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後期
梓さんのお姉様
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スタジオに入るとスタッフさんたちは、わたしと梓さんに「こんにちは」と挨拶をするだけで勝手に奥へと進む梓さんを誰も止めようとしなかった。
ホワイトとライトブラウンを基調としたオシャレなスタジオにおろおろしていると「遅い!」と怒った梓さんはわたしの腕を引っぱり、奥へ奥へと進んで行った。
やがて、カメラや照明が無数に置いてある空間に着くと、侑李くんと西園寺兄弟の姿が見えた。
「梓と芽衣ちゃん、やっときたー!
今日の部活はわくわくどきどきだから早く始めよ!」
朝陽くんがわたしたちに向かって、右手を高く上げてぶんぶんと振る。あまりに元気に振るものだから、お尻にしっぽまで見えてきた。
そして、この様子を陽翔先輩が写真におさめていた。
……すごく可愛いから、気持ちはわかるけど陽翔先輩のブラコン基質……。
「お前ら相変わらず兄弟で何気持ち悪いことやってんだ」
真横でさらっと酷いことを言う梓さん。
相手がどう思うとか深く考えずに言いたいことをすぐに言っちゃう梓さんは、きっとオブラートという言葉を知らない。
しかし、西園寺兄弟は気にする様子もなく、陽翔さんは「このカメラは紫さんに借りたんだ」と人の良さそうな笑顔で言った。
「その生意気な口のきき方を改善しろ! 友達になんて酷いこと言っている!?
だから、お前には昔からこいつらしか友達がいないんだ」
コツコツというヒールと床が擦れ合う音と共に、黒髪ワンレンボブで切れ長の目を持った20代前半の女性が現れた。ヒールを履いているのにジャージを着ていて、なんともミスマッチだが、もっと驚くべきことがあった。
「梓さんが女性になった……」
あまりの衝撃に左手で口元を抑えながら、右手で女性になった梓さんを指さしてしまう。隣にいる梓さんと、歩いてくる梓さんを見比べるけど、やっばり瓜二つ。違いは体型と髪型だ。
「やめろ。俺はこんなにプライド高そうな顔してねえ」
「それはこっちの台詞だ。正式に訂正して謝罪しろ」
「い や だ」
梓さんは舌をべーっと出した。二人の間にビリビリと電流のような物が走る。今にも胸ぐらを掴み合いそうな雰囲気だ。
自然とわたしの足は二人から距離を取っていた。
「彼女はね、財前 紫さん。
この前デートしたときに話した梓のお姉さんだよ」
わたしと目があった侑李くんは、わたしの近くに来て足を少し屈め、わたしに耳打ちするようにそう言った。
梓さんのお姉さん、ということはつまり、
「おかあさ~ん! あずさ~! けんかすると神様が悲しむ~!」
てくてくてく、と三歳ほどの女の子がこちらに一生懸命走ってくる。艶のある黒髪に映える赤いボンボンの髪飾りとクマのリュックが可愛すぎる。背が低くて、後ろから見るとクマが歩いているかのようだ。
女の子はそのままお母さんに抱きつくのかと思ったら、予想外に梓さんに抱きついた。梓さんも一瞬驚いた表情を見せたがすぐに顔の筋肉が緩んで、女の子を抱き上げる。
「桃香!元気だったか~!?
お前は相変わらずかわいいな」
わたしの全身にピリッと衝撃が走った。信じられない。目の前にいるのは、少し前までわたしにブスブス言ってきた梓さんなのだろうか。
梓さんは自身の額を女の子の頬にすりすりと擦り付ける。女の子は「くすぐったーい」と笑っていて嬉しそう。
「ほら、言ったでしょ。お姉さんの子供にぞっこんだって」
「はい……。でもまさかここまでとは。
このデレデレパラダイス、わたしたち目撃してしまってよかったのでしょうか?」
「あの様子じゃ、僕たちに見られているってこと忘れてるだろうね」
「はい、たのしそうです」
微笑ましすぎる二人を見ながらそう言うと、侑李くんは口を少し尖らせて顎を人差し指で触り、なにやら考える素振りを見せた。いちいち色気のある侑李くんにわたしは目を奪われてしまう。
「芽衣ちゃんも、あれ僕にやられてみる?」
思わず「は?」という声が漏れ、それから開いた口が塞がらない。拒否はしないわたしに侑李くんはニヤリとして、わたしの両腕を「すきあり!」とばかりに掴んで自由を奪った。
そのまま侑李くんの額がわたしの頬向かってやってくる。目線を下に向けると彼の金髪で視界が埋め尽くされる。ほどよくシャンプーの香りもして、昨日侑李くんもお風呂で頭を洗ったんだろうな。洗い流すときは、少しの泡とシャワーで水もしたたるイイ男爆発してんだろうな。なんて痴女だから妄想を膨らませてしまう。
しかし、もう少しで天国に片足突っ込みそうになったとき、頭を誰かに叩かれた感じがして意識を取り戻した。
「公共の場だ。イチャつくな」
梓さんが丸めた雑誌をぎゅっと握りしめて近くにいたので、恐らく彼の仕業だろう。侑李くんが痛そうに頭を撫でているあたり、侑李くんの頭まで叩いたのか……。
「梓の真似しただけなのにこんな仕打ち酷いよねー? 芽衣ちゃん?」
首をかしげて、女の子よりも可愛く微笑む侑李くんにきゅんっきゅんしながら、わたしが「はい」と答える。すると、梓さんの眉間のシワはみるみる濃くなり、雑誌はグシャッと潰れてしまった。
怒った梓さんは世界一怖い。わたしの背中から、だらだらと冷や汗が流れる。そんな中、隣から侑李くんがケラケラと笑う声がして、それがより一層梓さんの怒りを増幅させるのだった。
ホワイトとライトブラウンを基調としたオシャレなスタジオにおろおろしていると「遅い!」と怒った梓さんはわたしの腕を引っぱり、奥へ奥へと進んで行った。
やがて、カメラや照明が無数に置いてある空間に着くと、侑李くんと西園寺兄弟の姿が見えた。
「梓と芽衣ちゃん、やっときたー!
今日の部活はわくわくどきどきだから早く始めよ!」
朝陽くんがわたしたちに向かって、右手を高く上げてぶんぶんと振る。あまりに元気に振るものだから、お尻にしっぽまで見えてきた。
そして、この様子を陽翔先輩が写真におさめていた。
……すごく可愛いから、気持ちはわかるけど陽翔先輩のブラコン基質……。
「お前ら相変わらず兄弟で何気持ち悪いことやってんだ」
真横でさらっと酷いことを言う梓さん。
相手がどう思うとか深く考えずに言いたいことをすぐに言っちゃう梓さんは、きっとオブラートという言葉を知らない。
しかし、西園寺兄弟は気にする様子もなく、陽翔さんは「このカメラは紫さんに借りたんだ」と人の良さそうな笑顔で言った。
「その生意気な口のきき方を改善しろ! 友達になんて酷いこと言っている!?
だから、お前には昔からこいつらしか友達がいないんだ」
コツコツというヒールと床が擦れ合う音と共に、黒髪ワンレンボブで切れ長の目を持った20代前半の女性が現れた。ヒールを履いているのにジャージを着ていて、なんともミスマッチだが、もっと驚くべきことがあった。
「梓さんが女性になった……」
あまりの衝撃に左手で口元を抑えながら、右手で女性になった梓さんを指さしてしまう。隣にいる梓さんと、歩いてくる梓さんを見比べるけど、やっばり瓜二つ。違いは体型と髪型だ。
「やめろ。俺はこんなにプライド高そうな顔してねえ」
「それはこっちの台詞だ。正式に訂正して謝罪しろ」
「い や だ」
梓さんは舌をべーっと出した。二人の間にビリビリと電流のような物が走る。今にも胸ぐらを掴み合いそうな雰囲気だ。
自然とわたしの足は二人から距離を取っていた。
「彼女はね、財前 紫さん。
この前デートしたときに話した梓のお姉さんだよ」
わたしと目があった侑李くんは、わたしの近くに来て足を少し屈め、わたしに耳打ちするようにそう言った。
梓さんのお姉さん、ということはつまり、
「おかあさ~ん! あずさ~! けんかすると神様が悲しむ~!」
てくてくてく、と三歳ほどの女の子がこちらに一生懸命走ってくる。艶のある黒髪に映える赤いボンボンの髪飾りとクマのリュックが可愛すぎる。背が低くて、後ろから見るとクマが歩いているかのようだ。
女の子はそのままお母さんに抱きつくのかと思ったら、予想外に梓さんに抱きついた。梓さんも一瞬驚いた表情を見せたがすぐに顔の筋肉が緩んで、女の子を抱き上げる。
「桃香!元気だったか~!?
お前は相変わらずかわいいな」
わたしの全身にピリッと衝撃が走った。信じられない。目の前にいるのは、少し前までわたしにブスブス言ってきた梓さんなのだろうか。
梓さんは自身の額を女の子の頬にすりすりと擦り付ける。女の子は「くすぐったーい」と笑っていて嬉しそう。
「ほら、言ったでしょ。お姉さんの子供にぞっこんだって」
「はい……。でもまさかここまでとは。
このデレデレパラダイス、わたしたち目撃してしまってよかったのでしょうか?」
「あの様子じゃ、僕たちに見られているってこと忘れてるだろうね」
「はい、たのしそうです」
微笑ましすぎる二人を見ながらそう言うと、侑李くんは口を少し尖らせて顎を人差し指で触り、なにやら考える素振りを見せた。いちいち色気のある侑李くんにわたしは目を奪われてしまう。
「芽衣ちゃんも、あれ僕にやられてみる?」
思わず「は?」という声が漏れ、それから開いた口が塞がらない。拒否はしないわたしに侑李くんはニヤリとして、わたしの両腕を「すきあり!」とばかりに掴んで自由を奪った。
そのまま侑李くんの額がわたしの頬向かってやってくる。目線を下に向けると彼の金髪で視界が埋め尽くされる。ほどよくシャンプーの香りもして、昨日侑李くんもお風呂で頭を洗ったんだろうな。洗い流すときは、少しの泡とシャワーで水もしたたるイイ男爆発してんだろうな。なんて痴女だから妄想を膨らませてしまう。
しかし、もう少しで天国に片足突っ込みそうになったとき、頭を誰かに叩かれた感じがして意識を取り戻した。
「公共の場だ。イチャつくな」
梓さんが丸めた雑誌をぎゅっと握りしめて近くにいたので、恐らく彼の仕業だろう。侑李くんが痛そうに頭を撫でているあたり、侑李くんの頭まで叩いたのか……。
「梓の真似しただけなのにこんな仕打ち酷いよねー? 芽衣ちゃん?」
首をかしげて、女の子よりも可愛く微笑む侑李くんにきゅんっきゅんしながら、わたしが「はい」と答える。すると、梓さんの眉間のシワはみるみる濃くなり、雑誌はグシャッと潰れてしまった。
怒った梓さんは世界一怖い。わたしの背中から、だらだらと冷や汗が流れる。そんな中、隣から侑李くんがケラケラと笑う声がして、それがより一層梓さんの怒りを増幅させるのだった。
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