、まだ柵と櫓だけの薄い城だろうと舐めて来た美濃斎藤軍が目にしたのは、既に幾重にも柵と堀を形成し、百丁以上の鉄砲が配備された城だった。
城とは軍隊の駐留基地としての機能だけではなく、近寄る敵を効率良く撃退する為のキルゾーンとしても機能するのだと、秀吉は理解している。
城から兵を出撃させての奇襲・夜襲も巧みで、美濃斎藤軍は何度来ても敗走させられた。
これで秀吉は、「数倍の兵力の敵に攻められても、城を守った上に、勝った」という実績を得た。
誰も異議を唱えられない、武将としての実績を積んだ。
もうこれで、
「元農民が、口八丁で成り上がって、武家のコスプレをしている猿面の奇人」
という微妙な評価は改まり、
「出身は農家だが、自身の才覚で出世を果たした武将」
という評価が定着した。
この時点で信長は、秀吉に「旗」を持って戦列に加わる事を、正式に許可する。
秀吉は早速、沢潟紋(ねねの実家・浅野家の家紋)の入った旗を、正式な旗印(武将の識別マーク)として採用する。
それまでは、金色に塗った瓢箪を馬印(旗を用いない旗印の事)にしていたので、武将として一人前になった感が増している。
「さあ、ねねへのご機嫌を取ったところで、殿のご機嫌も取らないと」
男装した美少女にしか見えない優男が、城周りの櫓の間合いを神経質に把握しながら、メモ帳に追加の櫓設置場所を記しながら返答する。
「そうした方がいいのだ。要らぬ猜疑心を、持たれる前に」
竹中半兵衛重治が、隠居生活を切り上げて、木下秀吉の配下に加わった。
年が明けて、永禄十年(1567年)一月。
墨俣城は、平和なう。
竹中半兵衛が木下秀吉の配下になったと知れた途端、美濃斎藤軍は墨俣城に近寄らなくなった。
代わりに、今まで織田家に降るのを渋っていた連中が、転向の準備を始める。
ここまで美濃斎藤家を見捨てなかった西美濃三人衆が連名で転向を決め、日根野弘就は他国へ再就職する為に一族で引っ越した。
長かった尾張VS美濃の抗争も、最終コーナーを回った感じ。
そのくらい、竹中半兵衛の「再就職」は大きかった。
しかし衝撃度の面では、織田家の方が深く根深いかも知れない。
あの身分が低くて猿顔で助平で背が低くて痩身で煩くて口達者で下品で助平な元雑用係が、武将として出世を重ねた挙句に、天才軍師を部下にしたのである。
たとえ週刊少年ジャンプを四百年購読しても、こんな神展開は有り得ない。
ここで織田家有力武将の内心を列挙すると、
柴田勝家「(抜かれる…? 抜かれた…?! あの猿に…? 猿にいいいいいいいい?????)」
丹羽長秀「(抜かれたなあ…抜き返す気もしない…敵にしなくて、良かったと思うべきか…ちと悔しい気もするが)」
森可成「(マジか? マジで美濃攻略の功労者ナンバーワンは、あいつになるのか? もう金森を越しているじゃねえか。面白え)」
佐久間信盛「(やはり最後に物言うのは、頭脳だよねえ。分かるぅ~。励みになるわ~、同じ頭脳派武将として)」
滝川一益「(伊勢攻略で満足せずに、他でも点数稼がねば)」
各武将が織田家のパワーバランスが変動した事を自覚して慄く中、最も動揺してもいいのに動揺していないのが、信長と可近だった。
「では形として、竹中半兵衛は殿に仕えていますが、与力として木下秀吉に貸し出されているという事にします」
「で、あるか」
家中の動揺を防ぐ為の措置に、信長は気のない返事をする。
長女・五徳姫が嫁に行く日取りが決まったので、持たせる土産物の事で頭が一杯だ。
娘の幸せ、ではなくて、どうすれば徳川家康(元・松平元康。改名しました)の度肝を抜けるかというショーマンシップについてである。
余裕である。
秀吉がどれだけ出世しようと、信長だけはその上前を撥ねる事が可能であり、常に上司として振る舞える。
度量の大きいサイコパスなので、明確な叛逆でもしない限りは、秀吉の軍拡を放置して働かせる。
可近は自分にしか出来ないような仕事が激減するので、嫉妬も警戒もせずに大歓迎している。
可近は、嫁ぎ先への贈り物リストの中で、最も?を誘う品について、言及する。
「鯉、ですか?」
「鯉だ。大きくて美しく逞しい、セクシーデンジャラスな鯉を、家康に送り付ける」
「食べ応え抜群の鯉、ですね」
「たわけ! 観賞用だで」
竹ちゃん(徳川家康)に鯉を鑑賞する趣味があるとは聞いていないし、信長もそれは知っている。
「家康に贈る最上級品の鯉には、こう名付けておく。『信長』と」
悪趣味だという感想が、可近の目にも顔にも態度にも出る。
「水槽の鯉を、信長として大切にして拝む竹千代(徳川家康)の顰めっ面を思うと、飯が進むで」
「竹ちゃんも、信長という名前の鯉の刺身を食べながらだと、酒が進むでしょうな」
「賭けるか?」
「賭けになりませんよ」
可近にそう断言されるも、信長は鯉『信長』を断固として贈り物にした。
五月二十七日、徳川家康の長男・信康と織田信長の長女・五徳姫の婚礼当日。
家康は贈られた鯉『信長』他十数匹の鯉を、巨大な生簀で大切に育てて量産してから「絶品・信長鯉」として新しい名産品にするという遠大な計画を立てたのだが…
家臣団が勘違いをして
「他国の殿様の機嫌を伺う殿なんて、見るに堪えない。食っちまえ」
と、鯉料理にして宴で出してしまった。
企画段階で大不評だったので、家康は形だけ激怒してから、不問に伏した。
信長が引き上げた途端、美濃斎藤軍が全力で潰しに来たが、返り討ちにされて敗走した。
短期間で築城したのだから、まだ柵と櫓だけの薄い城だろうと舐めて来た美濃斎藤軍が目にしたのは、既に幾重にも柵と堀を形成し、百丁以上の鉄砲が配備された城だった。
城とは軍隊の駐留基地としての機能だけではなく、近寄る敵を効率良く撃退する為のキルゾーンとしても機能するのだと、秀吉は理解している。
城から兵を出撃させての奇襲・夜襲も巧みで、美濃斎藤軍は何度来ても敗走させられた。
これで秀吉は、「数倍の兵力の敵に攻められても、城を守った上に、勝った」という実績を得た。
誰も異議を唱えられない、武将としての実績を積んだ。
もうこれで、
「元農民が、口八丁で成り上がって、武家のコスプレをしている猿面の奇人」
という微妙な評価は改まり、
「出身は農家だが、自身の才覚で出世を果たした武将」
という評価が定着した。
この時点で信長は、秀吉に「旗」を持って戦列に加わる事を、正式に許可する。
秀吉は早速、沢潟紋(ねねの実家・浅野家の家紋)の入った旗を、正式な旗印(武将の識別マーク)として採用する。
それまでは、金色に塗った瓢箪を馬印(旗を用いない旗印の事)にしていたので、武将として一人前になった感が増している。
「さあ、ねねへのご機嫌を取ったところで、殿のご機嫌も取らないと」
男装した美少女にしか見えない優男が、城周りの櫓の間合いを神経質に把握しながら、メモ帳に追加の櫓設置場所を記しながら返答する。
「そうした方がいいのだ。要らぬ猜疑心を、持たれる前に」
竹中半兵衛重治が、隠居生活を切り上げて、木下秀吉の配下に加わった。
年が明けて、永禄十年(1567年)一月。
墨俣城は、平和なう。
竹中半兵衛が木下秀吉の配下になったと知れた途端、美濃斎藤軍は墨俣城に近寄らなくなった。
代わりに、今まで織田家に降るのを渋っていた連中が、転向の準備を始める。
ここまで美濃斎藤家を見捨てなかった西美濃三人衆が連名で転向を決め、日根野弘就は他国へ再就職する為に一族で引っ越した。
長かった尾張VS美濃の抗争も、最終コーナーを回った感じ。
そのくらい、竹中半兵衛の「再就職」は大きかった。
しかし衝撃度の面では、織田家の方が深く根深いかも知れない。
あの身分が低くて猿顔で助平で背が低くて痩身で煩くて口達者で下品で助平な元雑用係が、武将として出世を重ねた挙句に、天才軍師を部下にしたのである。
たとえ週刊少年ジャンプを四百年購読しても、こんな神展開は有り得ない。
ここで織田家有力武将の内心を列挙すると、
柴田勝家「(抜かれる…? 抜かれた…?! あの猿に…? 猿にいいいいいいいい?????)」
丹羽長秀「(抜かれたなあ…抜き返す気もしない…敵にしなくて、良かったと思うべきか…ちと悔しい気もするが)」
森可成「(マジか? マジで美濃攻略の功労者ナンバーワンは、あいつになるのか? もう金森を越しているじゃねえか。面白え)」
佐久間信盛「(やはり最後に物言うのは、頭脳だよねえ。分かるぅ~。励みになるわ~、同じ頭脳派武将として)」
滝川一益「(伊勢攻略で満足せずに、他でも点数稼がねば)」
各武将が織田家のパワーバランスが変動した事を自覚して慄く中、最も動揺してもいいのに動揺していないのが、信長と可近だった。
「では形として、竹中半兵衛は殿に仕えていますが、与力として木下秀吉に貸し出されているという事にします」
「で、あるか」
家中の動揺を防ぐ為の措置に、信長は気のない返事をする。
長女・五徳姫が嫁に行く日取りが決まったので、持たせる土産物の事で頭が一杯だ。
娘の幸せ、ではなくて、どうすれば徳川家康(元・松平元康。改名しました)の度肝を抜けるかというショーマンシップについてである。
余裕である。
秀吉がどれだけ出世しようと、信長だけはその上前を撥ねる事が可能であり、常に上司として振る舞える。
度量の大きいサイコパスなので、明確な叛逆でもしない限りは、秀吉の軍拡を放置して働かせる。
可近は自分にしか出来ないような仕事が激減するので、嫉妬も警戒もせずに大歓迎している。
可近は、嫁ぎ先への贈り物リストの中で、最も?を誘う品について、言及する。
「鯉、ですか?」
「鯉だ。大きくて美しく逞しい、セクシーデンジャラスな鯉を、家康に送り付ける」
「食べ応え抜群の鯉、ですね」
「たわけ! 観賞用だで」
竹ちゃん(徳川家康)に鯉を鑑賞する趣味があるとは聞いていないし、信長もそれは知っている。
「家康に贈る最上級品の鯉には、こう名付けておく。『信長』と」
悪趣味だという感想が、可近の目にも顔にも態度にも出る。
「水槽の鯉を、信長として大切にして拝む竹千代(徳川家康)の顰めっ面を思うと、飯が進むで」
「竹ちゃんも、信長という名前の鯉の刺身を食べながらだと、酒が進むでしょうな」
「賭けるか?」
「賭けになりませんよ」
可近にそう断言されるも、信長は鯉『信長』を断固として贈り物にした。
五月二十七日、徳川家康の長男・信康と織田信長の長女・五徳姫の婚礼当日。
家康は贈られた鯉『信長』他十数匹の鯉を、巨大な生簀で大切に育てて量産してから「絶品・信長鯉」として新しい名産品にするという遠大な計画を立てたのだが…
家臣団が勘違いをして
「他国の殿様の機嫌を伺う殿なんて、見るに堪えない。食っちまえ」
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