王子からマーメイドになれと命令された♂♀

いろは るり

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後期

オンリー・ユー

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 放課後。火曜日だから今日は部活がある。
 でも今日の部活はいつもと違って部室集合じゃない。だから、早く教室を出なくては。

 帰りのHRが終わったというのに、机に伏せて寝息を立てて寝ている梓さんの肩を揺らす。

「梓さん、起きてください。部活遅刻したら侑李くんに一ヶ月鍵閉め係の刑に処せられますよ」

 これでもかというくらい何度も梓さんを揺らすと、梓さんはむくりと顔を上げて、猫のように目をかいた。
 ……前々から思っていたけど、梓さんは黒猫に似ている。

「……朝陽が宇宙人に誘拐されて、陽翔が俺らを引き連れて朝陽を取り返しに行く夢を見た」
「小学生が見そうな夢ですね」

 さっきまで眠たそうだった梓さんの目がキリッと鋭くなって、わたしを睨む。相変わらず怖い。“小学生”というのが気に食わなかったようだ。よく考えずにぽろっと言ってしまった自分の後悔する。

「侑李くんから連絡きましたか?
 今日は部室じゃなくて、渋谷にあるフォトスタジオに集まるらしいですね。地図を添付してくれたのでこれを頼りに行ってみます」
「……渋谷?」
 
 眉をひそめた梓さんは、不機嫌そうにスマホを開き、文字を追うように瞳を左右に揺らしてから舌打ちをした。

「あいつのスタジオじゃねえか……。いつの間にアポ取りやがった……」

 スクールバックを掴み、立ち上がった梓さんは「何ボケっとしてんだ。早く行くぞ」と言った。学校から渋谷は歩いていける距離ではないので電車を使うことになる。梓さんは私となんかと行動したくないだろうと思って、物理的距離を置くために、ぼっ立っていたら怒られてしまった。

「わたしなんぞが梓さんと電車に乗って迷惑になりませんでしょうか……?」
「は? なるわけねえだろ。電車くらいで何いちいち考えてんだ。
 同じクラスなのに別々で行ったら、あいつらに『喧嘩したの?』とか質問攻めに合いそうで面倒くせえよ」
「なるほど。梓さんにとって楽な方を選んだということですね」
「……間違っちゃねえけど、そういう言い方するなよ!
 友達と目的地が同じなら、一緒に行くのが普通だろ!?」

 友達……! まさか梓さんの口からそんな言葉が聞けるようになるなんて、驚きである。だが、それ以上に湧き上がる感情があってわたしの顔はあっという間に真っ赤になる。

「わたしたち、友達だったのですか……?」
「赤面しながらそんな恥ずかしいこと質問してくんじゃねえよ! 俺が恥ずかしくなるわ!」

 赤くなった顔を見られまいと両手でそれを隠すと、青筋を浮かべた梓さんに剥がされてしまった。

「人生で初めての友達が梓さんで嬉しいです! 幸せです!」

 怒られるのを覚悟で自分の思いを伝えたら、梓さんがわたしの手を顔に戻したせいで、彼の顔が見えなくなってしまった。梓さんの手は放れたが、「しばらくそうしてろ」と言われたので、引き続き顔を隠すことにした。

「何をしたら友達にクラスの人とお友達になれるのでしょうか」
「知らん。まぁ、五分以上話したら友達だろ(テキトー)」
「五分!? 長いですね!
 梓さんはクラスに何人お友達がいますか?」
「……おれも、お前……だけだわ」
「……。一緒に頑張りましょう」

 わたしと同じように友達の少ない梓さんを励ますために梓さんの肩を叩いたら、「俺は別に友達なんてほしくねえ!」と結局怒られてしまった。
 人差し指で鼻先を掻いた梓さんを追うように、わたしは渋谷へと急いだ。



(廊下を歩く途中、シャッター音がしたけれど気持ちがふわふわしていたせいで「なんだろ?」と思っただけで、聞き流してしまった)
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