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前期
怒る女
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“僕にはね、理想の女性像があって、それに君が一番近いんだ。前向きに検討してほしいな。これが僕からの頼み事”
他ならぬ侑李くんからわたしへの頼み事。透明人間のようなわたしは、誰かから頼りにされたことがない。だから、任されたことをやってみたいという気持ちもあったし、何より侑李くんに好かれたい。
(きっと、王子様が透明人間を好きになることなんて無い。だけど、少しだけでもいいから気に入られたかった)
朝の登校中、そんなことを考える。
マーメイドのコンテストに誘われ、腹を下したのは昨日の出来事。一晩考えたけど、わたしの考えは変わらなかった。
「そういえば今日、俺のクラス席替えやるらしい!」
学校まであともう少しの坂道。わたしの少し手前を男子生徒2名が歩いていた。今さっき喋ったのは、隣の席の高橋くんだ。彼の話によると今日でお隣さんじゃなくなっるってことか。
「へー! 席替えって学校生活を左右するビックイベントだよな!
今は誰が隣座ってんだよ? 可愛い子?」
わ、わたしです!
高橋くんと一緒に歩く恐らく違うクラスの友達が、高橋くんに質問をする。
「えーっと……。女の子なのは確かなんだよな……。消しゴムを拾ってもらったこともあるような……」
拾ったよ! お前のくまちゃん消しゴムをな!
高橋くんは野球部なので坊主頭だ。そんな彼がくまの形をしたあまりにも可愛すぎる消しゴムを持っていたので、鮮明に覚えていた。
「でも、全く可愛くなかった気がする」
わたしの足はぴたりと止まった。酷い。優しそうな顔して酷すぎる。消しゴム拾ってあげたし、教科書忘れたとき見せてあげたのに!
ここで「お~い! 本人ここにいるってば!」とか言ってフレンドリーに登場できたら、人生楽なんだろうけどそんなのしたら、確実に心臓が止まる!
「お前がそう言うってどんだけブスなんだよ……」
昨日今日ってブスブス言われすぎてわたしのガラスのハートが粉砕しそうだ。世の中、ブスに厳しすぎじゃない?可愛いだけで人生得するシステムどうにかしてほしい!
「ていうか、俺は今隣の席の人いないんだよなー」
「え、なんで?」
「いないっていうか、隣の席が花みたいな。
――俺の隣の席、一ヶ月前に亡くなった吉川 瑠華さんだったんだよ」
強い風が吹いた。わたしの長いスカートがカラッと乾いた風に揺れる。
「えー! うらやましい! ほんとめっっっちゃ可愛かったよな!
同じ人間とは思えないくらい色白で顔小さくて、目がでかくて色素薄くて、でも血色感があって!」
「性格も良い!」
「それ!」
吉川瑠華。それはわたしの双子の妹の名前だった。
――あぁ、顔が違うだけで同じ人からの評価がこんなにも違うんだ。これ以上、瑠華の話聞きたくないな。わたしは駆け足で教室へと向かった。
***
教室の雰囲気がいつもと違う。席替えするから?いや、違う。なんかすごく重たくて暗い雰囲気だ。
誰とも挨拶をせずに席に着く。前の席の女の子二人がなにやらこそこそと話している。
「谷本ちゃん、学校辞めるんだって」
「えー! なんで!? 真面目そうなのに見かけによらないんだね!」
「妊娠したんだって」
「高校生なのに!?」
谷本さん。あのボブヘアーの女の子か。彼女は二ヶ月ほど前から学校を休んでいた。特別仲いいわけではないだろうけど、前の席の二人と楽しそうに話してるのを見たことがある気がする。
――不快だなぁ。耳をすませば、誰もが谷本さんの話をしていた。「まだ子供じゃん」とか「中卒ってこと?」とか「もったいない」とか皆身勝手なことを言っている。重たい雰囲気の原因はこれだったか。
この高校はそこそこの進学校で、みんな国公立大学だったり、有名私立大学に進学する。だからきっと余計に学校を辞める人だったり、決められたレールから逸れた人への批判が激しいんだと思う。
「シングルマザーになるんだって。経済的に困るのは見え見えなのにどうして産むんだろうねー」
「無責任すぎる。相手の男は産まない方がいいって思ったから、谷本ちゃんから逃げたのかな? だったら、男の人の判断が正しいよ」
みんな、楽しそうに谷本さんの妊娠話をしていた。おめでとうって祝福してる感じでもないのにすごく楽しそうで、めちゃくちゃ違和感がある。谷本が出産する経緯は本人しか知らないはずなのに、どうして勝手に予想して話のネタにできるんだろう。こんなの、絶対におかしい。
「――無責任なのは貴方たちだ」
勝手に足と口が動いて、席から立つと怒りが口から爆発した。
他ならぬ侑李くんからわたしへの頼み事。透明人間のようなわたしは、誰かから頼りにされたことがない。だから、任されたことをやってみたいという気持ちもあったし、何より侑李くんに好かれたい。
(きっと、王子様が透明人間を好きになることなんて無い。だけど、少しだけでもいいから気に入られたかった)
朝の登校中、そんなことを考える。
マーメイドのコンテストに誘われ、腹を下したのは昨日の出来事。一晩考えたけど、わたしの考えは変わらなかった。
「そういえば今日、俺のクラス席替えやるらしい!」
学校まであともう少しの坂道。わたしの少し手前を男子生徒2名が歩いていた。今さっき喋ったのは、隣の席の高橋くんだ。彼の話によると今日でお隣さんじゃなくなっるってことか。
「へー! 席替えって学校生活を左右するビックイベントだよな!
今は誰が隣座ってんだよ? 可愛い子?」
わ、わたしです!
高橋くんと一緒に歩く恐らく違うクラスの友達が、高橋くんに質問をする。
「えーっと……。女の子なのは確かなんだよな……。消しゴムを拾ってもらったこともあるような……」
拾ったよ! お前のくまちゃん消しゴムをな!
高橋くんは野球部なので坊主頭だ。そんな彼がくまの形をしたあまりにも可愛すぎる消しゴムを持っていたので、鮮明に覚えていた。
「でも、全く可愛くなかった気がする」
わたしの足はぴたりと止まった。酷い。優しそうな顔して酷すぎる。消しゴム拾ってあげたし、教科書忘れたとき見せてあげたのに!
ここで「お~い! 本人ここにいるってば!」とか言ってフレンドリーに登場できたら、人生楽なんだろうけどそんなのしたら、確実に心臓が止まる!
「お前がそう言うってどんだけブスなんだよ……」
昨日今日ってブスブス言われすぎてわたしのガラスのハートが粉砕しそうだ。世の中、ブスに厳しすぎじゃない?可愛いだけで人生得するシステムどうにかしてほしい!
「ていうか、俺は今隣の席の人いないんだよなー」
「え、なんで?」
「いないっていうか、隣の席が花みたいな。
――俺の隣の席、一ヶ月前に亡くなった吉川 瑠華さんだったんだよ」
強い風が吹いた。わたしの長いスカートがカラッと乾いた風に揺れる。
「えー! うらやましい! ほんとめっっっちゃ可愛かったよな!
同じ人間とは思えないくらい色白で顔小さくて、目がでかくて色素薄くて、でも血色感があって!」
「性格も良い!」
「それ!」
吉川瑠華。それはわたしの双子の妹の名前だった。
――あぁ、顔が違うだけで同じ人からの評価がこんなにも違うんだ。これ以上、瑠華の話聞きたくないな。わたしは駆け足で教室へと向かった。
***
教室の雰囲気がいつもと違う。席替えするから?いや、違う。なんかすごく重たくて暗い雰囲気だ。
誰とも挨拶をせずに席に着く。前の席の女の子二人がなにやらこそこそと話している。
「谷本ちゃん、学校辞めるんだって」
「えー! なんで!? 真面目そうなのに見かけによらないんだね!」
「妊娠したんだって」
「高校生なのに!?」
谷本さん。あのボブヘアーの女の子か。彼女は二ヶ月ほど前から学校を休んでいた。特別仲いいわけではないだろうけど、前の席の二人と楽しそうに話してるのを見たことがある気がする。
――不快だなぁ。耳をすませば、誰もが谷本さんの話をしていた。「まだ子供じゃん」とか「中卒ってこと?」とか「もったいない」とか皆身勝手なことを言っている。重たい雰囲気の原因はこれだったか。
この高校はそこそこの進学校で、みんな国公立大学だったり、有名私立大学に進学する。だからきっと余計に学校を辞める人だったり、決められたレールから逸れた人への批判が激しいんだと思う。
「シングルマザーになるんだって。経済的に困るのは見え見えなのにどうして産むんだろうねー」
「無責任すぎる。相手の男は産まない方がいいって思ったから、谷本ちゃんから逃げたのかな? だったら、男の人の判断が正しいよ」
みんな、楽しそうに谷本さんの妊娠話をしていた。おめでとうって祝福してる感じでもないのにすごく楽しそうで、めちゃくちゃ違和感がある。谷本が出産する経緯は本人しか知らないはずなのに、どうして勝手に予想して話のネタにできるんだろう。こんなの、絶対におかしい。
「――無責任なのは貴方たちだ」
勝手に足と口が動いて、席から立つと怒りが口から爆発した。
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