サイバーオデッセイ - バーチャル都市の守護者と精霊たち - (挿絵アニメ)

寄代麻呂人

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第一章 シーブリーズサンクチュアリの姉妹

第13話~運命の選択~ (挿絵あり)

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フィリル:「お姉様。大丈夫ですか?」
フィリアは、フィリルの大きな声で目が覚めた。薄暗い部屋の中で、妹の心配そうな顔がぼんやりと見えた。
フィリア:「何、どうしたの?」
フィリル:「もー、何じゃないですわ。かなり、うなされていたみたいでしたし、心配しました。」
フィリアは、自分が汗だくになっていることに気づいた。そして、夢の内容を思い出した。恐ろしい夢だったが、詳細はぼんやりとしていた。
フィリア:「……大丈夫よ。心配しないで。」
フィリル:「本当に大丈夫ですか?顔色が悪いですわ。」
フィリアは深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。そして、自分の胸に手を当てながら答えた。
フィリア:「うん……大丈夫よ!ちょっと変な夢を見ただけだから……気にしないでね!」
フィリル:「わかりましたわ。でも無理しないでくださいませね。お姉様は私にとって大切な方ですから……。」
フィリアは微笑みながら、彼女の頭を優しく撫でた。フィリルの髪は柔らかく、触れると安心感が広がった。
フィリル:「えへへ。」
フィリルは照れ笑いをした。その笑顔に、フィリアも少しだけ心が軽くなった。
フィリア:「ふふっ。ごめん、心配かけて……。そうね、まだ夜中ですわね。寝ましょうか。」
フィリル:「はい。お姉様、手を繋いでくださいな……。小さい頃みたいに。」
フィリア:「そうね。覚えてる?小さい頃、苦しいときはいつも手を握りしめて励ましあってたわね。」
フィリル:「もちろん覚えてますわ。お姉様の手を握ると、いつも安心できました。」
フィリア:「私もよ。フィリルの手を握ると、どんなに辛くても頑張れる気がしたの。」
フィリル:「お姉様……。」
フィリアはそっと妹の手を握りしめた。月明かりが薄く差し込む部屋の中で、二人の影が寄り添うように映っていた。フィリルの心配をよそに、フィリアは心の中である決意を固めていた。
静かな夜の中、二人は再び眠りについた。窓の外では、風が優しく木々を揺らし、遠くでフクロウの鳴き声がさみしく聞こえていた。夜の静寂が二人を包み込み、再び夢の世界へと誘った。

翌朝、フィリアはみんなが目覚めるより早く起きていた。まだ薄暗い空の下、彼女は静かにマルトスの部屋の前にいた。
マルトス:「お姉ちゃん、こんな朝から何?」
フィリアは振り返り、マルトスが眠そうな目をこすりながら立っているのを見た。
フィリア:「マルトス、今日はあなたに頼みがあります。」
マルトス:「うん?何?」
フィリアは真剣な表情で言った。
フィリア:「ナノボットドックの治療を受けてください。」
マルトスは驚いた表情をした。
マルトス:「え?でも、僕はここでは治らないって……。それに、お姉ちゃんも言ってたじゃないか!」
フィリア:「いいえ、試してみないと分からないでしょう。」
マルトス:「どういう事?」
フィリア:「あなたは、ナノボットドックでは治療ができないと言われたかもしれませんが、それは普通の治療法です。病気を治すためには、色々な方法があるのです。
私はその方法を知っています。だから、もう一度治療を受けてほしいんです!」

フィリアはマルトスの手を取り、彼をナノボットドックの前まで連れて行った。朝の光が少しずつ差し込み始め、二人の影が長く伸びていた。
マルトス:「ここ、入っていいの……?お姉ちゃん、本当に治るのかな?僕。」
フィリア:「大丈夫。あなたは治ります。安心してください!」
マルトスは不安そうな顔で言った。
マルトス:「お姉ちゃん、僕怖いよ……もしも・・・と思うと怖くて……。」
フィリアは優しく微笑んだ。
フィリア:「マルトス、あなたは一人じゃありません。私がついていますから安心してください!」
マルトスは少し安心したようだったが、不安な気持ちは完全には消えなかった。
マルトス:「お姉ちゃん……ありがとう。でもやっぱり怖いよ……。」
フィリア:「大丈夫ですわ。私が必ず治して見せます!」
マルトス:「本当に?」
フィリア:「はい!約束しますわ!」
フィリアはマルトスの手をしっかりと握りしめた。彼女の決意は固く、マルトスの不安を少しでも和らげるために全力を尽くすつもりだった。

そして、ナノボットドックの治療が始まった。それはゆっくり静かにシステムスタンバイ状態から活性化された。薄暗い部屋の中、柔らかな青白い光が壁に映り、機械の低いハミング音が聞こえ始めた。フィリアは司祭宮にある大神殿の内部構造物の一室で、以前とは違い今度は治療用ベッドを見下ろす格好となった。
ナノボットドックはマルトスに接続され、治療用バイオメトリック・ヘルスデータがモニタに表示され始めた。モニタには心拍数や血圧、体温などのデータが次々と表示され、フィリアはそれを見つめながら祈るような気持ちでいた。そうしているうち、無数のナノボットがマルトスの体内を駆け巡り、デジタルノームが活動を開始した。
フィリア:「お願い!」
フィリアは、そう何度も心の中で叫んでいた。彼女の心臓は早鐘のように打ち、手のひらには冷たい汗がにじんでいた。
開始から10分くらい経過しただろうか、突如として、けたたましい警告音がメッセージとともに鳴り響いた。

ナノボット:「ナノボットドック機能異常。想定外のエラー発生、を検知。リカバリを実施します。」
フィリアは目を見開いた。そして心の中で思った。
フィリア:「そんな……どうして?どういう事!」
マルトスは不安そうに言った。
マルトス:「お姉ちゃん、僕どうなっちゃうの……?怖いよ!助けて!!」
フィリアは必死に考えた。しかし、何も思いつかなかった。彼女の頭の中は真っ白になり、冷静さを失っていた。
フィリア:「どうすればいいの……。もう、私には何もできない。誰か助けて!!」
しかし、むなしくフィリアの声が響くだけで、誰も助けに来なかった。部屋の中は静まり返り、ただ警告音だけが響いていた。
マルトス:「お姉ちゃん……助けて……お願い!」
フィリアはマルトスの手を握った。その手は冷たくて震えていた。
マルトスは震えながら、涙をこぼしていた。そして、無常にもナノボットドックのシステム音声が再び響いた。
ナノボット:「リカバリ失敗。システムシャットダウンを開始します。」

ナノボット:リカバリ不能。。患者のが異なります。

フィリアは、目の前で起こっている状況を理解できなかった。マルトスが苦しんでいるのを見て、心が張り裂けそうだった。
マルトス:「どういう事・・・?お姉ちゃん……。」
マルトスが不安そうにフィリアを見上げた。彼の目には恐怖と混乱が浮かんでいた。
ナノボット:「患者のナノボットドックから放出を試みます。」
ナノボットは、マルトスの体内から放出を試み始めた。しかし、その試みはうまくいっているようには見えなかった。マルトスの体の皮膚が赤くただれ、見る見るうちに元の形が分からなくなっていった。皮膚の下から金属の骨格が露わになり、焼け焦げた部分からは火花が散っていた。
金属の表面は高温で溶け始め、液体の金属が滴り落ちていた。周囲には焦げた臭いが立ち込め、空気は熱で歪んで見えた。マルトスの体は徐々に崩壊していき、彼の動きは次第に鈍くなっていった。彼の目は恐怖と痛みに満ち、涙が流れ落ちた。
マルトス:「熱いよ。痛い。お姉ちゃん!僕……どうなっているの……?痛い、怖いよ……」
マルトスは震える声で叫んだ。彼の声はかすれ、苦しみがにじみ出ていた。金属の骨格が完全に露わになり、彼の体はもはや人間の形を保っていなかった。
ナノボットの活動はさらに激しくなり、マルトスの体内で暴走していた。彼の体は完全に制御を失い、金属の破片が飛び散り、周囲になんとも表現のしようのない光と共に散った。マルトスの意識は次第に薄れ、彼の視界はぼやけていった。
フィリアの目の前で、マルトスの体が徐々に機械の姿すらとどめることができていない様子に、恐怖と無力感が押し寄せてきた。
フィリア:「なんで。どうして。」
彼女の声はかすれ、涙が頬を伝って流れた。彼女は絶望感に打ちひしがれていた。彼女の心の中で、マルトスを救う方法を必死に探していたが、何も思いつかなかった。
マルトス:「ボクハ、ドウナッテイ・・イルノ」
彼女はただ呆然と立ち尽くし、マルトスを見つめていた。そして心の中で何度も繰り返した。
フィリア:「お願い!誰か助けてください!神様がいるならどうか……この子を救ってください!!お願いだから!!!」
しかし、その声は誰にも届かなかった。彼女は絶望に打ちひしがれ、ただ涙を流し続けた。
それから数分後、ナノボットドックは機能を完全に停止し、治療室全体が真っ暗になった。マルトスは意識を失い、ベッドの上に横たわっていた。その体は冷たくなり、呼吸も止まっていた。
フィリア:「ああ……そんな!どうしてこんなことに……。」
フィリアはその場に崩れ落ちた。そして泣き叫んだ。彼女の目から大粒の涙が次々とこぼれ落ちていった。
フィリア:「ごめんなさい…………ごめんなさい。マルトス。」
そして、マルトスは完全に生命活動を停止してしまったように感じた。
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