66 / 78
八話 天才軍師は斯く語りき 稲葉山城狂詩曲 終編
稲葉山城狂詩曲(1)
しおりを挟む
日の出と同時に、濃姫は宿屋に泊まっている事を一切考慮せずに、全員を叩き起こそうとする。
頭上で叩き鳴らされようとする鍋を、夏美は寸前で止める。
「忍者に、そんな手段は通用しません」
同室の月乃とバルバラも、シャキーンと起きる。
月乃は、更紗が天井にも張り付いていない事を確認し、男部屋の襖を開ける。
藤吉郎が「む~ん」と、光秀が「ふ~む」と布団から起き上がる真ん中で、半蔵が更紗を簀巻きにしていた。
「昨夜の分を、朝に回しただけじゃなイカ」
更紗の言い訳を相手にせず、半蔵は嗅覚を拡げる。
「赤味噌?」
出浦盛清が、全員分の朝食を配膳し始める。
「自分だけ、土産なしの相乗りなので」
白飯・味噌汁(赤味噌・ネギ)・芋煮・大根の漬物・を一セットにした朝食の膳を、盛清は一人で準備していた。
誰にも気付かれずに。
「手裏剣を投げてくれただけで、構わないよ」
出浦盛清が、心外そうに半蔵を軽く睨む。
「背中を向けた落ち武者に一投しただけだ。釣り合わない」
出浦盛清の価値観では、チンピラ武士の命は味噌汁より軽い。
朝飯を食って身支度を整えるや、濃姫はとっとと稲葉山城へ向かう。
「予約した面談時刻は、未の刻(午後一時)ですよ」
「つまり、早く行けば自由時間がたっぷり余るっって事でしょ」
光秀のクレームは、濃姫に機能しない。
まだ午前七時にも達していないが、濃姫は一同を急かす。
「山の上にある二月の城をナメるなよ。霧が出る朝には、登城者が道に迷って遭難する事も…」
「今朝は、朝から快晴です」
夏美のツッコミに、濃姫は馬上で駄々をこねる。
「いいぃんだよ、細かい事はっっ!! 早くお城に着きたいの! 着きたぁいのぉ!! 着ぅぅきぃぃたぁぁいぃぃのぉぉぉぉ!!!!」
濃姫にとって、幼少の頃に育った実家である。
「父上が他人に作らせてから、そいつを追い出してまんまと押収した、良い城なのだ」
「濃姫様。その情報は、自慢には…」
濃姫はツッコミ入れようとする夏美の横に馬を付け、左乳房に指鉄砲を連打する。
「父上の武勇伝にツッコミを入れるな、乳首ブルーめがっ! 非業の死を遂げた偉人の功績にまでツッコミ入れようとしやがって! そんな空気を読まない忍者だから、乳首ブルーって全国区で呼ばれるのだ! 次に父上にツッコミ入れたら、その乳首に鼻くそ付けてやるから覚悟しろ、ごらぁ!」
夏美は、濃姫のハイテンションに怯んでツッコミを控える。
稲葉山城への山道入り口の関所を濃姫の顔パスで抜け、一行はサクサク進む。
標高三百メートルの山頂に建つ城へと続く山道なのに、城門へと近付く程に、濃姫は馬の速度上げる。
護衛が遅れる訳にはいかないので、半蔵達も馬の速度を上げる。
距離としてはそれ程でもないが、半蔵はこの旅路で一番緊張感を覚えた。
何事もなく城門を潜ると、濃姫は大音声で叫ぶ。
「稲葉山城よ! 帰蝶は帰って来た!」
次の日。
木下藤吉郎&濃姫with服部半蔵一家が、行きと同じ人数で小牧山城に戻って来たと聞かされたので、信長はてっきり失敗に終わったのだと思い込んだ。
(払いが一千貫で済むか)
セコい損得勘定をしていると、やや疲れている濃姫が顔を見せる。
「どうした?!」
信長が、駆け寄って倒れそうな正室を抱き抱えて問い質す。
「難しい話を一遍に聞いてしまって、疲れた」
「なんだ、知恵熱か」
信長が、小姓に濃姫をワンバウンドパスする。
後続の藤吉郎が、半蔵より前に出て、信長に帰還の挨拶をと顔を上げる。
ドヤ顔を隠していない。
そこそこ長い主従関係なので、信長は藤吉郎が大成功したと気付く。
「いつ合流する?」
「段取りは、既に付けました」
木下藤吉郎は、性急な主君に合わせて、ほいほい話を進める。
「八月に稲葉山城を斎藤龍興に返却しますので、好きにお攻め下さいとの事。竹中半兵衛は浅井家に身を寄せて、織田家との同盟をし易いよう、根回しを整えておくとの事」
「六角との戦いが条件か?」
「それと、浅井長政には正室がおりませぬので、婚姻の準備も進めよと」
「進める」
「あと、木下藤吉郎には、竹中半兵衛の主人に相応しい給料を与えてやれと」
「東美濃の城を一つ、くれてやるわ。禄高は、最低でも三百貫!」
「ありがとうございます!」
言って直ぐ、信長は書状を書いて手渡す。
まだ合併吸収していない土地を、勝手に譲渡&受領する主従だった。
獲ったり盗られたりの戦国時代でも、かなり悪どい取引が平然と眼前で行われている。
誰かがツッコミを入れる前に、半蔵が織田主従を弁護する。
「美濃は、既に前々国主が、全面委譲している物件だから」
「それ、引退した国主のだから、効力が…」
要らん指摘をしようとする夏美の口に、更紗がシマパンを突っ込んで塞ぐ。
頭上で叩き鳴らされようとする鍋を、夏美は寸前で止める。
「忍者に、そんな手段は通用しません」
同室の月乃とバルバラも、シャキーンと起きる。
月乃は、更紗が天井にも張り付いていない事を確認し、男部屋の襖を開ける。
藤吉郎が「む~ん」と、光秀が「ふ~む」と布団から起き上がる真ん中で、半蔵が更紗を簀巻きにしていた。
「昨夜の分を、朝に回しただけじゃなイカ」
更紗の言い訳を相手にせず、半蔵は嗅覚を拡げる。
「赤味噌?」
出浦盛清が、全員分の朝食を配膳し始める。
「自分だけ、土産なしの相乗りなので」
白飯・味噌汁(赤味噌・ネギ)・芋煮・大根の漬物・を一セットにした朝食の膳を、盛清は一人で準備していた。
誰にも気付かれずに。
「手裏剣を投げてくれただけで、構わないよ」
出浦盛清が、心外そうに半蔵を軽く睨む。
「背中を向けた落ち武者に一投しただけだ。釣り合わない」
出浦盛清の価値観では、チンピラ武士の命は味噌汁より軽い。
朝飯を食って身支度を整えるや、濃姫はとっとと稲葉山城へ向かう。
「予約した面談時刻は、未の刻(午後一時)ですよ」
「つまり、早く行けば自由時間がたっぷり余るっって事でしょ」
光秀のクレームは、濃姫に機能しない。
まだ午前七時にも達していないが、濃姫は一同を急かす。
「山の上にある二月の城をナメるなよ。霧が出る朝には、登城者が道に迷って遭難する事も…」
「今朝は、朝から快晴です」
夏美のツッコミに、濃姫は馬上で駄々をこねる。
「いいぃんだよ、細かい事はっっ!! 早くお城に着きたいの! 着きたぁいのぉ!! 着ぅぅきぃぃたぁぁいぃぃのぉぉぉぉ!!!!」
濃姫にとって、幼少の頃に育った実家である。
「父上が他人に作らせてから、そいつを追い出してまんまと押収した、良い城なのだ」
「濃姫様。その情報は、自慢には…」
濃姫はツッコミ入れようとする夏美の横に馬を付け、左乳房に指鉄砲を連打する。
「父上の武勇伝にツッコミを入れるな、乳首ブルーめがっ! 非業の死を遂げた偉人の功績にまでツッコミ入れようとしやがって! そんな空気を読まない忍者だから、乳首ブルーって全国区で呼ばれるのだ! 次に父上にツッコミ入れたら、その乳首に鼻くそ付けてやるから覚悟しろ、ごらぁ!」
夏美は、濃姫のハイテンションに怯んでツッコミを控える。
稲葉山城への山道入り口の関所を濃姫の顔パスで抜け、一行はサクサク進む。
標高三百メートルの山頂に建つ城へと続く山道なのに、城門へと近付く程に、濃姫は馬の速度上げる。
護衛が遅れる訳にはいかないので、半蔵達も馬の速度を上げる。
距離としてはそれ程でもないが、半蔵はこの旅路で一番緊張感を覚えた。
何事もなく城門を潜ると、濃姫は大音声で叫ぶ。
「稲葉山城よ! 帰蝶は帰って来た!」
次の日。
木下藤吉郎&濃姫with服部半蔵一家が、行きと同じ人数で小牧山城に戻って来たと聞かされたので、信長はてっきり失敗に終わったのだと思い込んだ。
(払いが一千貫で済むか)
セコい損得勘定をしていると、やや疲れている濃姫が顔を見せる。
「どうした?!」
信長が、駆け寄って倒れそうな正室を抱き抱えて問い質す。
「難しい話を一遍に聞いてしまって、疲れた」
「なんだ、知恵熱か」
信長が、小姓に濃姫をワンバウンドパスする。
後続の藤吉郎が、半蔵より前に出て、信長に帰還の挨拶をと顔を上げる。
ドヤ顔を隠していない。
そこそこ長い主従関係なので、信長は藤吉郎が大成功したと気付く。
「いつ合流する?」
「段取りは、既に付けました」
木下藤吉郎は、性急な主君に合わせて、ほいほい話を進める。
「八月に稲葉山城を斎藤龍興に返却しますので、好きにお攻め下さいとの事。竹中半兵衛は浅井家に身を寄せて、織田家との同盟をし易いよう、根回しを整えておくとの事」
「六角との戦いが条件か?」
「それと、浅井長政には正室がおりませぬので、婚姻の準備も進めよと」
「進める」
「あと、木下藤吉郎には、竹中半兵衛の主人に相応しい給料を与えてやれと」
「東美濃の城を一つ、くれてやるわ。禄高は、最低でも三百貫!」
「ありがとうございます!」
言って直ぐ、信長は書状を書いて手渡す。
まだ合併吸収していない土地を、勝手に譲渡&受領する主従だった。
獲ったり盗られたりの戦国時代でも、かなり悪どい取引が平然と眼前で行われている。
誰かがツッコミを入れる前に、半蔵が織田主従を弁護する。
「美濃は、既に前々国主が、全面委譲している物件だから」
「それ、引退した国主のだから、効力が…」
要らん指摘をしようとする夏美の口に、更紗がシマパンを突っ込んで塞ぐ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ま性戦隊シマパンダー
九情承太郎
キャラ文芸
魔性のオーパーツ「中二病プリンター」により、ノベルワナビー(小説家志望)の作品から次々に現れるアホ…個性的な敵キャラたちが、現実世界(特に関東地方)に被害を与えていた。
警察や軍隊で相手にしきれないアホ…個性的な敵キャラに対処するために、多くの民間戦隊が立ち上がった!
そんな戦隊の一つ、極秘戦隊スクリーマーズの一員ブルースクリーマー・入谷恐子は、迂闊な行動が重なり、シマパンの力で戦う戦士「シマパンダー」と勘違いされて悪目立ちしてしまう(笑)
誤解が解ける日は、果たして来るのであろうか?
たぶん、ない!
ま性(まぬけな性分)の戦士シマパンダーによるスーパー戦隊コメディの決定版。笑い死にを恐れぬならば、読むがいい!!
他の小説サイトでも公開しています。
表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
鬼面の忍者 長篠セブン
九情承太郎
歴史・時代
三十年近く無敗を誇り、戦国最強を謳われた武田の軍勢が露と消えた『長篠の戦い』は、一人のロックな武将の動きから連鎖して起きた。
奥平定能(おくだいら・さだよし)
一時は三河武士の半分を率いて今川に叛逆した問題児が、長篠城に籠城する息子を救う為に、服部半蔵を巻き込んで戦い抜ける。
鬼面の忍者 第四部、開幕!!!!
※他の小説サイトでも公表しています。
表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる