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挿れただけでも気持ちいいのに

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 この部屋に来てからさんざん男の性器を見てきたというのに、私は目の前にいる男の下腹部を直視できないでいた。
 目の端では、信じられないほど「それ」がそそり立っているのが分かる。こんなまがまがしい形のものがこれから自分の中に入ることを想像して、私のお腹の奥のむずがゆい感じ、いたたまれない感じはさらに強くなった。
 彼の性器が私の“入り口”に当てられた。
「それじゃ、入れるよ」
 私はソファに身を横たながらただ顔を覆っていた。もう「待つ」しかなかった。長らくこの時を待ち望んでいながら、私の心の中は嬉しさと怖さの二つの間で揺れ動いて定まらなかった。もうどうにでもなれとさえ思った。
 彼の性器が入って来た。
 みるみるうちに私の秘部が押し広げられていっているのが分かる。
 普段は閉じているはずの部分が、徐々に彼の性器によって開かれていく瞬間は、短くも長くも感じた。
 彼の「棒」の先端は、私の久しく触れられていないところにまで達した。オナニーの時でさえ刺激したことのない奥深くまで押し分けられた。
 私はこの間(かん)、吐き続けていた息が、はじめて止まった。
 ほとんど電気的な痺れのような感覚に占められて、頭が混乱していた。
 私はここで初めてはっきりと、頭の中で言葉にした。
『気持ちいい……』
 挿れただけでもこんなに気持ちいいのに、出したり入れたりするなんて信じられなかった。今さらセックスというものの快楽の大きさに狂気すら感じ始めていた。
 すると、
「大丈夫?」
 と彼に聞かれたので、私は無言で頷いた。彼を受け入れていた。
 彼は徐々に腰を動かし始めた。動きはやはり慣れているような感じで、規則的な機械のように次第に速度を速めて行った。
 「棒」を出し入れするたびに快楽は高まって行く。まるで快楽のメーターがあってそれが少しづつ増えて行くような感じだった。もはや何が起きてるかさえ分からないほど混乱しているが、自分の身体が『気持ちいい』という感覚に満たされているのだけは分かった。
 『自分はついに“彼らの一人”になった……』
 私はそう思った。
 ついさっきまでただセックスに耽る群衆を眺めるだけだった自分が、恥ずかしさや混乱のために居場所すら分からなくなっていた自分が、今や“彼ら”、いや、“セックス好きな芸能人たち”と同じように、ただ一生懸命に快楽を味わっている。
 隣でもセックス。向こうでもセックス。隠れたところでもセックス。
 私は今まさにセックスの一部となって全体の熱気の片端を担っていた。身体から発せられる自分の熱、口から発せられる声……。
 その時、私は初めて自分が叫び声のような声を漏らしているのに気づいた。まるで今にも窒息しそうな人が空気を欲しがっているような。その時にはもう遅く、止めようがなかった。爆音を突き抜けて誰かにその声が聞こえていようといまいと、彼の腰が止まない限りは私の底から突き上がる声は止まらなかった。
 ……どれくらい経ったか、はじめて彼のピストンのペースが落ちた。
 私はふと数メートル先に、芸能人とは違う“見慣れた横顔”があるのが見えた。苦しいような、悲しいような、でもどうしようもなく嬉しそうな顔。何かに必死に耐えているような顔。何より、その受け身のみだらな行為とは似つかわしくない、そのボーイッシュな短髪と凛々しいシャープな顔立ち。信じられなかったが私の友人だった。さっきまで私の隣で「群衆」を外で眺めていた彼女だった。いつ“そうなった”のか。分からなかったが、彼女も今の私と同じことをしている。私は彼女のクールなところや、いわゆる“イケメン”な言動を、普段から同じ女子として尊敬していた。おかしな話だが、彼女は“入れる”ことはあっても“入れられる”ことはないと勝手にどこかでイメージしていたところがあったので、今ソファに横たえながら自分が見ている彼女は、すぐには受け入れらないものがあった。
 私を攻め立てていた彼は私の視線に気づいたのか、その先を追って、私と同じところを見て言った。
「あ、あれ君の友達だよね。めっちゃ気持ちよさそうにしてるじゃん」
 とさらに続けてこう言った。
「彼女のとなり、行こっか」
 私はその言葉に咄嗟に反応できず、喘ぎ声と交じった声で「えっ、あっ」と言った。
「大丈夫。セックスはみんなでやればやるほど気持ちいいんだから」
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