鬼面の忍者 R15版

九情承太郎

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一話 三河戦線異常なし

三河戦線、異常なし(3)

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「おう、半蔵。戦果の確認をさせてくれ」

 声を掛けながら、常春は違和感を覚える。
 武装を解いて傷の手当てをしていた服部隊の面々に、さっきの下半身褌一丁の女兵士がいない。

「褌女は? さっきまで居たはずだ!?」

 あの薄装備では、劣情を煽られた兵士達に狙われて襲われる可能性が高い。
 常春の脳裏に、物陰に連れ込まれて輪姦される下半身褌一丁の女兵士の姿が浮かぶ。
 早めに助ければ、種付けだけは避けられるかもしれない。

「誰か、見ていないか? 尻丸出しだから、見ているはずだぞ?」

 常春の問いに、服部隊はキョトンと驚いている。
 半蔵が手足に負った戦傷を手当てしている少女兵士・月乃つきのが、今度もハキハキと応える。

更紗さらさですね。無事です」

 月乃の視線の先に、器量はいいが無表情・無愛想・無頓着な女が、手裏剣の血油を拭いている。
 戦闘が終わったからなのか、下半身に袴を着ている。

「女を尻だけ見て覚えようとするのは、どうかしている」

 自分が目撃者に与えたインパクトを脇に置いて、更紗は常春を非難する。

「すみません」

 常春は素直に謝って、本題に戻る。

「今夜の服部隊の戦果は、夜襲の成功に導いた事と、一番槍と、高木清秀の撃退。これで間違いないね? 他に申告したい手柄は有るかな?」

 服部半蔵は、不思議そうに首を傾げる。

「百人斬りって、夜襲の時だと評価されないのですか? そういう習わしですか?」
「…え?」
「我が家は父の代から武家に転職したので、武家の常識には疎いかもしれないなって、常々心配で」
「いや、そうじゃなくて…」

 常春は、片付けられつつある織田兵の屍体に目を凝らす。
 外傷は、槍の傷ばかり。
 城内の服部隊で槍を得物にしているのは、半蔵だけ。

「半蔵様以外は、物見櫓や門番へ掛かっておりましたので、一階の屍体は間違いなく半蔵様の手柄です」

 月乃が、すかさずフォローする。

「問題ないよう。ちょっと驚いただけ」

 常春は、固まった祐筆ゆうひつ(記録係)を小突く。
 呆然としていた祐筆が、記録を再開する。
 常春の脳裏には、
『初陣で百人斬りとか、化け物か』
『味方で良かった』
 とか
『看護の手付きから見て、この娘さんをセフレにしているな』
 という感想を押し退けて、一つの思考が台頭する。

『俺の手には負えないから、殿に任せるべきだ』


 三河の盟主(仮)松平元康もとやすが直接、服部半蔵に感状と褒美を渡すという報せが届き、服部家では万歳三唱で半蔵を送り出した。
 行き先は三河の主城・岡崎城ではなく、隣国今川の主城・駿府城になる。
 三河の御曹司・松平元康は、駿府城城内の城代屋敷で、人質として飼われている。

「我慢しろよ、半蔵」

 半蔵の父・服部保長は、送り出す際に昨晩と同じ台詞を繰り返した。
 忍者から転職しても、元同業者から駿府城の様子はかなり耳に入る。

「殿に対する今川の軽んじ方は、箍が外れておるぞ」

 給金の低い忍者稼業から武士に転職し、戦功の立て易い激戦区・三河に引っ越したのはいいものの、仕えた松平家は当主が二代連続で暗殺されてしまい、御曹司は今川に人質に取られたまま。今の三河衆は、今川家に都合よく扱き使われている。
 特に戦の手柄は相当に横取りされている。

「先日世話になった米津殿は、織田の指揮官を捕虜にしたのに、軍を率いていた今川家軍師の功績にされた事もある」

 道中で半蔵は、父から聞かされた話を、連れの月乃に流す。

「殿は今川の侍から、『三河の宿なし』と呼ばれているそうだ。時には面と向かって」

 雅と聞いていた今川家のイジメに、月乃は開いた口が塞がらなかった。

「という訳で、殿への無礼に耐えられずに、相手を殴りそうになったら、止めてくれ」

 月乃は、怪訝な顔で苦笑する。

「未だ会った事のない人に、そこまで忠義心を?」
「会えば、気が合うかもしれん。同い年だし」

 半蔵が未だ見ぬ主君に結構期待しているのを見て、月乃は微笑む。
 松平元康に会った事がある三河衆の情報では、
「かっこいい」
「聡明」
「智慧者」
「読書家」
「超優しい」
「義理堅い」
「律儀」
「マジ、パねえ」
「抱かれたい」
「あげてもいい」
 と、大好評大絶賛である。
 今は今川家に酷使されているが、彼さえ三河の地に戻れば、独立国として他国に舐めた真似をさせない真っ当な国になると、信奉している。
 何だか、既に救世主扱いである。
 そういう空気の中で育ったので、合理的思考を鍛えられた伊賀流の半蔵でも、憧憬抜きには望めない。

「確かに、三河での人気は凄いですね。まるで仏様扱い」

 一年前に伊賀の里での修行を終えてから三河の服部家に就職した月乃には、今の三河に漂う『松平元康信奉』がない。空気を読んで言わないが、ちょっと引いている。
 半蔵は月乃の反応に、襟を正す。

「いや、戦国時代だからね、そこいら辺は、冷静に、冷徹に判断するよ。自分の主として相応しいかどうか」

 ハードボイルドな雰囲気に戻ろうとする半蔵を、月乃は面白がって見守る。
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