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後期
とぼけるなよ
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目の前のパソコンに写っているのは、奇跡の写真。
これはわたしが死んだとき絶対遺影に使ってもらおう。
「かわいい~!
本物のお姫様みたい!」
まん丸の目の中にハートを浮かばせて、朝陽くんが褒めてくれる。
「ありがとうございます」
紫さんが撮ってくれた宣材写真を見て、自然と笑みがこぼれた。
画面に映るわたしは、さっきまで緊張していたとは思えないほどに満面の笑顔だ。
(やっぱり妹の笑顔はわたしに幸せをくれる)
少し上目がちにくしゃっと笑う。これが妹の笑い方。
リラックスできたから、ここまで完璧にコピーできた。
(梓さんにお礼言わなきゃ)
辺りを見回すと、梓さんはみんなの輪に入らずに部屋の隅で一人、壁にもたれかかっていた。
むずかしい顔して、何か考え事かな?
わたしは、小走りに梓さんの元へ駆け寄る。
「あ、あの! ありがとうございました!
梓さんがわたしのことを気にかけてくださったから、素敵な写真が取れたんです。
侑李くんも褒めてくれたんですよ」
梓さんは一瞬わたしの顔をちらっと見て、すぐに視線を逸らした。
もっと喜んでくれると思ったのに、なんだか梓さんの顔は不満げだ。
「……写真、見てくださいましたか?」
「見たさ。誰よりも最初に」
「ありがとうございます」そう言おうとしたが梓さんの何か言いたげな顔を見て、わたしは言葉を飲み込んだ。
本当は侑李くんよりも、放課後わたしに付き合ってくれたり、今日だって緊張をほぐしてくれた梓さんに喜んでもらいたい。それなのに、彼はノーリアクションだ。
「お前、いつからそんな風に笑うようになった?」
――そんな風?
意味がわからずにわたしは首をかしげた。
「誰の真似して笑ってんだって聞いてるんだよ」
鼓動が大きく高鳴る。
侑李くんと一緒にいるときとは違った高鳴りだ。
ばくばくと鳴る心臓はわたしを更に追い詰めていく。
「……なんのことですか。
わたしは誰かの真似なんかしていません」
「とぼけるなよ。
前、こんな媚びたような偽物の笑い方じゃなかった。
俺はお前の本当の笑顔が見たかった」
「笑顔に本物とか偽物とか、意味がわかりません。
それに、さっきのわたしの笑顔が偽物だとして、梓さんはわたしの本物の笑顔を見たことがあるんですか?」
確信をつかれた。梓さんが言っていることは何一つ間違えていない。
平然を装うために深呼吸をしたが、どうしても声が震えてしまう。
「気づいていないのか?
授業中や放課後、部活中、お前が俺に笑いかけるときは本物だった。
媚びない笑顔で、少し恥ずかし気で、じっと見つめるとすぐに視線をそらされた。
逸らした横顔も綺麗で、俺はお前の笑顔が好きだった」
梓さんがわたしの横をすっと通り抜ける。
いつもの真顔に戻っていたけれど、足音が少し大きくて怒っているような気がした。
世間に認められるために妹の真似をしたわたしじゃなくて、素のわたしが好きだなんて反則だ。
自分を殺して妹になりきろうって決めたのに、風に吹かれたろうそくのように心が揺らいでしまう。
わたしと違って自分の意志を強くもった梓さんの言葉は、染まりやすいわたしの心によく響いてしまうのだ。
これはわたしが死んだとき絶対遺影に使ってもらおう。
「かわいい~!
本物のお姫様みたい!」
まん丸の目の中にハートを浮かばせて、朝陽くんが褒めてくれる。
「ありがとうございます」
紫さんが撮ってくれた宣材写真を見て、自然と笑みがこぼれた。
画面に映るわたしは、さっきまで緊張していたとは思えないほどに満面の笑顔だ。
(やっぱり妹の笑顔はわたしに幸せをくれる)
少し上目がちにくしゃっと笑う。これが妹の笑い方。
リラックスできたから、ここまで完璧にコピーできた。
(梓さんにお礼言わなきゃ)
辺りを見回すと、梓さんはみんなの輪に入らずに部屋の隅で一人、壁にもたれかかっていた。
むずかしい顔して、何か考え事かな?
わたしは、小走りに梓さんの元へ駆け寄る。
「あ、あの! ありがとうございました!
梓さんがわたしのことを気にかけてくださったから、素敵な写真が取れたんです。
侑李くんも褒めてくれたんですよ」
梓さんは一瞬わたしの顔をちらっと見て、すぐに視線を逸らした。
もっと喜んでくれると思ったのに、なんだか梓さんの顔は不満げだ。
「……写真、見てくださいましたか?」
「見たさ。誰よりも最初に」
「ありがとうございます」そう言おうとしたが梓さんの何か言いたげな顔を見て、わたしは言葉を飲み込んだ。
本当は侑李くんよりも、放課後わたしに付き合ってくれたり、今日だって緊張をほぐしてくれた梓さんに喜んでもらいたい。それなのに、彼はノーリアクションだ。
「お前、いつからそんな風に笑うようになった?」
――そんな風?
意味がわからずにわたしは首をかしげた。
「誰の真似して笑ってんだって聞いてるんだよ」
鼓動が大きく高鳴る。
侑李くんと一緒にいるときとは違った高鳴りだ。
ばくばくと鳴る心臓はわたしを更に追い詰めていく。
「……なんのことですか。
わたしは誰かの真似なんかしていません」
「とぼけるなよ。
前、こんな媚びたような偽物の笑い方じゃなかった。
俺はお前の本当の笑顔が見たかった」
「笑顔に本物とか偽物とか、意味がわかりません。
それに、さっきのわたしの笑顔が偽物だとして、梓さんはわたしの本物の笑顔を見たことがあるんですか?」
確信をつかれた。梓さんが言っていることは何一つ間違えていない。
平然を装うために深呼吸をしたが、どうしても声が震えてしまう。
「気づいていないのか?
授業中や放課後、部活中、お前が俺に笑いかけるときは本物だった。
媚びない笑顔で、少し恥ずかし気で、じっと見つめるとすぐに視線をそらされた。
逸らした横顔も綺麗で、俺はお前の笑顔が好きだった」
梓さんがわたしの横をすっと通り抜ける。
いつもの真顔に戻っていたけれど、足音が少し大きくて怒っているような気がした。
世間に認められるために妹の真似をしたわたしじゃなくて、素のわたしが好きだなんて反則だ。
自分を殺して妹になりきろうって決めたのに、風に吹かれたろうそくのように心が揺らいでしまう。
わたしと違って自分の意志を強くもった梓さんの言葉は、染まりやすいわたしの心によく響いてしまうのだ。
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