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六話 濃姫は踵を三度鳴らす 稲葉山城狂詩曲 前編
織田信長とお茶を(2)
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桶狭間の戦いで、手勢を揃えても何も出来なかった反省を活かし、藤吉郎は美濃衆の調略だけに仕事を絞って結果を出してきた。二年間で三十人以上の名のある武士を織田に転向させたので、身分と給料は服部半蔵の半分くらいには上がっている。
藤吉郎は、もう満足している。
藤吉郎には構わず、半蔵は信長の問いに応える。
「軍師ですね。木下殿は人を集めて働かせるのは得意ですから、後は策を立ててくれる軍師さえ付けば、人並み以上の武将として働けます」
「あ、あのちょっと待って、半蔵。マジで褒めてくれたのは嬉しいけど、俺は人材斡旋能力だけで十分に貢献でき…」
「黙れぇーーぇ!!」
信長が、藤吉郎の顔面を蹴り飛ばす。
綺麗にクリーンヒットを貰いつつ、受身を取って深刻なダメージだけ避けている。
そして、元通りのポジションで相対する。
蹴る方も蹴る方なら、受ける方もどうかしている。
「この主従、おもしれ~」
更紗は、バイオレンスな主従漫才を肴に抹茶をガブ飲みする。
鼻血を手拭いで止めながら平伏する藤吉郎に、信長が訓示を垂れる。
「信長が欲しいのは、金勘定で黒字を出せるように、自力で遣り繰り可能な武将だ。ほとんどの武将は、赤字がチラつくと動きが鈍る。先行投資してでも働く武将が必要なのだ」
半蔵は、信長が自分のように勝手に動いてくれる黒字武将が欲しいのだと気付く。
(危ない。この接待、半分は調略込みか)
断って角が立つのもアレなので、藤吉郎で満足してもらう方向で半蔵もアシストを決意する。
「禿げネズミ! お前には、それが出来る! 軍師を得て、最前線でも武将として働け!」
信長の身勝手、いやリーズナブルな動機を聞き、藤吉郎は一応検討しながら断る理由を並べてみる。
「あ、あのう、自分のように身分が低い男の軍師に成ってくれそうな、奇特な方は、天下広しと言えども…」
すぐ隣国に、奇特なのは確実な天才軍師が暇を持て余している事に気付き、藤吉郎は口籠もる。
信長が、とっても優しく微笑みながら部下に教えてあげる。
「稲葉山城に、一人居るではないか。極上の軍師なのに、暇を持て余している大変人が」
「わー、本当だー、お教えいただき、ありがとうございますー」
「調略しに行け。汝の得意芸であろう」
「ではー…」
藤吉郎の頭の中で、竹中半兵衛を口説く際のシュミレーションが始まる。
藤吉郎「ぼく、藤吉郎! お友達から始めよう!」
竹中「通報しました」
藤吉郎「大好き! 軍師になって!」
竹中「通報しました」
藤吉郎「一緒に天下布武を…」
竹中「通報しました」
藤吉郎「世界平和の為に…」
竹中「通報しました」
藤吉郎「よう、相棒!!」
竹中「通報しました」
藤吉郎「隣の家に、塀が出来ました」
竹中「ブロック」
藤吉郎は、信長に援軍を乞うた。
「濃姫様を、お借りしたいのですが」
「ダメだ」
信長は正室の派遣を、即答で断る。
断りつつも信長は、藤吉郎から視線を逸らしてイライライラと室内をグルグル回る。
もう、接待中の客が眼中にない。
奥さんの心配をする信長を見物できて、服部隊は退屈しないが。
美濃の国主だった斎藤道三の娘・濃姫を説得役に向かわせれば、落ちない美濃衆はいない。
しかし、今の美濃に派遣すれば、誰かが御輿に担いだり人質に取ったりと、デメリットがデカい。特に、アホの斎藤龍興がナニかヤりそうである。
メリットとデメリットが、信長の脳内で激しく銃撃戦を繰り広げる。
「危険だ。ダメだ、危険過ぎる。ダメ。いい案だが、ダメ」
ハイリスク・ハイリターンのイメージが後世に強い信長だが、身内の女性にはトコトン甘くて過保護である。
ここで、半蔵が手を挙げる。
「濃姫様の護衛を、銭四千五百貫(三億六千万円)で引き受けましょう」
対武田諜報活動費用の一年分を、ここで一気に稼ぐ気だ。
一年目で軌道に乗せれば、百五十人の忍者軍団は、其れ自体が活動資金を稼いで余りある組織に成り得る。
信長のグルグルが、止まる。
「高い! 四百貫(三千二百万円)!」
富豪の信長が奥さんの警備費用を大幅に値切ってきたので、女忍者達は失望を顔に出さない様に、茶菓子を大量に頬張る。
半蔵は、妥協しない。
「稲葉山城の内部を、観察して報告も出来ますし」
「そんな事は、濃姫から聞いて知っておる」
実家より旦那の大戦略に乗る奥様だった。
「十年以上前の知識です」
「増改築部分は、最近調略した者に聞けばいい」
「おそらく竹中半兵衛が改造していますよ、此方が未だ知らない仕掛けを」
「よし。一千貫(八千万円)」
奥さんの警備費用より城攻めの下調べの方が高値だったので、女忍者達は茶を勝手にガンガン飲み始める。あまりの消費量に、茶頭の一人が気絶する。
信長が彼女達のリアクションに気付いて、少しプレッシャーを感じる。
「では、濃姫様の無事な送迎で一千貫。竹中半兵衛が藤吉郎の軍師に成れば、残り三千五百貫という契約では?」
「ふむ、安い買い物になった。契約する」
藤吉郎は、信長が自分(プラス竹中半兵衛)に濃姫や稲葉山城よりも高い値段を付けたと解釈し、燃えた。
「殿! この藤吉郎、絶対に竹中半兵衛を軍師にしてご覧にいれまする!」
「うむ。励め」
そうなるまでに三年もかかるとは、二人とも考えていなかった。
藤吉郎は、もう満足している。
藤吉郎には構わず、半蔵は信長の問いに応える。
「軍師ですね。木下殿は人を集めて働かせるのは得意ですから、後は策を立ててくれる軍師さえ付けば、人並み以上の武将として働けます」
「あ、あのちょっと待って、半蔵。マジで褒めてくれたのは嬉しいけど、俺は人材斡旋能力だけで十分に貢献でき…」
「黙れぇーーぇ!!」
信長が、藤吉郎の顔面を蹴り飛ばす。
綺麗にクリーンヒットを貰いつつ、受身を取って深刻なダメージだけ避けている。
そして、元通りのポジションで相対する。
蹴る方も蹴る方なら、受ける方もどうかしている。
「この主従、おもしれ~」
更紗は、バイオレンスな主従漫才を肴に抹茶をガブ飲みする。
鼻血を手拭いで止めながら平伏する藤吉郎に、信長が訓示を垂れる。
「信長が欲しいのは、金勘定で黒字を出せるように、自力で遣り繰り可能な武将だ。ほとんどの武将は、赤字がチラつくと動きが鈍る。先行投資してでも働く武将が必要なのだ」
半蔵は、信長が自分のように勝手に動いてくれる黒字武将が欲しいのだと気付く。
(危ない。この接待、半分は調略込みか)
断って角が立つのもアレなので、藤吉郎で満足してもらう方向で半蔵もアシストを決意する。
「禿げネズミ! お前には、それが出来る! 軍師を得て、最前線でも武将として働け!」
信長の身勝手、いやリーズナブルな動機を聞き、藤吉郎は一応検討しながら断る理由を並べてみる。
「あ、あのう、自分のように身分が低い男の軍師に成ってくれそうな、奇特な方は、天下広しと言えども…」
すぐ隣国に、奇特なのは確実な天才軍師が暇を持て余している事に気付き、藤吉郎は口籠もる。
信長が、とっても優しく微笑みながら部下に教えてあげる。
「稲葉山城に、一人居るではないか。極上の軍師なのに、暇を持て余している大変人が」
「わー、本当だー、お教えいただき、ありがとうございますー」
「調略しに行け。汝の得意芸であろう」
「ではー…」
藤吉郎の頭の中で、竹中半兵衛を口説く際のシュミレーションが始まる。
藤吉郎「ぼく、藤吉郎! お友達から始めよう!」
竹中「通報しました」
藤吉郎「大好き! 軍師になって!」
竹中「通報しました」
藤吉郎「一緒に天下布武を…」
竹中「通報しました」
藤吉郎「世界平和の為に…」
竹中「通報しました」
藤吉郎「よう、相棒!!」
竹中「通報しました」
藤吉郎「隣の家に、塀が出来ました」
竹中「ブロック」
藤吉郎は、信長に援軍を乞うた。
「濃姫様を、お借りしたいのですが」
「ダメだ」
信長は正室の派遣を、即答で断る。
断りつつも信長は、藤吉郎から視線を逸らしてイライライラと室内をグルグル回る。
もう、接待中の客が眼中にない。
奥さんの心配をする信長を見物できて、服部隊は退屈しないが。
美濃の国主だった斎藤道三の娘・濃姫を説得役に向かわせれば、落ちない美濃衆はいない。
しかし、今の美濃に派遣すれば、誰かが御輿に担いだり人質に取ったりと、デメリットがデカい。特に、アホの斎藤龍興がナニかヤりそうである。
メリットとデメリットが、信長の脳内で激しく銃撃戦を繰り広げる。
「危険だ。ダメだ、危険過ぎる。ダメ。いい案だが、ダメ」
ハイリスク・ハイリターンのイメージが後世に強い信長だが、身内の女性にはトコトン甘くて過保護である。
ここで、半蔵が手を挙げる。
「濃姫様の護衛を、銭四千五百貫(三億六千万円)で引き受けましょう」
対武田諜報活動費用の一年分を、ここで一気に稼ぐ気だ。
一年目で軌道に乗せれば、百五十人の忍者軍団は、其れ自体が活動資金を稼いで余りある組織に成り得る。
信長のグルグルが、止まる。
「高い! 四百貫(三千二百万円)!」
富豪の信長が奥さんの警備費用を大幅に値切ってきたので、女忍者達は失望を顔に出さない様に、茶菓子を大量に頬張る。
半蔵は、妥協しない。
「稲葉山城の内部を、観察して報告も出来ますし」
「そんな事は、濃姫から聞いて知っておる」
実家より旦那の大戦略に乗る奥様だった。
「十年以上前の知識です」
「増改築部分は、最近調略した者に聞けばいい」
「おそらく竹中半兵衛が改造していますよ、此方が未だ知らない仕掛けを」
「よし。一千貫(八千万円)」
奥さんの警備費用より城攻めの下調べの方が高値だったので、女忍者達は茶を勝手にガンガン飲み始める。あまりの消費量に、茶頭の一人が気絶する。
信長が彼女達のリアクションに気付いて、少しプレッシャーを感じる。
「では、濃姫様の無事な送迎で一千貫。竹中半兵衛が藤吉郎の軍師に成れば、残り三千五百貫という契約では?」
「ふむ、安い買い物になった。契約する」
藤吉郎は、信長が自分(プラス竹中半兵衛)に濃姫や稲葉山城よりも高い値段を付けたと解釈し、燃えた。
「殿! この藤吉郎、絶対に竹中半兵衛を軍師にしてご覧にいれまする!」
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