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前期
貴方が恐怖です
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「面白がって谷本さんにとってデリケートなことをネタにするのは良くないと思う。だいたい噂話ってのは誰かが予想で話したことが真実かのように広まって、ありえないくらい本人を傷つけるんです。そうなってしまったら、貴方たちは責任を取れるんですか?」
初めてこのクラスで注目を浴びる。周りからは「誰この人?」という疑問が多数聞こえる。てめえのクラスメイトだよ、この野郎。てめえが鼻水かんでポイ捨てしたティッシュ、誰がゴミ箱に捨ててやってると思ってんだ。
「谷本さんが悪いみたいな台詞聞こえましたけど、なんで産む女だけの責任になるんですか。結婚してやるから産めよ、とか言って、土壇場になって怖くなった男が逃げた可能性だってあります。死ぬほど好きな人にそんなこと言われたら、信じて産む道を選ぶ人はたくさんいると思います。
そうだった場合、本当に彼女だけの責任なんですか?」
「な、なに、いきなり……。それでも、まだ子供なのに産むなんて絶対おかしいし……」
「こんなことに例えるのは全国のママに失礼かもしれませんが、貴方はポケモンのゲームを買う前からレベル上げができますか!?」
クラス中の人が、意味不明といった表情をしている。わたしも自分で言ってることが訳分からなくなりそうなくらい興奮しているけど、深呼吸をして、くるくる回る頭を落ち着かせようと努める。
「そう。実際ゲームを買わないとレベルは上がらない。何事もそうだと思うんです。だから、手に入れてからレベルが上げればいい。逆を言えば手に入れる前、レベルは0の状態でいい。戦う覚悟さえあれば、きっと強いポケモンマスターになれます!!!」
教室が静まりかえる。耐えられなくて、勢いで怒りをぶちまけてしまった。
一人の人間に二つずつ着いている目玉が、無数に集まって、じろじろとわたしを凝視してくる。気持ち悪い。なんだか、吐きそうだ。体も震えてきた。
ここから早く逃げ出したくてわたしは廊下へと続くドアを勢い良く開けた。
「――た、谷本さん」
ドアのすぐ近く、教室の中にいる人達から見つからない、体が隠れる位置に谷本さんが立っていた。
「最後にクラスのみんなに挨拶しようとしたんだけど、タイミング逃しちゃって」
あはは、と笑いながら谷本さんは頭をかいた。……きっと、無理して笑っている。
「庇ってくれてありがとう。えっと、ごめんね、名前」
「吉川 芽衣です」
「ありがとう、吉川さん。
――実はね、吉川さんの予想ほとんど正解で、23歳の彼だったんだけど、彼に家族になって子供を育てようって言われてたの。だけど、つい最近逃げられちゃった。明確な親子関係がないって言い出して、DNA鑑定も拒否。まいっちゃうよね」
クラスの人に好き勝手言われても涙一つこぼさない彼女は強い。きっと辛いことをたくさん乗り越えてきたんだろう。
「でも、わたし頑張るよ。ポケモンマスターになる!」
「あ、あんな例えしてごめんなさい!不快になったのなら、謝ります」
谷本さんは、微笑みながら首を横に振った。
「最後に吉川さんとお話できてよかった」
感謝されている気がした。心臓がじわじわと暖かくなって、幸せな気持ちになった。
わたしは吉川さんを学校の門まで、送ることになった。谷本さんは人を見た目で判断しない凄くいい人で、もっと前から友達になりたかったなと思った。
***
鉛のように重い緊張した足で教室に入ると席の配置が変わっていた。
「おい、一時間目遅刻だぞ。えーっと、吉高。
さっき、席替えをしたんだ。お前の席はあそこだ」
吉高じゃなくて、吉川です。心の中でそうツッコミながらわたしは先生が指さした窓際の一番うしろの席に着いた。
椅子に座った瞬間、左隣の席の男の人に「おい」と声をかけられる。今までじゃなこんなことあり得なかった。きっとさっき目立った影響だ。
「は、はい」
どすのきいた男の人の声にびくびくしながらも、返事をして左を向くと昨日出会った男の人がいた。
――切れ長の目に着崩した制服。梓さんだ。
わたしは彼が怖い。圧力かけてくるし、わたしに酷いことを言ってくる。
「お前、マーメイドになれ」
「……え?」
「俺らのモデルになってコンテストで優勝しろ」
昨日と違って、睨んでこない。真剣な眼差しだ。ていうか同じクラスだったんかい。知らなかった。
わたしが凝視してしまっていたせいか、梓さんは舌打ちをしてから足を組み直してそっぽを向いた。
(どんな風の吹き回し?)
初めてこのクラスで注目を浴びる。周りからは「誰この人?」という疑問が多数聞こえる。てめえのクラスメイトだよ、この野郎。てめえが鼻水かんでポイ捨てしたティッシュ、誰がゴミ箱に捨ててやってると思ってんだ。
「谷本さんが悪いみたいな台詞聞こえましたけど、なんで産む女だけの責任になるんですか。結婚してやるから産めよ、とか言って、土壇場になって怖くなった男が逃げた可能性だってあります。死ぬほど好きな人にそんなこと言われたら、信じて産む道を選ぶ人はたくさんいると思います。
そうだった場合、本当に彼女だけの責任なんですか?」
「な、なに、いきなり……。それでも、まだ子供なのに産むなんて絶対おかしいし……」
「こんなことに例えるのは全国のママに失礼かもしれませんが、貴方はポケモンのゲームを買う前からレベル上げができますか!?」
クラス中の人が、意味不明といった表情をしている。わたしも自分で言ってることが訳分からなくなりそうなくらい興奮しているけど、深呼吸をして、くるくる回る頭を落ち着かせようと努める。
「そう。実際ゲームを買わないとレベルは上がらない。何事もそうだと思うんです。だから、手に入れてからレベルが上げればいい。逆を言えば手に入れる前、レベルは0の状態でいい。戦う覚悟さえあれば、きっと強いポケモンマスターになれます!!!」
教室が静まりかえる。耐えられなくて、勢いで怒りをぶちまけてしまった。
一人の人間に二つずつ着いている目玉が、無数に集まって、じろじろとわたしを凝視してくる。気持ち悪い。なんだか、吐きそうだ。体も震えてきた。
ここから早く逃げ出したくてわたしは廊下へと続くドアを勢い良く開けた。
「――た、谷本さん」
ドアのすぐ近く、教室の中にいる人達から見つからない、体が隠れる位置に谷本さんが立っていた。
「最後にクラスのみんなに挨拶しようとしたんだけど、タイミング逃しちゃって」
あはは、と笑いながら谷本さんは頭をかいた。……きっと、無理して笑っている。
「庇ってくれてありがとう。えっと、ごめんね、名前」
「吉川 芽衣です」
「ありがとう、吉川さん。
――実はね、吉川さんの予想ほとんど正解で、23歳の彼だったんだけど、彼に家族になって子供を育てようって言われてたの。だけど、つい最近逃げられちゃった。明確な親子関係がないって言い出して、DNA鑑定も拒否。まいっちゃうよね」
クラスの人に好き勝手言われても涙一つこぼさない彼女は強い。きっと辛いことをたくさん乗り越えてきたんだろう。
「でも、わたし頑張るよ。ポケモンマスターになる!」
「あ、あんな例えしてごめんなさい!不快になったのなら、謝ります」
谷本さんは、微笑みながら首を横に振った。
「最後に吉川さんとお話できてよかった」
感謝されている気がした。心臓がじわじわと暖かくなって、幸せな気持ちになった。
わたしは吉川さんを学校の門まで、送ることになった。谷本さんは人を見た目で判断しない凄くいい人で、もっと前から友達になりたかったなと思った。
***
鉛のように重い緊張した足で教室に入ると席の配置が変わっていた。
「おい、一時間目遅刻だぞ。えーっと、吉高。
さっき、席替えをしたんだ。お前の席はあそこだ」
吉高じゃなくて、吉川です。心の中でそうツッコミながらわたしは先生が指さした窓際の一番うしろの席に着いた。
椅子に座った瞬間、左隣の席の男の人に「おい」と声をかけられる。今までじゃなこんなことあり得なかった。きっとさっき目立った影響だ。
「は、はい」
どすのきいた男の人の声にびくびくしながらも、返事をして左を向くと昨日出会った男の人がいた。
――切れ長の目に着崩した制服。梓さんだ。
わたしは彼が怖い。圧力かけてくるし、わたしに酷いことを言ってくる。
「お前、マーメイドになれ」
「……え?」
「俺らのモデルになってコンテストで優勝しろ」
昨日と違って、睨んでこない。真剣な眼差しだ。ていうか同じクラスだったんかい。知らなかった。
わたしが凝視してしまっていたせいか、梓さんは舌打ちをしてから足を組み直してそっぽを向いた。
(どんな風の吹き回し?)
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