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第4話 犯人は誰?
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震えながらただ1人遺体を見ていた磯山は、誰かが近づいてくるのに気づいた。
そちらを懐中電灯で照らすと卯原である。
「警備室離れていいんですか?」
驚いて、磯山が聞く。
「んなこと言ったって、お前の事が心配だから来たんだろうが」
卯原が、暗鬱な顔をした。
「やっぱりこりゃあ死んでるな。後頭部がザクロみたいに割れてるじゃないか。殺されたのは、月島さんだ。酷いもんだよ。悪いけどもう1度警備室に戻る。警備室から警察に電話するよ」
「月島さんって、俺が来た時後ろから入ってきた子ですか?」
「ああ、そうだ。一体誰がやったんだ。酷い野郎だ。あっ、このバット西俣のじゃないか。まさかあいつがやったんじゃ」
「西俣さん、そんな悪そうな人に見えませんでしたけど」
「でもこの敷地内に今いるのは、俺とお前と西俣と寮生だけだぜ。ともかく俺は警察に連絡してくる」
それだけ残して卯原はそこを立ち去った。磯山は腕時計を見る。午後11時50分を過ぎていた。
やがて深夜零時過ぎに懐中電灯を持った警官が3人現れる。近くの交番から来たのだろう。
「あんたが第1発見者かね?」
50代ぐらいの警官が、磯山に質問してきた。
「そうですけど」
「さっき警察に電話してきた卯原隊長に聞いたけど、君が磯山君だよね?」
「ええ、そうです。夜勤応援で来てました」
「そうなんだ。そいつは運が悪かったなあ。それじゃあこの女性がどんな人かも知らないでしょう?」
「ええ、そうです。卯原隊長の話だと、月島さんとかいう寮生だそうです。たまたま昨夜ここへ来た時見かけましたが、可愛い子でしたね。まさか殺されるだなんて……」
遺体を目前にしているのにも関わらず、現実感がまるでない。
今にも聖良がひょっこり起きてきて『実はドッキリでした』なんてしゃべるんじゃないかと感じるぐらいだ。
「気さくな子で、僕らが詰めてる交番の前を通りがかると、挨拶してくれてね。1度財布を届けてくれて書類に記入してもらったから、僕らも名前は知ってたんだ。彼女に挨拶されると、何だかその日は1日中幸せな気持ちになれたんだよなあ。本当に犯人が許せないよ」
警官は、悔しさを滲ませながら、悲嘆にくれた。
「卯原隊長は、以前彼女をチンピラから助けたそうだから、僕ら以上に怒ってるんじゃないのかなあ」
「お巡りさんも、その一件をご存知でしたか」
「月島さんと卯原隊長の両方から聞いてたよ。交番の連中はみんな知ってたんじゃないのかな。卯原さんも、よく拾得物を届けてくれてたし、やはり気さくに挨拶してくれてたからね」
その間他の警官が倒れた女性の様子を見ていた。
「後頭部がザクロのように割れてます。間違いなく死んでます」
遺体を見ていた警官の1人が、重々しい口調で伝える。まるで石臼でひいたかのような語調である。
「ちなみにこのバットは、誰のかね? 卯原さんは、西俣とかいう男の物だと話してたが間違いないの?」
最初に声をかけてきた警官が磯山に聞いてくる。
「そうです。この女子寮の設備担当の西俣さんのです。あっちのプレハブで寝てるはずですが」
磯山は、設備担当者の仮眠所を指さした。
「ちょっと2人で見てきてくれないか」
磯山と話していた警官がそう呼びかけ、指示された2人は連れ立ってプレハブの方へ走った。
「卯原さんが懐中電灯の光に気づいて、ここへ来るよう言われたそうだけど」
最初に話しかけてきた警官が質問してくる。
「ええ、そうです。午後11時30分頃に卯原さんが外周巡回から戻ってくると、防犯カメラの1つをいじって、撮影場所を雑木林に向けたんです。その時この林の中に、懐中電灯の光が見えたんです」
磯山は、説明する。
「ここへ僕が着いたのが11時40分です」
「よく覚えてるね」
感心した口調で警官が言葉を発した。
「何もなくても、後で警備日誌を書かないといけないので手帳にメモしてあるんです。新人の頃、しつこく卯原隊長にしつけらましたんで。元々別の現場で一緒に仕事してたんで」
その後警察が調べた結果、やはりバットで殺されたのは月島聖良だと判明する。
バットから出た指紋は西俣の物だけで、西俣は警察に殺人容疑で逮捕された。
警視庁から赤羽署の取調室にやってきたのは馬淵(まぶち)警部補だ。彼は今45歳。
レスリングを昔やっていたので体格がいい。
取調室には、がっくりとうなだれた男が椅子に座っている。
赤羽大学の女子寮で設備関係の仕事をしていた西俣という人物だ。そばには、赤羽署の刑事がいる。
「はじめまして。警視庁の馬淵警部補です」
馬淵は手帳を出して、自己紹介する。西俣が、その顔をこちらに見せる。すがるような目をしていた。
「刑事さん信じてください。俺は本当にやってません。月島さんが殺された時間には、仮眠所でぐっすりと寝てました」
西俣は、涙目だ。
「何度も同じ事を聞かれたと思いますが、事件当日の21時15分以降、あなたは何をしてましたか? 21時15分の時点で警備員の磯山さんが、あなたが設備の詰め所の前でバットの素振りをしていたのを見ていたのは認めますね?」
「認めます」
西俣が、うなずいた。
「21時半ぐらいまで素振りをしてました。24時間勤務の時は、この時間にやってました。22時から仮眠時間なんで、この時間に素振りをすると、よく眠れるんで」
「素振りの後は?」
「いつものようにバットをプレハブの入り口の外の脇に立てかけて、詰所の中に入りました。そして22時から仮眠に入りました」
「すぐ眠れました?」
馬淵は、さらに疑問を呈する。
「ええ。いつもすぐ眠れます。深夜の零時半にお巡りさんに起こされるまで爆睡してました」
2人の警官の証言によれば、西俣がぐっすり眠り、大いびきをかいていたのは確かだそうだ。
卯原が雑木林を照らす懐中電灯の灯りを発見したのが23時半過ぎなので、犯人はその前後に月島聖良を殺害したのだろう。
仮に西俣が聖良を殺したなら、犯行の1時間後には詰所で熟睡していたというのが解せない。
普通なら眠れるような神経ではないだろう。寝たふりするぐらいならできるとはいえ、いびきまでかけるのか?
が、彼以外の犯人が考えられないのも確かなのだ。
「西俣さんもご存じでしょうが、女子寮の玄関は防犯カメラで撮影されてます。23時にこの玄関から、被害者が雑木林に歩きで向かいました。彼女は猫好きで、これは夜の日課になってましたし、周囲の人も知ってました。無論あなたも知ってましたよね」
「確かに聞いた事はあります。でも、俺が殺したわけじゃない。月島さんは可愛くて、娘みたいに思ってました。絶対に殺してないです」
西俣は、声を強めた。
「月島さんが殺された23時半前後には、防犯カメラで2人の警備員が警備室におり、外泊していた一部の寮生と被害者以外は全員が、女子寮の建物内にいたことが確認されてます。その時点で女子寮の敷地内にいて、カメラに映らず被害者に近づけたのは、あなた以外にありえません」
「誰かが外から侵入してきたってことはないんですか?」
西俣が、問いを投げかける。
「その説明も聞いたと思いますが、敷地の周囲のどこから誰か侵入しても映るように防犯カメラが隙間なく設置されてます。録画された動画を警察で確認しましたが、侵入者はいませんでした」
「本当にやってないんですよ。信じてください」
震えながら、西俣が主張する。
「では、質問を変えましょう。アリバイのある、なしを抜きにして、被害者を殺した人物に心あたりはないですか?」
「わかりません。月島さんは性格が良いから俺みたいな男でも相手にしてくれたし、一体誰が殺したのか。俺が聞きたいくらいです」
結局西俣から自白を取れないまま、赤羽署の刑事達に任せて馬淵は、その場を去った。
赤羽署を出た彼は、徒歩で女子寮に部下の刑事と2人で向かった。
今日は4月24日の月曜日。腕時計を見ると午後5時である。
早ければ、すでに大学から帰宅した学生もいるはずだ。
寮の敷地の入口にあるインターホンで呼び出すと警備員が出て、開錠してくれた。
警備室に行くと、日曜は休みだったガードマンが出迎える。年齢は30代ぐらいだろうか。
昨夜の事件当時ここにいた卯原隊長と応援で別の現場から来た磯山は、取調べの後今日の午前中にしていた。
「ちょっと中を見せてください」
馬淵は、ガードマンに伝える。
「わかりました。お疲れ様です」
そこへちょうど1人の若い女性が敷地内を通るのに気づいた。
その女性は身長150センチぐらいか。スキップしながら、寮のある建物の方へ進んでいる。
「ちょっと君。ここの寮生でしょう?」
馬淵は、彼女を呼びとめた。
「警視庁の方ですよね?」
声をかけられた女性がそう返答する。大粒の目はやや離れ気味で、どこかカエルを思わせる可愛らしい顔立ちだった。
「どうしてわかったの?」
ちょっとびっくりして馬淵が聞く。
「事件の直後に取り調べに来たのとは違う方でしたので」
「捜査一課の馬淵警部補です」
馬淵は、女性に手帳を見せる。
「寮生の冷泉智香です。赤羽大学の2年生です」
「亡くなった月島さんとは、仲が良かったんですか?」
智香はコクリとうなずいた。
「聖良は、人気者でした。男性からも女性からも愛されるタイプです。少なくとも、寮生で彼女を嫌っている人はいなかったと思います」
「こんな事になって、本当に残念です」
「ありがとうございます。ところで馬淵さんは、逮捕された西俣さんを犯人だと考えてらっしゃるんですか?」
「それはまだなんとも」
苦笑しながら、警部補は回答した。
「でも、昨晩ここにいた人の中で西俣さんだけ警察に連れて行かれて今だに帰ってこないところをみると、重要人物だとは思ってらっしゃるんですよね?」
「捜査の内容についてはちょっとお話しできないな」
「私、西俣さんは犯人じゃないとにらんでます。もちろん、ちゃんとした理由があります」
そちらを懐中電灯で照らすと卯原である。
「警備室離れていいんですか?」
驚いて、磯山が聞く。
「んなこと言ったって、お前の事が心配だから来たんだろうが」
卯原が、暗鬱な顔をした。
「やっぱりこりゃあ死んでるな。後頭部がザクロみたいに割れてるじゃないか。殺されたのは、月島さんだ。酷いもんだよ。悪いけどもう1度警備室に戻る。警備室から警察に電話するよ」
「月島さんって、俺が来た時後ろから入ってきた子ですか?」
「ああ、そうだ。一体誰がやったんだ。酷い野郎だ。あっ、このバット西俣のじゃないか。まさかあいつがやったんじゃ」
「西俣さん、そんな悪そうな人に見えませんでしたけど」
「でもこの敷地内に今いるのは、俺とお前と西俣と寮生だけだぜ。ともかく俺は警察に連絡してくる」
それだけ残して卯原はそこを立ち去った。磯山は腕時計を見る。午後11時50分を過ぎていた。
やがて深夜零時過ぎに懐中電灯を持った警官が3人現れる。近くの交番から来たのだろう。
「あんたが第1発見者かね?」
50代ぐらいの警官が、磯山に質問してきた。
「そうですけど」
「さっき警察に電話してきた卯原隊長に聞いたけど、君が磯山君だよね?」
「ええ、そうです。夜勤応援で来てました」
「そうなんだ。そいつは運が悪かったなあ。それじゃあこの女性がどんな人かも知らないでしょう?」
「ええ、そうです。卯原隊長の話だと、月島さんとかいう寮生だそうです。たまたま昨夜ここへ来た時見かけましたが、可愛い子でしたね。まさか殺されるだなんて……」
遺体を目前にしているのにも関わらず、現実感がまるでない。
今にも聖良がひょっこり起きてきて『実はドッキリでした』なんてしゃべるんじゃないかと感じるぐらいだ。
「気さくな子で、僕らが詰めてる交番の前を通りがかると、挨拶してくれてね。1度財布を届けてくれて書類に記入してもらったから、僕らも名前は知ってたんだ。彼女に挨拶されると、何だかその日は1日中幸せな気持ちになれたんだよなあ。本当に犯人が許せないよ」
警官は、悔しさを滲ませながら、悲嘆にくれた。
「卯原隊長は、以前彼女をチンピラから助けたそうだから、僕ら以上に怒ってるんじゃないのかなあ」
「お巡りさんも、その一件をご存知でしたか」
「月島さんと卯原隊長の両方から聞いてたよ。交番の連中はみんな知ってたんじゃないのかな。卯原さんも、よく拾得物を届けてくれてたし、やはり気さくに挨拶してくれてたからね」
その間他の警官が倒れた女性の様子を見ていた。
「後頭部がザクロのように割れてます。間違いなく死んでます」
遺体を見ていた警官の1人が、重々しい口調で伝える。まるで石臼でひいたかのような語調である。
「ちなみにこのバットは、誰のかね? 卯原さんは、西俣とかいう男の物だと話してたが間違いないの?」
最初に声をかけてきた警官が磯山に聞いてくる。
「そうです。この女子寮の設備担当の西俣さんのです。あっちのプレハブで寝てるはずですが」
磯山は、設備担当者の仮眠所を指さした。
「ちょっと2人で見てきてくれないか」
磯山と話していた警官がそう呼びかけ、指示された2人は連れ立ってプレハブの方へ走った。
「卯原さんが懐中電灯の光に気づいて、ここへ来るよう言われたそうだけど」
最初に話しかけてきた警官が質問してくる。
「ええ、そうです。午後11時30分頃に卯原さんが外周巡回から戻ってくると、防犯カメラの1つをいじって、撮影場所を雑木林に向けたんです。その時この林の中に、懐中電灯の光が見えたんです」
磯山は、説明する。
「ここへ僕が着いたのが11時40分です」
「よく覚えてるね」
感心した口調で警官が言葉を発した。
「何もなくても、後で警備日誌を書かないといけないので手帳にメモしてあるんです。新人の頃、しつこく卯原隊長にしつけらましたんで。元々別の現場で一緒に仕事してたんで」
その後警察が調べた結果、やはりバットで殺されたのは月島聖良だと判明する。
バットから出た指紋は西俣の物だけで、西俣は警察に殺人容疑で逮捕された。
警視庁から赤羽署の取調室にやってきたのは馬淵(まぶち)警部補だ。彼は今45歳。
レスリングを昔やっていたので体格がいい。
取調室には、がっくりとうなだれた男が椅子に座っている。
赤羽大学の女子寮で設備関係の仕事をしていた西俣という人物だ。そばには、赤羽署の刑事がいる。
「はじめまして。警視庁の馬淵警部補です」
馬淵は手帳を出して、自己紹介する。西俣が、その顔をこちらに見せる。すがるような目をしていた。
「刑事さん信じてください。俺は本当にやってません。月島さんが殺された時間には、仮眠所でぐっすりと寝てました」
西俣は、涙目だ。
「何度も同じ事を聞かれたと思いますが、事件当日の21時15分以降、あなたは何をしてましたか? 21時15分の時点で警備員の磯山さんが、あなたが設備の詰め所の前でバットの素振りをしていたのを見ていたのは認めますね?」
「認めます」
西俣が、うなずいた。
「21時半ぐらいまで素振りをしてました。24時間勤務の時は、この時間にやってました。22時から仮眠時間なんで、この時間に素振りをすると、よく眠れるんで」
「素振りの後は?」
「いつものようにバットをプレハブの入り口の外の脇に立てかけて、詰所の中に入りました。そして22時から仮眠に入りました」
「すぐ眠れました?」
馬淵は、さらに疑問を呈する。
「ええ。いつもすぐ眠れます。深夜の零時半にお巡りさんに起こされるまで爆睡してました」
2人の警官の証言によれば、西俣がぐっすり眠り、大いびきをかいていたのは確かだそうだ。
卯原が雑木林を照らす懐中電灯の灯りを発見したのが23時半過ぎなので、犯人はその前後に月島聖良を殺害したのだろう。
仮に西俣が聖良を殺したなら、犯行の1時間後には詰所で熟睡していたというのが解せない。
普通なら眠れるような神経ではないだろう。寝たふりするぐらいならできるとはいえ、いびきまでかけるのか?
が、彼以外の犯人が考えられないのも確かなのだ。
「西俣さんもご存じでしょうが、女子寮の玄関は防犯カメラで撮影されてます。23時にこの玄関から、被害者が雑木林に歩きで向かいました。彼女は猫好きで、これは夜の日課になってましたし、周囲の人も知ってました。無論あなたも知ってましたよね」
「確かに聞いた事はあります。でも、俺が殺したわけじゃない。月島さんは可愛くて、娘みたいに思ってました。絶対に殺してないです」
西俣は、声を強めた。
「月島さんが殺された23時半前後には、防犯カメラで2人の警備員が警備室におり、外泊していた一部の寮生と被害者以外は全員が、女子寮の建物内にいたことが確認されてます。その時点で女子寮の敷地内にいて、カメラに映らず被害者に近づけたのは、あなた以外にありえません」
「誰かが外から侵入してきたってことはないんですか?」
西俣が、問いを投げかける。
「その説明も聞いたと思いますが、敷地の周囲のどこから誰か侵入しても映るように防犯カメラが隙間なく設置されてます。録画された動画を警察で確認しましたが、侵入者はいませんでした」
「本当にやってないんですよ。信じてください」
震えながら、西俣が主張する。
「では、質問を変えましょう。アリバイのある、なしを抜きにして、被害者を殺した人物に心あたりはないですか?」
「わかりません。月島さんは性格が良いから俺みたいな男でも相手にしてくれたし、一体誰が殺したのか。俺が聞きたいくらいです」
結局西俣から自白を取れないまま、赤羽署の刑事達に任せて馬淵は、その場を去った。
赤羽署を出た彼は、徒歩で女子寮に部下の刑事と2人で向かった。
今日は4月24日の月曜日。腕時計を見ると午後5時である。
早ければ、すでに大学から帰宅した学生もいるはずだ。
寮の敷地の入口にあるインターホンで呼び出すと警備員が出て、開錠してくれた。
警備室に行くと、日曜は休みだったガードマンが出迎える。年齢は30代ぐらいだろうか。
昨夜の事件当時ここにいた卯原隊長と応援で別の現場から来た磯山は、取調べの後今日の午前中にしていた。
「ちょっと中を見せてください」
馬淵は、ガードマンに伝える。
「わかりました。お疲れ様です」
そこへちょうど1人の若い女性が敷地内を通るのに気づいた。
その女性は身長150センチぐらいか。スキップしながら、寮のある建物の方へ進んでいる。
「ちょっと君。ここの寮生でしょう?」
馬淵は、彼女を呼びとめた。
「警視庁の方ですよね?」
声をかけられた女性がそう返答する。大粒の目はやや離れ気味で、どこかカエルを思わせる可愛らしい顔立ちだった。
「どうしてわかったの?」
ちょっとびっくりして馬淵が聞く。
「事件の直後に取り調べに来たのとは違う方でしたので」
「捜査一課の馬淵警部補です」
馬淵は、女性に手帳を見せる。
「寮生の冷泉智香です。赤羽大学の2年生です」
「亡くなった月島さんとは、仲が良かったんですか?」
智香はコクリとうなずいた。
「聖良は、人気者でした。男性からも女性からも愛されるタイプです。少なくとも、寮生で彼女を嫌っている人はいなかったと思います」
「こんな事になって、本当に残念です」
「ありがとうございます。ところで馬淵さんは、逮捕された西俣さんを犯人だと考えてらっしゃるんですか?」
「それはまだなんとも」
苦笑しながら、警部補は回答した。
「でも、昨晩ここにいた人の中で西俣さんだけ警察に連れて行かれて今だに帰ってこないところをみると、重要人物だとは思ってらっしゃるんですよね?」
「捜査の内容についてはちょっとお話しできないな」
「私、西俣さんは犯人じゃないとにらんでます。もちろん、ちゃんとした理由があります」
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