サイバーオデッセイ - バーチャル都市の守護者と精霊たち - （挿絵アニメ）

第一章 シーブリーズサンクチュアリの姉妹

第３話～記憶障害～（挿絵あり）

ハーダ：おや、夜遅くに目が覚めましたね。あなたの命については心配が要りませんよ。
ハーダは、優しい声で答えてくれた。
フィリアは、慎重な様子で続けた。
フィリア：それは良かったです。でも、思い出せないことは沢山あるような気がして……
それは私だけの出来事なのかもしれませんが……でもそれが私とどのようにつながっているのかを教えていただけませんか？ ハーダはうなずきながら言った。
ハーダ：わかりました。ではご病気についての話から立ち返りましょう。セラピー機能を使用する準備をしてください。もう何度か使用しているのでご存じだとは思いますが、セラピー機能は患者の感情や心理状態を深く理解し、適切なカウンセリングやセラピーを提供することができるもので、複雑な病状を迅速かつ正確に診断し、最適な治療法を自動的に実施することができるものです。
フィリアはうなずき、操作を続けた。
フィリア：はい。治療していただけてありがたく思います。ありがとうございます。
フィリアは、自分の声が耳元から聞こえているような感覚に少し戸惑いながらも答えた。
ハーダはフィリアの不安を感じ取り、安心させるように続けた。
ハーダ：大丈夫ですよ。あなたを治療するためにここにいるのですから。
フィリアはうなずき、そして言った。
フィリア：ありがとうございます。
フィリアは自分の声が耳元から聞こえるような錯覚を感じながらも、ハーダの言葉に安心したようだった。
ハーダ：あなたの病気と治療について、そして記憶障害についてお話します。
ハーダは話を続けた。
ハーダ：完全に記憶が戻るのにはおそらくもう少し時間がかかりますが、焦らずに治療していきましょう。
フィリア：はい……お願いします。
ハーダ：あなたがとても重い病気を患っていたことは覚えていると思いますが、その病気は昔の戦争で使われていた「ナノマシン兵器による遺伝子操作汚染」によるものでした。
フィリア：え、どういう事ですか・・・
ハーダ：まあ、聞いてください。その兵器は禁忌のテクノロジーとして現在は使われなくなっていたはずで、あなたが何故この汚染の影響を受けてしまったのかはわかりません。
ですが、大聖堂にあるASI、Artificial Superintelligence（人工超知能）ならばこの汚染を取り除く方法を見つけられるかも知れないと、私は考えたのです。
今思えば、フィリルが私の所にあなたを連れてきたのは、偶然ではないのかも知れませんね・・・。
私の所に来たときには、あなたの元の体は、もう使い物にならないくらいに汚染されていました。

ハーダはここまで話すと、
有効化したセラピー機能が正常に動作しているか、デジタルノームが送り続けているバイオメトリック・ヘルスデータをホログラムディスプレイに投影させた。
ハーダ：今のあなたの体は、ASIによって複製された肉体に完全移植した体なのです。
フィリア：え、そんな・・・すぐには理解できないです。
ハーダ：そうだと思います。ですが、これがあなたが知りたがっていた事だと思います。
記憶障害は複製された肉体に記憶のリプレイが完全に終わっていないため、起こっているものです。記憶は脳に保存されています。
脳の神経細胞は、記憶情報を電気信号として処理しています。
その電気信号が、脳に保存された情報にアクセスする時に、 記憶の断片を再生することがあります。
しかしそれは、完全ではありませんから、記憶の再生は断片的になります。それがあなたの記憶障害です。


フィリアは、自分の声が耳元から聞こえるような感覚と、ハーダの説明を頭の中で整理しながら、
フィリア：はい……。でも今の話、すぐに理解できないです、もっと詳しく聞かせてください……。
そう言いつつ、今はとにかく記憶障害の治療法さえわかればいいと思った。
そしてハーダの話を何度か聞くうち、フィリアの意識は深い眠りにおちたのだった。