唾棄すべき日々(1993年のリアル)

緑旗工房

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第36話 人質

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「ところでポンちゃん、そっちの派遣先はどう?。
なんとか抜けられそうなの?」

俺は派遣先で苦労しているポンちゃんの様子を聞いた。

「一応、私は今月で抜けられることになったんです。
でも全員で戻れるかと思ったら、どうも今田君だけが残されるらしくて…」

ポンちゃんの派遣先は我々とは別分野の技術力が必要で、どう考えても我々では無理なものだった。
手を引いてくれと何回も上司に言ったが上司も会社も動かず、ポンちゃんたちは悶々としていた。
撤退の方向で動き出したのは朗報だが、完全撤退ではないのが気になる。

この仕事の派遣メンバーは3人、2人は黒井課長の部下で1人は業田課長の部下という混成部隊だ。
当初はポンちゃんの上司の黒井課長の担当だったが、ある時期から業田課長の担当に変わっていた。
途中で担当が変わるのも妙だが、ウチでは無理な仕事ともう分かっているだろうな、なぜこの仕事にこだわるのか理解できない。
しかし、よりによって無能課長の二代巨頭、黒井と業田がからむ仕事とはポンちゃんも不運だ。

なぜ今田が人質になるのかを考えてみた。
普通に考えたら一番上のポンちゃんを残すはずなのに、なぜ今田なのか。

おそらく、この仕事の今の担当が業田課長だからだろう。
3人の中で業田課長の部下は今田だけ、さすがに他の課の人間を人質にする訳にはいかないから今田を選んだのだろう。

ポンちゃんによると、ようやく会社も撤退の方向で動いているものの、向こうの会社が強く抵抗しているそうだ。
大ベテランを派遣するから3人を撤退させてくれと交渉したが、向こうは拒否。
正直、大ベテランが行ったところでなんとかできるとも思えない。
会社は大ベテランを投入すれば一部だけでも撤退はできるし、もしベテランが上手くやってくれればそれでよし。
ダメならばもう無理だから撤退させてくれと再度説得するための材料にするのではないか。
しかし向こうは3人の撤退は断固拒否、おそらく逃げる布石だと見抜いているのだろう。
結局、妥協案として人質を1人残して大ベテラン投入という方向でまとまりつつあるようだ。

しかしポンちゃんによると、そもそも我々では手も足も出ない内容なので大した結果は出せていない、また最初から無理だと思っていたのでいつでも撤退できるよう引き継ぎ資料を作ってあるので、それだけあれば人質など不要だと言っていた。

ポンちゃんが続けた。

「業田さんに言ったんですよ、このまま続けても我々の力じゃ無理なんだから人質残しても意味がないって。
大ベテランを投入したところでうまく行くとは思えないし、結局なにもできず時間だけが過ぎて一番迷惑するのは向こうですよ。
でも、なんで向こうがウチにこだわるんだろう、それが理解できない」

憮然とした表情のポンちゃんが話を続けた。

「だいたい大ベテランって誰のことなんですかね、今そんな人が余ってるはずないじゃないですか。
どうせこれから人を探す泥縄作戦なんでしょうけど、見つかるのかなぁ。
それより心配なのが今田、最近ちょっとおかしいんですよ。
あいつ大丈夫かな…」

心配そうにポンちゃんが呟いた。
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