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八話 天才軍師は斯く語りき 稲葉山城狂詩曲 終編
稲葉山城狂詩曲(3)
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日没前に、服部隊は伊賀のセーフハウスの一つに入る。街道沿いで寺を擬態するセーフハウスでは、馬の世話も任せられるようにしてある。
出迎えた伊賀者は、服部半蔵が戦時の顔をしているので気を引き締める。
出浦盛清本人は信玄の所に真っしぐらで、あと二日は半蔵に近寄れもしないが、全国規模で張り巡らされた三ツ者のネットワークを通じて、手を出してくる可能性は高い。
「手を出してくるかなあ? 半蔵様を相手に、わざわざ」
今夜の宿所を掃除し、床下天井を点検しながら、バルバラがボヤく。
「バルバラなら、そんなヤバい話は受けないけど」
「逆に、半蔵様を相手にして名を上げたい強者が、仕掛けてくる」
床下の地雷の火薬を詰め直しながら、夏美は応える。
「そういう忍者は、極少数です。戦闘回数は、僅かで済みます」
火遁の術に使う発炎筒を皆に配りながら、月乃は明るい情報を与える。
更紗は、受け取りながら月乃に確認する。
「まさか、今夜も夜伽なし?」
「この状況でヤれる訳ないでしょ」
「ふっ、甘いぞ、月乃。一人が半蔵様と合体している間に、他の三人が戦えば済む」
更紗は、無表情だがドヤ顔で言い返す。
「半蔵様が戦闘に参加しないと、全滅しちゃうでしょ」
「駅弁体勢で戦えるじゃなイカ。排卵も促進されて、倍率ドン!」
死亡フラグを無視して排卵に燃える更紗に、月乃は往復ビンタ連打で気合いを入れる。
「子作りは、敵を迎撃してから! これ基本!」
奥方ーズのテンパりを余所に、予備武装の手入れをする半蔵は、緊急事態の原因となった天才軍師との邂逅を苛々と思い出す。
「あいつ、世に出さない方が、いいかも」
昨日。
木下藤吉郎の軍師にどうですかというロクデモナイ話を、竹中半兵衛はスンナリと受け入れた挙句、今後三年間の織田家の軍事方針までノリノリで相談して交渉を終わらせた。
話が早いにも、程がある。
昨夜、濃姫が城下町に来た段階で、天才軍師はここまで未来を決めてしまっていた。
日当たりの良い稲葉山城の庭で応じる竹中半兵衛は、先の先まで見通して一同を出迎えた。
天才軍師の天才過ぎる才幹に感心していると、天才は予想外の災厄と化して半蔵を襲った。
「あなたが服部半蔵ですね? 武田に対抗して、独自の情報網を展開中とか。素晴らしい発想と行動力です」
ただの護衛役なのに声をかけられた挙句、ベタ褒めされて半蔵は素直に照れた。
天才軍師は、隅っこで出浦盛清が聴いている事を知っていながら、その話題に踏み込みんだ。
「私が織田に合力する気になったのも、服部半蔵殿の動きと無関係ではありません。あなたが三河で目論んでいる迎撃策は、正しい。武田は強大ですが、三河を一月以内に攻略するのは不可能です」
この話の流れに、半蔵は危険を察知する。
天才軍師は、爽やかな好青年スマイルで核爆発を引き起こした。
「武田信玄は三河戦線で過労死しますから、東の動きには余裕を持って対処出来ます。武田信玄を気にしなくていい以上、織田信長は、三好長慶以来の『京を支配する実力者』に為り得ます。まあ、直接お仕えするのは疲れますから、木下藤吉郎殿の軍師で丁度いいでしょう」
切れる五秒前の出浦盛清が、爽やかな天才軍師の方に近付く。
半蔵が牽制の為に向き合うと、出浦盛清は辛うじて激情を抑える。
「…話を、聞くだけだ。お屋形様の望みは、それだけだ。お屋形様は、人と話すのが、好きな人だから」
半蔵は、敢えて出浦盛清に背中を向けて、竹中半兵衛に訴えかける。
「彼の主君を謀殺する話題を持ち出して嬲るのは、止めてくれ。この警告を無視するなら、俺は、あんたを、庇わない」
藤吉郎は、『それ、仕事破棄じゃね?』と言いそうになったが、空気を読んだ。
天才軍師も、空気を読む。
出浦盛清に頭を下げると、詫びる。
「すまない。天下を取れる大名が出現する喜びに溺れて、武田の方に思慮を欠いた発言をした。ごめんなさい」
詫びを入れてきた相手を殺すような、出浦盛清ではない。何より服部半蔵が、出浦盛清は襲わないと信用して、背中を見せている。
出浦盛清は、この場で関係者一同を皆殺しにする大博打を、思い留まる。
礼儀正しく砂利敷石の上に座ると、挨拶を始める。
「武田の若手ナンバーワン武将、出浦盛清です」
出迎えた伊賀者は、服部半蔵が戦時の顔をしているので気を引き締める。
出浦盛清本人は信玄の所に真っしぐらで、あと二日は半蔵に近寄れもしないが、全国規模で張り巡らされた三ツ者のネットワークを通じて、手を出してくる可能性は高い。
「手を出してくるかなあ? 半蔵様を相手に、わざわざ」
今夜の宿所を掃除し、床下天井を点検しながら、バルバラがボヤく。
「バルバラなら、そんなヤバい話は受けないけど」
「逆に、半蔵様を相手にして名を上げたい強者が、仕掛けてくる」
床下の地雷の火薬を詰め直しながら、夏美は応える。
「そういう忍者は、極少数です。戦闘回数は、僅かで済みます」
火遁の術に使う発炎筒を皆に配りながら、月乃は明るい情報を与える。
更紗は、受け取りながら月乃に確認する。
「まさか、今夜も夜伽なし?」
「この状況でヤれる訳ないでしょ」
「ふっ、甘いぞ、月乃。一人が半蔵様と合体している間に、他の三人が戦えば済む」
更紗は、無表情だがドヤ顔で言い返す。
「半蔵様が戦闘に参加しないと、全滅しちゃうでしょ」
「駅弁体勢で戦えるじゃなイカ。排卵も促進されて、倍率ドン!」
死亡フラグを無視して排卵に燃える更紗に、月乃は往復ビンタ連打で気合いを入れる。
「子作りは、敵を迎撃してから! これ基本!」
奥方ーズのテンパりを余所に、予備武装の手入れをする半蔵は、緊急事態の原因となった天才軍師との邂逅を苛々と思い出す。
「あいつ、世に出さない方が、いいかも」
昨日。
木下藤吉郎の軍師にどうですかというロクデモナイ話を、竹中半兵衛はスンナリと受け入れた挙句、今後三年間の織田家の軍事方針までノリノリで相談して交渉を終わらせた。
話が早いにも、程がある。
昨夜、濃姫が城下町に来た段階で、天才軍師はここまで未来を決めてしまっていた。
日当たりの良い稲葉山城の庭で応じる竹中半兵衛は、先の先まで見通して一同を出迎えた。
天才軍師の天才過ぎる才幹に感心していると、天才は予想外の災厄と化して半蔵を襲った。
「あなたが服部半蔵ですね? 武田に対抗して、独自の情報網を展開中とか。素晴らしい発想と行動力です」
ただの護衛役なのに声をかけられた挙句、ベタ褒めされて半蔵は素直に照れた。
天才軍師は、隅っこで出浦盛清が聴いている事を知っていながら、その話題に踏み込みんだ。
「私が織田に合力する気になったのも、服部半蔵殿の動きと無関係ではありません。あなたが三河で目論んでいる迎撃策は、正しい。武田は強大ですが、三河を一月以内に攻略するのは不可能です」
この話の流れに、半蔵は危険を察知する。
天才軍師は、爽やかな好青年スマイルで核爆発を引き起こした。
「武田信玄は三河戦線で過労死しますから、東の動きには余裕を持って対処出来ます。武田信玄を気にしなくていい以上、織田信長は、三好長慶以来の『京を支配する実力者』に為り得ます。まあ、直接お仕えするのは疲れますから、木下藤吉郎殿の軍師で丁度いいでしょう」
切れる五秒前の出浦盛清が、爽やかな天才軍師の方に近付く。
半蔵が牽制の為に向き合うと、出浦盛清は辛うじて激情を抑える。
「…話を、聞くだけだ。お屋形様の望みは、それだけだ。お屋形様は、人と話すのが、好きな人だから」
半蔵は、敢えて出浦盛清に背中を向けて、竹中半兵衛に訴えかける。
「彼の主君を謀殺する話題を持ち出して嬲るのは、止めてくれ。この警告を無視するなら、俺は、あんたを、庇わない」
藤吉郎は、『それ、仕事破棄じゃね?』と言いそうになったが、空気を読んだ。
天才軍師も、空気を読む。
出浦盛清に頭を下げると、詫びる。
「すまない。天下を取れる大名が出現する喜びに溺れて、武田の方に思慮を欠いた発言をした。ごめんなさい」
詫びを入れてきた相手を殺すような、出浦盛清ではない。何より服部半蔵が、出浦盛清は襲わないと信用して、背中を見せている。
出浦盛清は、この場で関係者一同を皆殺しにする大博打を、思い留まる。
礼儀正しく砂利敷石の上に座ると、挨拶を始める。
「武田の若手ナンバーワン武将、出浦盛清です」
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