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第9話 捕虜交換
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「チャマンカのクマ共がガシャンテ大将の身代金の支払いと、捕虜交換を提案してきた」
白いプラスチック製の人形のようなショードファ人のワランファ准将が、瀬戸口に向かって話し始めた。
その口調は、面白がっているように聞こえる。
彼がいるのはショードファ艦隊の宇宙戦艦の艦内だ。全長1キロの戦艦は、火星を見下ろす宇宙空間に浮かんでいる。
赤茶けた火星を見るのはワランファにとって苦痛なので、モニターは切ってある。
チャマンカ帝国の侵略で灰塵と化した彼の故郷を思いだすからだ。
宇宙戦艦は光学迷彩のため肉眼で外から見られないし特殊な金属製なので、チャマンカの高性能レーダーでも捕捉できない。
「何かの罠じゃないんですか?」
瀬戸口が返答した。
「かもしれん。が、話に乗ってみる価値はある。ゲリラ活動にも金はいるからな。しかもガシャンテ人を1人を出す代わりに、10人のショードファ人捕虜を解放するという話だ。我々にとっては貴重な戦力となる」
「ずいぶん大盤振る舞いですね!」
意見を述べたのは、雫石結菜である。
彼女のオーラは日本人ばかりでなく、ショードファ人のワランファを引きつける魅力を持っていた。
2つの黒い宝石のような大粒の目は、見ているだけで吸いこまれそうな輝きを放っている。
結菜は今や地球では一部の人達からアイドル視されており、非公式のファンクラブもできていた。
「ガシャンテは、チャマンカ星の貴族だからな」
ワランファは、それですべてを説明したつもりらしい。
「時間と場所は?」
瀬戸口が、質問した。
「地球の日本時間で3日後の深夜に東京湾のある埠頭でだ。セトグチとユイナにも立ち会ってほしい。何かあったら、助けてくれ」
名前を呼ばれた2人の男女は、異口同音に承知した。
「最近入会した穂刈さんは連れてかないんですか?」
瀬戸口が、質問する。瀬戸口も穂刈も元自衛官だが互いの事は知らなかった。
穂刈が後からアース・パルチザンに加わって、初めて顔見知りになったのだ。
「組織に加わって日が浅すぎる」
ワランファが、返答した。
「あたし、穂刈さん信じてない」
結菜が横から口をはさんだ。
「スペース・コロニーで働いてた時、チャマンカ人への不満がそんななさそうだった」
「下手に不満を言ったりしたら、クマ野郎達に目をつけられると思ったんじゃないの?」
瀬戸口が、発言した。
「その可能性もなくはないけど……」
結菜は、眉根を寄せながら回答する。
「どっちにしても今回は連れていかない。ホカリが信じられるかどうかは、そのうちわかるだろう」
ワランファが、最終的な決定を下した。
「万が一我々を裏切る行為があれば、ただではおかん」
「しかし穂刈がスパイなら、心を読みとる装置を使えばわかるのでは?」
瀬戸口が、疑問を呈した。
「ところがチャマンカのクマ共は、偽の記憶を植えつけて、装置を無力化できるのだ。同様なテクノロジーは、我々も有しているが」
そして、3日後の深夜。東京湾に面した埠頭。遠くから汽笛の音が聞こえてくる。
かつては汚かった海が、チャマンカの技術ですっかり澄んだ水に変わっていた。
夜風が、潮の香りを運んでくる。空に浮かぶ三日月は、今宵は何だか鋭利な刃物のようだと結菜は感じていた。
彼女の中で、緊張が高まってゆく。まるで映画のワンシーンだ。彼女はプロテクト・スーツを着ている。
ワランファの話を信じるなら、これさえ着てれば拳銃の弾丸ぐらいならはねかえせるそうだ。
もっとも今の地球にはピストルは存在しないが。
腰にはレイガンと、接近戦用のプラズマ・ソードを装着していた。訓練時と違い本物だ。
プラズマ・ソードの柄を握ると、手が汗ばんでいるのに気づいた。
彼女はマイクロバスの助手席にいる。運転席には瀬戸口がいた。
後ろの座席には12人のショードファ兵と、捕虜のガシャンテが乗っている。
プロテクト・スーツを着た彼の両腕は、電磁手錠でつながれていた。
ショードファ星の兵士達は全員がレイガンとプラズマ・ソードを装着している。
ショードファ人は全員が一種のサイボーグで、白いプラスチックのような外皮は同時に宇宙服でもあり、弾丸ぐらいは跳ね返せたので、特別な服は着ていない。
周囲には人っ子1人いなかった。やがてそこに1台のトラックが登場する。
車のナンバーも車種も色も、事前に連絡のあった通りだ。トラックが停車した。
助手席と後部の四角い銀色の荷台から、プロテクト・スーツを着たチャマンカ人が次々と降りてくる。
降りたのは全部で7人。運転席のチャマンカ人を入れれば8人だ。
チャマンカ人達にうながされトラックの荷台から、10人のショードファ人捕虜が降りてきた。
結菜は事前に余程のケースでない限り車から降りないよう釘を刺されていたので、助手席からは動かずにいるつもりである。
彼女も瀬戸口もネックレス型の翻訳機を首に下げているので、ショードファ人とチャマンカ人の会話を聞くのが可能であった。
(映画に出てくるギャングの取引みたい)
心臓をわしづかみにするような緊迫感はあったものの、一方どこかわくわくするような喜びを、内心結菜は感じている。
「ガシャンテ大将閣下は、どこにいらっしゃるのだ?」
チャマンカ人の代表が、いかめしい顔で質問してきた。その代表は他でもない。結菜も知ってるソワール大佐だ。
まさかここで登場すると思わなかったので、驚いた。
「ちゃんと後ろの座席にいる。安心しろ。そっちこそ身代金と捕虜はいるんだろうな」
ショードファ人の代表が、声をかけた。
「ちゃんとトラックで運んできた。こちらも捕虜を降ろして身代金を見せるから、そっちも同時に大将閣下をお連れしろ」
「いいだろう」
12人のショードファ人に囲まれるように、ガシャンテ将軍がマイクロバスから降りた。
一方チャマンカ側のトラックからは、捕虜のショードファ人が10人降ろされた。
チャマンカ人の1人が金属製の箱を手にしており、それをショードファ側の代表の前で開けてみせた。
中には結菜が見た事もない、美しい紫色の宝石が入っていた。赤ん坊の握り拳位の大きさがある。
「確かに本物のチュルアナだ」
以前に結菜は聴いてたが、この麗しい存在が銀河宇宙のほとんどの空域で、地球のダイヤや金のように、珍重されている。
現在ショードファ星はチャマンカの攻撃で焦土と化し、生き残った人々は、銀河のあちこちへ散らばった。
ショードファ人はチャマンカで流通している通貨をもらっても使えないので、こうしてチュルアナで受けとったのだ。
無論キャッシュレスで金額をデータ送信などというのは問題外である。
ショードファ人としては、自分達の秘密口座を教えるわけにはいかないからだ。
ショードファ側からガシャンテ将軍が現れ、チャマンカ側から10名の捕虜が現れた。
ガシャンテ将軍はゆっくりとチャマンカ側のトラックへ向かって歩き、ショードファ人の捕虜達も、同じ歩調でマイクロバスに向かって進んでくる。
チュルアナの入った箱は、捕虜の1人に渡されている。
捕虜達も電磁手錠をされていたが、ガシャンテにされた手錠同様それを外されてから解放された。
「あの人達本当は捕虜じゃなくて、チャマンカ人が変装してるって事ないの?」
結菜は疑問を口にした。
「ワランファ准将の話だと本物か偽物かは、マイクロバスに積みこんだセンサーでわかるそうだから大丈夫じゃねえかなあ」
隣の運転席にいる瀬戸口が回答した。 解放された10人のショードファ人は、マイクロバスに乗りこんだ。
やがて周囲の景色は突然、消失する。
次の瞬間、マイクロバスは、巨大な宇宙戦艦の中にいた。
戦艦から送られた転送ビームでワープしたのだ。
捕虜だった10人を含む22名のショードファ人と瀬戸口、結菜はバスを降りた。
10人の捕虜は念のため、医療室に連れていかれる。
「よくやってくれた」
ワランファが、皆の労をねぎらった。
「ですが准将閣下。ガシャンテ将軍を帰したのは間違いではなかったでしょうか。あの男は百戦錬磨の戦の達人。帰してしまえば、災いを呼ぶのでは?」
取引のため埠頭に行った12人のショードファ兵のうちの1人が、見解を述べる。
「それは大丈夫だ」
ワランファが回答した。
「捕虜になるのは奴らにとって大きな恥辱だ。今後ガシャンテは、チャマンカ本星に戻されて引退だろう」
「ガシャンテ将軍が引退しても、他にも有能な将軍がいますよね」
尋ねたのは瀬戸口だ。
「その通りだが、ガシャンテが抜きんでてたのは間違いない」
准将が、返答した。解放された10人の捕虜は全員男で、宇宙戦艦内の医務室に並んだベッドに寝かされていた。
検査の結果、全員健康と判明する。艦内に安堵の喜びが広がった。そして今、全員が眠りについた。
かれらのいる病室からナースコールで呼び出しがかかり、ショードファ人の看護師の女性が元捕虜のいる部屋へ向かった。
「いかがなさいました」
看護師は、自分を呼びだしたショードファ人に声をかけた。看護師の口に向かって、それまで横たわっていた男の右腕が伸びて、口をふさいでしまった。一方男の左腕は、看護師の喉をつかんだ。
女性の喉がショードファ人特有の自己防衛本能で硬化を始めたがそれもむなしく、男の力強い左腕は看護師の喉をぐいぐい締めあげ、やがて彼女は力なく、床に倒れた。
白いプラスチック製の人形のようなショードファ人のワランファ准将が、瀬戸口に向かって話し始めた。
その口調は、面白がっているように聞こえる。
彼がいるのはショードファ艦隊の宇宙戦艦の艦内だ。全長1キロの戦艦は、火星を見下ろす宇宙空間に浮かんでいる。
赤茶けた火星を見るのはワランファにとって苦痛なので、モニターは切ってある。
チャマンカ帝国の侵略で灰塵と化した彼の故郷を思いだすからだ。
宇宙戦艦は光学迷彩のため肉眼で外から見られないし特殊な金属製なので、チャマンカの高性能レーダーでも捕捉できない。
「何かの罠じゃないんですか?」
瀬戸口が返答した。
「かもしれん。が、話に乗ってみる価値はある。ゲリラ活動にも金はいるからな。しかもガシャンテ人を1人を出す代わりに、10人のショードファ人捕虜を解放するという話だ。我々にとっては貴重な戦力となる」
「ずいぶん大盤振る舞いですね!」
意見を述べたのは、雫石結菜である。
彼女のオーラは日本人ばかりでなく、ショードファ人のワランファを引きつける魅力を持っていた。
2つの黒い宝石のような大粒の目は、見ているだけで吸いこまれそうな輝きを放っている。
結菜は今や地球では一部の人達からアイドル視されており、非公式のファンクラブもできていた。
「ガシャンテは、チャマンカ星の貴族だからな」
ワランファは、それですべてを説明したつもりらしい。
「時間と場所は?」
瀬戸口が、質問した。
「地球の日本時間で3日後の深夜に東京湾のある埠頭でだ。セトグチとユイナにも立ち会ってほしい。何かあったら、助けてくれ」
名前を呼ばれた2人の男女は、異口同音に承知した。
「最近入会した穂刈さんは連れてかないんですか?」
瀬戸口が、質問する。瀬戸口も穂刈も元自衛官だが互いの事は知らなかった。
穂刈が後からアース・パルチザンに加わって、初めて顔見知りになったのだ。
「組織に加わって日が浅すぎる」
ワランファが、返答した。
「あたし、穂刈さん信じてない」
結菜が横から口をはさんだ。
「スペース・コロニーで働いてた時、チャマンカ人への不満がそんななさそうだった」
「下手に不満を言ったりしたら、クマ野郎達に目をつけられると思ったんじゃないの?」
瀬戸口が、発言した。
「その可能性もなくはないけど……」
結菜は、眉根を寄せながら回答する。
「どっちにしても今回は連れていかない。ホカリが信じられるかどうかは、そのうちわかるだろう」
ワランファが、最終的な決定を下した。
「万が一我々を裏切る行為があれば、ただではおかん」
「しかし穂刈がスパイなら、心を読みとる装置を使えばわかるのでは?」
瀬戸口が、疑問を呈した。
「ところがチャマンカのクマ共は、偽の記憶を植えつけて、装置を無力化できるのだ。同様なテクノロジーは、我々も有しているが」
そして、3日後の深夜。東京湾に面した埠頭。遠くから汽笛の音が聞こえてくる。
かつては汚かった海が、チャマンカの技術ですっかり澄んだ水に変わっていた。
夜風が、潮の香りを運んでくる。空に浮かぶ三日月は、今宵は何だか鋭利な刃物のようだと結菜は感じていた。
彼女の中で、緊張が高まってゆく。まるで映画のワンシーンだ。彼女はプロテクト・スーツを着ている。
ワランファの話を信じるなら、これさえ着てれば拳銃の弾丸ぐらいならはねかえせるそうだ。
もっとも今の地球にはピストルは存在しないが。
腰にはレイガンと、接近戦用のプラズマ・ソードを装着していた。訓練時と違い本物だ。
プラズマ・ソードの柄を握ると、手が汗ばんでいるのに気づいた。
彼女はマイクロバスの助手席にいる。運転席には瀬戸口がいた。
後ろの座席には12人のショードファ兵と、捕虜のガシャンテが乗っている。
プロテクト・スーツを着た彼の両腕は、電磁手錠でつながれていた。
ショードファ星の兵士達は全員がレイガンとプラズマ・ソードを装着している。
ショードファ人は全員が一種のサイボーグで、白いプラスチックのような外皮は同時に宇宙服でもあり、弾丸ぐらいは跳ね返せたので、特別な服は着ていない。
周囲には人っ子1人いなかった。やがてそこに1台のトラックが登場する。
車のナンバーも車種も色も、事前に連絡のあった通りだ。トラックが停車した。
助手席と後部の四角い銀色の荷台から、プロテクト・スーツを着たチャマンカ人が次々と降りてくる。
降りたのは全部で7人。運転席のチャマンカ人を入れれば8人だ。
チャマンカ人達にうながされトラックの荷台から、10人のショードファ人捕虜が降りてきた。
結菜は事前に余程のケースでない限り車から降りないよう釘を刺されていたので、助手席からは動かずにいるつもりである。
彼女も瀬戸口もネックレス型の翻訳機を首に下げているので、ショードファ人とチャマンカ人の会話を聞くのが可能であった。
(映画に出てくるギャングの取引みたい)
心臓をわしづかみにするような緊迫感はあったものの、一方どこかわくわくするような喜びを、内心結菜は感じている。
「ガシャンテ大将閣下は、どこにいらっしゃるのだ?」
チャマンカ人の代表が、いかめしい顔で質問してきた。その代表は他でもない。結菜も知ってるソワール大佐だ。
まさかここで登場すると思わなかったので、驚いた。
「ちゃんと後ろの座席にいる。安心しろ。そっちこそ身代金と捕虜はいるんだろうな」
ショードファ人の代表が、声をかけた。
「ちゃんとトラックで運んできた。こちらも捕虜を降ろして身代金を見せるから、そっちも同時に大将閣下をお連れしろ」
「いいだろう」
12人のショードファ人に囲まれるように、ガシャンテ将軍がマイクロバスから降りた。
一方チャマンカ側のトラックからは、捕虜のショードファ人が10人降ろされた。
チャマンカ人の1人が金属製の箱を手にしており、それをショードファ側の代表の前で開けてみせた。
中には結菜が見た事もない、美しい紫色の宝石が入っていた。赤ん坊の握り拳位の大きさがある。
「確かに本物のチュルアナだ」
以前に結菜は聴いてたが、この麗しい存在が銀河宇宙のほとんどの空域で、地球のダイヤや金のように、珍重されている。
現在ショードファ星はチャマンカの攻撃で焦土と化し、生き残った人々は、銀河のあちこちへ散らばった。
ショードファ人はチャマンカで流通している通貨をもらっても使えないので、こうしてチュルアナで受けとったのだ。
無論キャッシュレスで金額をデータ送信などというのは問題外である。
ショードファ人としては、自分達の秘密口座を教えるわけにはいかないからだ。
ショードファ側からガシャンテ将軍が現れ、チャマンカ側から10名の捕虜が現れた。
ガシャンテ将軍はゆっくりとチャマンカ側のトラックへ向かって歩き、ショードファ人の捕虜達も、同じ歩調でマイクロバスに向かって進んでくる。
チュルアナの入った箱は、捕虜の1人に渡されている。
捕虜達も電磁手錠をされていたが、ガシャンテにされた手錠同様それを外されてから解放された。
「あの人達本当は捕虜じゃなくて、チャマンカ人が変装してるって事ないの?」
結菜は疑問を口にした。
「ワランファ准将の話だと本物か偽物かは、マイクロバスに積みこんだセンサーでわかるそうだから大丈夫じゃねえかなあ」
隣の運転席にいる瀬戸口が回答した。 解放された10人のショードファ人は、マイクロバスに乗りこんだ。
やがて周囲の景色は突然、消失する。
次の瞬間、マイクロバスは、巨大な宇宙戦艦の中にいた。
戦艦から送られた転送ビームでワープしたのだ。
捕虜だった10人を含む22名のショードファ人と瀬戸口、結菜はバスを降りた。
10人の捕虜は念のため、医療室に連れていかれる。
「よくやってくれた」
ワランファが、皆の労をねぎらった。
「ですが准将閣下。ガシャンテ将軍を帰したのは間違いではなかったでしょうか。あの男は百戦錬磨の戦の達人。帰してしまえば、災いを呼ぶのでは?」
取引のため埠頭に行った12人のショードファ兵のうちの1人が、見解を述べる。
「それは大丈夫だ」
ワランファが回答した。
「捕虜になるのは奴らにとって大きな恥辱だ。今後ガシャンテは、チャマンカ本星に戻されて引退だろう」
「ガシャンテ将軍が引退しても、他にも有能な将軍がいますよね」
尋ねたのは瀬戸口だ。
「その通りだが、ガシャンテが抜きんでてたのは間違いない」
准将が、返答した。解放された10人の捕虜は全員男で、宇宙戦艦内の医務室に並んだベッドに寝かされていた。
検査の結果、全員健康と判明する。艦内に安堵の喜びが広がった。そして今、全員が眠りについた。
かれらのいる病室からナースコールで呼び出しがかかり、ショードファ人の看護師の女性が元捕虜のいる部屋へ向かった。
「いかがなさいました」
看護師は、自分を呼びだしたショードファ人に声をかけた。看護師の口に向かって、それまで横たわっていた男の右腕が伸びて、口をふさいでしまった。一方男の左腕は、看護師の喉をつかんだ。
女性の喉がショードファ人特有の自己防衛本能で硬化を始めたがそれもむなしく、男の力強い左腕は看護師の喉をぐいぐい締めあげ、やがて彼女は力なく、床に倒れた。
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