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第五話
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誰もいない静かな教室を目にしたとき、舞桜はいつもより三十分早く登校していたことに気づいた。今朝、慌てて家を飛び出したからだ。自分の席に座り、教室を見回したり、窓の外を眺めたりしながらふと物思いに耽る。今日彼をいつどうやって呼び出そうか、未だ決まっていなかったのにふと気付き、慌ててスマホを手に取り、そして、彼の個人ラインを開いた。メッセージはお互い何も送信されていない。そもそも、自分の連絡先を彼が登録していない可能性が高い。そんな中で、急にラインでメッセージを送りつけ、昼休みなり放課後なりの時間帯に彼を呼び出すのは出来ないと舞桜は悟った。
なら、教室に行って直接呼び出すのはどうかとちょっとだけ考えてはみたが、体が反射的に却下。まさに為す術なしといった状態の舞桜。廊下の窓越しに愛奏と山下はその様子を見ていた。
なぜ二人がそこに居るのか。それには訳がちゃんとある。実は、昨日の夕方愛奏は山下に相談を受けていた。スーパーに行くといって走り去った愛奏。それは半分嘘で山下から相談を受けるため、そのスーパーの隣にある喫茶店に駆け込んで話をしていたのだ。
山下も告白の切り口に困っていたらしい。世話焼きな愛奏は山下に提案を持ち掛けた。
「明日、朝教室に来て山下くんの方から会う時間と場所を伝えること、いい?」
山下は急に焦り始めた。そんな彼に理由を訪ねるがもごもごとした口調であまりはっきりとしたことは言わなかった。
「わかった。私がフォローするからちゃんとやってね」
「え?どういうこと?」
「私が先に教室に入って舞桜と喋っとくから、教室のドアを開けたらまず私を呼ぶの。これは周りには私と話してるように見せかけるための口実ね。それで、話を終えたらあなたは自分の教室に帰る。私は舞桜のもとへ戻る。そのときに、私が舞桜に落ち合う場所に行くように伝える。どう?完璧でしょ?」
「三島さん…そこまで協力を…」
「何か楽しくなってきちゃってね!笑 ここまで来たらとことんやってみたいなって思ったの!」
愛奏は彼に奢ってもらったホットティーを口に含み、軽く笑みを浮かべた。とても幸せそうに、また、まるで自分のことのように思っている様子で、それを見た山下はちょっと不思議に思った。
「わかったよ、三島さん。俺、頑張るからよろしくね。」
「場所と時間は私が伝えるけど、思ってることはあなたが伝えるんだからね。ちゃんと伝えてあげてよ。」
「わかった…!!」
山下は半分残っていた冷たい水を一気に飲み干し、翌日への不安と緊張を誤魔化したのだった。
こういった成り行きが実は昨日あったのだ。そして今、目の前に舞桜が居る。
「…ねぇ、誰もいないんだからさ、山下くん一人で話してきたら??」
「えっ!!」
「ちょっと…!!声が大きいよ…!!」
「あっ、ごめん…」
「まだ他の子らが来るのに時間ありそうだから行ってきたら?」
「えー…そんなの想定外だよ…」
「あのね、世の中そんなに予定通り行くことなんてないの」
「く、まじかよ…。」
「はい、どーすんの?行くの?行かないの?」
「あーもう!わかったよ!行くよ俺一人で!」
「さすが男子~」
「だろ?」
「ま、それが当たり前なんだけどねぇ~」
「(ギクッ…!!)」
「それじゃあ行ってらっしゃーい」
「お、おう…!!」
山下が乾いた唇をしきりに潤し、B組の教室のドアの取っ手に手を掛けて、いよいよそのドアを開けて入り、中にいる舞桜の方に目をやると、驚いた表情でこちらを向いた彼女がいた。
「山下くん…。」
二年B組の教室は瞬く間に時が止まった。この世界がまるで彼ら二人しかいないのではないかと錯覚してしまうほどだった。
なら、教室に行って直接呼び出すのはどうかとちょっとだけ考えてはみたが、体が反射的に却下。まさに為す術なしといった状態の舞桜。廊下の窓越しに愛奏と山下はその様子を見ていた。
なぜ二人がそこに居るのか。それには訳がちゃんとある。実は、昨日の夕方愛奏は山下に相談を受けていた。スーパーに行くといって走り去った愛奏。それは半分嘘で山下から相談を受けるため、そのスーパーの隣にある喫茶店に駆け込んで話をしていたのだ。
山下も告白の切り口に困っていたらしい。世話焼きな愛奏は山下に提案を持ち掛けた。
「明日、朝教室に来て山下くんの方から会う時間と場所を伝えること、いい?」
山下は急に焦り始めた。そんな彼に理由を訪ねるがもごもごとした口調であまりはっきりとしたことは言わなかった。
「わかった。私がフォローするからちゃんとやってね」
「え?どういうこと?」
「私が先に教室に入って舞桜と喋っとくから、教室のドアを開けたらまず私を呼ぶの。これは周りには私と話してるように見せかけるための口実ね。それで、話を終えたらあなたは自分の教室に帰る。私は舞桜のもとへ戻る。そのときに、私が舞桜に落ち合う場所に行くように伝える。どう?完璧でしょ?」
「三島さん…そこまで協力を…」
「何か楽しくなってきちゃってね!笑 ここまで来たらとことんやってみたいなって思ったの!」
愛奏は彼に奢ってもらったホットティーを口に含み、軽く笑みを浮かべた。とても幸せそうに、また、まるで自分のことのように思っている様子で、それを見た山下はちょっと不思議に思った。
「わかったよ、三島さん。俺、頑張るからよろしくね。」
「場所と時間は私が伝えるけど、思ってることはあなたが伝えるんだからね。ちゃんと伝えてあげてよ。」
「わかった…!!」
山下は半分残っていた冷たい水を一気に飲み干し、翌日への不安と緊張を誤魔化したのだった。
こういった成り行きが実は昨日あったのだ。そして今、目の前に舞桜が居る。
「…ねぇ、誰もいないんだからさ、山下くん一人で話してきたら??」
「えっ!!」
「ちょっと…!!声が大きいよ…!!」
「あっ、ごめん…」
「まだ他の子らが来るのに時間ありそうだから行ってきたら?」
「えー…そんなの想定外だよ…」
「あのね、世の中そんなに予定通り行くことなんてないの」
「く、まじかよ…。」
「はい、どーすんの?行くの?行かないの?」
「あーもう!わかったよ!行くよ俺一人で!」
「さすが男子~」
「だろ?」
「ま、それが当たり前なんだけどねぇ~」
「(ギクッ…!!)」
「それじゃあ行ってらっしゃーい」
「お、おう…!!」
山下が乾いた唇をしきりに潤し、B組の教室のドアの取っ手に手を掛けて、いよいよそのドアを開けて入り、中にいる舞桜の方に目をやると、驚いた表情でこちらを向いた彼女がいた。
「山下くん…。」
二年B組の教室は瞬く間に時が止まった。この世界がまるで彼ら二人しかいないのではないかと錯覚してしまうほどだった。
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