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10話
しおりを挟む文化祭がスタートし、晶は早速朝陽と共に他クラスが展開する食べ物系の出店を練り歩いていた。
「この唐揚げかたっ!」
「…………」
「そっちのフランク一口ちょーだい」
「…………」
晶の隣を歩きながら、上の空の朝陽を横目に見ながらも、晶は無理矢理フランクフルトを持っている朝陽の手首を掴んで自分の方へと引き寄せると、思いっきりかぶりついた。
すっかり半分にまで減ってしまったフランクフルトを見ても尚、反応が薄い朝陽に、晶はため息をついた。
「朝陽どうした?腹いてーの?今朝も珍しく遅かったしさ」
「いや、別に」
「ふーん?別にって感じに見えねーけど。もしかして今から緊張してんのか?ステージで歌うのなんて初めてだしな?」
「ちげーよ」
「はあ?だったらなんだよ?めんどくせー、ハッキリ言えって。町田みてーだな」
「は?町田みたい?」
「そーだよ、言いたいことはいっぱいあるのに言わない。まあ、本人は"言えない"って言ってるけど」
「そうか…確かに言えない」
改まった朝陽の様子に、晶も首を傾げる。
「なんだよそれ、気持ちわりぃな。大丈夫か?」
「……いや、俺の言えないってのは"言い表せない"って意味。もしお前が消えたらって考えたら、よく分かんねーけど不安になった」
「なんだそれ。つかもう俺死んでんだけど」
「分かってる、だけど今は"居る"だろ」
「そんなに何が不安だよ?」
「何だかんだ言いつつ、俺はずっとお前に引っ張られて来たと思う。それはそれで楽しかったんだ。小学の時も、中学も、そんでVioletも」
「…………」
「で、気が付いた。俺って今までなにも自分で決めて来なかったんだなって。中学の部活も、お前が入るから入ったし、高校もお前に誘われたから受験した。そうやって俺は今までお前を理由にして生きてきたんだ、上手くいかない時もお前のせいにして、自分がない俺自身を見て見ぬふりしてた」
「後悔してるのか?今までの俺との時間」
「違う、そうじゃない。晶、俺が不安なのは…お前がいなくなった後、俺自身の力と決断でVioletを引っ張っていけるのかってことなんだよ。今までお前の後ろを歩いてたのに、突然先頭になった気分だ。行先だって分かってないのに…」
そう言って目を伏せる朝陽に、晶は「なんだそんなことか」と笑った。
「俺は別にお前の前を歩いてたとか、引っ張ってたとかって自覚もつもりもないけど、俺を言い訳にしながら上手くいくならそれで良くね?」
「は?」
「朝陽ってさ、自分の為っていうより、誰かの為って動機の時の方がなんでも出来るんだよな。自分で気が付いてないだろーけど、お前って意外と献身的なヤツなんだよ」
晶の意外な言葉に、朝陽は思わずキョトンとした。
「あれ、覚えてねえ?中学に入ったばっかの頃、家にあったギター見てお前がカッコイイって言うから親父がもう使わないから譲るってことあったじゃん」
「…あぁ…まあ、上手く弾けないし、楽譜読めないしですぐに返したけどな」
「そうそう、だけどその後、俺がバンドやりたいからお前ギターなって言ったらすげー頑張って楽譜もコードも覚えたじゃん」
昔のことを思い出し、ケラケラと笑う晶に朝陽は「あれはお前が2週間後に路上ライブやるからどうにかしろって無茶言ってきたからだろうが!」といつもの様につっこむ。
「いやだからソレだって。別に俺が勝手に言ってることなんだから、本当に2週間で仕上げなくたって言い訳だろ?死ぬわけじゃねーし。だけど朝陽は俺のやりたいことを叶える為に頑張って勉強して、練習してくれた訳だろ?お前は昔から他人の為に頑張れるヤツなんだよ。だから俺は最初から不安なんてない。お前が俺の為にVioletを続けるって確信してる」
「晶…」
「不安ならもう一回言ってやろーか?"俺の為にVioletを諦めるな"」
そう言っていつもの他人を試すようないたずらっぽい笑みを浮かべる晶に、朝陽は「うるせー、命令すんじゃねーよ」と顔を背けた。
不覚にもこんなふてぶてしい晶の言葉に安心してしまう自分に呆れながらも、朝陽は晶にバレないように顔を背け、秋の風邪で涙で潤んだ瞳を乾かした。
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