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第17話 大団円
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キリサメ軍は大神殿の制圧に成功し、巫女達を解放した。
大神殿を奪われ勝ち目がないと見たヨイヤミ公は降伏し、戦争は終わったのである。
キリサメ公の命令で天候操作装置を使って意図的に日照りを作らされていた地区には、雨が降るよう設定された。
セセラギはアオイを含めサイハテ村から連行された女達と共に、故郷の村へと向かって進んだ。
帰ったら正式に祝言をあげるつもりであった。イシクレが死に、重くなった年貢も元に戻ったのである。
これから、何もかもがよくなるに違いない。
仮に上手くいかなくなっても自らの力で、いや、アオイやキリサメ公やオチバや、村のみんなや、救貧院の人達と手をとりあって、難題を解決するのだ。晴れた空を見ながらセセラギは、期待に胸をときめかせた。
サイハテ村のアマダレはいつものように畑におり、クワをふるって耕していた。
女房には10年前に先立たれ、彼女が産んだ2人の男の子も幼少の頃流行り病で死んでしまい、父母もとっくに亡くなっていた。
後妻ももらわなかったので、今はひとりぼっちである。でもむしろその方が良かったのではないかとも感じている。
今度の飢饉で多くの村人が死に、アマダレ自身も地獄のような体験をした。
亡くなった父母や妻や息子達が、同じ苦痛を味あわずに住んだのは、むしろ幸せだったのではないか。
ふと気配がしてふりむくと、見知らぬ女の姿があった。この小さな村の者なら知らない顔はないはずなのでよそ者だろう。
年齢はいくつぐらいだろう。30歳ぐらいだろうか。値段の高そうな着物を着ていた。
色白で、野良仕事などした事がなさそうだ。このへんの者がつけた試しなどなさそうな、甘い香水の匂いが漂う。
「どちらさんでしょう」
アマダレは、クワを畑の隅に置くと、肩にかけた手ぬぐいで、土に汚れた手をぬぐった。
どうしてこんな場所にいるのかわからないが、相手が貴族なら扱いを間違えると厄介だ。女は黙ったままだった。
その目から涙がしたたりおちてゆく。
「父ちゃん」
「おめえ」
後は、言葉にならなかった。アマダレを父ちゃんと呼ぶ女は、この世に1人しかいない。娘のシラクモだけだった。
「シラクモおめえ生きてたのか。よく帰ってこれたなあ。すっかり別嬪になっちまって」
アマダレは、娘を強く抱きしめた。しばらく言葉が出ないまま、時間が過ぎた。が、はたと気づいて、彼女を離した。
「そうだ。よく、導師様がおめえを帰してくれたもんだ。まさか逃げて帰ってきたのか」
「違うよ。まだ話が伝わってねえのかもしれねえけど、キリサメ公が挙兵して大神殿をお攻めになり、あたしらを解放してくれたんだ。こないだの飢饉のせいで巫女にさせられたアオイちゃん達も一緒に帰ってきたんだよ」
「キリサメ公が挙兵……まさかそんな話が……村には全く伝わってなかったぞ」
「そのまさかがあったんだ」
いつのまにかそばに現れたセセラギが、そう口をはさんだ。
元々がっしりとした体格をしていたが、しばらく見ぬうちに、さらに強靭な雰囲気になっていた。
「セセラギおめえ、いつのまに。おめえが急に家出したんで、みんな心配してたんだぞ。おめえんとこのおっ母はずっと泣き通しで、飯も喉に通らないありさまで」
アマダレは、思わず相手をどなりつけた。
「おめえは昔から悪がきだったから、山に入って盗賊にでもなったんじゃないかって思ってたんだ」
「父ちゃん、違うよ。セセラギはアオイちゃんを大神殿から救いだして、キリサメ公の軍に入って大神殿を占拠したので、あたしらも解放されたの。あたしにとっちゃ、恩人よ」
「おめえキリサメ様の軍にいたのか。まあ、おめえは昔からおつむの方はともかく、体だけはでかかったから、兵士には向いてるかもな」
アマダレは、一笑した。
「『おつむの方は』は、よけいだわ」
セセラギは、不機嫌そうに唇を曲げた。
「そういえばセセラギ君は、またお城に戻るの」
シラクモが、横から尋ねた。
「いやあ、戻りません。戦は2度とこりごりです。おれはこの村で百姓としてやっていくのが性に合うと思ってます。人間が目の前で大勢死んで、まるで地獄のようでした」
セセラギの声が震え、目から涙がしたたりおちた。がっくりと地面に膝をつく。そんな彼を見た記憶がないので、アマダレは、あっけにとられるばかりである。
その後セセラギとアオイは村で正式に祝言をあげ、めでたく夫婦になった。
そして百姓としての生活を始める。アマダレとシラクモはしばらく2人で暮らしていたが、やがてシラクモに縁談の話が持ちあがり、結婚する事になった。
相手は同じ村の百姓である。シラクモの花嫁姿を観たアマダレは、人目をはばからずに泣いた。
大神殿にはキリサメ公が移り住み、彼は初代の執政官をつとめる事になる。
初期の導師がそうだったように執政官には5年の任期が設けられ、男女を問わず15歳以上の者が有権者として、投票で選ぶ事ができた。
一院制の議会もでき、キリサメ領やヨイヤミ領や他の地域からも、30歳以上なら誰もが議員に立候補できるようになったのだ。
一方ヨイヤミ公は降伏後裁判にかけられ、大勢の領民を虐殺したり、強姦したり、略奪した罪で死刑になった。
大神殿に仕え、我が物顔に振舞ってきた兵衛(つわもの)や宗教警察の責任者も死刑になる。
ヤマトの天候は年間を通じて一定の雨が降るように調節され、天気の予定暦が国民全員に配られた。
また全国に学校が作られて、全ての国民が字の読み書きと、人類が辿ってきた真の歴史を教えられる事になったのだ。
大神殿を奪われ勝ち目がないと見たヨイヤミ公は降伏し、戦争は終わったのである。
キリサメ公の命令で天候操作装置を使って意図的に日照りを作らされていた地区には、雨が降るよう設定された。
セセラギはアオイを含めサイハテ村から連行された女達と共に、故郷の村へと向かって進んだ。
帰ったら正式に祝言をあげるつもりであった。イシクレが死に、重くなった年貢も元に戻ったのである。
これから、何もかもがよくなるに違いない。
仮に上手くいかなくなっても自らの力で、いや、アオイやキリサメ公やオチバや、村のみんなや、救貧院の人達と手をとりあって、難題を解決するのだ。晴れた空を見ながらセセラギは、期待に胸をときめかせた。
サイハテ村のアマダレはいつものように畑におり、クワをふるって耕していた。
女房には10年前に先立たれ、彼女が産んだ2人の男の子も幼少の頃流行り病で死んでしまい、父母もとっくに亡くなっていた。
後妻ももらわなかったので、今はひとりぼっちである。でもむしろその方が良かったのではないかとも感じている。
今度の飢饉で多くの村人が死に、アマダレ自身も地獄のような体験をした。
亡くなった父母や妻や息子達が、同じ苦痛を味あわずに住んだのは、むしろ幸せだったのではないか。
ふと気配がしてふりむくと、見知らぬ女の姿があった。この小さな村の者なら知らない顔はないはずなのでよそ者だろう。
年齢はいくつぐらいだろう。30歳ぐらいだろうか。値段の高そうな着物を着ていた。
色白で、野良仕事などした事がなさそうだ。このへんの者がつけた試しなどなさそうな、甘い香水の匂いが漂う。
「どちらさんでしょう」
アマダレは、クワを畑の隅に置くと、肩にかけた手ぬぐいで、土に汚れた手をぬぐった。
どうしてこんな場所にいるのかわからないが、相手が貴族なら扱いを間違えると厄介だ。女は黙ったままだった。
その目から涙がしたたりおちてゆく。
「父ちゃん」
「おめえ」
後は、言葉にならなかった。アマダレを父ちゃんと呼ぶ女は、この世に1人しかいない。娘のシラクモだけだった。
「シラクモおめえ生きてたのか。よく帰ってこれたなあ。すっかり別嬪になっちまって」
アマダレは、娘を強く抱きしめた。しばらく言葉が出ないまま、時間が過ぎた。が、はたと気づいて、彼女を離した。
「そうだ。よく、導師様がおめえを帰してくれたもんだ。まさか逃げて帰ってきたのか」
「違うよ。まだ話が伝わってねえのかもしれねえけど、キリサメ公が挙兵して大神殿をお攻めになり、あたしらを解放してくれたんだ。こないだの飢饉のせいで巫女にさせられたアオイちゃん達も一緒に帰ってきたんだよ」
「キリサメ公が挙兵……まさかそんな話が……村には全く伝わってなかったぞ」
「そのまさかがあったんだ」
いつのまにかそばに現れたセセラギが、そう口をはさんだ。
元々がっしりとした体格をしていたが、しばらく見ぬうちに、さらに強靭な雰囲気になっていた。
「セセラギおめえ、いつのまに。おめえが急に家出したんで、みんな心配してたんだぞ。おめえんとこのおっ母はずっと泣き通しで、飯も喉に通らないありさまで」
アマダレは、思わず相手をどなりつけた。
「おめえは昔から悪がきだったから、山に入って盗賊にでもなったんじゃないかって思ってたんだ」
「父ちゃん、違うよ。セセラギはアオイちゃんを大神殿から救いだして、キリサメ公の軍に入って大神殿を占拠したので、あたしらも解放されたの。あたしにとっちゃ、恩人よ」
「おめえキリサメ様の軍にいたのか。まあ、おめえは昔からおつむの方はともかく、体だけはでかかったから、兵士には向いてるかもな」
アマダレは、一笑した。
「『おつむの方は』は、よけいだわ」
セセラギは、不機嫌そうに唇を曲げた。
「そういえばセセラギ君は、またお城に戻るの」
シラクモが、横から尋ねた。
「いやあ、戻りません。戦は2度とこりごりです。おれはこの村で百姓としてやっていくのが性に合うと思ってます。人間が目の前で大勢死んで、まるで地獄のようでした」
セセラギの声が震え、目から涙がしたたりおちた。がっくりと地面に膝をつく。そんな彼を見た記憶がないので、アマダレは、あっけにとられるばかりである。
その後セセラギとアオイは村で正式に祝言をあげ、めでたく夫婦になった。
そして百姓としての生活を始める。アマダレとシラクモはしばらく2人で暮らしていたが、やがてシラクモに縁談の話が持ちあがり、結婚する事になった。
相手は同じ村の百姓である。シラクモの花嫁姿を観たアマダレは、人目をはばからずに泣いた。
大神殿にはキリサメ公が移り住み、彼は初代の執政官をつとめる事になる。
初期の導師がそうだったように執政官には5年の任期が設けられ、男女を問わず15歳以上の者が有権者として、投票で選ぶ事ができた。
一院制の議会もでき、キリサメ領やヨイヤミ領や他の地域からも、30歳以上なら誰もが議員に立候補できるようになったのだ。
一方ヨイヤミ公は降伏後裁判にかけられ、大勢の領民を虐殺したり、強姦したり、略奪した罪で死刑になった。
大神殿に仕え、我が物顔に振舞ってきた兵衛(つわもの)や宗教警察の責任者も死刑になる。
ヤマトの天候は年間を通じて一定の雨が降るように調節され、天気の予定暦が国民全員に配られた。
また全国に学校が作られて、全ての国民が字の読み書きと、人類が辿ってきた真の歴史を教えられる事になったのだ。
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サイハテ村、割とおもしろいですね!
そうおっしゃっていただき嬉しいです😃 ありがとうございます😊