2 / 14
2話
しおりを挟む『起きてください、起きてください』
「~~~?」
青年の声に繰り返し呼ばれながら体を揺さぶられ、目を覚ました柳は、目を開くなり悲鳴を上げた。
「うわぁ!でっかい鴉!!」
『ええ、鴉ですとも。ですが少しお静かにお願いいたします』
柳を揺り起こしたのは、頭だけが鴉の執事だった。
鴉頭の執事はその鴉の嘴からとても落ち着いた青年の声を出し、大きな声を出す柳を制す。
「あ…はい、すいません」
『いいえ、誰でも目の前に頭だけ鴉の執事がいたら驚くものですよ。お気になさらず。ところで貴方はどうしてここへ?"お客様"ではないようですが』
「え…どうしてと言われましても…自分でも分かりません…さっきまで病院で死にそうになってたんで…て、え、もしかして私もう死んだんですか!?ちくしょう!!ここが天国か!!だからやけに白くて天井も壁も無限の奥行があるように見えるのか!!」
『いえ、ここは天国などでは…』
柳の言葉に鴉頭の執事が訂正しようとするが、興奮した柳は次に執事の服を掴み上げる。
「くそっ!!ここに神がいるのは分かってんだ!!出せ!!今すぐにここに神を連れて来い!!アンタは神の使いかなんかなんでしょ!?」
『え、ええ…しかしここの神は貴方の思っている神ではないので何を言っても無駄かと…』
鴉頭の執事は凄まじい勢いの柳にやや気圧されつつも、白い手袋をはめた手でそっと自分の服を掴む柳の手を解いた。
「ええい!つべこべ言わず連れてこい!!一言で収まるもんじゃないけど、この恨み晴らさなければ死んだとしても死にきれん!!」
『いやいや、恨みって何する気ですか貴方は…いいから少し落ち着いてくたさい。貴方はまだ死んでいません。ですので、はやくお帰りください。手遅れになる前に』
鴉頭の執事はため息をつきながら、ぐいぐいと自分に迫ってくる柳の小さな頭を優しく手のひらで押さえる。
「え、死んでない?私まだ生きてる!?」
『ええ、間違いなく。ですので速やかに、そしてお静かにお帰りください』
パッと大きな瞳に光の花を咲かせ、喜ぶ柳に鴉頭の執事は恭しく一礼する。
「なるほど!ココは三途の川の手前的なとこだったのか!」
『三途の川?…ええ、まぁそうしておきましょう。さぁさ、早くお帰りなさい。私の主人に見つかっては手遅れですよ』
鴉頭の執事はぐいっと顔を柳の耳元へと近付けると小声で囁きながら柳の体の向きをくるりと変えさせ、後ろからそっと背中を押して柳を歩かせる。
「主人?神か!」
興味津々といった様子の柳に、鴉頭の執事は『お静かに』とため息をつく。
『神は神でも貴方達を管轄する神ではありません。もはや生き物です』
「生き物…?」
『ええ、貴方達人間にとっての神は所謂"概念"でしょう。大衆が望み、信仰によって機能している。しかし"コチラ側"はそうでないのです。神というのはもはや種族名と言っていいでしょう。実態があり、自我があります。貴方達の常識や認識は通用しません、ですので現世へ無事に辿り着くまで、絶対に甘い言葉に振り返ってはいけませんよ。特に耳の裏から聞こえてきた優しげな声には絶対に。そして琥珀色の瞳をした人物には絶対関わらないでください。どんなに美しく、どんなに親切な言葉をかけられようと絶対です。良いですね?』
一気に色んなことを伝えられ、柳は混乱しながらも「とりあえず真っ直ぐ帰るよ!」と笑って誤魔化した。
笑顔で返事だけは良い柳に、鴉頭の執事は『貴方ともう二度と出会わないことを祈ります』と言って足を止めた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる