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第20話 極秘の退職
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Eさんはかなり前から退職を決めていて、ボーナス8割カットの発表前にはすでに退職届を提出していたそうだ。
しかし退職することは極秘にしていた。
それは黒井課長から、Eさんが辞めることが周りに伝わると他の社員が動揺するという理由で口止めされていたからだ。
動揺するも何も辞めるのは労働者の権利だし、そもそもボーナス8割カットの方がよほど動揺するでしょ。俺だったらそんな指示には従わないが、俺と違って大人のEさんは時期が時期ということもあって指示通りに隠していた。
引き際は綺麗にしたいと考えて、ほんの一握りの人だけにしか伝えてなかった。
その一部の人たちが密かにセッティングしたのが今日の送別会だったが、本当に直前まで極秘にされていて俺が出欠を聞かれたのも昨日だった。
いきなり送別会と聞いて驚いたクチだが、そんな人ばかりだった。
極秘で準備して直前に一気に出欠を取った幹事たちは色々大変だっただろうが、彼らのなんとしてでも送別会を開きたいという熱意で開催できた。
それはEさんの人徳の成せるわざだろう。
「Eさん、知りませんでしたよ、辞めるの」
「私なんか今日の昼に聞いたんですよ」
後輩たちがEさんにお酌をしながら別れを惜しんでいた。
その光景を見ながら「当分、送別会が続くだろうな」と俺がつぶやいたら、ポンちゃんがビール片手に俺の横にきて会社の噂を話し出した。
「会社の借金が10億円あるって噂があったじゃないですか、あれ本当らしいですよ」
「俺は8億円って聞いたけど、いずれにしてもウチの規模ではデカイよね。
自転車操業どころか一輪車操業って感じかな」
「自転車以下の安定性ってことですか。
そういえば自宅待機から生還した人がいるらしいですね、知ってます?」
そうそう、自宅待機から奇跡の生還をしたヤツがいた。
そいつは俺の課の後輩で、一週間程前に復帰したらしい。
まだ若いが妻帯者で子供もいるヤツなので、復帰できたのは嬉しいニュースだ。
「自宅待機より復帰できた方がいいに決まってますよね。
でも、こんな会社に戻るよりクビになった方がいいのかもしれない。
ひょっとしたら会社が潰れた方が幸せなのかも」
ポンちゃんは独り言のようにつぶやいて、ぬるくなったビールを飲み干した。
しかし退職することは極秘にしていた。
それは黒井課長から、Eさんが辞めることが周りに伝わると他の社員が動揺するという理由で口止めされていたからだ。
動揺するも何も辞めるのは労働者の権利だし、そもそもボーナス8割カットの方がよほど動揺するでしょ。俺だったらそんな指示には従わないが、俺と違って大人のEさんは時期が時期ということもあって指示通りに隠していた。
引き際は綺麗にしたいと考えて、ほんの一握りの人だけにしか伝えてなかった。
その一部の人たちが密かにセッティングしたのが今日の送別会だったが、本当に直前まで極秘にされていて俺が出欠を聞かれたのも昨日だった。
いきなり送別会と聞いて驚いたクチだが、そんな人ばかりだった。
極秘で準備して直前に一気に出欠を取った幹事たちは色々大変だっただろうが、彼らのなんとしてでも送別会を開きたいという熱意で開催できた。
それはEさんの人徳の成せるわざだろう。
「Eさん、知りませんでしたよ、辞めるの」
「私なんか今日の昼に聞いたんですよ」
後輩たちがEさんにお酌をしながら別れを惜しんでいた。
その光景を見ながら「当分、送別会が続くだろうな」と俺がつぶやいたら、ポンちゃんがビール片手に俺の横にきて会社の噂を話し出した。
「会社の借金が10億円あるって噂があったじゃないですか、あれ本当らしいですよ」
「俺は8億円って聞いたけど、いずれにしてもウチの規模ではデカイよね。
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