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七話 帰蝶の帰郷と桔梗の紋 稲葉山城狂詩曲 中編
武田信玄の殺し方(4)
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「松平が武田に降ればいいだけなのに。武士の意地は厄介ですな。一度は戦ってみないと、気が済まない」
半蔵の方も、挑発には乗らない。
「武田が他国への侵攻を止めればいいだけですよ。そうすれば、戦は起きない。平和になりますよ、かなり広範囲で」
悪いのは武田じゃないですかとばかりに、半蔵は持論を打つ。
「今の領地で充分では? 最強の称号も持っているし。わざわざ三河に攻め込んで、寿命を縮める必要はない」
「戦国武将が専守防衛を謳っても、説得力がない」
出浦盛清が、半蔵の持論を相手にしない。
明智光秀が、盛清の左から酒杯を渡しながら話に加わる。
「戦の口実は、どうとでもなる。領地が接していれば、戦の危険は常に在る。攻められるより攻める立場を一貫して生きる武田信玄は、真の強者です。末長く長生きしますように」
この酒宴の最年長者らしく、盛清の主人を褒めて煽てて場を和ませようとする。信玄過労死策に大喜びしたのを知っているので、最後の一言が余計な意味に取れるが。
木下藤吉郎が、右から盛清の口にカステラを「あ~~ん」しようとする。
「うちの殿は、武田の殿様を大いに尊敬していますからね。戦なんてトンデモナイ! 武田が攻めてきたら、何でも♥あ♥げ♥ちゃ♥うぅ♥」
藤吉郎の半端ないヨイショに、出浦盛清は笑って見せたが総毛立つ。
(どうして、この二人の『おべっか』に、脅威を覚えるのだ、俺は?)
出浦盛清は、この二人よりは半蔵を信じておこうと判断する。
「明日、同行してよろしいでしょうか? お屋形様からは、竹中半兵衛を中心にした土産話を期待されているのです。半蔵殿に便乗した方が、早く済みます」
「いいですね。まとめて行った方が、時間の節約になる。相手も喜ぶでしょう」
半蔵は、明日の同行を快諾し、酒杯を再開しようとする。
月乃が、半蔵の酒杯を持つ手を止める。
表から、馬の近付く音が聞こえてくる。
酒を飲んでいない月乃が、最初に気付いた。
目を合わせただけで、半蔵と妻たちは行動に移る。
半蔵が、二階の窓辺から表を覗く。
上り藤の家紋を付けた老武士が、五人の武士と供に宿屋に馬を寄せる。
老武士が、半蔵の覗き見を一瞥して返す。
「…舅殿です」
半蔵は、安藤伊賀守の到来を濃姫に告げる。
濃姫は、酒のせいで反応速度が一瞬遅れた。
濃姫が武器を取るより早く、月乃が羽交い締めにして身動きを封じ、バルバラが武器を部屋の隅にまとめて取らせないようにする。
「おいこらおい、おいこら」
更紗が濃姫の袴を外し、夏美が両足首を結ぶ。
藤吉郎と光秀は、視界に濃姫の艶姿を入れないように背を向ける。この姿を目に焼き付けようものなら、濃姫か旦那さんにブっ殺される。
「姉御、すみまねえ!」
酒で回らぬ呂律で、更紗が詫びる。
「わさびに、いや、おわびに、これをあげる」
更紗は、未使用のシマパン(白と緑のストライプ)を、濃姫の頭に被せる。
「似合ってる。流石は、姉御」
「酔いが醒めたらどう詫びを入れるのか、今から楽しみだね~」
半蔵の方も、挑発には乗らない。
「武田が他国への侵攻を止めればいいだけですよ。そうすれば、戦は起きない。平和になりますよ、かなり広範囲で」
悪いのは武田じゃないですかとばかりに、半蔵は持論を打つ。
「今の領地で充分では? 最強の称号も持っているし。わざわざ三河に攻め込んで、寿命を縮める必要はない」
「戦国武将が専守防衛を謳っても、説得力がない」
出浦盛清が、半蔵の持論を相手にしない。
明智光秀が、盛清の左から酒杯を渡しながら話に加わる。
「戦の口実は、どうとでもなる。領地が接していれば、戦の危険は常に在る。攻められるより攻める立場を一貫して生きる武田信玄は、真の強者です。末長く長生きしますように」
この酒宴の最年長者らしく、盛清の主人を褒めて煽てて場を和ませようとする。信玄過労死策に大喜びしたのを知っているので、最後の一言が余計な意味に取れるが。
木下藤吉郎が、右から盛清の口にカステラを「あ~~ん」しようとする。
「うちの殿は、武田の殿様を大いに尊敬していますからね。戦なんてトンデモナイ! 武田が攻めてきたら、何でも♥あ♥げ♥ちゃ♥うぅ♥」
藤吉郎の半端ないヨイショに、出浦盛清は笑って見せたが総毛立つ。
(どうして、この二人の『おべっか』に、脅威を覚えるのだ、俺は?)
出浦盛清は、この二人よりは半蔵を信じておこうと判断する。
「明日、同行してよろしいでしょうか? お屋形様からは、竹中半兵衛を中心にした土産話を期待されているのです。半蔵殿に便乗した方が、早く済みます」
「いいですね。まとめて行った方が、時間の節約になる。相手も喜ぶでしょう」
半蔵は、明日の同行を快諾し、酒杯を再開しようとする。
月乃が、半蔵の酒杯を持つ手を止める。
表から、馬の近付く音が聞こえてくる。
酒を飲んでいない月乃が、最初に気付いた。
目を合わせただけで、半蔵と妻たちは行動に移る。
半蔵が、二階の窓辺から表を覗く。
上り藤の家紋を付けた老武士が、五人の武士と供に宿屋に馬を寄せる。
老武士が、半蔵の覗き見を一瞥して返す。
「…舅殿です」
半蔵は、安藤伊賀守の到来を濃姫に告げる。
濃姫は、酒のせいで反応速度が一瞬遅れた。
濃姫が武器を取るより早く、月乃が羽交い締めにして身動きを封じ、バルバラが武器を部屋の隅にまとめて取らせないようにする。
「おいこらおい、おいこら」
更紗が濃姫の袴を外し、夏美が両足首を結ぶ。
藤吉郎と光秀は、視界に濃姫の艶姿を入れないように背を向ける。この姿を目に焼き付けようものなら、濃姫か旦那さんにブっ殺される。
「姉御、すみまねえ!」
酒で回らぬ呂律で、更紗が詫びる。
「わさびに、いや、おわびに、これをあげる」
更紗は、未使用のシマパン(白と緑のストライプ)を、濃姫の頭に被せる。
「似合ってる。流石は、姉御」
「酔いが醒めたらどう詫びを入れるのか、今から楽しみだね~」
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