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EP2. 爛れた彼女たちと生徒会長争奪戦
第三〇話 戦後処理
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「……なにしてんの」
ベッドの上でスマホをいじっていると、その明かりのせいか、すぐ隣で寝ていた深雪が目を覚ましてしまった。
文化祭の翌日、日曜の朝である。
どうして深雪が俺のベッドで一緒に寝ているかについては、非常に手前勝手で申し訳ないのだが、説明を差し控えさせていただきたい。
いちおう、報告の義務として、文化祭のあとに我が家で関係者たちによる打ち上げが行われたことだけは伝えておこうと思う。
深雪は布団の中でモゾモゾと体を動かすと、枕元にある自分のスマホに手を伸ばした。
「まだ七時じゃん……」
そうぼやきながらスマホを放り出し、再び布団の中にもぐりはじめる。
そちらはひとまず放っておいて、俺はそのまま自分のスマホの画面に注視した。
画面に表示しているのはレックスというSNSのタイムラインだ。
『ミスコン、まさかの二位~ 油断しすぎちゃったカモ……』
俺が見ているタイムラインは、高橋咲彩のものだった。
間違いなくなんらかのSNSを利用しているだろうとは思っていたが、ポップチューンと絡めたキーワードで検索していたらすぐにレックスのアカウントが見つかった。
そこには昨日のミスコン二位という結果を嘆く声とともに、遠回しに一位をとった服部に対する非難を誘導するような内容のコメントが投稿されていた。
『わざわざ高校生のミスコンにシルクのシャツ着てくるとかさすがにやりすぎ』
『めちゃくちゃ化粧がプロってた!笑 いやホント、あーしが教えてほしいレベル』
『あーしももっと『綺麗』を見てもらえばよかったなー』
一部の投稿には、ミスコン時の服部の写真が添付されているものもあった。
さすがに服部の顔は塗りつぶされていたが、そのせいで場違いな衣装でミスコンに参加したという部分だけが強調されており、服部本来の魅力は何も伝わらない写真になっている。
そして、何処から探り当ててきたのか分からないが、コメントの最後の行には何の脈絡もなく服部のアカウントに対するメンションがつけられていた。
もちろん、そのアカウントがミスコン優勝者――服部のものであることについては触れられていないが、そんなことは言われずとも察する者は察するだろう。
案の定、服部のレックスアカウントには勘違いした高橋のファンだと思しきユーザーからの誹謗中傷めいたメッセージがすでに何件か投下されているようだった。
さて、このまま終わらせるわけにはいかないな……。
※
リビングでは今日も姉貴が朝からTシャツにパンツ一丁で酒を浴びていた。
「あれ、早いじゃん」
「姉貴こそ」
「お姉ちゃんは寝てないだけよ」
まあ、そうだろうと思ったよ。
テレビには相変わらずVewTubeの動画が流れていて、今は姉貴の推しであるなんとかいうロリ系VTuberのゲーム実況を見ているらしい。
「最近、路線変更したっぽくて、よく分かんないインディーズゲームばっかりプレイしてるのよね。でも、なんか不思議といつまでも見ちゃって」
そう言って姉貴が見ているテレビの画面には、架空の独裁国家における入国管理官として国境での入国審査にあたるというゲームのプレイ映像が流れていた。
少し前に流行ったタイトルで、その後に同じようなタイプのゲームをいくつも生み出した入国審査管理ゲームの開祖的タイトルである。
「もう起きるの?」
「うん」
「そんじゃ、お姉ちゃんはそろそろ寝ようかしら……ふあぁ……」
ソファの上で姉貴が背伸びをするように腕を伸ばしながらあくびをした。
Tシャツが上に引っ張られてパンツが丸見えになっておるが……。
あまりマジマジと見ていても仕方がないので、俺はそのままキッチンに行った。
冷蔵庫の中からコーヒーのペットボトルを出して適当なカップに注ぎ、冷凍のベーグルをオーブントースターに突っ込んでからまたリビングに戻る。
そのころには姉貴はもうテレビを消していて、ソファの上にぐでっと仰向けになりながら眠そうな目でこちらを見ていた。
「セーちゃん、ベッドまで運んでぇ」
面倒なことを言っている。
姉貴、身長があるせいかけっこう重いんだよな……。
「別にここで寝てもいいけど」
それはそれで邪魔ではある。
「夜中、あんたがミーちゃんとこっそりもう一戦ヤッてたこと、ユーちゃんたちには内緒にしといてあげるからさぁ」
ぶふっ! ——おま、そういうことを交渉材料にするんじゃないよ!
姉弟としての慈悲とかはないんか!?
「お姫さま抱っこでベッドまで連れてってぇー」
姉貴が仰向けのまま両手を伸ばしてくる。
くそ、聞いてねえ。というか、軽く酔ってやがるな。マジで面倒な姉だぜ……。
俺は観念してソファのそばまでいくと、姉貴の背中と膝の裏に腕を回し、よいこらせっとばかりにその体を持ち上げた。
姉貴は俺の首にしっかり腕を回してきて、そのまま首筋に顔を埋めてくる。
くそ、酒の匂いと一緒に姉貴の体臭が……俺の御珍棒さまは節操がないので肉親だろうと容赦なく反応してしまう。
「……寝る前にお姉ちゃんとも一戦ヤッちゃう?」
ヤッちゃわない!
「じゃあ、ベッドに行くまでチューしてて欲しい……」
そう言いながら、姉貴が今度は俺の頬に唇を押しつけてくる。
マズイ。さっさと姉貴をベッドに投げ捨ててこないとのっぴきならないことになる。
俺は大慌てで姉貴の部屋まで向かうと、扉を開けて部屋の中に入るなり、文字どおり姉貴をベッドに向けて放り投げた。
ほっぺたが唾液でベッタベタになっておる……。
「やんっ! 乱暴しないでってばぁ」
姉貴がうっそりとした動きで睨んでくるが、いよいよ眠気に勝てなくなったのか、そのまま布団の中に潜り込んで寝息を立てはじめた。危ないところだった。
俺はため息まじりに姉貴の部屋を出ると、再びキッチンに戻ってオーブントースターの中からベーグルを取り出してそのままリビングに戻った。
テーブルにベーグルの乗った皿を置いてテレビをつけ、適当に朝のワイドショーを見ながら簡単な朝食に取りかかる。
時刻はそろそろ九時を回るかというところで、俺はスマホを眺めながら次にやるべきことについて考えを巡らせていた。
あまり早い時間から連絡しても迷惑に思われるかもしれないが、さて……。
「……おぁよう……」
遅ればせながら、リビングに深雪が姿を見せた。
何故か俺のTシャツを着ている。
部屋で脱ぎ捨てていたものを勝手に拝借されたのかもしれない。
まあ、素っ裸で出てこられるよりはまだマシか……。
「おはよう。昨日のブラウスとか下着はそのまま乾燥機に入ってるよ」
「うん……もっかいお風呂入ってもいい?」
「どうぞ。部屋着が良かったら優那の部屋に姉貴のお古があるから好きに使って」
「ありがと」
深雪があくびをしながらリビングを出ていく。
ううむ、高校一年生からこんな爛れた生活をしていて良いのだろうか……。
ベーグルを齧りながらそんな思いに駆られていると、不意にスマホがブルッと震えた。
姫宮からのメッセージだ。俺から送るまでもなかったか。
『昨日の夜からカスミのレックスとかインストに変なメッセージが来てる!』
やはりそうか。
俺が今朝から知りたかったのはまさにそのことだった。
もともと姫宮にはこちらから連絡を取ろうと思っていた。
俺が服部の連絡先を知っていれば最初から直接していたところだが、あいにくと彼女とはまだアドレスの交換を行っていなかったのだ。
さて、どうしたものか。
これが高橋咲彩による直接攻撃であれば高橋がモデルをしている雑誌社にクレームを入れるなどの対応方法もあったろうが、今回のやり口だと『たまたまメンションをつけちゃっただけ』と言い逃れされた時点でどうにもならなくなる。
SNS界隈ではこういった自分の支持者に他者を攻撃するよう仕向けるという悪質な行為を行う連中をたまに見かけるが、まさか身内がその被害に遭うことになろうとは……。
『もうアカウントに鍵はかけたのか?』
ひとまず姫宮のメッセージに返答する。
『かけたっぽいけど、DMは関係なく届くみたいで、めちゃくちゃ不安がってる!』
『確かSNSによっては設定でフォロワー以外のDMは弾けるはずだから、気休めかもしれないけど設定してみるように伝えてくれ』
『分かった! これからカスミを連れてセイジロの家に行ってもいい?』
『なんで?』
『なんでじゃないでしょ!? 分かんないの!?』
怒られた。
『いいよ。深雪もいるけど』
『なんで?』
なんでだろうなぁ……。
『お昼前には行くと思う。なにか買って行こうか?』
『うちでお昼を食べるつもりなら、なんか買ってきといて』
『分かった!』
そこでいったんメッセージのやりとりを終え、俺はベーグルの最後の一欠片を口の中に放り込んで珈琲で流し込み、皿とカップをキッチンの流しに片づけに行った。
そして、またリビングに戻ってくると、スマホを片手に今度はソファに身を投げる。
服部が変に気落ちしすぎていないと良いが……とは思うものの、こればかりは実際に被害に合ってみないとその心境なんて分からない。
――と、そのとき、玄関の扉が開く音がした。
ほどなくして、パンパンになったエコバッグを持った有紗がリビングに入ってくる。
今日もポニーテールにエプロンなしの侍女服といういつもの恰好だが、最近は暑くなってきたからか袖が半袖になり、スカートの丈も少し短くなっている。
パッと見ではちょっとシックな夏物のワンピースに見えなくもない。
「おはようございます。浴室におられるのは深雪さまですか?」
なんで姉貴じゃなくて深雪の名前が先に出てくるんだろうな。
「玄関に靴が残っておりましたので」
そうか。どうせだったら隠しておくべきだったな。
「昨夜からお帰りになられていないということですか?」
まあ、ええと、ご想像にお任せします。
「分かりました」
有紗はエコバッグをキッチンのほうに持って行くと、すぐにまたリビングに戻ってきた。
そして、そのままこちらのほうまでやってくると、ソファの上で寝ころんでいた俺の上に跨ってくる。いや、何してんの……?
「深雪さまが入浴を終えられる前に、わたしたちも一発ヤりましょう」
そんな駆けつけ一杯みたいな感じで言うな。
ベッドの上でスマホをいじっていると、その明かりのせいか、すぐ隣で寝ていた深雪が目を覚ましてしまった。
文化祭の翌日、日曜の朝である。
どうして深雪が俺のベッドで一緒に寝ているかについては、非常に手前勝手で申し訳ないのだが、説明を差し控えさせていただきたい。
いちおう、報告の義務として、文化祭のあとに我が家で関係者たちによる打ち上げが行われたことだけは伝えておこうと思う。
深雪は布団の中でモゾモゾと体を動かすと、枕元にある自分のスマホに手を伸ばした。
「まだ七時じゃん……」
そうぼやきながらスマホを放り出し、再び布団の中にもぐりはじめる。
そちらはひとまず放っておいて、俺はそのまま自分のスマホの画面に注視した。
画面に表示しているのはレックスというSNSのタイムラインだ。
『ミスコン、まさかの二位~ 油断しすぎちゃったカモ……』
俺が見ているタイムラインは、高橋咲彩のものだった。
間違いなくなんらかのSNSを利用しているだろうとは思っていたが、ポップチューンと絡めたキーワードで検索していたらすぐにレックスのアカウントが見つかった。
そこには昨日のミスコン二位という結果を嘆く声とともに、遠回しに一位をとった服部に対する非難を誘導するような内容のコメントが投稿されていた。
『わざわざ高校生のミスコンにシルクのシャツ着てくるとかさすがにやりすぎ』
『めちゃくちゃ化粧がプロってた!笑 いやホント、あーしが教えてほしいレベル』
『あーしももっと『綺麗』を見てもらえばよかったなー』
一部の投稿には、ミスコン時の服部の写真が添付されているものもあった。
さすがに服部の顔は塗りつぶされていたが、そのせいで場違いな衣装でミスコンに参加したという部分だけが強調されており、服部本来の魅力は何も伝わらない写真になっている。
そして、何処から探り当ててきたのか分からないが、コメントの最後の行には何の脈絡もなく服部のアカウントに対するメンションがつけられていた。
もちろん、そのアカウントがミスコン優勝者――服部のものであることについては触れられていないが、そんなことは言われずとも察する者は察するだろう。
案の定、服部のレックスアカウントには勘違いした高橋のファンだと思しきユーザーからの誹謗中傷めいたメッセージがすでに何件か投下されているようだった。
さて、このまま終わらせるわけにはいかないな……。
※
リビングでは今日も姉貴が朝からTシャツにパンツ一丁で酒を浴びていた。
「あれ、早いじゃん」
「姉貴こそ」
「お姉ちゃんは寝てないだけよ」
まあ、そうだろうと思ったよ。
テレビには相変わらずVewTubeの動画が流れていて、今は姉貴の推しであるなんとかいうロリ系VTuberのゲーム実況を見ているらしい。
「最近、路線変更したっぽくて、よく分かんないインディーズゲームばっかりプレイしてるのよね。でも、なんか不思議といつまでも見ちゃって」
そう言って姉貴が見ているテレビの画面には、架空の独裁国家における入国管理官として国境での入国審査にあたるというゲームのプレイ映像が流れていた。
少し前に流行ったタイトルで、その後に同じようなタイプのゲームをいくつも生み出した入国審査管理ゲームの開祖的タイトルである。
「もう起きるの?」
「うん」
「そんじゃ、お姉ちゃんはそろそろ寝ようかしら……ふあぁ……」
ソファの上で姉貴が背伸びをするように腕を伸ばしながらあくびをした。
Tシャツが上に引っ張られてパンツが丸見えになっておるが……。
あまりマジマジと見ていても仕方がないので、俺はそのままキッチンに行った。
冷蔵庫の中からコーヒーのペットボトルを出して適当なカップに注ぎ、冷凍のベーグルをオーブントースターに突っ込んでからまたリビングに戻る。
そのころには姉貴はもうテレビを消していて、ソファの上にぐでっと仰向けになりながら眠そうな目でこちらを見ていた。
「セーちゃん、ベッドまで運んでぇ」
面倒なことを言っている。
姉貴、身長があるせいかけっこう重いんだよな……。
「別にここで寝てもいいけど」
それはそれで邪魔ではある。
「夜中、あんたがミーちゃんとこっそりもう一戦ヤッてたこと、ユーちゃんたちには内緒にしといてあげるからさぁ」
ぶふっ! ——おま、そういうことを交渉材料にするんじゃないよ!
姉弟としての慈悲とかはないんか!?
「お姫さま抱っこでベッドまで連れてってぇー」
姉貴が仰向けのまま両手を伸ばしてくる。
くそ、聞いてねえ。というか、軽く酔ってやがるな。マジで面倒な姉だぜ……。
俺は観念してソファのそばまでいくと、姉貴の背中と膝の裏に腕を回し、よいこらせっとばかりにその体を持ち上げた。
姉貴は俺の首にしっかり腕を回してきて、そのまま首筋に顔を埋めてくる。
くそ、酒の匂いと一緒に姉貴の体臭が……俺の御珍棒さまは節操がないので肉親だろうと容赦なく反応してしまう。
「……寝る前にお姉ちゃんとも一戦ヤッちゃう?」
ヤッちゃわない!
「じゃあ、ベッドに行くまでチューしてて欲しい……」
そう言いながら、姉貴が今度は俺の頬に唇を押しつけてくる。
マズイ。さっさと姉貴をベッドに投げ捨ててこないとのっぴきならないことになる。
俺は大慌てで姉貴の部屋まで向かうと、扉を開けて部屋の中に入るなり、文字どおり姉貴をベッドに向けて放り投げた。
ほっぺたが唾液でベッタベタになっておる……。
「やんっ! 乱暴しないでってばぁ」
姉貴がうっそりとした動きで睨んでくるが、いよいよ眠気に勝てなくなったのか、そのまま布団の中に潜り込んで寝息を立てはじめた。危ないところだった。
俺はため息まじりに姉貴の部屋を出ると、再びキッチンに戻ってオーブントースターの中からベーグルを取り出してそのままリビングに戻った。
テーブルにベーグルの乗った皿を置いてテレビをつけ、適当に朝のワイドショーを見ながら簡単な朝食に取りかかる。
時刻はそろそろ九時を回るかというところで、俺はスマホを眺めながら次にやるべきことについて考えを巡らせていた。
あまり早い時間から連絡しても迷惑に思われるかもしれないが、さて……。
「……おぁよう……」
遅ればせながら、リビングに深雪が姿を見せた。
何故か俺のTシャツを着ている。
部屋で脱ぎ捨てていたものを勝手に拝借されたのかもしれない。
まあ、素っ裸で出てこられるよりはまだマシか……。
「おはよう。昨日のブラウスとか下着はそのまま乾燥機に入ってるよ」
「うん……もっかいお風呂入ってもいい?」
「どうぞ。部屋着が良かったら優那の部屋に姉貴のお古があるから好きに使って」
「ありがと」
深雪があくびをしながらリビングを出ていく。
ううむ、高校一年生からこんな爛れた生活をしていて良いのだろうか……。
ベーグルを齧りながらそんな思いに駆られていると、不意にスマホがブルッと震えた。
姫宮からのメッセージだ。俺から送るまでもなかったか。
『昨日の夜からカスミのレックスとかインストに変なメッセージが来てる!』
やはりそうか。
俺が今朝から知りたかったのはまさにそのことだった。
もともと姫宮にはこちらから連絡を取ろうと思っていた。
俺が服部の連絡先を知っていれば最初から直接していたところだが、あいにくと彼女とはまだアドレスの交換を行っていなかったのだ。
さて、どうしたものか。
これが高橋咲彩による直接攻撃であれば高橋がモデルをしている雑誌社にクレームを入れるなどの対応方法もあったろうが、今回のやり口だと『たまたまメンションをつけちゃっただけ』と言い逃れされた時点でどうにもならなくなる。
SNS界隈ではこういった自分の支持者に他者を攻撃するよう仕向けるという悪質な行為を行う連中をたまに見かけるが、まさか身内がその被害に遭うことになろうとは……。
『もうアカウントに鍵はかけたのか?』
ひとまず姫宮のメッセージに返答する。
『かけたっぽいけど、DMは関係なく届くみたいで、めちゃくちゃ不安がってる!』
『確かSNSによっては設定でフォロワー以外のDMは弾けるはずだから、気休めかもしれないけど設定してみるように伝えてくれ』
『分かった! これからカスミを連れてセイジロの家に行ってもいい?』
『なんで?』
『なんでじゃないでしょ!? 分かんないの!?』
怒られた。
『いいよ。深雪もいるけど』
『なんで?』
なんでだろうなぁ……。
『お昼前には行くと思う。なにか買って行こうか?』
『うちでお昼を食べるつもりなら、なんか買ってきといて』
『分かった!』
そこでいったんメッセージのやりとりを終え、俺はベーグルの最後の一欠片を口の中に放り込んで珈琲で流し込み、皿とカップをキッチンの流しに片づけに行った。
そして、またリビングに戻ってくると、スマホを片手に今度はソファに身を投げる。
服部が変に気落ちしすぎていないと良いが……とは思うものの、こればかりは実際に被害に合ってみないとその心境なんて分からない。
――と、そのとき、玄関の扉が開く音がした。
ほどなくして、パンパンになったエコバッグを持った有紗がリビングに入ってくる。
今日もポニーテールにエプロンなしの侍女服といういつもの恰好だが、最近は暑くなってきたからか袖が半袖になり、スカートの丈も少し短くなっている。
パッと見ではちょっとシックな夏物のワンピースに見えなくもない。
「おはようございます。浴室におられるのは深雪さまですか?」
なんで姉貴じゃなくて深雪の名前が先に出てくるんだろうな。
「玄関に靴が残っておりましたので」
そうか。どうせだったら隠しておくべきだったな。
「昨夜からお帰りになられていないということですか?」
まあ、ええと、ご想像にお任せします。
「分かりました」
有紗はエコバッグをキッチンのほうに持って行くと、すぐにまたリビングに戻ってきた。
そして、そのままこちらのほうまでやってくると、ソファの上で寝ころんでいた俺の上に跨ってくる。いや、何してんの……?
「深雪さまが入浴を終えられる前に、わたしたちも一発ヤりましょう」
そんな駆けつけ一杯みたいな感じで言うな。
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