俺達のヴォーカルが死んだ

空秋

文字の大きさ
上 下
10 / 15

10話

しおりを挟む


文化祭がスタートし、晶は早速朝陽と共に他クラスが展開する食べ物系の出店を練り歩いていた。


「この唐揚げかたっ!」


「…………」



「そっちのフランク一口ちょーだい」



「…………」



晶の隣を歩きながら、上の空の朝陽を横目に見ながらも、晶は無理矢理フランクフルトを持っている朝陽の手首を掴んで自分の方へと引き寄せると、思いっきりかぶりついた。



すっかり半分にまで減ってしまったフランクフルトを見ても尚、反応が薄い朝陽に、晶はため息をついた。



「朝陽どうした?腹いてーの?今朝も珍しく遅かったしさ」



「いや、別に」


「ふーん?別にって感じに見えねーけど。もしかして今から緊張してんのか?ステージで歌うのなんて初めてだしな?」



「ちげーよ」



「はあ?だったらなんだよ?めんどくせー、ハッキリ言えって。町田みてーだな」



「は?町田みたい?」



「そーだよ、言いたいことはいっぱいあるのに言わない。まあ、本人は"言えない"って言ってるけど」



「そうか…確かに言えない」


改まった朝陽の様子に、晶も首を傾げる。


「なんだよそれ、気持ちわりぃな。大丈夫か?」


「……いや、俺の言えないってのは"言い表せない"って意味。もしお前が消えたらって考えたら、よく分かんねーけど不安になった」


「なんだそれ。つかもう俺死んでんだけど」


「分かってる、だけど今は"居る"だろ」


「そんなに何が不安だよ?」


「何だかんだ言いつつ、俺はずっとお前に引っ張られて来たと思う。それはそれで楽しかったんだ。小学の時も、中学も、そんでVioletも」


「…………」


「で、気が付いた。俺って今までなにも自分で決めて来なかったんだなって。中学の部活も、お前が入るから入ったし、高校もお前に誘われたから受験した。そうやって俺は今までお前を理由にして生きてきたんだ、上手くいかない時もお前のせいにして、自分がない俺自身を見て見ぬふりしてた」


「後悔してるのか?今までの俺との時間」


「違う、そうじゃない。晶、俺が不安なのは…お前がいなくなった後、俺自身の力と決断でVioletを引っ張っていけるのかってことなんだよ。今までお前の後ろを歩いてたのに、突然先頭になった気分だ。行先だって分かってないのに…」



そう言って目を伏せる朝陽に、晶は「なんだそんなことか」と笑った。



「俺は別にお前の前を歩いてたとか、引っ張ってたとかって自覚もつもりもないけど、俺を言い訳にしながら上手くいくならそれで良くね?」


「は?」


「朝陽ってさ、自分の為っていうより、誰かの為って動機の時の方がなんでも出来るんだよな。自分で気が付いてないだろーけど、お前って意外と献身的なヤツなんだよ」


晶の意外な言葉に、朝陽は思わずキョトンとした。


「あれ、覚えてねえ?中学に入ったばっかの頃、家にあったギター見てお前がカッコイイって言うから親父がもう使わないから譲るってことあったじゃん」


「…あぁ…まあ、上手く弾けないし、楽譜読めないしですぐに返したけどな」


「そうそう、だけどその後、俺がバンドやりたいからお前ギターなって言ったらすげー頑張って楽譜もコードも覚えたじゃん」


昔のことを思い出し、ケラケラと笑う晶に朝陽は「あれはお前が2週間後に路上ライブやるからどうにかしろって無茶言ってきたからだろうが!」といつもの様につっこむ。


「いやだからソレだって。別に俺が勝手に言ってることなんだから、本当に2週間で仕上げなくたって言い訳だろ?死ぬわけじゃねーし。だけど朝陽は俺のやりたいことを叶える為に頑張って勉強して、練習してくれた訳だろ?お前は昔から他人の為に頑張れるヤツなんだよ。だから俺は最初から不安なんてない。お前が俺の為にVioletを続けるって確信してる」



「晶…」


「不安ならもう一回言ってやろーか?"俺の為にVioletを諦めるな"」


そう言っていつもの他人を試すようないたずらっぽい笑みを浮かべる晶に、朝陽は「うるせー、命令すんじゃねーよ」と顔を背けた。


不覚にもこんなふてぶてしい晶の言葉に安心してしまう自分に呆れながらも、朝陽は晶にバレないように顔を背け、秋の風邪で涙で潤んだ瞳を乾かした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イルカノスミカ

よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。 弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。 敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。

全体的にどうしようもない高校生日記

天平 楓
青春
ある年の春、高校生になった僕、金沢籘華(かなざわとうか)は念願の玉津高校に入学することができた。そこで出会ったのは中学時代からの友人北見奏輝と喜多方楓の二人。喜多方のどうしようもない性格に奔放されつつも、北見の秘められた性格、そして自身では気づくことのなかった能力に気づいていき…。  ブラックジョーク要素が含まれていますが、決して特定の民族並びに集団を侮蔑、攻撃、または礼賛する意図はありません。

文化研究部

ポリ 外丸
青春
 高校入学を控えた5人の中学生の物語。中学時代少々難があった5人が偶々集まり、高校入学と共に新しく部を作ろうとする。しかし、創部を前にいくつかの問題が襲い掛かってくることになる。 ※カクヨム、ノベルアップ+、ノベルバ、小説家になろうにも投稿しています。

家庭訪問の王子様

冴月希衣@商業BL販売中
青春
【片想いって、苦しいけど楽しい】 一年間、片想いを続けた『図書館の王子様』に告白するため、彼が通う私立高校に入学した花宮萌々(はなみやもも)。 ある決意のもと、王子様を自宅に呼ぶミッションを実行に移すが——。 『図書館の王子様』の続編。 『キミとふたり、ときはの恋。』のサブキャラ、花宮萌々がヒロインです。 ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆ ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

イケメン成立した時秘密奉仕部何が勘違いしてる?

あるのにコル
青春
花の上はるのは誰も憧れるのお嬢様。女性友達ないの彼女は、12歳で小説家として活躍中。女性友達必要ないなのに、”時秘密奉仕部入り”の変の課題出た

ゴーホーム部!

野崎 零
青春
決められた時間に行動するのが嫌なため部活動には所属していない 運動、勉強共に普通、顔はイケメンではない 井上秋と元テニス部の杉田宗が放課後という時間にさまざまなことに首を突っ込む青春ストーリー

斎藤先輩はSらしい

こみあ
青春
恋愛初心者マークの塔子(とうこ)が打算100%で始める、ぴゅあぴゅあ青春ラブコメディー。 友人二人には彼氏がいる。 季節は秋。 このまま行くと私はボッチだ。 そんな危機感に迫られて、打算100%で交際を申し込んだ『冴えない三年生』の斎藤先輩には、塔子の知らない「抜け駆け禁止」の協定があって…… 恋愛初心者マークの市川塔子(とうこ)と、図書室の常連『斎藤先輩』の、打算から始まるお付き合いは果たしてどんな恋に進展するのか? 注:舞台は近未来、広域ウィルス感染症が収束したあとのどこかの日本です。 83話で完結しました! 一話が短めなので軽く読めると思います〜 登場人物はこちらにまとめました: http://komiakomia.bloggeek.jp/archives/26325601.html

みせて

啞ルカ
青春
 高校に進学した「私」は夏休みが近づいても友達ができずにいた。 ある日、隣の席の「彼女」が私のことをおもしろいから、と話しかけてくる。 そんなことはない、と突っぱねようとしても彼女はなぜか引かない。 あっという間に私は彼女に惹かれていた。 みることのできない人間的魅力に。 彼女は私に言う。「出かけようよ」 それがあんなことになってしまうなんて。

処理中です...