唾棄すべき日々(1993年のリアル)

緑旗工房

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第15話 揺れる気持ち

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冬のボーナスが前年の5分の1しか支給されないとの発表があってから、急に慌ただしくなった。
といっても会社ではなく俺の気持ちが、である。

今後の不安もあってポンちゃんとの情報交換はさらに頻繁になり、あまり接点のなかった人にまで連絡をして情報交換をするようになったのだ。
あらゆる機会を使って情報収集をするようになり、その結果妙に社交的な性格に変わっていった。
俺の中で、なにかが変わり始めていたのかもしれない。
いい情報は全くなかったが、それでもせめて情報だけでもいいから欲しかった。
これから俺たちはどうなっていくのか。

ボーナスが5分の1になると知った途端、会社を見限って辞める社員が出はじめた。
多くは若くて独身で実家暮らしの身軽な人だった。
うんざりして辞めたい気持ちはよくわかるが、この状態では同業他社に転職するのも難しそうだ。
若くて身軽な人は辞めるという選択肢も取れるが、もう若くはない人や家庭持ちはそうそう簡単には辞められない。
辞められる若手がちょっとだけ羨ましかった。

もっとも、辞めていく若手も彼らなりに追い詰められていた。
ウチの若手は車好きが多く、ソアラ、マークⅡ、フェアレディZなど彼らの年収を超えるような高価な車を持っていて、ボーナスはローンの支払いなどに消える。
彼らの生活は車中心で、休みのたびに若手同士でドライブに行って酒もパチンコもほとんどしない。
そんなお金があったらガソリン代にしたいそうだ。

以前、若手と残業していて晩飯にラーメン屋に行った時のことだ。
テーブルの上にすりおろしニンニクの容器があって、3分の1ほどのニンニクが入っていた。
冗談で、これを全部食べられたらラーメン代を奢ると言ったら、若手は目を輝かせてやりますと即答した。
そしてニンニクを完食、約束通り奢ったものの、その日の残業はニンニク臭くて閉口した。
たかがラーメン代程度でも節約して車につぎ込みたいというのが、彼らの価値観だった。
そんな彼らだから、ボーナス大幅カットで下手したら愛車を手放さなければならなくなりそうな会社に居続けることはできないのだろう。


給料カットにボーナスカットという経済的ダメージだけでなく先が見えないやりきれない気持ちも入り混じって、みんなダウン寸前だった。
しかし愚痴を言ったところで何も変わらないし、目先の仕事が減るわけでもない。
黙々と仕事をするしかない。
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