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EP1. 俺たちがオトナになってしまうまで
第十九話 エッチなことをしなさい
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放課後、俺はホームルームを終えて教室を出ていく穂村先生のあとをこっそりと追いかけていた。
優那に本当の意味で友達ができたからといって、俺の役割のすべてがなくなったわけではない。
彼女がこれからの三年間、なんの気兼ねもなく学生生活を謳歌できるようにするのもまた俺の仕事の一つだ。
俺は周りに人の目がなくなったタイミングを見計らって、穂村先生に声をかけた。
「先生」
「待っていたわよ。やっと声をかけてくれたわね」
穂村先生がちょっと食い気味に振り返ってきた。
マジかよ。気づかれていたのか。
どうりでこんな空き教室しかない辺鄙なところに向かっていたわけだ。
最初から人目の少ないところを目指して歩いていたのか。
「あなたのことだから、きっと人に聞かれたくない相談でもあるのかと思って」
察しがよくて助かる。
煩悩に脳を浸食されたアブナイ教師だと思っていたが、認識を改める必要がありそうだ。
「それじゃ、まずは保健室に行きましょうか」
保健室……?
何か嫌な予感がしたが、俺の答えを待たずに先生が歩き出してしまったので、仕方なく俺はそのあとをついていくことにした。
穂村先生は意気揚々といった調子で先を歩いている。
なんだったらちょっと鼻歌を歌ってるくらいだ。
先生の機嫌が良いほどに俺の不安が膨らんでいくのは何故だろう……。
保健室までたどり着くと、穂村先生は養護教諭に話を通すからと言って一人で中に入ってしまった。
まあ、外で待っていろということだろう。
嫌な予感はしたが、抗っても仕方がないので大人しく待つことにする。
「すみません、武市先輩、うちのクラスの子があまり人に聞かれたくない相談があるというので、少しこの場をお借りしてもよろしいですか?」
養護教諭に話しかける穂村先生の声が聞こえてくる。
どうやら養護教諭の名は武市先生というらしい。というか、先輩って言ったか?
ひょっとしたら、学生時代からのつきあいだったりするのかもしれない。
まあ、後学のためにいちおう名前くらい覚えておくか。
保健室では穂村先生と武市先生の会話が続いている。
「あら、ナツキちゃん……ってことは、例のカレね?」
「はい。わたし、ついにやりましたよ!」
「良かったわね! じゃあ、一時間くらいテキトーに外で時間潰してくるから、もし長引きそうだったらまた連絡ちょうだい」
「分かりました。ありがとうございます!」
おい、なんか会話の内容が不穏じゃないか?
俺が不安に震えていると、保健室の中から出てきた武市先生と目が合った。
「あら……思ったより地味な感じなのね」
それだけ言って、武市先生はフラッと何処かへ歩き去っていった。
俺、そんなに地味か……?
というか、とりあえず思っていても本人を前に口にするなよ。気にするだろ。
「いいわよ、入ってきて」
穂村先生に促されて、俺は保健室に入った。
そういえば、高校に入学してから保健室に来るのは初めてだな。
部屋に向かって右半分は二台のベッドで埋まっており、左半分に事務作業用の机やら背もたれのないソファやら書類の収められた戸棚やらが雑然と並んでいる。
ソファの前には天板がガラス製のオシャレなローテーブルがあり、その上にデフューザーらしきものがおかれていた。どうりで良い香りがするわけだ。
穂村先生は――何故か、ベッドのほうに向かいながら上着を脱ぎはじめていた。
「何してんスか」
俺はもう疲れてしまって、とりあえず入口に立ったままそれだけ言った。
穂村先生が振り返り、俺がすぐ後ろについてきていなかったことに何故か驚いていたが、そのあとすぐに何かに気づいたように保健室の扉を指す。
「ごめんなさい、うっかりしてたわ。鍵、閉めておいてもらえる?」
なんでだよ。いや、まあ、察しはついているが……。
「え? ついに溢れるリビドーを抑えられなくなって、先生のカラダにエッチな相談をしに来たんじゃないの?」
ダメだコイツ。やっぱり脳を煩悩に支配されてやがる。
「違うの?」
違うんで、とりあえず上着を着てもらえますか。
「自分で脱がすほうが好みってこと?」
俺の話、聞いてます?
「まあいいわ」
穂村先生は俺の言うことなど無視して上着をベッドに放り投げる。
そして、あろうことかそのままブラウスのボタンを外しはじめたではないか。
おいおい、待て待て、これ以上は冗談では済まんぞ!
「先生、最初から冗談だなんて思ってないわよ? なんだったら、あなたにレイプされることも辞さないつもりでここにきているの。教師の覚悟、なめないでちょうだい!」
そんな覚悟はいらんのですよ。
あと、おいそれとレイプとか言うな。下手すりゃ捕まるわ。
「そんなことより、どう? 先生の半脱ぎ……エッチな気分になるでしょう?」
くっ……先生、マジでフラットですね。
「んなっ!? ぐぬぬぬぬ、背の低さと胸の小ささは触れてはいけないところよ!」
まあ、でも、ぺったんこな胸に乳首がぷっくりしてるのはエロいと思います。
「あら、分かってるじゃない。ブラジャーも脱ぎましょうか?」
見つかったら退学&懲戒免職不可避な気がしますけど、大丈夫ですかね。
「教え子と保健室でエッチなことができるなら、わたしは一向に構わないわ!」
そこまで極まってるなら逆に清々しいよ。
そんなことより、真面目な話、虐めについての相談があるんです。
「イジメ? うちのクラスにイジメなんてありません!」
そういうところはしっかり大人の保身を出してくるのかよ。
「でも、ほんとに知らないわよ?」
まあ、それもそうか。
俺が知るかぎり、柳川が直接的に優那に対して行動を起こしてきたのは今日が初めてだ。
もちろん、これまでに裏で陰口を叩いていたりする可能性はある。
優那は陰口ごときで傷つくようなタイプではないが、そういったことも含めて、穂村先生がもし本当に何も知らないのだとしたら、なおさら担任である彼女には今日のことだけでも耳に入れておいてほしくはある。
俺は改めて今日起こったことを穂村先生に説明した。
実はかくかくシカジカこしたんたんでして……。
「なるほど、柳川さんが綾小路さんにねぇ……ていうか、柳川さんって確か中学校でも似たようなことやってたわよね?」
なんだと? さすがに柳川の中学時代の話までは知らないが……。
「確か、2組の芦田くんっていうヤンキーっぽい子とつきあってるんじゃなかったかしら。中学生のころからそれを傘に、自分の気に入らない子をいびってたらしいわよ」
2組の芦田か……。
確か、比良野第二中学校で不良を束ねる頭的存在をやっていたという話だな。
もっとも、芦田自体はそこまで血の気の多いタイプではなく、とくに三年時は目立った喧嘩もしていなかったと記憶している。
とはいえ、まさか柳川が同じ中学の出身で、しかも交際していたとは……。
「あら、あなたもそのあたりは詳しいの?」
「ええ、まあ……」
俺たちは優那の学校選びの際にその周辺の治安についてもあらかじめ調べていた。
優那の進学先にこの山都河高校を選んだのも、他と比べて明らかに不良や暴走族の類が少ないという治安の良さが理由の一つだったのだ。
しかし、思えばこの辺りが他と比べてやけに治安がいいのは何故なのだろう。
「『北中の悪魔』のせいでしょ?」
なんだソレ。ヤンキー漫画のネタか何かか?
「知らない? 三年くらい前だったかしら……この辺りの中高生ヤンキーを震え上がらせた悪魔的な中学生のことよ」
悪魔的って表現、人に対して使うことあるんだ……。
「まあ、それだけヤバい子ってことかしらね。この辺りの不良どころか暴走族まで巻き込んで、ギャングの抗争かってくらいの大立ち回りをしたみたいよ。しかも、けっきょくぜーんぶ一人でやっつけちゃったんですって」
いや、それもう完全にヤンキー漫画じゃん。
「それ以来、このあたりでヤンキーやろうって子はいなくなっちゃったみたいね」
そうだったのか……。
俺たちが調べたのは直近約一年間の動静だったし、そもそも中学校はよほど素行に問題のある生徒がいるところしか調べていなかった。
まあ、仮にそんな恐ろしい存在が実在したとして、俺たちの調査で名前が挙がらなかった以上、少なくとも今は大人しくしているのだろうが……。
「比良野のほうは校区が離れてるから、そういった話を知らないのかもしれないわね。『北中の悪魔』も今はどうしてるのか、最近じゃ噂すら聞かないし」
「他にも柳川みたいな、過去にいじめをやっていた生徒って知ってますか?」
念のため、訊いておく。
「うちにいるのは柳川さんとその取り巻きくらいじゃないかしら? 他のクラスまではちょっと分からないわね」
なるほど。ひとまずは柳川周辺を黙らせれば問題はなさそうか。
「ありがとうございます。ちょっと対策を考えてみます」
「いやいや、話を聞いてしまった以上、あとは先生がなんとかするから、あなたはひとまずここでわたしにエッチなことをしなさい」
何がひとまずなのかさっぱりわからん。
というか、そろそろ服を着ろ。
こういう状況が長引くと、やつが来るかもしれん。
――ガラリ。
「お呼びになられましたか?」
「か、神楽坂さん!?」
おい、マジで来たじゃねえか。
優那に本当の意味で友達ができたからといって、俺の役割のすべてがなくなったわけではない。
彼女がこれからの三年間、なんの気兼ねもなく学生生活を謳歌できるようにするのもまた俺の仕事の一つだ。
俺は周りに人の目がなくなったタイミングを見計らって、穂村先生に声をかけた。
「先生」
「待っていたわよ。やっと声をかけてくれたわね」
穂村先生がちょっと食い気味に振り返ってきた。
マジかよ。気づかれていたのか。
どうりでこんな空き教室しかない辺鄙なところに向かっていたわけだ。
最初から人目の少ないところを目指して歩いていたのか。
「あなたのことだから、きっと人に聞かれたくない相談でもあるのかと思って」
察しがよくて助かる。
煩悩に脳を浸食されたアブナイ教師だと思っていたが、認識を改める必要がありそうだ。
「それじゃ、まずは保健室に行きましょうか」
保健室……?
何か嫌な予感がしたが、俺の答えを待たずに先生が歩き出してしまったので、仕方なく俺はそのあとをついていくことにした。
穂村先生は意気揚々といった調子で先を歩いている。
なんだったらちょっと鼻歌を歌ってるくらいだ。
先生の機嫌が良いほどに俺の不安が膨らんでいくのは何故だろう……。
保健室までたどり着くと、穂村先生は養護教諭に話を通すからと言って一人で中に入ってしまった。
まあ、外で待っていろということだろう。
嫌な予感はしたが、抗っても仕方がないので大人しく待つことにする。
「すみません、武市先輩、うちのクラスの子があまり人に聞かれたくない相談があるというので、少しこの場をお借りしてもよろしいですか?」
養護教諭に話しかける穂村先生の声が聞こえてくる。
どうやら養護教諭の名は武市先生というらしい。というか、先輩って言ったか?
ひょっとしたら、学生時代からのつきあいだったりするのかもしれない。
まあ、後学のためにいちおう名前くらい覚えておくか。
保健室では穂村先生と武市先生の会話が続いている。
「あら、ナツキちゃん……ってことは、例のカレね?」
「はい。わたし、ついにやりましたよ!」
「良かったわね! じゃあ、一時間くらいテキトーに外で時間潰してくるから、もし長引きそうだったらまた連絡ちょうだい」
「分かりました。ありがとうございます!」
おい、なんか会話の内容が不穏じゃないか?
俺が不安に震えていると、保健室の中から出てきた武市先生と目が合った。
「あら……思ったより地味な感じなのね」
それだけ言って、武市先生はフラッと何処かへ歩き去っていった。
俺、そんなに地味か……?
というか、とりあえず思っていても本人を前に口にするなよ。気にするだろ。
「いいわよ、入ってきて」
穂村先生に促されて、俺は保健室に入った。
そういえば、高校に入学してから保健室に来るのは初めてだな。
部屋に向かって右半分は二台のベッドで埋まっており、左半分に事務作業用の机やら背もたれのないソファやら書類の収められた戸棚やらが雑然と並んでいる。
ソファの前には天板がガラス製のオシャレなローテーブルがあり、その上にデフューザーらしきものがおかれていた。どうりで良い香りがするわけだ。
穂村先生は――何故か、ベッドのほうに向かいながら上着を脱ぎはじめていた。
「何してんスか」
俺はもう疲れてしまって、とりあえず入口に立ったままそれだけ言った。
穂村先生が振り返り、俺がすぐ後ろについてきていなかったことに何故か驚いていたが、そのあとすぐに何かに気づいたように保健室の扉を指す。
「ごめんなさい、うっかりしてたわ。鍵、閉めておいてもらえる?」
なんでだよ。いや、まあ、察しはついているが……。
「え? ついに溢れるリビドーを抑えられなくなって、先生のカラダにエッチな相談をしに来たんじゃないの?」
ダメだコイツ。やっぱり脳を煩悩に支配されてやがる。
「違うの?」
違うんで、とりあえず上着を着てもらえますか。
「自分で脱がすほうが好みってこと?」
俺の話、聞いてます?
「まあいいわ」
穂村先生は俺の言うことなど無視して上着をベッドに放り投げる。
そして、あろうことかそのままブラウスのボタンを外しはじめたではないか。
おいおい、待て待て、これ以上は冗談では済まんぞ!
「先生、最初から冗談だなんて思ってないわよ? なんだったら、あなたにレイプされることも辞さないつもりでここにきているの。教師の覚悟、なめないでちょうだい!」
そんな覚悟はいらんのですよ。
あと、おいそれとレイプとか言うな。下手すりゃ捕まるわ。
「そんなことより、どう? 先生の半脱ぎ……エッチな気分になるでしょう?」
くっ……先生、マジでフラットですね。
「んなっ!? ぐぬぬぬぬ、背の低さと胸の小ささは触れてはいけないところよ!」
まあ、でも、ぺったんこな胸に乳首がぷっくりしてるのはエロいと思います。
「あら、分かってるじゃない。ブラジャーも脱ぎましょうか?」
見つかったら退学&懲戒免職不可避な気がしますけど、大丈夫ですかね。
「教え子と保健室でエッチなことができるなら、わたしは一向に構わないわ!」
そこまで極まってるなら逆に清々しいよ。
そんなことより、真面目な話、虐めについての相談があるんです。
「イジメ? うちのクラスにイジメなんてありません!」
そういうところはしっかり大人の保身を出してくるのかよ。
「でも、ほんとに知らないわよ?」
まあ、それもそうか。
俺が知るかぎり、柳川が直接的に優那に対して行動を起こしてきたのは今日が初めてだ。
もちろん、これまでに裏で陰口を叩いていたりする可能性はある。
優那は陰口ごときで傷つくようなタイプではないが、そういったことも含めて、穂村先生がもし本当に何も知らないのだとしたら、なおさら担任である彼女には今日のことだけでも耳に入れておいてほしくはある。
俺は改めて今日起こったことを穂村先生に説明した。
実はかくかくシカジカこしたんたんでして……。
「なるほど、柳川さんが綾小路さんにねぇ……ていうか、柳川さんって確か中学校でも似たようなことやってたわよね?」
なんだと? さすがに柳川の中学時代の話までは知らないが……。
「確か、2組の芦田くんっていうヤンキーっぽい子とつきあってるんじゃなかったかしら。中学生のころからそれを傘に、自分の気に入らない子をいびってたらしいわよ」
2組の芦田か……。
確か、比良野第二中学校で不良を束ねる頭的存在をやっていたという話だな。
もっとも、芦田自体はそこまで血の気の多いタイプではなく、とくに三年時は目立った喧嘩もしていなかったと記憶している。
とはいえ、まさか柳川が同じ中学の出身で、しかも交際していたとは……。
「あら、あなたもそのあたりは詳しいの?」
「ええ、まあ……」
俺たちは優那の学校選びの際にその周辺の治安についてもあらかじめ調べていた。
優那の進学先にこの山都河高校を選んだのも、他と比べて明らかに不良や暴走族の類が少ないという治安の良さが理由の一つだったのだ。
しかし、思えばこの辺りが他と比べてやけに治安がいいのは何故なのだろう。
「『北中の悪魔』のせいでしょ?」
なんだソレ。ヤンキー漫画のネタか何かか?
「知らない? 三年くらい前だったかしら……この辺りの中高生ヤンキーを震え上がらせた悪魔的な中学生のことよ」
悪魔的って表現、人に対して使うことあるんだ……。
「まあ、それだけヤバい子ってことかしらね。この辺りの不良どころか暴走族まで巻き込んで、ギャングの抗争かってくらいの大立ち回りをしたみたいよ。しかも、けっきょくぜーんぶ一人でやっつけちゃったんですって」
いや、それもう完全にヤンキー漫画じゃん。
「それ以来、このあたりでヤンキーやろうって子はいなくなっちゃったみたいね」
そうだったのか……。
俺たちが調べたのは直近約一年間の動静だったし、そもそも中学校はよほど素行に問題のある生徒がいるところしか調べていなかった。
まあ、仮にそんな恐ろしい存在が実在したとして、俺たちの調査で名前が挙がらなかった以上、少なくとも今は大人しくしているのだろうが……。
「比良野のほうは校区が離れてるから、そういった話を知らないのかもしれないわね。『北中の悪魔』も今はどうしてるのか、最近じゃ噂すら聞かないし」
「他にも柳川みたいな、過去にいじめをやっていた生徒って知ってますか?」
念のため、訊いておく。
「うちにいるのは柳川さんとその取り巻きくらいじゃないかしら? 他のクラスまではちょっと分からないわね」
なるほど。ひとまずは柳川周辺を黙らせれば問題はなさそうか。
「ありがとうございます。ちょっと対策を考えてみます」
「いやいや、話を聞いてしまった以上、あとは先生がなんとかするから、あなたはひとまずここでわたしにエッチなことをしなさい」
何がひとまずなのかさっぱりわからん。
というか、そろそろ服を着ろ。
こういう状況が長引くと、やつが来るかもしれん。
――ガラリ。
「お呼びになられましたか?」
「か、神楽坂さん!?」
おい、マジで来たじゃねえか。
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