唾棄すべき日々(1993年のリアル)

緑旗工房

文字の大きさ
上 下
18 / 53

第18話 トップセールス

しおりを挟む
当然だが、会社も手をこまねいていたわけではなく必死の努力をしていた。

これまで営業にはタッチしなかった社長だが、もうそんなことは言っていられない。
社長自らが得意先を訪問して、必死の営業活動をしていた。
中でも力を入れていたのが、一番仕事をもらっていた大手電気メーカーへの営業活動だ。

これまでは先方の主任か課長クラスまでとしか繋がっていなかった、というかそのクラスと繋がっていれば十分に仕事をもらえていたので必要もなかった。
しかし今となってはそのクラスではいくら頑張っても仕事は出てこなくなり、部長クラスに会っても仕事は出てこなかった。
必死になって努力した結果、なんとそのメーカーの会長に会えることになった。

会長は数年前に社長から退いた人とはいえ、大会社の元社長となれば今でも相当な権限を持っているはずだ。
その会長に泣きつけば多少なりとも仕事にありつけると思った役員たちは、小躍りして喜んだ。
しかし現実は全く違った、甘くなかったのだ。

社長と役員が揃って会長に会ってもらった時、会長が発した言葉は想像以上に厳しいものだった。

「おたくはトップセールスが6ヶ月遅い。早いところは1年前からトップが動いていますよ」

どうやらウチは危機感を持つのが遅すぎたようだ。

会長は検討しておきましょうというニュアンスのことを言ったらしいが、まあ社交辞令で動く気はなかったのだろう。
案の定、その後仕事の話が来ることはなかった。


このころになると業界全体が不況に喘いでいた。
ウチのように大量の仕事に忙殺されて不況に気がつかなかった会社も、それらの仕事が終われば否応なく現実と対面することになる。
気がつく時期は抱えている仕事の量や納期によってタイムラグがあるものの、遅かれ早かれ現実に直面する日が来る。
そして、どの会社の眼前にもバブル崩壊という荒野が広がっていた。

他社の噂もあちこちから伝わってきていた。
大手ソフトウエアハウスが給料遅配に追い込まれたという話を聞いた時はショックだった。
あの会社がそうなってしまうのか。
しかし、そこは大手メーカーの資本が入っていたので倒産だけはなんとか避けられたそうだ。

ウチはお得意様の大手電気メーカーの仕事がほとんどだが、別に資本関係があるわけではない。
形の上では独立系ソフトウエアハウスということにはなるが、そのメーカーにたよりっきりの小判鮫だ。

大手の資本が入っていても苦しいのに、ウチみたいな小さく弱い会社はどうなるのか。
不安しかなかったが、目先の仕事をこなしながら愚痴をこぼしあうことしかできなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...