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第33話 新たなる敵
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夏映が自分のレイガンを抜くと、トリガーを引く。
アラブ系の男に銃口を向けたチャマンカ兵に当たると思いきや、やはりシールドを張ってたようで、当たる直前ではね返された。兵士は全くの無事である。
チャマンカ兵は銃口を、今度は夏映に向けて撃つ。弾丸の群れが飛んできたが、全て夏映と蒼介の周囲に張られたシールドにはね返される。
その隙にさっきのアラブ系の男を含め、一緒にいた地球人達が逃げだした。
蒼介と夏映はホルスターからプラズマ・ソードを抜くとスイッチをオンにする。
青い光の刃が伸びた。小銃を床に置いたチャマンカ兵達がプラズマ・ソードをやはり抜くと、こちらに向かって走ってくる。
青い刃と刃が打ち合う戦いに発展するが、多勢に無勢だ。
普段から訓練してる夏映はともかく、チャマンカ人の用意したメタバース内で訓練を始めたばかりの蒼介には荷が重い。
兵士と何度も打ち合ううちに、手からプラズマ・ソードが落下した。
その隙を突き、チャマンカ兵のプラズマ・ソードが頭上から斬りこんでくる。
その時だった。ちょうど兵士の背後から、怒号が聞こえる。兵士が後ろに目をやった。
一瞬の隙を見逃さなかった蒼介は、横っ飛びにその場を逃れる。兵士の背後で、チャマンカ兵同士の戦闘が勃発していた。
どうやらクーデター派の兵士を抑えようと、チャマンカ兵の別の部隊が来たらしい。
「ガシャンテ大将の直属部隊だ。我々の革命を邪魔しに来た!」
チャマンカ兵の1人が叫んだ。そこからはクーデター派とガシャンテ大将の直属部隊の間で激しい戦闘が始まった。
プラズマ・ソードとプラズマ・ソードの斬り合いになり、敵も味方も次々に斬られ、倒れてゆく。
見るも無惨な、地獄絵が繰り広げられた。訓練された兵隊同士の戦いで、蒼介と夏映が割りこむ余地はない。
「こっちへ来な。あんた達も殺されるぞ」
廊下の角に隠れていたさっきのアラブ人が声をかけてくる。蒼介と夏映は言われた通り、アラブ人の元へ逃げた。
「一体どうして、こんなはめになったんだ」
涙を流しながら、アラブ系の男が嘆息した。
「俺の故郷はチャマンカ人が来るまで独裁国家だった。サダム・フセインのような奴が権力を全部握って、政府の批判をしようものなら刑務所に入れられた。独裁者の一族以外はみんな貧しく、若い男は隣の国への戦争に駆り出されて命を失った。チャマンカ人が独裁者を追い払ってくれたおかげで民主化された。戦争も終わって平和になった。俺はチャマンカには感謝していた」
「わかります。クマみたいな宇宙人が来てから、世界中の独裁者が追放されましたから。全ての戦争は終わりましたし、民主国家の汚職に手を染めた政治家達も刑務所に入りました」
『わかります』とは言ったものの、いわゆる独裁国家で生活した経験がないので、正直ピンと来ないのも確かだ。
なんだかんだあっても日本は第二次大戦後平和で民主的にやってきた。
本や映画やテレビやネットで独裁国家の惨状の一端を知るのは可能だが、実際に蒼介が味わったわけではない。
日本もチャマンカ人のおかげで少なくとも労働環境は好転したが、こんな形でクーデターが勃発し、地球人そのものを虐殺しようとする流れになるとは考えなかった。
結局チャマンカ人も地球人同様一枚岩ではないのだろう。
なんて思いを巡らせたのは一瞬で、ホテルの玄関を出てすぐの場所で繰り広げられるプラズマ・ソードをふるいあった戦闘の凄まじさから目を離せずにいる。
感情抑制剤を夏映にもらって飲んでいたのは本当によかった。
でなければ阿鼻叫喚の殺しあいを見て、精神状態がおかしくなっていたかもしれない。
実際薬を飲んだ蒼介と夏映以外の地球人達は床に食べた物を吐いたり、泣きくずれたり、震えが止まらない者もいた。
これが本当の戦争なのだ。映画とは全く違う。血だか遺体だかの強烈な悪臭が鼻をつく。
チャマンカ人の無残な殺しあいが続き、双方から1人、また1人と、倒れる者が現れる。
舗装された地面はすでに血まみれで、斬られた首や腕や脚が無造作に転がっている。
倒れた遺体の腹からは内臓がはみだしていた。
恐慌状態になり、悲鳴をあげながら戦線を離脱する者もいる。そこには英雄もロマンもない。
本や映画やネットやテレビではわからない地獄絵図が展開していた。その時である。
戦闘中の両者の方へ、新たなチャマンカ人の部隊が接近してきた。
「何だよ。ありゃあ」
蒼介は、ついつぶやいた。夏映が自分のバックパックから戦闘用ゴーグルを取りだして蒼介に渡し、彼女自身も顔に装着した。蒼介も、つけてみる。
「望遠モードに合わせてみて」
夏映が指示した。
「頭の中で考えるだけで、勝手に望遠モードになるから」
「そいつは、また便利だな」
新たな訪問者達は50人程の集団だった。
クーデター派の連中と同じ識別信号を出しているのがゴーグルで表示されている。
どうやら革命派の増援らしい。このままではガシャンテ将軍の増援部隊が負けてしまう。
感情抑制剤を飲んでなければ、蒼介も恐怖を感じていたはずだ。
新たにやって来た軍団の兵士の1人がバズーカ砲のような物を持っていた。
その武器は脳波で操作するらしくトリガーはついてない。
その兵器の砲口から弾丸というよりは小型ミサイルのような物がものすごいスピードで轟音と共に飛びだした。
それはこっちに急速に向かってくる。まるで地獄からの使いのようだ。
それを見ていた蒼介と夏映以外の地球人達が一斉に悲鳴をあげた。
アラブ系の男に銃口を向けたチャマンカ兵に当たると思いきや、やはりシールドを張ってたようで、当たる直前ではね返された。兵士は全くの無事である。
チャマンカ兵は銃口を、今度は夏映に向けて撃つ。弾丸の群れが飛んできたが、全て夏映と蒼介の周囲に張られたシールドにはね返される。
その隙にさっきのアラブ系の男を含め、一緒にいた地球人達が逃げだした。
蒼介と夏映はホルスターからプラズマ・ソードを抜くとスイッチをオンにする。
青い光の刃が伸びた。小銃を床に置いたチャマンカ兵達がプラズマ・ソードをやはり抜くと、こちらに向かって走ってくる。
青い刃と刃が打ち合う戦いに発展するが、多勢に無勢だ。
普段から訓練してる夏映はともかく、チャマンカ人の用意したメタバース内で訓練を始めたばかりの蒼介には荷が重い。
兵士と何度も打ち合ううちに、手からプラズマ・ソードが落下した。
その隙を突き、チャマンカ兵のプラズマ・ソードが頭上から斬りこんでくる。
その時だった。ちょうど兵士の背後から、怒号が聞こえる。兵士が後ろに目をやった。
一瞬の隙を見逃さなかった蒼介は、横っ飛びにその場を逃れる。兵士の背後で、チャマンカ兵同士の戦闘が勃発していた。
どうやらクーデター派の兵士を抑えようと、チャマンカ兵の別の部隊が来たらしい。
「ガシャンテ大将の直属部隊だ。我々の革命を邪魔しに来た!」
チャマンカ兵の1人が叫んだ。そこからはクーデター派とガシャンテ大将の直属部隊の間で激しい戦闘が始まった。
プラズマ・ソードとプラズマ・ソードの斬り合いになり、敵も味方も次々に斬られ、倒れてゆく。
見るも無惨な、地獄絵が繰り広げられた。訓練された兵隊同士の戦いで、蒼介と夏映が割りこむ余地はない。
「こっちへ来な。あんた達も殺されるぞ」
廊下の角に隠れていたさっきのアラブ人が声をかけてくる。蒼介と夏映は言われた通り、アラブ人の元へ逃げた。
「一体どうして、こんなはめになったんだ」
涙を流しながら、アラブ系の男が嘆息した。
「俺の故郷はチャマンカ人が来るまで独裁国家だった。サダム・フセインのような奴が権力を全部握って、政府の批判をしようものなら刑務所に入れられた。独裁者の一族以外はみんな貧しく、若い男は隣の国への戦争に駆り出されて命を失った。チャマンカ人が独裁者を追い払ってくれたおかげで民主化された。戦争も終わって平和になった。俺はチャマンカには感謝していた」
「わかります。クマみたいな宇宙人が来てから、世界中の独裁者が追放されましたから。全ての戦争は終わりましたし、民主国家の汚職に手を染めた政治家達も刑務所に入りました」
『わかります』とは言ったものの、いわゆる独裁国家で生活した経験がないので、正直ピンと来ないのも確かだ。
なんだかんだあっても日本は第二次大戦後平和で民主的にやってきた。
本や映画やテレビやネットで独裁国家の惨状の一端を知るのは可能だが、実際に蒼介が味わったわけではない。
日本もチャマンカ人のおかげで少なくとも労働環境は好転したが、こんな形でクーデターが勃発し、地球人そのものを虐殺しようとする流れになるとは考えなかった。
結局チャマンカ人も地球人同様一枚岩ではないのだろう。
なんて思いを巡らせたのは一瞬で、ホテルの玄関を出てすぐの場所で繰り広げられるプラズマ・ソードをふるいあった戦闘の凄まじさから目を離せずにいる。
感情抑制剤を夏映にもらって飲んでいたのは本当によかった。
でなければ阿鼻叫喚の殺しあいを見て、精神状態がおかしくなっていたかもしれない。
実際薬を飲んだ蒼介と夏映以外の地球人達は床に食べた物を吐いたり、泣きくずれたり、震えが止まらない者もいた。
これが本当の戦争なのだ。映画とは全く違う。血だか遺体だかの強烈な悪臭が鼻をつく。
チャマンカ人の無残な殺しあいが続き、双方から1人、また1人と、倒れる者が現れる。
舗装された地面はすでに血まみれで、斬られた首や腕や脚が無造作に転がっている。
倒れた遺体の腹からは内臓がはみだしていた。
恐慌状態になり、悲鳴をあげながら戦線を離脱する者もいる。そこには英雄もロマンもない。
本や映画やネットやテレビではわからない地獄絵図が展開していた。その時である。
戦闘中の両者の方へ、新たなチャマンカ人の部隊が接近してきた。
「何だよ。ありゃあ」
蒼介は、ついつぶやいた。夏映が自分のバックパックから戦闘用ゴーグルを取りだして蒼介に渡し、彼女自身も顔に装着した。蒼介も、つけてみる。
「望遠モードに合わせてみて」
夏映が指示した。
「頭の中で考えるだけで、勝手に望遠モードになるから」
「そいつは、また便利だな」
新たな訪問者達は50人程の集団だった。
クーデター派の連中と同じ識別信号を出しているのがゴーグルで表示されている。
どうやら革命派の増援らしい。このままではガシャンテ将軍の増援部隊が負けてしまう。
感情抑制剤を飲んでなければ、蒼介も恐怖を感じていたはずだ。
新たにやって来た軍団の兵士の1人がバズーカ砲のような物を持っていた。
その武器は脳波で操作するらしくトリガーはついてない。
その兵器の砲口から弾丸というよりは小型ミサイルのような物がものすごいスピードで轟音と共に飛びだした。
それはこっちに急速に向かってくる。まるで地獄からの使いのようだ。
それを見ていた蒼介と夏映以外の地球人達が一斉に悲鳴をあげた。
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