王子からマーメイドになれと命令された♂♀

いろは るり

文字の大きさ
上 下
20 / 43
前期

 放課後の共有

しおりを挟む
「お前、ちょっと放課後残れ」

 朝、席に着いた途端に梓さんに言われた。焼きそばパン食べながら、牛乳を左手に持っている。なにこれめっちゃ梓さん100%な朝食は。
 水曜日だからお互いに部活はないし、わたしは一緒に下校する友達もいないし「わかりました」と簡潔に答えた。

 そして、帰りのホームルーム終了後、ガヤガヤと騒いでいた生徒たちは放課後の遊び場が決定するとそそくさに帰っていった。だから、今、教室に梓さんと二人きりだ。教室に他の生徒が居なくなった途端に梓さんは読んでいた本を閉じて立ち上がった。

「な、なにか御用でしたか」

 いきなり立ち上がった梓さんにびびってついつい声が震えてしまう。きっとこの震えが余計に狼のような梓さんを苛つかせてしまうんだ。そう考えていたら、急に顎を掴まれ、梓さんの顔が近づいてきたーー。

(ち、近い!そして、男性的な美しいお顔!)

 侑李くんと違って骨っぽい顔立ちだ。唇も薄くてクールに見える。正直、化粧品に興味があるようには見えない。

「しっかりスキンケア、使ったようだな」

 息がかかるほどの至近距離で、梓さんは言った。頬が熱いのはわたしだけで梓さんは至って平常心だ。

「すっごく良かったです。さすが梓さんのセレクトです」
「…………だろ?」

 褒めたら案外梓さんは嬉しそうな顔をした。嬉しそうな顔といっても、人差し指で鼻を掻いて一瞬頬が緩んだだけだけど。やっぱり褒められるのが嫌いな人っていないんだなぁ。

「今日は化粧をやってやる。
 部活中は他の奴らにお前を取られるのが予測されるから、週2の部活だけじゃ間に合わない。コンテストまで時々放課後、俺にお前を貸してくれ」

 わたしの返事を聞く前に梓さんはスクールバッグから化粧品を取り出している。梓さんとわたしの机いっぱいに化粧品が置かれる。なんだかスキンケアよりもパッケージが可愛かったり、格好良かったりで、テンションが上がってきた。

「残念なことに、お前を“可愛い系”の方向性で売り込むことになってしまった」

 残念ってどんだけ不本意だったんだよ。わたしの方向性について部員のみんなと会議したとき、ほんと不服そうだったよな、この人。今だって、若干表情が穏やかじゃないし悔しそうだ。わたしとしては侑李くんに好かれればそれでいいので、可愛い系で大満足だ。

「だが、ここで衝撃的事実がある。なんと、お前の顔は可愛い系に程遠い」
「知ってます。どうせブスって言うんですよね」

 わたしは可愛くない。産まれてこのかたモテた試しがない。顔面偏差値は全て妹の瑠華に持っていかれた。だから、お前じゃ優勝は難しいとか今更言われなくても分かっている。

「俺はそういうことを言っているんじゃない。お前がブスとか顔面が整っているとかそういうのは一旦置いておいて、人には顔のタイプってのがある。まぁ、大きく分けて4タイプだな。

 まず、俺らが目指す“可愛い系”だ。このタイプはパーツが曲線的で子供っぽい顔立ちが特徴だ。芸能人で言うと、安達祐実とか、橋本環奈とかだ。
 2つ目は“エレガント系”。これはさっきのタイプと同じように曲線的なんだけど、大人っぽいのが特徴だな。石原さとみとか白石麻衣とか。
 3つ目は“フレッシュ系”。これはパーツが直線的だけど、子供っぽい顔立ち。多部未華子とか、榮倉奈々とか。
 4つ目は“クール系”。これは直線的で大人っぽい顔立ちだ。北川景子とか、栗山千明とか。

 まぁ、美容部あいつらが言う可愛い系ってのは、可愛い系のエレガント系寄りのことを言っているんだろうな」

 梓さんは脚を組みながら、理解しやすいようにゆっくりと説明してくれる。わたしの脳内で芸能人がタイプ分けされていく。なるほど、みんなが目指すのは、パーツに丸みがあって女の子女の子した人ってことね。きっと瑠華はこのみんなが目指しているタイプよ。

「正直、お前の顔は4つ目の“クール系”の顔立ちだ。つまりみんなが目指す“可愛い”とは程遠い顔面ってことだ」

 程遠い顔面……。その単語はわたしに衝撃を与えた。今までブスかどうかしか判断材料になかったから、顔立ちのタイプなんて気にしたこと無かった。
 机に置いてあった鏡で自分の顔を見ると、鼻先はツンと尖っていて、目はすっとした切れ長、唇も丸みが無く薄い。顔形は瓜実顔。確かに直線的で大人っぽい顔……、悪く言えば老け顔だ。

「もうわたしって整形するしかないんじゃ……。貯金5千円しかないよ……」

 わたしは机に両肘をつき、頭を抱えた。破滅的だ。お金がないと侑李くんのお眼鏡に適うことができないなんて。可愛さもお金もないわたしは、もう早めに死んで来世に期待するのがいいのかもしれない。

「そう落ち込むな! お前は可愛い安達祐実と橋本環奈しか見たこと無いのか!?」
「いつも彼女たちは可愛いです」
「……たしかにテレビに出るときはそうかもしれん。でもな、雑誌を見てみろ!」

 そう言って、梓さんはファション雑誌を取り出してページをペラペラとめくり始めた。ああ、なんだかめくるときに発生する風から女子の香りがする。ふだんアニメ・ゲーム・声優の情報雑誌しかチェックしないから、カースト上位女子ばかりが出ている雑誌は恐れ多くて触れない……。

「例えばこの橋本環奈は、可愛くて子供っぽいってより、妖艶で大人っぽいだろ?」

 梓さんが指さした先には、いつもバラエティで見るのとは違う橋本環奈がいた。確かにあどけなさは微塵も残ってい。

「表情とか服装で変わるんですか?」
「それもあるだろうな。でも、それだけじゃない!」

 立ち上がった梓さんは、声に抑揚をつける。普段のクールな姿とは違った梓さん。なんとも新鮮だ。

「メイクだ! メイクで人の印象は操作できる!
 服とは違って全裸のときでもメイクなら大丈夫だ!」
「おおお!なるほど!メイクってすごいんですね!」
「そうだ!すごいんだ!
 お前の顔を可愛い系にするのは至難の技だが、俺の手にかかれば楽勝!俺なら、オ◯リナを橋本環奈に変身させられる!!!」
「それは頼もしいです!安心して任せられます!」
「おう!そうと決まれば実践だ!」

 今まで怖くてたまらなかった梓さんと何故か意気投合している。不思議と話しやすい。こんなにも人と人を近づけることが出来るんだから共通の目標って偉大だ。
 梓さんはわたしの前髪をヘアクリップでまとめて、わたしのドロドロの皮脂をあぶらとり紙でおさえてくれた。
 なんだかワクワクする。はじめての化粧。これから魔法にかけられる気分だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい

砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。 風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。 イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。 一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。 強欲悪役令嬢ストーリー(笑) 二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?

キミノ
恋愛
 職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、 帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。  二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。  彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。  無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。 このまま、私は彼と生きていくんだ。 そう思っていた。 彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。 「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」  報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?  代わりでもいい。  それでも一緒にいられるなら。  そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。  Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。 ――――――――――――――― ページを捲ってみてください。 貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。 【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

処理中です...