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後期
ライバル出現
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「お前が勝手にライバル視しとった子か……」
「写真で見るよりも綺麗ばい」
「そうばいね。
写真やとあいらしか感じやったばってん、今日は綺麗ばい」
つま先から頭の先まで、まじまじとわたしを凝視するカラフルな二人に耐えられなくて一歩下がろうとしたが、百合恵さんにがっちりとホールドされているせいで、二人と距離が確保できない。
「吉川ちゃん、紹介するね。
こっちピンクんバカが佐久間 洋。コーディネイト担当。
そして、こっちん青かクールもどきが中井 昌磨。メイク担当。
他にも仲間はいるばってん、暇そうなこん二人ば連れて偵察に来たと」
「はじめまして」と挨拶をしてくれた二人に、圧倒されているわたしは肩に力が入っているのを感じながら「はじめまして」と返した。
コンテストではもっと多くの人からされるというのは分かっているのに、二人からの日な定めするような決して友好的ではない視線が怖い。
「ねえ、吉川ちゃんもやっぱりモデルになりたかと?
注目浴びて事務所にスカウトされたかけん、マーメイドに応募したんやろ?」
モデル? スカウト?
わたしはそんなこと全く考えていない。
百合恵さんにやっとこ開放されたので、首を横に振って否定すると、彼女は鳩が豆鉄砲くらったような顔して首を横にかしげた。
そんな姿もいちいち可愛くてショコラのように甘い顔で、写真を撮りたくなってしまう。
「じゃぁ、なしてマーメイドになりたかと?」
好きな人に好きになってもらいたいから。そんなこと言えるはずもなく、黙るわたしに百合恵さんは「教えて、教えて」と詰め寄ってくる。正直しつこい。
かなりの間、彼女にかまっていたことに気づいたわたしは、左手につけた腕時計を見た。やはり、そろそろ体育館に移動しなくてはやばい時間だった。
本当の理由は恥ずかしくて言えないし、かといって無難な理由も思い浮かばないし、モデルになりたいということにしておけばよかった。嘘のつけない自分の性格を恨む。
厚着をしているのに細い彼女の腕を払うこともできなくて、途方に暮れていると「その手を放してくれるかな」と、聞き慣れているのに毎回心臓がぎゅっと締め付けられるあの声がした。
「芽衣ちゃんは人見知りだからお手柔らかにしてくれるかな? 伊藤さん」
窓から差し込む午前特有の強い日光を見方につけキラキラと輝きながら、侑李くんが現れた。
なんと彼は、金色の刺繍がところどころ施された中世ヨーロッパの騎士を思わせる白い服に身を包んでいる。
普通の人が来たら売れないホストみたいになってしまいそうな服をスタイルのいい侑李くんは完璧に自分の物にしていた。彼とすれ違った人たちは、みな思わず感嘆の声をもらす。
「ど、どうしたんですか? その綺羅びやかな服装は」
「劇の服だよ。僕のクラスは夕方からシンデレラをやるんだ。
だから、僕はそれまでにこうして宣伝活動」
もう少しで触れられそうなほど近くの距離まで来ると、なびいていたマントと共に侑李くんの足はピタリと止まった。
言わずもがな侑李くんがが王子様役だろう。王子様基質の彼に、この衣装はハマり過ぎている。
生きる宝石のような彼を見ていられず、百合恵さんとカラフルな二人に視線を移すと三人ともあんぐりとした表情で侑李くんを見ていた。
「君はマーメイドコンテストの出場する伊藤 百合恵さんでしょ?
あまりに美しかったのですぐにわかりました」
話しかけられていると脳が処理するまでに時間のかかった百合恵さんは7秒くらい経ってから「そりゃどうも」と答えた。フランス人形に見惚れられている侑李くんを見て、なんだかわたしが勝利したような気分になる。
「美女二人が仲睦ましく談笑している光景はとても華があるけど、もうすぐ芽衣ちゃんは劇の出番なんだ。
開放してくれるかい?」
「……え、あ、そうやったと?
気づかんでごめんなさい」
ハッと我に帰った百合恵さんに謝られたわたしは「全然平気です」と返す。
「今日はわざわざ芽衣ちゃんに会いに来てくれて感謝します。
コンテスト当日はお互いがんばりましょう」
三人に王子スマイルを振りまいた侑李くんは、わたしの手を取り走りだした。再び白いマントが風になびく。
「体育館まで急ごう」
侑李くんは、走っているというのに息も乱れず余裕そうな整った顔で振り向いた。
手を繋いで走るわたしたちを皆が注目した。見られるのは苦手なはずなのに、彼を独占しているという高揚感に包まれて恥ずかしさは無かった。
もっと、もっと、わたしたちのことを見て、侑李くんに恋している人なんていなくなってしまえばいい。
わたしは侑李くんとカフェに行ったことだって、夜の公園に行ったことだってあるのよって叫びたい。
彼のことを好きな沢山の女子と戦って勝つ自信なんてないけれど、みんなが彼のことを諦めれば不戦勝できる。
見せつけるようにわたしもぎゅっと彼の手を握った。
「写真で見るよりも綺麗ばい」
「そうばいね。
写真やとあいらしか感じやったばってん、今日は綺麗ばい」
つま先から頭の先まで、まじまじとわたしを凝視するカラフルな二人に耐えられなくて一歩下がろうとしたが、百合恵さんにがっちりとホールドされているせいで、二人と距離が確保できない。
「吉川ちゃん、紹介するね。
こっちピンクんバカが佐久間 洋。コーディネイト担当。
そして、こっちん青かクールもどきが中井 昌磨。メイク担当。
他にも仲間はいるばってん、暇そうなこん二人ば連れて偵察に来たと」
「はじめまして」と挨拶をしてくれた二人に、圧倒されているわたしは肩に力が入っているのを感じながら「はじめまして」と返した。
コンテストではもっと多くの人からされるというのは分かっているのに、二人からの日な定めするような決して友好的ではない視線が怖い。
「ねえ、吉川ちゃんもやっぱりモデルになりたかと?
注目浴びて事務所にスカウトされたかけん、マーメイドに応募したんやろ?」
モデル? スカウト?
わたしはそんなこと全く考えていない。
百合恵さんにやっとこ開放されたので、首を横に振って否定すると、彼女は鳩が豆鉄砲くらったような顔して首を横にかしげた。
そんな姿もいちいち可愛くてショコラのように甘い顔で、写真を撮りたくなってしまう。
「じゃぁ、なしてマーメイドになりたかと?」
好きな人に好きになってもらいたいから。そんなこと言えるはずもなく、黙るわたしに百合恵さんは「教えて、教えて」と詰め寄ってくる。正直しつこい。
かなりの間、彼女にかまっていたことに気づいたわたしは、左手につけた腕時計を見た。やはり、そろそろ体育館に移動しなくてはやばい時間だった。
本当の理由は恥ずかしくて言えないし、かといって無難な理由も思い浮かばないし、モデルになりたいということにしておけばよかった。嘘のつけない自分の性格を恨む。
厚着をしているのに細い彼女の腕を払うこともできなくて、途方に暮れていると「その手を放してくれるかな」と、聞き慣れているのに毎回心臓がぎゅっと締め付けられるあの声がした。
「芽衣ちゃんは人見知りだからお手柔らかにしてくれるかな? 伊藤さん」
窓から差し込む午前特有の強い日光を見方につけキラキラと輝きながら、侑李くんが現れた。
なんと彼は、金色の刺繍がところどころ施された中世ヨーロッパの騎士を思わせる白い服に身を包んでいる。
普通の人が来たら売れないホストみたいになってしまいそうな服をスタイルのいい侑李くんは完璧に自分の物にしていた。彼とすれ違った人たちは、みな思わず感嘆の声をもらす。
「ど、どうしたんですか? その綺羅びやかな服装は」
「劇の服だよ。僕のクラスは夕方からシンデレラをやるんだ。
だから、僕はそれまでにこうして宣伝活動」
もう少しで触れられそうなほど近くの距離まで来ると、なびいていたマントと共に侑李くんの足はピタリと止まった。
言わずもがな侑李くんがが王子様役だろう。王子様基質の彼に、この衣装はハマり過ぎている。
生きる宝石のような彼を見ていられず、百合恵さんとカラフルな二人に視線を移すと三人ともあんぐりとした表情で侑李くんを見ていた。
「君はマーメイドコンテストの出場する伊藤 百合恵さんでしょ?
あまりに美しかったのですぐにわかりました」
話しかけられていると脳が処理するまでに時間のかかった百合恵さんは7秒くらい経ってから「そりゃどうも」と答えた。フランス人形に見惚れられている侑李くんを見て、なんだかわたしが勝利したような気分になる。
「美女二人が仲睦ましく談笑している光景はとても華があるけど、もうすぐ芽衣ちゃんは劇の出番なんだ。
開放してくれるかい?」
「……え、あ、そうやったと?
気づかんでごめんなさい」
ハッと我に帰った百合恵さんに謝られたわたしは「全然平気です」と返す。
「今日はわざわざ芽衣ちゃんに会いに来てくれて感謝します。
コンテスト当日はお互いがんばりましょう」
三人に王子スマイルを振りまいた侑李くんは、わたしの手を取り走りだした。再び白いマントが風になびく。
「体育館まで急ごう」
侑李くんは、走っているというのに息も乱れず余裕そうな整った顔で振り向いた。
手を繋いで走るわたしたちを皆が注目した。見られるのは苦手なはずなのに、彼を独占しているという高揚感に包まれて恥ずかしさは無かった。
もっと、もっと、わたしたちのことを見て、侑李くんに恋している人なんていなくなってしまえばいい。
わたしは侑李くんとカフェに行ったことだって、夜の公園に行ったことだってあるのよって叫びたい。
彼のことを好きな沢山の女子と戦って勝つ自信なんてないけれど、みんなが彼のことを諦めれば不戦勝できる。
見せつけるようにわたしもぎゅっと彼の手を握った。
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