異世界旅は夢で出会った君と

空秋

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2話

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『起きてください、起きてください』


「~~~?」


青年の声に繰り返し呼ばれながら体を揺さぶられ、目を覚ました柳は、目を開くなり悲鳴を上げた。


「うわぁ!でっかい鴉!!」


『ええ、鴉ですとも。ですが少しお静かにお願いいたします』


柳を揺り起こしたのは、頭だけが鴉の執事だった。


鴉頭の執事はその鴉の嘴からとても落ち着いた青年の声を出し、大きな声を出す柳を制す。


「あ…はい、すいません」


『いいえ、誰でも目の前に頭だけ鴉の執事がいたら驚くものですよ。お気になさらず。ところで貴方はどうしてここへ?"お客様"ではないようですが』



「え…どうしてと言われましても…自分でも分かりません…さっきまで病院で死にそうになってたんで…て、え、もしかして私もう死んだんですか!?ちくしょう!!ここが天国か!!だからやけに白くて天井も壁も無限の奥行があるように見えるのか!!」


『いえ、ここは天国などでは…』


柳の言葉に鴉頭の執事が訂正しようとするが、興奮した柳は次に執事の服を掴み上げる。


「くそっ!!ここに神がいるのは分かってんだ!!出せ!!今すぐにここに神を連れて来い!!アンタは神の使いかなんかなんでしょ!?」


『え、ええ…しかしここの神は貴方の思っている神ではないので何を言っても無駄かと…』


鴉頭の執事は凄まじい勢いの柳にやや気圧されつつも、白い手袋をはめた手でそっと自分の服を掴む柳の手を解いた。


「ええい!つべこべ言わず連れてこい!!一言で収まるもんじゃないけど、この恨み晴らさなければ死んだとしても死にきれん!!」


『いやいや、恨みって何する気ですか貴方は…いいから少し落ち着いてくたさい。貴方はまだ死んでいません。ですので、はやくお帰りください。手遅れになる前に』


鴉頭の執事はため息をつきながら、ぐいぐいと自分に迫ってくる柳の小さな頭を優しく手のひらで押さえる。


「え、死んでない?私まだ生きてる!?」


『ええ、間違いなく。ですので速やかに、そしてお静かにお帰りください』


パッと大きな瞳に光の花を咲かせ、喜ぶ柳に鴉頭の執事は恭しく一礼する。


「なるほど!ココは三途の川の手前的なとこだったのか!」


『三途の川?…ええ、まぁそうしておきましょう。さぁさ、早くお帰りなさい。私の主人に見つかっては手遅れですよ』


鴉頭の執事はぐいっと顔を柳の耳元へと近付けると小声で囁きながら柳の体の向きをくるりと変えさせ、後ろからそっと背中を押して柳を歩かせる。


「主人?神か!」


興味津々といった様子の柳に、鴉頭の執事は『お静かに』とため息をつく。


『神は神でも貴方達を管轄する神ではありません。もはや生き物です』


「生き物…?」


『ええ、貴方達人間にとっての神は所謂"概念"でしょう。大衆が望み、信仰によって機能している。しかし"コチラ側"はそうでないのです。神というのはもはや種族名と言っていいでしょう。実態があり、自我があります。貴方達の常識や認識は通用しません、ですので現世へ無事に辿り着くまで、絶対に甘い言葉に振り返ってはいけませんよ。特に耳の裏から聞こえてきた優しげな声には絶対に。そして琥珀色の瞳をした人物には絶対関わらないでください。どんなに美しく、どんなに親切な言葉をかけられようと絶対です。良いですね?』


一気に色んなことを伝えられ、柳は混乱しながらも「とりあえず真っ直ぐ帰るよ!」と笑って誤魔化した。


笑顔で返事だけは良い柳に、鴉頭の執事は『貴方ともう二度と出会わないことを祈ります』と言って足を止めた。


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