29 / 48
第29回「ままならぬ玉」視聴後
しおりを挟む 邪王を討伐してからは、それなりに穏やかな日々が続いた。
もう一度宝鍵で開けた空間に聖剣を仕舞い、宝鍵はハミルさんが管理してくれるということで、今はエーテ城のどこかにあるらしい。
聖剣を持つ私を見て、ジークさんやハミルさんがなぜかビクビクしていたとか、厨房で包丁を持っていただけなのに、『危険だから』と真っ青な顔で取り上げられたりということはあったけれど、それ以外は特に問題はない。
……いや、モフモフの刑の影響で、二人が中々、猫姿に変化してくれなくなったのは、ちょっと残念かもしれない。
そんなこんなで、特に代わり映えのない日々の中、私は夜、庭へとジークさんとハミルさんに呼び出された。何でも、大切な話があるらしい。
月光に照らされた、庭は、クリスタルフラワーに囲まれて、キラキラと幻想的な雰囲気に満ちている。
最近、少しだけ暑くなってきたけれど、まだまだ夜は肌寒い。ピンクのカーディガンを羽織って、そこに出てきた私は、いつもお茶をしているテーブルがある場所へと向かう。
「ユーカ、呼び出して悪かった」
「ごめんね、ユーカ」
「いえ、大丈夫です」
ジークさんとハミルさんの言葉に軽く応えると、二人はどこか緊張した面持ちで、ゆっくり、私の前にひざまづく。
「ジークさん? ハミルさん?」
何事だろうかと目を丸くしていると、ジークさんとハミルさんに、それぞれ右手と左手を取られる。
「ユーカ、初めて会った時から、俺の心はユーカから離れなかった。声を奪ってしまったことは、今でも後悔している」
「最初は、猫の姿でユーカを見かけて、その時から僕はユーカに夢中だったよ。拘束してしまって、本当にごめんね」
まずは謝罪から入る二人に、私は首を横に振って、もう気にしていないと告げる。
「俺の心には、ユーカだけ。ユーカさえ居てくれれば、俺は他に何もいらない。ユーカが愛しくて仕方がない」
「愛するユーカのためなら、僕はどんなことだってするよ。ユーカが側に居てくれたら、僕はずっと安らげる」
『だから』、と続けて、サファイアの瞳と、トパーズの瞳が、私の目をじっと見つめる。
「俺達と」
「僕達と」
「「結婚してくださいっ」」
しんっ、と、怖いくらいの沈黙が夜の冷たい空気を支配する。
私は、ゆっくりと息を吸って、その冷たい空気で肺を満たすと、胸から溢れそうになるそれを思いっきりぶつける。
「はいっ、よろしくお願いしますっ。大好きです。ジーク、ハミル」
ギュウッと抱き締められた私は、そのまま寝室へと連れられて……おいしくいただかれてしまったのは、言うまでもないだろう。
皇魔歴九千六十四年のある日。
「母さんっ! これ見て!」
「なぁに? ルーク?」
ジークとハミルの二人と契った私は、人間では考えられない長い寿命を得て、五人の子宝と二人の孫に恵まれた。そして今、愛しい息子の言葉に耳を傾ける。
彼は、ルークは、ジークに良く似た翡翠色の髪とサファイアの瞳を持って、私の身長を完全に追い越し、ジークとは兄弟にしか見えないような姿だ。
「これ、母さんが書いたんだよねっ。僕、これを絵本にしてみたいっ。良いかな?」
そう言われて見せられたのは、とても懐かしい文章。『青赤の星々』というタイトルの文章だ。
邪王を倒し、全てが終った後、あの絵本はどこを探しても見当たらなかった。だから、あの絵本を読んだ三人で……いや、主に、ほぼ一字一句覚えていたらしいジークとハミルに頼って、その文章を書き起こしておいたのだ。
(そういえば、あの絵本の絵は、『ルーク』が書いたんだったよね?)
今になって、息子が絵の書き手だったという事実を知った私は、ルークの要望通りに絵本を作ることにする。もちろん、私の名前は『くゆらあすか』で。
その後、ハミルの子供であるレイナードが時空間魔法を暴走させて、完成したばかりのその絵本をどこかに飛ばしてしまったりとか、どうにか苦心して、それを取り戻したりとかといったことはあったけれど、まぁ、それは予想の範囲内だ。きっと、あの絵本は一時的に過去の私達に届いてくれたのだろう。
「見ーつけたっ」
「ユーカ、こんなところにいたのか。そろそろ部屋に戻るぞ」
「うん」
クリスタルフラワーが咲き誇る庭でぼんやりしていると、ジークとハミルがやってきて私に上着をかけてくれる。
「ふふっ」
「? どうしたの? ユーカ?」
「ううん、そういえば、ここでプロポーズされたんだったなぁって……」
もう、千年も昔のことだけれど、今でも鮮明に覚えている。
「そうだったな」
「うん、僕達は、ユーカが受け入れてくれるかどうか分からなくて、心臓バックバクだったけど」
「そうは見えなかったよ?」
実際、あのプロポーズの時は、緊張しているようではあったけれど、そんなことを思っているだなんて思いもしなかった。
「ユーカ、愛してる」
「大好き。愛してるよ。ユーカ」
同時に両頬に口づけられて、そのまま様々な場所へと口づけが落とされる。
「ちょっ、ジークっ、ハミルっ」
「さぁ、部屋へ戻ろう」
「続きはベッドでゆっくり、ね?」
最初は、右も左も分からない異世界で、二人に監禁されることになったけれど……今は、この二人の腕に閉じ込められることこそが幸せになってしまった。
「えっと、お、お手柔らかに?」
深まった笑みに、戦々恐々としながら、それでも、私は今、とっても幸せだ。
(完)
もう一度宝鍵で開けた空間に聖剣を仕舞い、宝鍵はハミルさんが管理してくれるということで、今はエーテ城のどこかにあるらしい。
聖剣を持つ私を見て、ジークさんやハミルさんがなぜかビクビクしていたとか、厨房で包丁を持っていただけなのに、『危険だから』と真っ青な顔で取り上げられたりということはあったけれど、それ以外は特に問題はない。
……いや、モフモフの刑の影響で、二人が中々、猫姿に変化してくれなくなったのは、ちょっと残念かもしれない。
そんなこんなで、特に代わり映えのない日々の中、私は夜、庭へとジークさんとハミルさんに呼び出された。何でも、大切な話があるらしい。
月光に照らされた、庭は、クリスタルフラワーに囲まれて、キラキラと幻想的な雰囲気に満ちている。
最近、少しだけ暑くなってきたけれど、まだまだ夜は肌寒い。ピンクのカーディガンを羽織って、そこに出てきた私は、いつもお茶をしているテーブルがある場所へと向かう。
「ユーカ、呼び出して悪かった」
「ごめんね、ユーカ」
「いえ、大丈夫です」
ジークさんとハミルさんの言葉に軽く応えると、二人はどこか緊張した面持ちで、ゆっくり、私の前にひざまづく。
「ジークさん? ハミルさん?」
何事だろうかと目を丸くしていると、ジークさんとハミルさんに、それぞれ右手と左手を取られる。
「ユーカ、初めて会った時から、俺の心はユーカから離れなかった。声を奪ってしまったことは、今でも後悔している」
「最初は、猫の姿でユーカを見かけて、その時から僕はユーカに夢中だったよ。拘束してしまって、本当にごめんね」
まずは謝罪から入る二人に、私は首を横に振って、もう気にしていないと告げる。
「俺の心には、ユーカだけ。ユーカさえ居てくれれば、俺は他に何もいらない。ユーカが愛しくて仕方がない」
「愛するユーカのためなら、僕はどんなことだってするよ。ユーカが側に居てくれたら、僕はずっと安らげる」
『だから』、と続けて、サファイアの瞳と、トパーズの瞳が、私の目をじっと見つめる。
「俺達と」
「僕達と」
「「結婚してくださいっ」」
しんっ、と、怖いくらいの沈黙が夜の冷たい空気を支配する。
私は、ゆっくりと息を吸って、その冷たい空気で肺を満たすと、胸から溢れそうになるそれを思いっきりぶつける。
「はいっ、よろしくお願いしますっ。大好きです。ジーク、ハミル」
ギュウッと抱き締められた私は、そのまま寝室へと連れられて……おいしくいただかれてしまったのは、言うまでもないだろう。
皇魔歴九千六十四年のある日。
「母さんっ! これ見て!」
「なぁに? ルーク?」
ジークとハミルの二人と契った私は、人間では考えられない長い寿命を得て、五人の子宝と二人の孫に恵まれた。そして今、愛しい息子の言葉に耳を傾ける。
彼は、ルークは、ジークに良く似た翡翠色の髪とサファイアの瞳を持って、私の身長を完全に追い越し、ジークとは兄弟にしか見えないような姿だ。
「これ、母さんが書いたんだよねっ。僕、これを絵本にしてみたいっ。良いかな?」
そう言われて見せられたのは、とても懐かしい文章。『青赤の星々』というタイトルの文章だ。
邪王を倒し、全てが終った後、あの絵本はどこを探しても見当たらなかった。だから、あの絵本を読んだ三人で……いや、主に、ほぼ一字一句覚えていたらしいジークとハミルに頼って、その文章を書き起こしておいたのだ。
(そういえば、あの絵本の絵は、『ルーク』が書いたんだったよね?)
今になって、息子が絵の書き手だったという事実を知った私は、ルークの要望通りに絵本を作ることにする。もちろん、私の名前は『くゆらあすか』で。
その後、ハミルの子供であるレイナードが時空間魔法を暴走させて、完成したばかりのその絵本をどこかに飛ばしてしまったりとか、どうにか苦心して、それを取り戻したりとかといったことはあったけれど、まぁ、それは予想の範囲内だ。きっと、あの絵本は一時的に過去の私達に届いてくれたのだろう。
「見ーつけたっ」
「ユーカ、こんなところにいたのか。そろそろ部屋に戻るぞ」
「うん」
クリスタルフラワーが咲き誇る庭でぼんやりしていると、ジークとハミルがやってきて私に上着をかけてくれる。
「ふふっ」
「? どうしたの? ユーカ?」
「ううん、そういえば、ここでプロポーズされたんだったなぁって……」
もう、千年も昔のことだけれど、今でも鮮明に覚えている。
「そうだったな」
「うん、僕達は、ユーカが受け入れてくれるかどうか分からなくて、心臓バックバクだったけど」
「そうは見えなかったよ?」
実際、あのプロポーズの時は、緊張しているようではあったけれど、そんなことを思っているだなんて思いもしなかった。
「ユーカ、愛してる」
「大好き。愛してるよ。ユーカ」
同時に両頬に口づけられて、そのまま様々な場所へと口づけが落とされる。
「ちょっ、ジークっ、ハミルっ」
「さぁ、部屋へ戻ろう」
「続きはベッドでゆっくり、ね?」
最初は、右も左も分からない異世界で、二人に監禁されることになったけれど……今は、この二人の腕に閉じ込められることこそが幸せになってしまった。
「えっと、お、お手柔らかに?」
深まった笑みに、戦々恐々としながら、それでも、私は今、とっても幸せだ。
(完)
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大河ドラマで平泳ぎ どうする家康
九情承太郎
エッセイ・ノンフィクション
大河ドラマ「どうする家康」に関する緩い感想エッセイです。
※他の小説投稿サイトでも公開しています。
表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。
大河ドラマで平泳ぎ 青天を衝け
九情承太郎
エッセイ・ノンフィクション
大河ドラマ「晴天を衝け大河ドラマ」に関する緩い感想エッセイです。
※他の小説投稿サイトでも公開しています。
表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる