唾棄すべき日々(1993年のリアル)

緑旗工房

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第25話 怒髪天をつく

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新しい派遣先に移ったばかりのポンちゃんの表情は暗く沈んでいた。
話を聞くと、今度の派遣先の仕事は我々とは違う分野のスキルを求められるもので、とてもじゃないけど我々の手に負えないものらしい。

コンピュータの技術者といっても多岐にわたる。
我々の仕事は大型汎用機の事務計算系ソフトの開発だ。

事務計算といっても内容は様々、生産管理、給与計算、健康保険、情報検索など多岐にわたる。
当然、人によって得手不得手は当然ある。
でも初めての分野の仕事であっても業務内容を理解するまでに苦労はするが、それは仕事のうちだ。
しかし制御系ソフトなど全くの別ジャンルとなると、正直手も足も出ない。
何のノウハウも持っていないのだから、簡単に商売替えができるはずがない。

世間から見れば同じソフトウエア技術者と思われがちだが、技術職は専門的になればなるほど細分化される。
医者に例えると、内科といっても一般内科もあれば循環器内科や消化器内科など高度になればなるほど細分化される。
ましてや内科から外科となるとほぼ別世界、内科医にすぐ手術を任せるような野蛮な病院はないだろう。
もちろん基本は一緒なので学ぶ時間があれば別だが、現場に求められるのは即戦力だ。
この不況下ではじっくり育ててくれる派遣先などあるわけもなく、即戦力ですら職にあぶれている状態だ。

ポンちゃん自身もまだ仕事の全容がつかめていないらしいが、明らかにウチの会社の専門外であることは確実だそうだ。
なんでこんな仕事を会社が取ってきたのかは謎だし、ポンちゃんの上司の黒井課長だってウチのできる仕事じゃないことぐらい分かるはずだ。
全く何を考えているのか。

これまでは大手電気メーカー関係の仕事ばかりだったので、馴れ合いの営業でも大きな問題はなかった。
別分野の仕事を振られることもなかったし、向こうだってこっちのことを知っているから振ってくることもなかった。
そもそも仕事は山のようにあるのだから、無理そうな仕事は断ればいいだけ。
しかし不況になってからは無理やり探し出した新規の客も増えた。
きっと営業が何も考えずに受けたのだろう。

ポンちゃんは上司の黒井課長にそのことを報告するために今日戻ってきたそうだが、案の定黒井は
「やる前からギブアップするな。とりあえずやってみて、ダメならその時考えればいい」
という低俗な精神論しか言わなかったそうだ。
黒井らしい態度だ、これで何回も失敗しているというのに。

温厚なポンちゃんにしては珍しく声を荒げて吐き捨てた。
「やってみろって言われても無理なものは無理ですよ、冗談じゃないよ黒井のヤツ」

温厚で有名なポンちゃんが珍しく感情を露わにする姿を見て、いかに無理な仕事を要求されているかが痛いほど伝わってきた。
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