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夜の公園に誘う
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侑李くんと近所の公園に入る。滑り台にブランコ、砂広場、ジャングルジム。いろんな遊具があるから昼間は親子で賑わっているし、わたしの幼いころは母親と妹とよくここで遊んだ。
わたしと侑李くんはベンチに座ろうとしたけれど、コーヒーが溢れていて座れる状態ではなかったのでブランコに座ることになった。わたしがブランコに座る前、板についた砂を手でササッと払ってくれて、きゅんとした。王子にそんなことさせてしまって申し訳ないけど、俺得すぎる。少女漫画さながらだ。忘れないように日記に書いておかなくちゃ。
「そういえば、どうしてわたしの家が分かったんですか?」
頬を膨らませた侑李くんは「うーん……」と言いながら人指し指で顎をトン、トン、と軽く叩く。なにこれ可愛い。天使みたい。金髪が輝いて見える。
「内緒、かなぁー」
よそ行きの笑顔でそう言う侑李くん。絶対グレーな方法でわたしの住所割り出したんだ……。
「……」
「……」
侑李くんはブランコを前後に動かす。わたしを連れ出したわりに、ブランコに夢中で何も喋らない。マイペースだ!この人、きっと自分しか見えていない!もしかして、ブランコしたいけど一人じゃ恥ずかしいから、わたしのこと連れ出したの!? わからない、わからない、侑李くんの脳内を覗いてみたい。
「あのね、芽衣ちゃんに聞きたいことがあるんだ」
話しかけてきた!やっとだ!わたしはやるべく口角を上げて「なに?」と聞く。上手く笑えてるかな。侑李くんの心を掴めるかな。
「どうやって梓を手懐けたの?」
眉根を寄せた真剣な表情で侑李くんは問うてきた。――梓さんを手懐けた? 意味がわからない。前、梓さんと仲いいね、と言われたことがある。侑李くんは、梓さんとわたしの仲をどう思っているんだ。しかも、今回は「手懐けた」って、なんだか若干不快な言い方だ。
「そんなことしていません」
誤解をあるならば解きたくて、これは全て真実ですという思いを込めて侑李くんをじっと見つめる。公園にはわたしたちしかいない。雑音一つ聞こえない。時間が止まったみたいだ。
「じゃあ、質問の仕方を変える。君をモデルにすることに反対していた梓が、どうしていきなり君のことを認めたの?」
“お前マーメイドになれ”
そう梓さんに言われたときのことを思い出す。妊娠した谷本さんの陰口を言うクラスメイトに怒りをぶつけたわたしは、その場にいるのが辛くなって教室を飛び出した。そして、嫌々教室に戻ったら梓さんが隣の席にいて、認められて――。
「妊娠した女の子がいて、その子の陰口を言ってる人たちがいたので、それは可笑しいとその人たちに言ったんです。そのあとすぐにマーメイドになれと言われたので、恐らくそれで……」
「――成る程ね。梓が君を気に入るわけだ。
梓のお姉さんも妊娠して高校を退学してるからね」
驚きのあまり言葉が出なかった。梓さんにはお姉さんがいて、しかもそのお姉さんが谷本さんと同じように妊娠して退学していただなんて。だから、あの事件以来わたしをモデルとして認めてくれたのね。
「あいつ、ツンツンしてるけど何気にシスコンだからねー。だからお姉さんの子供にぞっこんだよ。今度写真見せてもらいなよ」
「わたしには見せてくれないと思います」
くすくすと笑った侑李くんは「大事なこと忘れてた」と言って、持っている紙袋の中を探り始めた。なぜかすごくにこにこしていて楽しそうだ。
「じゃじゃーん!」
わたしの目の前にベージュのふわふわした物が現れた。これは、ワンピース?
袖とスカートのところがフリフリしててかわいい……!すっごく女子だ。なんだか瑠華に似合いそうな。
「芽衣ちゃんに似合いそうなワンピースが家にあったから、一秒でも早く見せたくて持ってきちゃった!芽衣ちゃんが着た姿想像したら我慢できなくなっちゃったんだよね。芽衣ちゃん少し痩せたでしょ?だから短いスカートも絶対似合う」
そう、このワンピースは膝丈だ。だからわたしにとってはわりと短い。少し痩せたからといって、クラスの女子たちと比べたらわたしの脚はまだ太い。このワンピースはまだわたしには早い。勇気がいる。
「今度着てみます。ありがとうございます」
満面の笑みの侑李くんを見たら、そんなこと言えるわけない。好きな人からのプレゼント。全力で喜びを装わなくてはならない。
わたしは、脳内でこのワンピースを着て微笑む妹を想像して、笑った。彼女の笑顔をコピーしたんだ。
「喜んでくれたみたいでよかった! 芽衣ちゃんの笑顔見ると僕も嬉しくなる」
今回も成功だ。やっぱり侑李くんはこの笑顔が好きみたい。なんだか妹の笑顔で満足されるっていうのは、少し複雑だけど、それで喜んでくれるのなら、やっぱり嬉しい。それに、もう妹に侑李くんを盗られる心配は無いし大丈夫だと、嫉妬心を必死に抑える。
「このワンピース着てどこか一緒に出掛けよう。どこに行きたい?」
侑李くんからのお誘い。好きな人と会える約束は、求められている気がして嬉しい。妹の笑顔は、わたしに幸福を運んでくれる。
「ありふれた言葉だけど、わたし侑李くんとならどこへだって幸せです」
一瞬キョトンとした侑李くんはすぐいつもの表情を取り戻して、ブランコから立ちあがり、わたしの慈しそうに頭を二度撫でた。
「美味しいタルト屋さんを知ってるから、そこに行こう。あのワンピースが映えるようなお店なんだ」
心臓がうるさい。空腹のときのお腹の音だって、他の人に聞こえるんだがら、ドキドキしたときの心臓の音だって聞こえるんじゃないだろうか。
もし聞こえたら侑李くんは気持ち悪がるだろうか。それとも笑って受け止めてくれるだろうか。
ねぇ、夜の公園に誘う相手ってきっとただの友達じゃないよね?
わたしと侑李くんはベンチに座ろうとしたけれど、コーヒーが溢れていて座れる状態ではなかったのでブランコに座ることになった。わたしがブランコに座る前、板についた砂を手でササッと払ってくれて、きゅんとした。王子にそんなことさせてしまって申し訳ないけど、俺得すぎる。少女漫画さながらだ。忘れないように日記に書いておかなくちゃ。
「そういえば、どうしてわたしの家が分かったんですか?」
頬を膨らませた侑李くんは「うーん……」と言いながら人指し指で顎をトン、トン、と軽く叩く。なにこれ可愛い。天使みたい。金髪が輝いて見える。
「内緒、かなぁー」
よそ行きの笑顔でそう言う侑李くん。絶対グレーな方法でわたしの住所割り出したんだ……。
「……」
「……」
侑李くんはブランコを前後に動かす。わたしを連れ出したわりに、ブランコに夢中で何も喋らない。マイペースだ!この人、きっと自分しか見えていない!もしかして、ブランコしたいけど一人じゃ恥ずかしいから、わたしのこと連れ出したの!? わからない、わからない、侑李くんの脳内を覗いてみたい。
「あのね、芽衣ちゃんに聞きたいことがあるんだ」
話しかけてきた!やっとだ!わたしはやるべく口角を上げて「なに?」と聞く。上手く笑えてるかな。侑李くんの心を掴めるかな。
「どうやって梓を手懐けたの?」
眉根を寄せた真剣な表情で侑李くんは問うてきた。――梓さんを手懐けた? 意味がわからない。前、梓さんと仲いいね、と言われたことがある。侑李くんは、梓さんとわたしの仲をどう思っているんだ。しかも、今回は「手懐けた」って、なんだか若干不快な言い方だ。
「そんなことしていません」
誤解をあるならば解きたくて、これは全て真実ですという思いを込めて侑李くんをじっと見つめる。公園にはわたしたちしかいない。雑音一つ聞こえない。時間が止まったみたいだ。
「じゃあ、質問の仕方を変える。君をモデルにすることに反対していた梓が、どうしていきなり君のことを認めたの?」
“お前マーメイドになれ”
そう梓さんに言われたときのことを思い出す。妊娠した谷本さんの陰口を言うクラスメイトに怒りをぶつけたわたしは、その場にいるのが辛くなって教室を飛び出した。そして、嫌々教室に戻ったら梓さんが隣の席にいて、認められて――。
「妊娠した女の子がいて、その子の陰口を言ってる人たちがいたので、それは可笑しいとその人たちに言ったんです。そのあとすぐにマーメイドになれと言われたので、恐らくそれで……」
「――成る程ね。梓が君を気に入るわけだ。
梓のお姉さんも妊娠して高校を退学してるからね」
驚きのあまり言葉が出なかった。梓さんにはお姉さんがいて、しかもそのお姉さんが谷本さんと同じように妊娠して退学していただなんて。だから、あの事件以来わたしをモデルとして認めてくれたのね。
「あいつ、ツンツンしてるけど何気にシスコンだからねー。だからお姉さんの子供にぞっこんだよ。今度写真見せてもらいなよ」
「わたしには見せてくれないと思います」
くすくすと笑った侑李くんは「大事なこと忘れてた」と言って、持っている紙袋の中を探り始めた。なぜかすごくにこにこしていて楽しそうだ。
「じゃじゃーん!」
わたしの目の前にベージュのふわふわした物が現れた。これは、ワンピース?
袖とスカートのところがフリフリしててかわいい……!すっごく女子だ。なんだか瑠華に似合いそうな。
「芽衣ちゃんに似合いそうなワンピースが家にあったから、一秒でも早く見せたくて持ってきちゃった!芽衣ちゃんが着た姿想像したら我慢できなくなっちゃったんだよね。芽衣ちゃん少し痩せたでしょ?だから短いスカートも絶対似合う」
そう、このワンピースは膝丈だ。だからわたしにとってはわりと短い。少し痩せたからといって、クラスの女子たちと比べたらわたしの脚はまだ太い。このワンピースはまだわたしには早い。勇気がいる。
「今度着てみます。ありがとうございます」
満面の笑みの侑李くんを見たら、そんなこと言えるわけない。好きな人からのプレゼント。全力で喜びを装わなくてはならない。
わたしは、脳内でこのワンピースを着て微笑む妹を想像して、笑った。彼女の笑顔をコピーしたんだ。
「喜んでくれたみたいでよかった! 芽衣ちゃんの笑顔見ると僕も嬉しくなる」
今回も成功だ。やっぱり侑李くんはこの笑顔が好きみたい。なんだか妹の笑顔で満足されるっていうのは、少し複雑だけど、それで喜んでくれるのなら、やっぱり嬉しい。それに、もう妹に侑李くんを盗られる心配は無いし大丈夫だと、嫉妬心を必死に抑える。
「このワンピース着てどこか一緒に出掛けよう。どこに行きたい?」
侑李くんからのお誘い。好きな人と会える約束は、求められている気がして嬉しい。妹の笑顔は、わたしに幸福を運んでくれる。
「ありふれた言葉だけど、わたし侑李くんとならどこへだって幸せです」
一瞬キョトンとした侑李くんはすぐいつもの表情を取り戻して、ブランコから立ちあがり、わたしの慈しそうに頭を二度撫でた。
「美味しいタルト屋さんを知ってるから、そこに行こう。あのワンピースが映えるようなお店なんだ」
心臓がうるさい。空腹のときのお腹の音だって、他の人に聞こえるんだがら、ドキドキしたときの心臓の音だって聞こえるんじゃないだろうか。
もし聞こえたら侑李くんは気持ち悪がるだろうか。それとも笑って受け止めてくれるだろうか。
ねぇ、夜の公園に誘う相手ってきっとただの友達じゃないよね?
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