上 下
33 / 43
後期

 ライバル出現

しおりを挟む
「お前が勝手にライバル視しとった子か……」
「写真で見るよりも綺麗ばい」
「そうばいね。
 写真やとあいらしか感じやったばってん、今日は綺麗ばい」

 つま先から頭の先まで、まじまじとわたしを凝視するカラフルな二人に耐えられなくて一歩下がろうとしたが、百合恵さんにがっちりとホールドされているせいで、二人と距離が確保できない。

「吉川ちゃん、紹介するね。
 こっちピンクんバカが佐久間 洋さくま よう。コーディネイト担当。
 そして、こっちん青かクールもどきが中井 昌磨なかい しょうま。メイク担当。
 他にも仲間はいるばってん、暇そうなこん二人ば連れて偵察に来たと」

 「はじめまして」と挨拶をしてくれた二人に、圧倒されているわたしは肩に力が入っているのを感じながら「はじめまして」と返した。
 コンテストではもっと多くの人からされるというのは分かっているのに、二人からの日な定めするような決して友好的ではない視線が怖い。

「ねえ、吉川ちゃんもやっぱりモデルになりたかと?
 注目浴びて事務所にスカウトされたかけん、マーメイドに応募したんやろ?」

 モデル? スカウト?
 わたしはそんなこと全く考えていない。

 百合恵さんにやっとこ開放されたので、首を横に振って否定すると、彼女は鳩が豆鉄砲くらったような顔して首を横にかしげた。
 そんな姿もいちいち可愛くてショコラのように甘い顔で、写真を撮りたくなってしまう。

「じゃぁ、なしてマーメイドになりたかと?」
 
 好きな人に好きになってもらいたいから。そんなこと言えるはずもなく、黙るわたしに百合恵さんは「教えて、教えて」と詰め寄ってくる。正直しつこい。

 かなりの間、彼女にかまっていたことに気づいたわたしは、左手につけた腕時計を見た。やはり、そろそろ体育館に移動しなくてはやばい時間だった。
 本当の理由は恥ずかしくて言えないし、かといって無難な理由も思い浮かばないし、モデルになりたいということにしておけばよかった。嘘のつけない自分の性格を恨む。
 厚着をしているのに細い彼女の腕を払うこともできなくて、途方に暮れていると「その手を放してくれるかな」と、聞き慣れているのに毎回心臓がぎゅっと締め付けられるあの声がした。
 
「芽衣ちゃんは人見知りだからお手柔らかにしてくれるかな? 伊藤さん」

 窓から差し込む午前特有の強い日光を見方につけキラキラと輝きながら、侑李くんが現れた。
 なんと彼は、金色の刺繍がところどころ施された中世ヨーロッパの騎士を思わせる白い服に身を包んでいる。
 普通の人が来たら売れないホストみたいになってしまいそうな服をスタイルのいい侑李くんは完璧に自分の物にしていた。彼とすれ違った人たちは、みな思わず感嘆の声をもらす。

「ど、どうしたんですか? その綺羅びやかな服装は」
「劇の服だよ。僕のクラスは夕方からシンデレラをやるんだ。
 だから、僕はそれまでにこうして宣伝活動」

 もう少しで触れられそうなほど近くの距離まで来ると、なびいていたマントと共に侑李くんの足はピタリと止まった。
 言わずもがな侑李くんがが王子様役だろう。王子様基質の彼に、この衣装はハマり過ぎている。
 生きる宝石のような彼を見ていられず、百合恵さんとカラフルな二人に視線を移すと三人ともあんぐりとした表情で侑李くんを見ていた。

「君はマーメイドコンテストの出場する伊藤 百合恵さんでしょ?
 あまりに美しかったのですぐにわかりました」

 話しかけられていると脳が処理するまでに時間のかかった百合恵さんは7秒くらい経ってから「そりゃどうも」と答えた。フランス人形に見惚れられている侑李くんを見て、なんだかわたしが勝利したような気分になる。

「美女二人が仲睦ましく談笑している光景はとても華があるけど、もうすぐ芽衣ちゃんは劇の出番なんだ。
 開放してくれるかい?」
「……え、あ、そうやったと?
 気づかんでごめんなさい」
 
 ハッと我に帰った百合恵さんに謝られたわたしは「全然平気です」と返す。

「今日はわざわざ芽衣ちゃんに会いに来てくれて感謝します。
 コンテスト当日はお互いがんばりましょう」

 三人に王子スマイルを振りまいた侑李くんは、わたしの手を取り走りだした。再び白いマントが風になびく。

「体育館まで急ごう」

 侑李くんは、走っているというのに息も乱れず余裕そうな整った顔で振り向いた。
 手を繋いで走るわたしたちを皆が注目した。見られるのは苦手なはずなのに、彼を独占しているという高揚感に包まれて恥ずかしさは無かった。

 もっと、もっと、わたしたちのことを見て、侑李くんに恋している人なんていなくなってしまえばいい。
 わたしは侑李くんとカフェに行ったことだって、夜の公園に行ったことだってあるのよって叫びたい。
 彼のことを好きな沢山の女子と戦って勝つ自信なんてないけれど、みんなが彼のことを諦めれば不戦勝できる。

 見せつけるようにわたしもぎゅっと彼の手を握った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美少女幼馴染が火照って喘いでいる

サドラ
恋愛
高校生の主人公。ある日、風でも引いてそうな幼馴染の姿を見るがその後、彼女の家から変な喘ぎ声が聞こえてくるー

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈 
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【短編】悪役令嬢と蔑まれた私は史上最高の遺書を書く

とによ
恋愛
婚約破棄され、悪役令嬢と呼ばれ、いじめを受け。 まさに不幸の役満を食らった私――ハンナ・オスカリウスは、自殺することを決意する。 しかし、このままただで死ぬのは嫌だ。なにか私が生きていたという爪痕を残したい。 なら、史上最高に素晴らしい出来の遺書を書いて、自殺してやろう! そう思った私は全身全霊で遺書を書いて、私の通っている魔法学園へと自殺しに向かった。 しかし、そこで謎の美男子に見つかってしまい、しまいには遺書すら読まれてしまう。 すると彼に 「こんな遺書じゃダメだね」 「こんなものじゃ、誰の記憶にも残らないよ」 と思いっきりダメ出しをされてしまった。 それにショックを受けていると、彼はこう提案してくる。 「君の遺書を最高のものにしてみせる。その代わり、僕の研究を手伝ってほしいんだ」 これは頭のネジが飛んでいる彼について行った結果、彼と共に歴史に名を残してしまう。 そんなお話。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...