サイバーオデッセイ - バーチャル都市の守護者と精霊たち - (挿絵アニメ)

寄代麻呂人

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第一章 シーブリーズサンクチュアリの姉妹

第16話~記憶のリプレイと懺悔~ (挿絵動きあり)

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騒ぎをききつけた神官たちが、神殿の廊下を駆け抜けて治療室に集まり始めた。薄暗い廊下には、緊急事態を知らせる赤い警報灯が点滅し、神官たちの足音が響き渡る。治療室の扉が開かれると、焦げ臭い匂いが鼻をつき、煙が薄く漂っていた。

見習い神官2:「これは何があったというのでしょう。治療室で小火があったと警報が鳴り、慌てて駆け付けたのですが。」

見習い神官1は、焦げた治療用ベッドとその上に置かれた焼け焦げた機械を見つめた。機械は完全に壊れており、火花が散っていた。

見習い神官1:「治療用ベッドで焼け焦げてる機械が原因でしょうかね。この機械もう壊れちゃっているようですね。」

見習い神官2は慎重に機械に近づき、手袋をはめた手で触れてみた。

見習い神官2:「熱っ。機械はまだ暴走するかも知れない、そのままにして様子見しよう。ベッドは焼け焦げてはいますが、ナノボットドックは問題ないようです。システムリブートしてみます。」

神官1は、冷静さを保ちながら指示を出した。

神官1:「よろしく頼む。ナノボットドックはシステムエラーで、ブラックアウトし自動強制終了したようです。でもなぜ。」

見習い神官2は、ナノボットドックのシステムをリブートし、画面に表示されるログを確認した。

見習い神官2:「システムリブート完了。正常起動を確認しました。システムのログを確認してみます。」

事態が呑み込めない神官たちは、治療室内で騒ぎ立てた。彼らの不安と緊張が空気を重くしていた。

そうこうしているうちに、フィリルやセレステも駆けつけてきた。フィリルは、焦りと心配の表情を浮かべながら、治療室に入った。

フィリル:「お姉様。大丈夫ですか。どうなさったのです。一体。」

セレステも同じく心配そうにフィリアに駆け寄った。

セレステ:「フィリア様、大丈夫ですか。」

フィリアは、治療室の片隅で不安そうに立っていた。彼女の瞳には困惑の色が浮かび、手は微かに震えていた。
薄暗い部屋の中で、彼女の白いローブが一層際立って見えた。

フィリア:「ええ、私は大丈夫ですけど……でも状況がよくわからなくて。ハーダ様、何があったのでしょうか?」

ハーダは険しい表情でフィリアを見つめ、深いため息をついた。

ハーダ:「今回の件、私も分かっていないことが多い。それに……」

フィリアは、自分がここにいる理由が分からなくなっているようだった。彼女の記憶は曖昧だったからだ。

ハーダは、フィリアには酷かもしれないが、セラピー機能をONにして記憶のリプレイを行うしかないと決断した。

ハーダ:「フィリアよいか。」

フィリアは一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。

フィリア:「はい。」

ハーダ:「ナノボットドックはシステムエラーで停止しているが……」

神官1がコンソールを確認しながら報告した。

神官1:「ナノボットドック起動してます。リブート後の異常はないようです。」

ハーダは安堵の表情を浮かべた。

ハーダ:「そうかわかった。では、記憶のリプレイを開始する。」

フィリアは戸惑いながらも承諾し、ハーダがナノボットドックを操作した。フィリアは治療用ナノボットドックのある部屋の端に座り、深呼吸をして心を落ち着けた。

ナノボットドックが起動し、フィリアの記憶のリプレイが開始された。部屋の中央に、小さめのフォログラムがまるで映画のように再生され始めた。薄暗い部屋の中で、フォログラムの光が揺らめき、神官たちの顔を照らした。

ハーダ:「どうやら、消されかけていた記憶はまだ無事のようだ……」

見習い神官2:「これは・・・フィリア様とマルトス様?」

神官1は驚きと困惑の表情でハーダに問いかけた。

神官1:「ハーダ様、これはどういうことでしょうか。」

ハーダは険しい表情で答えた。

ハーダ:「わからない。とりあえず様子を見よう。」

部屋の中は静まり返り、全員がフォログラムに集中した。


そして、あの早朝の出来事がフォログラムで再現されていく。薄暗い治療室の中、フォログラムの光が揺らめき、まるでその時にいるかのような臨場感を醸し出していた。再生されていく映像と共に、フィリアのその記憶も徐々に元通りになっていく。

フィリア:「ああ…」

彼女の目に徐々に光が消えていった。彼女の表情は次第に青ざめていた。そして、その場にいた全員が何があったかを理解した。
しかし、フィリアの記憶のリプレイはマルトスが焼け焦げた所で途切れていて、その後を再生する事はできなかった。

↑クリックしてください。動きのある挿絵です。

神官2:「なるほど・・・マルトス様は…」

その場にいた全員が絶句し、言葉を失った。フィリアはマルトスの体を治療するためにナノボットドックで治療を行ったが、悲惨なで取返しのつかない結果だった。

神官1:「しかしこれは……ひどいですね。」

フィリアはショックのあまり言葉を失い、ただ呆然としていた。彼女の目には涙が浮かび、唇が震えていた。そして、その場にいた全員が沈黙した。

セレステ:「マルトス……マルトス……マルトス……この焼け焦げた機械がマルトスだっていうの?」

セレステは、表情が変わることなく、ただただ、マルトスの名前を呼ぶばかりだった。彼女の声は震えていた。

フィリア:「…私、マルトスに喜んで欲しかっただけなの。そうすれば、危険な旅なんてする必要もない。私が治ったんだから、マルトスだって大丈夫だって思った…でも、でも、私がナノボットドックでマルトス様の治療をしようとしたから……こんな事に。」

フィリアは泣き崩れ、その場に座り込んだ。彼女の肩は震え、涙が床に落ちていった。

セレステ:「なぜ、どうして……マルトス……」

見習い神官2:「セレステ様、どうか気を確かに。」

セレステ:「明日、出発だったじゃない。なんでこんな事したの。なんでこんな事になったの。なんで…フィリアあなたのせいよ。そうよ、あなたがこんな所に連れて来なければ」

フィリアは泣き崩れたまま動かなくなった。ハーダも含め、神官たちはただ見守ることしかできなかった。部屋の中は重苦しい沈黙に包まれた。

セレステ:「マルトス、今日一緒に朝、パンケーキ食べようって約束したじゃない。体が治ったら、一緒に天体観測またしようっていったじゃない。なんで、なんで、なんで。」

セレステの目からゆっくり涙が流れ落ちはじめた。彼女の声は悲しみに満ち、心の底からの叫びのようだった。

神官2:「……セレステ様、お気持ちはわかりますが…」

セレステ:「……マルトス……」

神官1:「お気持ちは分かりますが、今は落ち着いてください。」

フィリル:「お姉様、何か理由があったんですよね。そうでしょ。でなければお姉様が勝手にこんなことするはずがないです。」

フィリルはそう言いながら、セレステの背中をさすり、彼女を慰めようとした。

フィリア:「こんなの……私のせいでこんなことになるなんて……」

フィリアの声は震え、涙が止まらなかった。彼女の心には深い後悔と悲しみが渦巻いていた。部屋の中は、悲しみと絶望が支配する中、誰もが言葉を失っていた。
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セレステ編
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