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第8話 さらなる調査
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「わざわざどうもすみませんね。美咲さんが亡くなったんでしょう? 季節荘の周囲は報道陣に囲まれちゃって」
電話に出た大中臣恵美が、申し訳なさそうな顔をする。
「いえいえ。僕に何か、依頼したいとメールに書いてありましたが」
「それがねえ。息子の陸の事なんですよ」
恵美は、やりきれない口調になった。
「陸君が、どうされました?」
「最近陸に恋人ができたみたいなんです」
「そりゃあ良い話じゃないですか」
なんだか、拍子抜けがした。
「それが、どこの誰か聞いても教えないんですよ。うちに呼んで紹介するようにって言ったんですけど」
「まだそこまで深い仲ではないのでは?」
「それが1度陸がその女と一緒にいるところを見たんですけど、茶髪のロングヘアーにサングラスをした派手な衣装の女で息子にふさわしいか不安になりまして」
「つまり僕に、その女が何者か調べてほしいというわけですね?」
「そうなんです。夫とも相談しまして、最初はどこかの興信所に頼もうかなと考えましたけど、どこが良いのかわかりませんし、義我さんなら信頼できると思いまして」
「それなら、こうしましょう。僕の知ってる信頼できる興信所がありますので、そちらに依頼してみますよ。仲介手数料はいただきませんので」
「そうですか。それなら助かります」
「後でメールで連絡先を送りますので、直接そちらに連絡してください。僕からも、大中臣さんから連絡が行く旨を話しておきますから」
「ご親切にありがとうございます」
恵美は、何度も礼を述べる。電話を切った後、輪人は早速義我グループの系列企業が使っている興信所に電話をした。
用件を所長に伝えた後で、電話を切る。ちょうどそのタイミングでノックの音が響く。
輪人の方からドアを開けると、徳丸家の長男の大輝がいた。
「まわりじゅうマスコミだらけだからすぐに出ろとは言わないけど、美咲さんが死んだ以上、あんたとの契約は解消だ。未払いの金は出すから、今日明日中には、春屋敷であんたが泊まってる部屋を引き払ってここを出てくれ」
相変わらずつっけんどんな態度である。
「大輝さんは、美咲さんを自殺だと思います?」
輪人は大輝の言葉には返答せずに、質問した。
「思うも何も警察は自殺だろうって。確かに自分で命を絶つような、やわな女には見えなかったけど」
大輝の語調はきつい。
「もう少し、僕に調査させてください。そのためには、美咲さんの遺体を発見した新渡戸さんとかいう編集者の話を聞く必要があります。彼に取り次いでいただけませんか?」
「なんで俺がそんな真似を! 警察でもねえくせに、大概にしろ」
不服そうに、大輝の頬がふくらんだ。
「あなたがた3人のきょうだいが、強さんとも美咲さんとも不仲だったのは知ってます。だからと言って、犯人を野放しにしていいんですか? 犯人の狙いはわかりませんが、次にあなたか、あなたのきょうだいを殺すかもしれませんよ」
しばらく沈黙が続いた。
「わかったよ。このまま警察に任せておいても親父を殺した犯人は見つからなさそうだし、美咲さんも自殺で処理されそうだけど、俺にはどうしてもそうだとは思えねえ」
警察の取り調べを受けた後の新渡戸は憔悴しきった顔をしている。
「はじめまして。義我と申します」
犯罪研究家は、自分の名刺を相手に渡す。2人は今、秋屋敷のイチョウの間にいた。大輝が輪人のために用意した部屋である。
「はじめまして。生前徳丸先生の担当だった新渡戸です。義我さんの事は存じてますよ。YouTubeの義我さんの番組も、たまに観てます」
編集者も、自分の名刺をこっちによこす。疲れきっているせいか、高重力の惑星にいるかのようにぎこちない仕草である。
その場には、徳丸大輝の姿もあった。
「お疲れのところ恐縮ですが、美咲さんの遺体に遭遇した時の話を聴かせていただけませんか?」
「なんでですか? 警察には全部話しましたよ。あなた一般人でしょう?」
新渡戸の声は尖っていた。
「警察は美咲さんの件を、自殺でかたづけようとしてます。ただ私は様々な事情から、彼女は殺されたんじゃないかと疑ってます」
輪人は、そう断定する。
電話に出た大中臣恵美が、申し訳なさそうな顔をする。
「いえいえ。僕に何か、依頼したいとメールに書いてありましたが」
「それがねえ。息子の陸の事なんですよ」
恵美は、やりきれない口調になった。
「陸君が、どうされました?」
「最近陸に恋人ができたみたいなんです」
「そりゃあ良い話じゃないですか」
なんだか、拍子抜けがした。
「それが、どこの誰か聞いても教えないんですよ。うちに呼んで紹介するようにって言ったんですけど」
「まだそこまで深い仲ではないのでは?」
「それが1度陸がその女と一緒にいるところを見たんですけど、茶髪のロングヘアーにサングラスをした派手な衣装の女で息子にふさわしいか不安になりまして」
「つまり僕に、その女が何者か調べてほしいというわけですね?」
「そうなんです。夫とも相談しまして、最初はどこかの興信所に頼もうかなと考えましたけど、どこが良いのかわかりませんし、義我さんなら信頼できると思いまして」
「それなら、こうしましょう。僕の知ってる信頼できる興信所がありますので、そちらに依頼してみますよ。仲介手数料はいただきませんので」
「そうですか。それなら助かります」
「後でメールで連絡先を送りますので、直接そちらに連絡してください。僕からも、大中臣さんから連絡が行く旨を話しておきますから」
「ご親切にありがとうございます」
恵美は、何度も礼を述べる。電話を切った後、輪人は早速義我グループの系列企業が使っている興信所に電話をした。
用件を所長に伝えた後で、電話を切る。ちょうどそのタイミングでノックの音が響く。
輪人の方からドアを開けると、徳丸家の長男の大輝がいた。
「まわりじゅうマスコミだらけだからすぐに出ろとは言わないけど、美咲さんが死んだ以上、あんたとの契約は解消だ。未払いの金は出すから、今日明日中には、春屋敷であんたが泊まってる部屋を引き払ってここを出てくれ」
相変わらずつっけんどんな態度である。
「大輝さんは、美咲さんを自殺だと思います?」
輪人は大輝の言葉には返答せずに、質問した。
「思うも何も警察は自殺だろうって。確かに自分で命を絶つような、やわな女には見えなかったけど」
大輝の語調はきつい。
「もう少し、僕に調査させてください。そのためには、美咲さんの遺体を発見した新渡戸さんとかいう編集者の話を聞く必要があります。彼に取り次いでいただけませんか?」
「なんで俺がそんな真似を! 警察でもねえくせに、大概にしろ」
不服そうに、大輝の頬がふくらんだ。
「あなたがた3人のきょうだいが、強さんとも美咲さんとも不仲だったのは知ってます。だからと言って、犯人を野放しにしていいんですか? 犯人の狙いはわかりませんが、次にあなたか、あなたのきょうだいを殺すかもしれませんよ」
しばらく沈黙が続いた。
「わかったよ。このまま警察に任せておいても親父を殺した犯人は見つからなさそうだし、美咲さんも自殺で処理されそうだけど、俺にはどうしてもそうだとは思えねえ」
警察の取り調べを受けた後の新渡戸は憔悴しきった顔をしている。
「はじめまして。義我と申します」
犯罪研究家は、自分の名刺を相手に渡す。2人は今、秋屋敷のイチョウの間にいた。大輝が輪人のために用意した部屋である。
「はじめまして。生前徳丸先生の担当だった新渡戸です。義我さんの事は存じてますよ。YouTubeの義我さんの番組も、たまに観てます」
編集者も、自分の名刺をこっちによこす。疲れきっているせいか、高重力の惑星にいるかのようにぎこちない仕草である。
その場には、徳丸大輝の姿もあった。
「お疲れのところ恐縮ですが、美咲さんの遺体に遭遇した時の話を聴かせていただけませんか?」
「なんでですか? 警察には全部話しましたよ。あなた一般人でしょう?」
新渡戸の声は尖っていた。
「警察は美咲さんの件を、自殺でかたづけようとしてます。ただ私は様々な事情から、彼女は殺されたんじゃないかと疑ってます」
輪人は、そう断定する。
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