50 / 78
五話 三ツ者 または吉法師はイカにして心配するのを止めて信玄と文通するようになったか
猿面、アゲイン
しおりを挟む
小牧山城(現・愛知県)は、織田の旧本拠地・清洲から北へ五里(約二十キロ)の所にある。
濃尾平野の中にポッコリと小山がある場所で、信長が初めて城を築かせた。
美濃攻略の為だけに、信長は小牧山城に本拠地を移した。必要に合わせて本拠地を丸ごと移転する信長の極端な引っ越し人生は、ここから始まっている。
二月に訪れた服部半蔵&忍者妻四人は、堅固な小牧山城を中心に、城下町が清洲以上の盛況を見せている姿に驚く。
「町って、たった数年で此処まで発展できる物なのですね」
月乃が、現金な町の賑わいに少し引く。
どれだけ賑わおうと、城の主はアレである。
「勝っているのか」
半蔵が、かなり失礼な感想を口にする。
「微妙な戦況だったからねえ…げっ、同じ値段」
バルバラ音羽陽花が、露店に売り出してあるカステラが堺と同じ値段で売られていたので驚く。
「変な国ですね。勝率五割程度なのに、銭廻りだけは堺や京に負けない」
夏美が首を捻って不思議がるのも無理はない。
織田の戦況は、決して強国のものではない。
三河への侵攻を諦めた信長は、ここ数年は美濃攻略に専念している。
美濃側は国主が代替わりして若いボンクラになり、以前は連戦連勝だった信長に負けるようになり、織田に鞍替えする者が続出す。一気に信長の領地になるかと思われた。
だがしかし。
竹中半兵衛が美濃側の軍師として指揮を取った途端、形勢は再び織田の連敗に戻された。
「いくら軍師・竹中半兵衛が凄くても、相殺出来ない位に不安なボンクラなんだよ、美濃の斎藤龍興は。だから、美濃の有力武将は、次々と殿に鞍替えしているのさ」
木下藤吉郎秀吉が、ちゃっかり忍者妻四人組の中でトークに混じっている。
月乃から『助平で軽薄で油断のならない猿面エロ怪人』と聞かされていたので、他の三人も直ぐに名前に思い至る。
「久しいな。織田様の元へ、挨拶に参った」
「何じゃい、城下町で美人を四人も侍らせて。見せびらかしに来たのかと思ったぜ」
秀吉の方は、何時ものように馴れ馴れしくも、様子見である。
桶狭間の戦いまで忍んで密会していた服部半蔵が、全く忍ばずに来訪したのだ。しかもアポなし。
「実はな、京や堺でも、諜報活動を行う事になった。織田にも断りを入れておこうと思って」
秀吉の笑顔が、凍る。
城下町でも人出の多い市場で、何も隠さずに、この台詞。
「芸風が派手になったもんだ。まあ、殿は、その方が好みかな」
「じゃあ、繋ぎを頼めるかな?」
「そこまで偉くなってないよ。未だ。城で普通に、お目通りの手続きを踏んでくれ」
「あ~あ。待たされるのか」
更紗が、無表情なりに失望を溜め息で露わにする。
秀吉のプライドに障った。
「でもまあ、半蔵の頼みだしなあ。とっておきの極秘情報を教えてあげよう。今日は、夕餉の後で信玄公への手紙を書く予定だから、他の用事は断っているぜ。訪ねに行くなら、その時刻が狙い目だ。あのお二人は、月に一度は文通してんだぜ」
信長が信玄のペンフレンドと知り、半蔵は結構動揺する。
動揺すると、失言も出る。
「まるで三ツ者みたいだな」
半蔵の台詞に、秀吉は珍しくムッとして言い返す。
「向こうがそう思ってくれているうちは、殺されずに済むじゃないか。まともに戦おうとする、三河の方がイカれてるぜ」
半蔵は、妻たちと一緒に笑顔で応えた。
濃尾平野の中にポッコリと小山がある場所で、信長が初めて城を築かせた。
美濃攻略の為だけに、信長は小牧山城に本拠地を移した。必要に合わせて本拠地を丸ごと移転する信長の極端な引っ越し人生は、ここから始まっている。
二月に訪れた服部半蔵&忍者妻四人は、堅固な小牧山城を中心に、城下町が清洲以上の盛況を見せている姿に驚く。
「町って、たった数年で此処まで発展できる物なのですね」
月乃が、現金な町の賑わいに少し引く。
どれだけ賑わおうと、城の主はアレである。
「勝っているのか」
半蔵が、かなり失礼な感想を口にする。
「微妙な戦況だったからねえ…げっ、同じ値段」
バルバラ音羽陽花が、露店に売り出してあるカステラが堺と同じ値段で売られていたので驚く。
「変な国ですね。勝率五割程度なのに、銭廻りだけは堺や京に負けない」
夏美が首を捻って不思議がるのも無理はない。
織田の戦況は、決して強国のものではない。
三河への侵攻を諦めた信長は、ここ数年は美濃攻略に専念している。
美濃側は国主が代替わりして若いボンクラになり、以前は連戦連勝だった信長に負けるようになり、織田に鞍替えする者が続出す。一気に信長の領地になるかと思われた。
だがしかし。
竹中半兵衛が美濃側の軍師として指揮を取った途端、形勢は再び織田の連敗に戻された。
「いくら軍師・竹中半兵衛が凄くても、相殺出来ない位に不安なボンクラなんだよ、美濃の斎藤龍興は。だから、美濃の有力武将は、次々と殿に鞍替えしているのさ」
木下藤吉郎秀吉が、ちゃっかり忍者妻四人組の中でトークに混じっている。
月乃から『助平で軽薄で油断のならない猿面エロ怪人』と聞かされていたので、他の三人も直ぐに名前に思い至る。
「久しいな。織田様の元へ、挨拶に参った」
「何じゃい、城下町で美人を四人も侍らせて。見せびらかしに来たのかと思ったぜ」
秀吉の方は、何時ものように馴れ馴れしくも、様子見である。
桶狭間の戦いまで忍んで密会していた服部半蔵が、全く忍ばずに来訪したのだ。しかもアポなし。
「実はな、京や堺でも、諜報活動を行う事になった。織田にも断りを入れておこうと思って」
秀吉の笑顔が、凍る。
城下町でも人出の多い市場で、何も隠さずに、この台詞。
「芸風が派手になったもんだ。まあ、殿は、その方が好みかな」
「じゃあ、繋ぎを頼めるかな?」
「そこまで偉くなってないよ。未だ。城で普通に、お目通りの手続きを踏んでくれ」
「あ~あ。待たされるのか」
更紗が、無表情なりに失望を溜め息で露わにする。
秀吉のプライドに障った。
「でもまあ、半蔵の頼みだしなあ。とっておきの極秘情報を教えてあげよう。今日は、夕餉の後で信玄公への手紙を書く予定だから、他の用事は断っているぜ。訪ねに行くなら、その時刻が狙い目だ。あのお二人は、月に一度は文通してんだぜ」
信長が信玄のペンフレンドと知り、半蔵は結構動揺する。
動揺すると、失言も出る。
「まるで三ツ者みたいだな」
半蔵の台詞に、秀吉は珍しくムッとして言い返す。
「向こうがそう思ってくれているうちは、殺されずに済むじゃないか。まともに戦おうとする、三河の方がイカれてるぜ」
半蔵は、妻たちと一緒に笑顔で応えた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
和ませ屋仇討ち始末
志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。
門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。
久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。
父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。
「目に焼き付けてください」
久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。
新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。
「江戸に向かいます」
同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。
父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。
他サイトでも掲載しています
表紙は写真ACより引用しています
R15は保険です
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
天下人織田信忠
ピコサイクス
歴史・時代
1582年に起きた本能寺の変で織田信忠は妙覚寺にいた。史実では、本能寺での出来事を聞いた信忠は二条新御所に移動し明智勢を迎え撃ち自害した。しかし、この世界線では二条新御所ではなく安土に逃げ再起をはかることとなった。
武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~
田島はる
歴史・時代
桶狭間の戦いで今川義元が戦死すると、武田家は外交方針の転換を余儀なくされた。
今川との婚姻を破棄して駿河侵攻を主張する信玄に、義信は待ったをかけた。
義信「此度の侵攻、それがしにお任せください!」
領地を貰うとすぐさま侵攻を始める義信。しかし、信玄の思惑とは別に義信が攻めたのは徳川領、三河だった。
信玄「ちょっ、なにやってるの!?!?!?」
信玄の意に反して、突如始まった対徳川戦。義信は持ち前の奇策と野蛮さで織田・徳川の討伐に乗り出すのだった。
かくして、武田義信の敵討ちが幕を開けるのだった。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】
しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。
歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。
【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】
※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。
※重複投稿しています。
カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614
小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる